松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2001年12月

塾生レポート

持続可能な社会づくりの観点から見た、ユーロの現金導入 新しい通貨システムの登場を容易にする、新通貨の日常生活への流通
原田大/卒塾生

 

 2002年1月1日、ついにユーロの現金の流通が開始した。ユーロは1999年1月1日から金融市場では既に使われているため、今回の紙幣と硬貨の導入という出来事をあまり大きく取らない見方もある。しかし、実際に新しい通貨が日常生活に登場することには、金融市場というバーチャルな空間への登場を超える、大きな意味があろう。経済システムの根幹たる通貨が変わり得るものであること、ひいては経済システムそのものが変わり得るものであることの実感をもたらすからだ。

 持続可能な社会づくりに取り組む人々の中に、新しい通貨をつくる試みをしている人たちがいる。この新しい通貨は「地域通貨」や「代替通貨」として知られ、日本でも最近話題に上ることが多くなった。これらの新しい通貨は、市場経済システムがうまく機能しないような場所に、新しい交流を生み出す機能を持つ。例えばさわやか福祉財団が普及に務めている「ふれあい切符」(http://www.sawayakazaidan.or.jp/chiikitsuka/)は、新しい通貨をコミュニケーションの手段として利用している。地域の人々の助け合いという、これまで目に見える形では表されなかった部分に、地域通貨という交換手段を導入することにより、現行通貨(日本銀行券)に基づく経済システムとはまた別の経済システムを顕在化させようとしている。

 環境問題、地域コミュニティの再生、高齢者福祉や医療サービスといった、現在問題になっている問題の多くは、現行通貨制度に基づく現在の市場経済システムの辺縁部に追いやられた問題だともいえる。すなわち、現在の経済システムではその価値が正当に評価されないために起きている問題だということである。例えば環境問題の例でいえば、これまで大気中に二酸化炭素を排出するのにお金を払う人はいなかった。つまり大気が人間活動から廃棄される物質を処理する作用の経済価値は、ゼロであった。また地域コミュニティの例でいえば、向こう三軒両隣の掃除までするような相互扶助に対して、賃金が払われることはなかった。つまり地域コミュニティ内でのお互いの思いやりサービスの経済価値は、ゼロであった。

 このような問題を解決するには、現行通貨システムと、これに基づく経済システムを補正するか、またはシステムを抜本的に改めるしかない。前者は、国家が自然環境や地域内相互扶助の価値を正当に評価して、税金という形でこれらを利用するものからお金を徴収し、提供するものに還元するということになろう。後者は、現行通貨制度とは異なる新しい通貨制度を導入し、問題の原点そのものを改めるということになろう。地域通過や代替通貨の導入の試みは、後者である(ただし、現行通貨を全否定する必要が必ずしもあるわけではない)。

 ユーロという新しい通貨の存在をヨーロッパ市民が認め、日常生活に受け入れられるということは、新しい地域通貨や代替通貨に対しても、その存在が認められる可能性があり、日常生活に受け入れられる可能性があることを示す。実際、ユーロという通貨をどのような通貨として設計するかについては様々な検討がなされ、バーター貿易での商品価値を基礎とした、マイナス利子の通貨という案もあったほどである。21世紀の新しい社会像を模索するに当たって、現行のシステムが絶対のものではなく、新しいシステムを導入しようと思えばできるのだという感覚をもたらしてくれること。これが持続可能な社会づくりから見た、現金としてのユーロが導入される大きなインパクトである。
「市民の自発性」に基づく社会を考えていくと、政治あるいは政府の役割が明らかになってくる。政府の取れる手法には3種類ある。第1に規制であり、第2に教育であり、第3にメカニズムの設計である。市民の自発性を引き出すためには、規制で強力に社会を縛って統制していく政府から、市民が自発的に動いてもきちんと機能するような、活動の土俵としてのメカニズムを創造していく政府へと脱皮することになる。そして前提となる市民の徳を高めるために、教育啓発活動が重要になってくる。官僚による規制の運営から政治によるメカニズムの創造、公共的=政治的活動に対する教育啓発活動の重要性という観点から、政治の役割はますます大きくなっているといえる。

駐日欧州委員会代表部 http://jpn.cec.eu.int/index.html
European Union http://europa.eu.int/

2001年12月 執筆
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