松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2001年8月

塾生レポート

遥かなるインド(2)~モラダバードの児童労働とラジャスタンの植林事業~
原田大/卒塾生

 
 前回のレポートでは、アラハバードの農村の様子をレポートした。今回はモラダバード市において児童労働の解消に尽力する企業とNGOの試み、ラジャスタン州の農村において荒れた共有地への植林活動を通じて自然回復と所得向上を両立させる協同組合のプログラムを報告する。

8月13日

 本日よりデリーに本部を置く現地のNGO、Association for Stimulating Know-How (ASK)の人たちと一緒に活動をする。ASKは他のNGO、企業、コミュニティ等の能力を高め、これらの主体がより効果的に社会的使命を果たせるようになる手伝いをしている。そして組織の能力を高めることにより、資金的にも組織的にも事業的にも持続可能な社会活動を追求している。

 ASKの主な活動はトレーニング、事業評価、児童労働に対する取り組み、企業監査の4つである。第一の活動は、他のNGO等に対するトレーニング。評価手法、事業計画の策定など、トレーニングを受けるNGO等に欠けている部分を補い、自律的で持続的な組織運営を助ける。第二の活動は、プログラムの事業評価。例えば日本の国際協力銀行の依頼を受け、ODA実施後の効果を調査する等の活動をしている。第三の活動は児童労働解消への取り組み。各家庭を訪問、働く児童を持つ親を説得し、自主運営する学校で子供に教育の機会を与えている。第四の活動は企業の監査。様々な問題に対し、企業が積極的に社会的責任を果たすように働きかけている。

 ASKの活動のなかで、ウッタル・プラデシュ州モラダバード市における児童労働解消への取り組みは、彼らが直接運営している活動である。政府が十分有効に機能しているとは言えないインドの状況の中で、ASKは政府の代わりに公的役割を担うのだという意識を持って、精力的に活動している。

8月16日

 デリーより長距離バスでモラダバード市に到着。デリー市の東方約170kmに位置する小さな都市である。この町の主要産業は真鍮製品の生産で、労働人口の約4分の3が真鍮産業に従事していると言われている(The Conran Shop, 1997)。しかもモラダバード市は、児童労働で非常に有名な都市で、どう見ても7~8歳くらいの子供が働いている光景を目にすることも珍しくない。真鍮製品の多くは、輸出用である。

 イギリスで家具等を扱うコンランショップも、モラダバードで生産された真鍮製品を輸入している企業の一つである。彼らは児童労働という問題のある方法で生産された真鍮製品を輸入することに疑問を感じ、社内に「道徳的貿易」を推進するセクションを設けた。児童労働の問題を緩和・解消することがモラダバード市で経済活動を行っているコンランショップの社会的責任であると考え、これに積極的に取り組むことにしたのである。

 コンランショップはコミュニティに入り込んで活動できる現地のNGOを協力相手として求めた。その結果、ASKとコンランショップが協力して、モラダバード市の児童労働の解消に取り組むことになったのである。ASKは学校に行っていない子供たちのための補修学校を設立し、コンランショップは100人の子供のスポンサー(=600000ルピー=約1560000円、1ルピー=2.6円で計算)となって教育費を負担するなどしている。

 子供を安い賃金で働かせた結果安くできた真鍮製品は、商品そのものは安い。しかし、その裏で実際に必要となっているコストまで考えると、トータルで見た場合には必ずしも安いとは言えない。そこで社会全体のコストを下げるためには、ビジネスをする人たちが社会全体の利益まで考えて行動する必要がある。これは何も児童労働に限ったことではない。環境問題なども、これまで我々が「自然」にツケを払わせてきた典型的な問題である。

8月27日

 ASKを後にし、ラジャスタン州ウダイプール市へとやってきた。ラジャスタンは乾燥地帯で、ほとんどの村人は農業と放牧を組み合わせて営んでいる。放牧は村の共有地で行われることが多いが、過放牧のためにほとんどの共有地が荒地となっている。この荒地に植林して自然を回復し、放牧を再び可能にして村人の生活を向上させようと活動しているのが、Indian Farm Forestry Development Cooperative (IFFDC)である。

 IFFDCの手法はこうである。まず、村人の中からIFFDCのプログラムに賛同する人を募ってコミュニティを形成する。そしてこのコミュニティが村から共有地の一部を借り受け、そこで植林プログラムを行うのである。資金はカナダ政府が援助している。

 植林された共有地と荒地のまま残された共有地の差は大きい。植林により地下水位が上がり、飲料水の確保が容易になったり、飼料となる草が良く育ったりしている。さらに材木を売って得られた利益を再投資して、穀物を安い時期に大量に買ってコミュニティの構成員に安く提供するなど、コミュニティによっては積極的に活動を広げている。

 IFFDCの活動では、自然の回復という環境的利益と、村人の生活向上という経済上の利益が同時に満たされている。だから、活動自体がうまくいっているのである。

9月11日

 いよいよデリーの空港を離れ、日本へと戻る。モラダバード市では、企業とNGOが協力して、経済的にも成り立つ形で社会貢献事業を行っていた。ラジャスタンでは、自然の回復という社会的事業と、村人の経済活動が一体化していた。特に途上国においては、経済活動とは生きることそれ自体という色彩が強い。よって途上国で社会的事業を行う場合、経済活動と社会事業の両立が先進国以上に重要である。これは一見難しいことのように見えるが、個々のプロジェクトを見た場合には、うまくいっているものも多くある。結局社会事業を進めていくためには、こうしてコミュニティレベルからの活動を少しづつでも積み重ねていくしかないのであろう。そして日本がこれを援助をする場合、非国家主体によるコミュニティレベルの活動にまで細かく関わっていかなくては、なかなか成果はえられないであろう。

2001年8月 執筆
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