松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2001年6月

塾生レポート

国会TVという政治の情報公開
原田大/卒塾生

 

国会TVに見るコンテンツとしての政治と放送のあり方

0.要約

 本レポートでは、究極の情報公開たる国会審議の放送について、国会TVを例に検討する。国会TVのプラットフォームであるCS放送自体の低迷と、個性的なコンテンツが成り立ちにくい料金システムという問題点を指摘した上で、コンテンツとしての魅力を高めると同時に、公益的コンテンツを成り立たせる料金体系であるベーシックサービスについて考える。

1.国会TV概略

(1)「国会TV」事業内容
 国会TVは、委員会審議を含む国会中継を無編集、無解説で行う放送局である。CS放送(2001年7月現在、スカイパーフェクTVのみ)及び若干のケーブルテレビ網を通じ、配信されている。国会審議をそのまま放送するという事業内容は公益的なものであるが、放送局の運営は、民間の株式会社(株式会社シー・ネット)により行われている。つまり政治専門のコンテンツを扱うビジネスである。

(2)国会TV設立の経緯
 日本における、国会審議を加工せずに放送するテレビの議論は、1989年ごろ始まった。そして1990年の3月には、衆議院の議院運営委員会に「国会テレビ中継小委員会」が設置される。その後、事業主体を国、公益法人にするか民間企業に任せるかを含め、議論が続けられた。55年体制の崩壊という変化もあって議論は二転三転するが、1997年8月に結論が出された。その内容は、「事業主体は国営、公益法人、株式会社のいずれでも良い。衆参両院は費用支出をしないが、12月から映像を無償で提供する」というものであった。これを受け、TBSで政治記者を務めた田中良紹氏が中心となって、株式会社シー・ネット(東京都千代田区)が設立され、「国会TV」の運営にあたっている。

(3)国会TVの現状
 設立以来、国会TVは厳しい経営が続いている。CS放送全体の契約者数が伸び悩んでいる上、国会というコンテンツへの関心の低さが響いて、国会TVへの加入数は5000人ほどである(2001年7月現在)。経常損益でも赤字を続け、2001年3月期での未処理損失は約4億円となっている。国会審議というコンテンツ自体は国会から無料で提供されているので、費用は衛星を通じての電波配信にかかることになる。

2.CS放送のシステムと国会TV経営不振の関係

(1)CS放送局の最低ライン
 CS放送の衛星を利用するには、月額にして約600万円の費用がかかる。CS放送をビジネスとして成り立たせるためには、この衛星関連費用と会社の運営費を上回る契約料収入が必要となる。例えば、衛星関連費用だけを考えても、月額100円の契約なら6万件が必要となる。平均給与600万円で10人の従業員を雇えば、さらに6万件の契約が必要となる。

(2)BS放送による圧迫
 日本でCS放送が浸透していない大きな原因の一つが、BS放送の普及である。技術の進歩によりCS放送が可能となったときには、既にBS放送が広く普及しており、CS放送に乗り換える人は少なかった。NHKから受信料を徴収された上に、さらに別なところでテレビを見ることにお金を払おうとする感覚が余りなかったともいえる。BS放送は郵政省とNHKによる一大国家的プロジェクトであり、これに対抗するのは容易なことではなかっただろう。CS放送は加入者からの契約料が主な収入源であるから、総加入者数の伸び悩みは、各放送局の収入の伸び悩みに直結している。

(3)スカイパーフェクTVの料金システム
 ディレクTVの吸収合併で唯一のCS放送局となったスカイパーフェクTVの契約方式を見ると、国会TVのようなチャンネルが成り立ちにくい仕組みになっていることがわかる。スカイパーフェクTVでは、視聴者は見たい番組を選んで個別に契約を結ぶか、多数の「パック」のなかから選んで契約をすることになる。視聴者は自由な選択が可能である。つまり、スカイパーフェクTVでも、既存のテレビ局と同じく、収入を増やすには契約料を値上げするか、契約者数を増やすしかない。
 ここでひとつ大きな問題が発生する。CS放送(CSデジタル放送)のメリットの一つは、多チャンネルであった。つまり、視聴者の細かな要求に応えるということである。しかし、視聴率競争は多チャンネルとなじまない。視聴率により番組が淘汰されるようになると、多チャンネルが維持できなくなるからである。この点について、多チャンネルの提供と魅力的なコンテンツの競争を両立させているアメリカケーブルテレビの例を見てみよう。 アメリカのケーブルテレビの場合、ベーシックサービスというシステムがあり、ケーブルテレビに加入しようとする人は、これに必ず加入する。この中には、公益的なチャンネルを見る権利なども含まれていて、具体的にはアメリカ議会を放送するC-SPANなどがあげられる。その上で、映画など人気の取れそうなものは追加契約をすることにより、視聴可能になる。ベーシックサービスに入っているチャンネルには、ベーシックサービス料金のなかから一定の割合が支払われる。これにより経営を安定させている。

3.国会TVの今後

(1)国会TVへの追い風
 今後の国会TVに対して追い風となることが2点ある。小泉人気と、衛星の位置変更である。まず小泉人気であるが、「ヒーロー」の登場が政治のコンテンツとしての魅力を高めた側面がある。ビデオリサーチの調べでは、関東地区でのNHKの国会中継の視聴率は、首相の所信表明時は6.4%、5月15日には瞬間最高視聴率が13.1%にはね上がった。同時期、国会TVの契約者数も20%ほど増えている。次に衛星の位置変更であるが、2001年の12月に、BSとCSの二つの衛星が同じ位置になる。これはつまり、一つのアンテナで両方の電波を受信できることにつながり、CS放送のさらなる普及のきっかけになりうる。

(2)政策的転換の必要
 前章でも少し触れたが、日本における多チャンネル放送を阻害している大きな原因の一つは、NHKの「BS」「ハイビジョン」計画である。まず「BS」放送であるが、技術革新が進んだ現在、同じ衛星放送を行うにしても、わざわざ高いコストをかけて高出力の衛星を使う必要はない。次に「ハイビジョン」であるが、現在のデジタル化の潮流とは全くそぐわないものである。デジタル技術は基本的に間引きの技術であり、ハイビジョンの理念とはそぐわない。さらに言うと、雲によって電波が届かなくなるような衛星を使うより、ケーブルのほうが安定して信号を送れる。もし本当に綺麗な画像を目指すのならば、アナログ信号をケーブルで送信するのが良いはずである。既存のメディアのあり方を変え、情報社会に即した新しいメディア、多チャンネルメディアを育成するには、デジタルハイビジョンの精算も含め、従来の放送・通信政策の大転換が必要であろう。
 もっとも、最近の有線通信技術の進歩、そして放送と通信の概念に段々区別がなくなってきたことを考えれば、衛星放送は過渡的な技術ともいえる。コンテンツを伝える装置の部分は、今後とも多角的に検討されるべきであろう。

(3)ベーシックサービスの導入
 政治関連コンテンツの放送をビジネスとして成り立たせるには、コンテンツ自体の魅力を増すことと、より公益的なものを成り立たせる支えが必要であり、そのためにベーシックサービスの導入が検討されるべきである。日本で政治が面白くないのは、議員に見られているという意識が希薄だからである。より政治を面白くして、放送コンテンツとしての魅力を高めるためには、国民がいつも議会を見ているという印象を議員に与えることである。実際、イギリスの党首討論などは白熱していて、実に見ごたえがある。国民に審議を公開するには、すべての審議を放映する放送局が必要であり、それを支える仕組みが必要である。それが、ベーシックサービスである。ベーシックサービスのより直接的な効果としては、多チャンネルを構成する上で欠かすことはできない基本的なチャンネルの運営を可能にすることである。逆にそのことで、有料コンテンツをさらに差別化して、その価値を高めることもできる。

4.まとめ

 情報流通が容易になり、情報公開の度合いが高まるにつれ、政治家は国民にわかりやすく、面白く政治を語る必要が増してくる。政治というのは公益的な活動であるが、きちんと資金的にも成り立たなくては続かない。そこに政治のコンテンツを、適切な手段で配信するサービスを成り立たせる意味がある。
 さらに重要なことは、民主主義にはお金がかかるということを、国民がしっかりと意識することである。情報公開にも、情報の監視にも、民間会社に「料金」として払うにしろ、国に「税金」として払うにしろ、コストはかかるのである。こういったコストは、しかるべく負担する意識が大切であろう。
 

◎参考
・国会TV          http://www.kokkaitv.com/
・スカイパーフェクTV   http://www.skyperfectv.co.jp/
・C-SPAN          http://www.c-span.org/

 

2001年6月 執筆
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