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2022年6月

塾生レポート

厚生年金制度の改正、スウェーデン・オランダとの比較から考える、これからの年金
宗野創/松下政経塾第41期生

 私は現在、週刊誌『サンデー毎日』(毎日新聞出版)のコラム「プロがこっそり教える 読んでトクする社会保障」の執筆を不定期で担当しています。昨年から焦点を当てていたのが、各国の年金制度です。日本ではコロナ禍で職を失った、非正規雇用やフリーランスの方の無年金問題が取りざたされました。働き方が大きく変わってゆく中で、これからの日本社会にはどのような年金制度が必要か考えます。

 

今年10月からの厚生年金制度改正から見える方向性

 今年10月から厚生年金・健康保険の被保険者の対象が段階的に拡大されることとなった。まず変わるのは、対象の企業規模である。現在、従業員数501人以上の企業が対象となっている。施行後の来年10月からは従業員101人以上の企業、そして2024年10月からは51人以上の企業と段階的に拡大される。さらに、加入対象者の条件も変わる。現在、1年以上の継続勤務の見込みがあることが対象の条件となっている。しかし、今回の改正でこの条件が撤廃され、フルタイムと同様の基準である2か月以上の継続勤務見込みで加入条件を満たすことになる。その結果として、加入者の条件は①週の所定労働時間が20時間以上②月額賃金が8.8万円以上③2か月を超える雇用の見込みがある④学生ではない、という条件を全て満たすものとなる[1]
 厚生年金のメリットは将来基礎年金に上乗せする形で報酬比例の年金(厚生年金)が終身で受け取れることである。そのほか、障害厚生年金や遺族厚生年金の対象にもなる。また、健康保険では、病休期間中や産休期間中にそれぞれ、給与の2/3相当の傷病手当、出産手当金が支給されるなど保障が充実する。そして何より、保険料の半分が事業所の負担であるため、国民保険料と比べた自己負担感も軽減されるのである。
 以上のように、今日の日本における年金制度改革が目指すのは、既存の就労形態にとらわれない多様な働き方をいかに制度で支えるかという点にある。本来、農家や小口自営業者を主に想定した国民年金は、近年は厚生年金に加入できない勤労者の加入先という側面がより強調されているといえよう。こうした中で今回の改正は、多様な就労形態の勤労者にとって、より手厚い社会保険サービスを受けるチャンスが広がる「年金の包括性の課題」に取り組む方向性を示している。
 一方で注意が必要なのは、これまで年収130万円を超えないようにして配偶者の扶養に入っていた第3号被保険者である。適用拡大の対象となれば、月収8.8万円以上(年収換算で106万円)、すなわち130万円よりは低い基準で扶養を外れることとなる。この場合、厚生年金・健康保険に加入することになる。こうした、配偶者扶養に代表されるように、日本の年金制度は「家族」を一つの受給単位として想定している。働き方と同様に、家族形態も大きく変化を遂げる中で、その在り方に注目が集まっている。 こうした、日本の年金制度の諸課題と改革の方向性に比して、他国の年金制度を考察したい。


スウェーデンの最低保証年金

 最低保証年金とは、基礎年金部分の財源を税金とし、一部の富裕層を除いて原則一定額の年金を支払う制度である。今後の年金財源を確保しつつ、高齢者の生活不安解消を目指す。また、被保険者区分による複雑な保険料負担の仕組みの見直しや、行政の事務の効率化も狙いである。
 国際的に最低保証の仕組みがある年金の代表例としてあげられるのがスウェーデンである。日本同様、年金制度の維持が課題となった1999年に就労形態による区分が廃止となり、所得比例の年金制度に一元化された。保険料率は所得の18.5%でそのうち16.0%は賦課方式分へ、2.5%は積立方式分へ拠出されている[2]。それと同時に低・無年金者に対しては、税を財源とする保証年金を支給するという仕組みである。また、年金の受給に関しては、あくまで個人単位であり、配偶者との年金分割のシステムは導入されていない。
 日本では、昨年の自由民主党総裁選において、河野太郎候補(当時)が最低保証の制度導入を検討し、話題を呼んだ。しかしながら、実際に日本に制度の導入を考えると、新たに大きな財源が必要となることは想像に難くない。


「ワークシェア大国」オランダの年金

 「ワークシェア大国」として知られるオランダの年金制度は、世界的にも高い評価を受けている。マーサーCFA協会が発表する「グローバル年金指数」は、充分性、持続性、健全性の観点で国際比較を行っている指数である。オランダは昨年、総合評価で43か国中の2位、一昨年は1位に輝いている。一方の日本は36位だ[3]。このように高い評価を受けるオランダの年金制度は、3階建ての仕組みになっている。
 1階部分が、一般老齢年金で、賦課方式による全国民共通の基礎年金である。日本に似た制度ではあるが、年金額は単身者の場合、法定最低賃金の70%が給付される。これらを支えているのが、対象所得に対し約18%を支払う保険料である[4]。日本に比べ高額な保険料といえるが、老後の安心感を下支えしているといえよう。この保険料によって保障の手厚さの源泉となっているのが、約175兆円、GDP比の約180%に上る潤沢な年金資産総額(2階部分を含む)である。
 2階部分は1階部分を補完する職域年金となっており、保険料は一般的には労使がともに負担する。日本では、フリーランスの方の無年金問題が話題となった。一方、オランダでは自営業者の約9割以上が職域年金に加入しているのである[5]
 また、年金の受給資格に関しても日本では10年間と長い期間が設けられている。ところが、オランダでは、1年でも保険料を納めれば年金を受給できる仕組みになっている。オランダは「ワークシェア」に代表される働き方先進国でもあり、制度もこうした働き方を支えていると言えるだろう。制度の3階部分は、これら1、2階部分の年金に加えて、個人で契約をすることができる個人年金保険である。
 もちろん、オランダでも日本ほどではないにせよ、高齢化に伴って制度の持続性が課題になっているのも事実だ。そのための対応策として、受給年齢の引き上げや、確定拠出型年金などを活用した基金の拡大などを進めている。それでも、国民が負担を分かち合い、年金の充実や持続が図られているのは、社会の「連帯」を大切にする考え方が根付いているからなのかもしれない。こうした理念が社会的に共有され、また社会構成員が同意していることこそ年金制度の土壌なのではないだろうか。


年金改革をとらえるための3要素

 これまで、日本における年金制度改正の方向性にはじまり、スウェーデン、オランダというヨーロッパ二国の制度をとりあげてきた。これらを踏まえ、日本の制度を考える上で必要であると筆者が考える要素は以下の三つである。
 ① 新しいはたらき方をどうとらえるか―雇用包括性の課題
 ② これからの家族・居住形態をどうとらえるか―家族包括性の課題
 ③ そもそも年金制度は「何のためにあるのか」を社会的に議論する―社会的連帯の課題
 こうした観点から、誰もが安心して老後が送れるとともに、自らの人生の選択を自由に行えるような年金制度にしていくことが求められていると考える。




[1]厚生労働省HP『年金制度改正法の概要』
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html
 (2022年5月31日最終閲覧)
[2]厚生労働省HP『スウェーデンの年金制度概要』
 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-sweden.pdf
 (2022年5月31日最終閲覧)
[3]Mercer CFA Institute『 Global Pension Index2021 Pension reform in challenging times』
 (2021年10月19日)
[4]De Rijksoverheid. Voor Nederland『AOW、Vraag en antwoord』
 https://www.rijksoverheid.nl/onderwerpen/algemene-ouderdomswet-aow/vraag-en-antwoord/hoe-hoog-is-mijn-aow
(2022年5月31日最終閲覧)
[5]De Rijksoverheid. Voor Nederland
2022年6月 執筆
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