Thesis
私は8月から9月にかけての5週間、尾関健治塾員(17期)が市長を務めておられる岐
県関市役所にて自治体インターン研修を行いました。福祉部署をはじめ様々な現場を経験し、自治体の本質的な責務とは何かを学びました。
私は8月から9月にかけての5週間、尾関健治塾員(17期)が市長を務めておられる岐阜県関市役所にて自治体インターン研修を受け入れていただいた。温かい市民の皆様と素晴らしい自然に囲まれた関市で、高齢福祉、福祉政策、健康福祉などの福祉部署を中心に様々な現場を経験させていただいた。この場を借りて改めて御礼申し上げたい。
私は今回の研修目的を三つ定め、関市に飛び込んだ。
一点目は、自治体経営への理解を深めることであった。民間での業務を経て政経塾に入塾した私にとって、いまだ自治体の仕事は遠い存在であり、また具体的な業務や役割への理解が及んでいないと感じていた。そもそも、政治が意思決定をした施策を進め、運用していくのが行政機関である。したがって自治体の責務を実体験を通して理解することが、将来政治分野で自らがいかなる政策課題に取り組むにあたっても有意義であると考えた。
二点目は、福祉施策を自治体側から見つめなおすことであった。私は4月からNPOでの活動をはじめ、全国の地域福祉の現場から支援をする側から学び、また実際の支援を経験してきた。今回はこうした現場での支援とは異なり、制度を作り運用する側である基礎自治体から地域の福祉政策のありかたを学ぶべく研修を実施した。
三点目は、都市部から離れ地域福祉の現状を知るためである。例えば、私の地元である神奈川県横浜市は草の根コミュニティの伝統があり、NPOや自主的な福祉活動も盛んである。また同じく都市部の東京都武蔵野市では、自治会を設置しない地域も多く、代わりに市民が担い手となってコミュニティ協議会が立ち上がり地域課題に取り組んでいる。しかしながら、全国を見渡せば、その土地ごとの事情があり、資源もある。こうした都市部とは異なる地域課題と向き合いたいと考えた。
岐阜県関市は人口は約8.5万人。岐阜市に隣接し、名古屋からは約40kmの距離、高速バスでは1時間強でつながっており、鉄道では長良川鉄道が通る。平成17(2005)年の洞戸村、板取村、武芸川町、武儀町および上之保村が編入合併し、V字型の特徴的な形となった。「刃物のまち」としてあまりにも有名で、鎌倉時代末期より800年余りの伝統がある刃物産業は、国内の刃物輸出額のほぼ50%[1]を占め、近年では観賞用ナイフなど国際的な評価も高い。こうした刃物を中心に展開するふるさと納税は県内1位の寄付金額[2]を誇る。食ではうなぎ料理が名物で、市内には刃物職人が好んだと言われる様々な店舗が立ち並ぶ。また、関市内小瀬地域では鵜飼いが行われ観光資源となっている。
(関市HP『関市全域の地図』、2013年3月1日時点)
尾関健治市長より直接ご指導いただく機会もいただいた。自治体経営をしていくうえで大切にしていることを質問すると、市長は「松下幸之助塾主の大忍という言葉を大切にしています。ただ耐え忍ぶのではなく、“公”の志のために忍ぶことです」と答えられた。塾の寮
室には塾主が書いた「大忍」の文字がかけられている。お話を受け、自らの志を立て広く公に尽くすものであると強く確信することで困難を乗り越えていく重要性を再認識した。
(1.関市役所にて尾関健治市長と2.消防事務所にて降下訓練を行う筆者。撮影:市役所担当者)
関市には消防体験とごみ収集実習が、若手職員の必修研修として設けられている。
市長も経験されたというこの研修を私も体験させていただいた。正直、両体験ともに肉体的にも厳しいものであった。しかし、私たちが日常において当たり前だと思っていた生活の安全や利便性が、こうした一人一人の懸命な努力に支えられているということを身をもって体感することができた。別の日には新型コロナワクチン接種会場の運営も経験した。一日に1人でも多くの市民に接種を行えるようにするべく、多くの職員の方々や臨時スタッフの方々が意見を出し合い、動線を工夫して運用されていた。その現場を覆う緊張感にこうした命を支える業務の最前線となるのも自治体の重要な業務なのだと理解した。
自治体の最も重要な責務は、私たちの毎日のくらしや命を守り抜くことである。自治体業務といわれて真っ先にイメージするのは、住民票の取得や社会保険など役所での手続きや、観光行政といった目に見えやすい行政サービスかもしれない。しかし、今回いのちと暮らしの最前線である業務を経験させていただき、そもそも自治体がなんのために存在しているのか、その根幹を改めて実感した。
福祉政策課では、重度の障がいを持つ方や、ひとり親家庭の福祉医療費の受給者証の更新手続きを担当した。約1週間にわたり実際に手続きに来られる方への対応を経験させていただいた。その時に見えてきたのは、生活に困難を抱える方の多くが、複合的な事情を抱えているという現実であった。障がいを持ちながらシングルマザーとして子育てをしていたり、あるいは、家計が苦しいなかで妻のケアをしているなど、実際の生活苦が様々に折り重なっている現実と出会った。
また、医療費関連の事務をしていると、その手続きの煩雑さに驚いた。国・県・市・組合・医療機関など様々なファクターが関連しあうことで、関連業務フローが複雑になり、また事務処理システムも統一化することが難しい。さらには、個人情報保護の観点から庁内でも情報の共有が難しく、事務項目ごとに名簿やシステムを運用しているため非効率業務が減らないという課題があった。
これは、当該業務だけでなく、今回経験した自治体の福祉業務に共通した課題であるといえる。生活苦が様々に重なり合う中で、部署間や関係者の連携が一層重要となる。こうした中で、今後の効率的な連携を図っていくうえで、その運用を検討する必要を感じた。
関市は先述のように、編入合併を経て、それぞれの特色のある地域が折り重なっているといえる。一方で、板取や上之保といった地域では、高齢化が深刻であり、かつ交通の手段も限られている。こうした中で、病院へのアクセスや、介護サービスが使用しづらくなったり、コロナ禍の影響で人との接点が減り孤立にむかってしまう場合もある。その結果として、認知が進んでしまったり、身体的な衰えが加速することも考えられる。関市では、民生委員等の地域の見守り役の方と連携しながら、認知機能の衰えがみられる高齢者を早い段階から適切な医療や福祉サービスとつなげる役目を果たす認知症初期集中チームを積極的に運用している。それでも、全ての地域に同様のサービスを行っていくことは、困難でもあり、地域ごとの課題も異なっている。
また、地域の担い手の不足も大きな課題である。進学や就職を機に名古屋市や岐阜市に転居する若手世代も多い。そうした中で各地域の協議会と市の出張事務所が連携をしながら地域課題にとりくんでいる側面がある。だからこそ、大きな健康不安や、寝たきりなどの重度の介護を必要としない、元気なシニアの皆さん(いわゆるアクティブシニア)がより活き活きと生活していけるまちづくりはとても重要であり、関市ではまた彼らが地域の担い手の重要なメンバーだと考え施策を進めている。
(関市役所にて高齢福祉課、認知症集中チームの皆様と。撮影:市役所担当者)
国では介護や子育てといった地域の福祉ニーズを地域拠点で解決することを目指す、地域包括ケアシステムや、福祉の総合窓口を設けることなどを念頭に、重層的支援体制の構築を急ピッチで推進してきている。しかし、こうした制度はあくまで全国での先進事例や都市部の事例を参照として、「中央から地方へ」旗振りされている事業である。
実際には、地域それぞれの特色があり、財源、人材、ノウハウにも大きな差がある。こうした中で全国に向け、政策を普遍的に導入していく難しさと課題を感じた。
福祉とは、最も生活に密着した行政サービスである。だからこそ、自治体が「まちのこまりごと」に市民と一緒に取り組めるような体制づくりを念頭に、国・地方が政策を推進していくべきであると考える。
注
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/file/report20210730.pdf、2021年7月30日、p11
Thesis
Hajime Sohno
第41期
そうの・はじめ
衆議院議員/神奈川18区/立憲民主党
Mission
ユニバーサルな社会保障制度の探究