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2022年3月

塾生レポート

地方交付税から考える、福祉のための分権序論
宗野創/松下政経塾第41期生

 私は昨年10月から約5か月間、埼玉県深谷市役所企画財政部財政課でインターン研修をしてきました。深谷市も人口減少に伴う税収減、膨らむ公債費等、全国の自治体で共通といえる課題を抱える中で、持続可能な発展に向けて取り組んでいます。この研修を通して感じた自治体財政の根本課題を踏まえつつ、私がテーマとして取り組んでいる地域福祉を実現するための地方分権論を検討しました。

 

地方交付税交付金の削減で万事解決?

 地方公共団体の主要な財政指標に目を向ければ地方自治体財政の実情が見えてくる。まずは、地方公共団体の財政力を図る財政力指数に注目する。財政力指数は地方交付税交付金の算定に使われる基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年分の結果に基づく。この数値が、1に近づけば近づくほど、交付税算定上の留保財源が多いとみなされ、一般的に財源に余裕があると考えられる[1]。全市町村の財政力指数をみると令和2年(2020)年の平均で0.51[2]となっているが、これを都道府県別にみると島根県が0.25、高知県が0.26[3]となっており、人口減少が進む地方の厳しい現実が見えてくる。
 こうした地方自治体を支えているのが、地方交付税交付金である。地方交付税交付金は、地方自治体の不足する財源への補填という絶対的機能に加え、中央から地方への再分配という相対的機能を持つ。すなわち、都心と地方の地域格差の解消を担っているといえる。例えば深谷市においても、令和元年(2019)の歳入に占める地方交付税交付金の比率は11.4%[4]と、重要な位置を占めており、基礎的な行政サービスの税源に充てられている。したがって、地方自治体の競争力を高め、行政サービスレベルを上げるための施策として地方交付税の削減だけを声高に叫ぶのは、一面的な批判であるといえるだろう。


都市部は安心財政か?

 それでは、都市部では行政サービスの充実に積極的に打ち出せるほどの安定した財政基盤が確立されているのだろうか。
 経常収支比率を見てみよう。経常収支比率は使途が特定されておらず、毎年度経常的に収入される一般財源(経常一般財源)のうち、人件費、扶助費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費(経常的経費)に充当されるものを示す[5]。経常収支から自治体経営を診る視点は、企業経営で例えればキャッシュフロー経営に近い視点だろう。この数値が100に近づくほど、一般財源を使った様々な新規事業に取り組む余裕がないと考えることができる。この経常収支比率の全国市町村平均は93.1となっているが、地方交付税交付金の比率が少ない政令指定都市では97.3となっており、中には100を上回る自治体もある[6]
 確かに、政令市では行政サービスのスケールメリットに加え、税収、人口構成においても、相対的には財政状況は安定しているといえることは間違いない。しかし、比較的財政上の余裕があるとされる政令指定都市でさえも、特に福祉分野など毎年経常的に経費が発生する事業に一般財源を充てて取り組むことには抵抗感があることは想像に難くない。


きめ細やかな対人福祉サービスを実現するのは一般財源

 財政学者の神野直彦は、生活課題に身近であるという機能性の観点や、参加型の民主的自己決定がしやすいことから、福祉や教育という対人社会サービスは、基礎自治体が責任を持つ[7]、と指摘している。筆者が特に指摘したいのは、この地方自治体の責務である福祉分野における対人サービスの財源として交付税交付金が機能している点である。
 地方自治体は、国とは異なり、通貨発行権を持っていない。国が特例法による赤字国債が発行できるのに対して、地方自治体は地方財政法5条により、水道などの公営企業の経費や普通建設事業費等に充当にする地方債に起債が制限されている[8]。国では膨張する社会保障費を含めた事業費に充当することも一般化しているが、地方では同じ手は使えないのである。したがって、地方自治体の福祉事業にとって、地方税に次いで実質上の一般財源として利用できる地方交付税交付金は重要な財源となっている。福祉分野における扶助費の財源の内訳を考えると、国民年金などの社会保険は特別会計で運用され、生活保護費など生活保障の多くは国・県からの補助金が財源として充てられる。
 一方、現場とのコミュニケーションを踏まえた、きめ細やかな施策が必要となる福祉分野は、自治体独自の事業として構築される。例えば、コミュニケーションが苦手な児童が学校で学べる環境を整えるための支援員の増員や、障害者の認定を受けていない方への独自の就労支援などもこれらに該当する。「生きづらさ」をめぐる課題は今後より複雑化、多様化していくであろう。これらに対応していくためには、地方自治体が一般財源を持続的に確保していく施策が必要である。そうであるならば、市税収入を維持するための創意工夫を地方自治体に任せきりでは、人口減のとまらない地方にとってはあまりに酷ではないだろうか。


地方自治体での政治決断と、その先にある税源移譲という根本解決

 先述のように、こうした独自の福祉事業は一部国からの補助などがあるものの、一般財源で賄わなければならない。つまり、財政の厳しい自治体にとっては「やらない理由」を見つけやすいともいえる。他方、公共施設などの建設・修繕事業などに関しては近年、防災施策の推進などの影響もあり起債メニュー[9]が豊富である。さらには、起債した地方債によっては起債額の一部が交付税措置として国から自治体に補助される。ただし、ここで考えておかなければならないのは、こうした事業においても一般財源が充当されるとともに、減価償却が必要となるということだ。いくら起債が可能であるとはいえ、ただではない。むしろ、金額が大きい分、財政へのインパクトは当然大きい。そう考えれば、福祉事業は経常的な費用はかかるものの、こうした事業費と比べれば一時的な金額は大きくないと考えられる。
 だからこそ、首長をはじめとした行政指導者は、「本当に地域に必要な事業」を判断し、政治決断をしていくことが重要ではないだろうか。地域によっては、必ずしも公共施設が必要ではない地域もあるだろうし、既存の福祉サービスで事足りている地域もあるだろう。これらに明確な優先順位をつけ、実行していくことができるのは唯一政治のリーダーシップである。
 そして、国はこうした地方での政治決断に甘えることなく、税源移譲の本丸に取り組むべきであると考える。例えばスウェーデンでは、付加価値税を国税、所得税を地方税に配分することで基礎自治体の自主財源としている。さらに、ドイツでは、所得税や付加価値税という基幹税をそれぞれ、国税と地方税に半分ずつ按分する[10]。こうした例も視野に入れつつ、抜本的な改革に着手することが国政政治には求められるのではないだろうか。



[1]総務省『令和2年度地方公共団体の主要財政指標一覧―指標の説明』
https://www.soumu.go.jp/main_content/000781152.pdf、p1(2021年12月19日最終閲覧)
[2]総務省『令和2年度地方公共団体の主要財政指標一覧―全市町村の主要財政指標』
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000781157.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK、(2021年12月19日最終閲覧)
[3]総務省『令和2年度地方公共団体の主要財政指標一覧―市町村主要財政指標の都道府県別平均』https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000781157.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK、(2021年12月19日最終閲覧)
[4]深谷市『令和元年度普通会計決算状況』
http://www.city.fukaya.saitama.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/6/R1kessankaado.pdf(2022年2月28日最終閲覧)
[5]総務省『指標の説明』、p1、(2021年12月19日最終閲覧)
[6]総務省『令和2年度地方公共団体の主要財政指標一覧政令指定都市の主要財政指標』
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000781158.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK、(2021年12月19日最終閲覧)
[7]神野直彦『「人間国家」への改革―参加型の福祉社会をつくる―』NHKブックス、2015年、pp.170~175
[8]G-GOV法令検索『地方財政法(地方債の制限)第五条』
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000109(2022年2月28日最終閲覧)
[9]埼玉県企画財政部市町村課財政担当『地方債マニュアル(確定版)~2021.12~』
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/15172/r3_tihousaimanyuaru_kakutei.pdf(2022年2月28日最終閲覧)
[10]神野直彦、小西砂千夫『日本の地方財政(第2版)』有斐閣、2020年、p210
2022年3月 執筆
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