松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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2003年12月

塾生レポート

日韓共通の北朝鮮政策
上里直司/卒塾生

 
 昨年に引き続き、今年も12月16日から21日にかけて、韓国でのスタディーツアーを行った。有志塾生が参加したこのスタディーツアーでは、韓国の有識者と意見を交わすことで、韓国、東アジアの政治経済の動向を理解することを大きな目的としている。今回も、現職の国会議員のみならず、金泳三元大統領や大学教授など、多数の方と意見を交わすことができた。

 松下幸之助は、「21世紀の繁栄はアジアにくる」と予見し、そのアジアの繁栄を担う人材育成のために松下政経塾を設立した。松下政経塾の設立の意味を考えると、塾生は個々の研究テーマを追い求めながらも、アジアの繁栄や平和について関心を寄せることは当然のことであり、いわば使命なのかもしれない。また、激変するアジアの中で、日本が生き残りを図るためにも、常にアジア各国の動きに注視することが求められている。

 さて、今年の訪問のテーマは、「東アジアの平和の構築に向けた日韓の取り組み」ということで、とりわけ、北朝鮮の核問題、金正日体制下の北朝鮮問題について議論に集約した。このテーマを設定したのは、2003年、朝鮮半島、東アジア全体の平和の構築に向けた新たなスタートが切られたと感じたからだ。前年の大統領選挙に勝利した盧武鉉大統領は、「東北アジアに繁栄の共同体を実現し、平和の共同体として発展させなければならない」と、その就任式で意気込みを見せた。また、北京で開かれた6カ国協議では、朝鮮半島の非核化に向けた新たな多国間での枠組みも生まれ、今後の展開も期待される。

 そのような中、日本にとって重要なパートナーである韓国が北朝鮮をどのようにとらえているかをまず理解する必要がある。というのも、日韓両国の北朝鮮観には大きな隔たりがあり、そこから派生する政策は一致しないことが多い。政策の不一致は結果も当然変わってくる。東アジアの平和という共通の目標へ向かうためには、できるだけ共通した政策で取り組むことが望ましいのではないだろうか。

韓国の北朝鮮観

 今回の訪問で、韓国が隣接する北朝鮮を身近に感じている様子を知ることができ、またそれが非常に印象に残った。距離的な近さだけではない。両国は同一民族であり、また、離散した肉親のことなどを考えると、国家や体制を超えてお互いが結びついていると言える。その国民感情の反映こそが、「太陽政策」であることを改めて実感した。

「太陽政策」とは、韓国の対北朝鮮への柔軟路線で、朝鮮半島の平和構築の手段として対話や経済援助が必要であるという戦略なのである。韓国の北朝鮮への姿勢は、金大中政権から現盧武鉉政権までこの政策で一貫している。

 しかし、韓国からの資金援助が金正日政権を維持させ、さらには核開発に利用されるなど、東アジアに著しい不安定要因をもたらしていると言える。韓国最大野党のハンナラ党は、その柔軟路線を厳しく糾弾しているものの、今回、意見を交わしたハンナラ党の国会議員や議員立候補予定者からは、同胞が食糧難に苦しむ姿を想像すると、経済制裁には同調できないという様子をうかがえた。

 このような心理的な近さを前面に出して、北朝鮮に一方的に「アメ」を与えるような政策だけでは、東アジア全体の平和を構築するのは容易なことではない。

日本の北朝鮮観

 一方わが国では、北朝鮮による国家的拉致やミサイル発射実験などの行為が日本の脅威となっており、国民に親密な感情ではなく、むしろ敵意や憎悪を抱かせている。来年の通常国会でも、経済制裁を可能とする外国為替・外国貿易法(外為法)が改正されそうだが、このような「ムチ」の政策は多くの国民に支持されるであろうし、私も北朝鮮への断固たる姿勢として必要だと考える。

 しかし、拉致被害者の問題の解決が日朝友好条約の締結の条件であると強行に主張する与党の国会議員ですら、拉致問題の解決には硬軟織り交ぜた政策が必要だと言っていることから、必ずしも強硬姿勢だけを貫けるものでもない。

 また、このような脅威だけをふりかざすだけの日本の北朝鮮観だけで、東アジア全体の平和を構築するのもまた困難である。その心理的な遠さと脅威だけで、一方的に「ムチ」を与えるだけでは、平和的な解決手段を持ち得ないであろう。

東アジアの平和構築に向けて日韓でできること

 このように、両国の北朝鮮観には大きな隔たりがあるものの、北朝鮮問題に対するには、東アジア全体の平和を実現するという大きな視野に立たなければならない。日韓両国が共通の目標を持つのであれば、共通の課題を共同で取り組むことも可能なのではないだろうか。もちろん、同胞である民族への思い、北朝鮮への脅威といった両国の国民感情を無視した政策を実行することは困難なことである。しかし、一国の感情をもって問題に対処していては、よりよい方向への解決は難しい。両国の国民感情を無視せず、なおかつ東アジアの平和の実現に向けた取り組みの具体例を考える必要がある。

 例えば、窮状から逃れるために国外へ脱出した、いわゆる「脱北者」への支援はどうであろうか。「脱北者」の一時避難場所の確保や生活支援を含めてこの支援を日韓両国で行うということができれば、人道支援の側面のみならず、また長期的に体制の変化を促すことが期待できそうである。現在も日韓両国内外のNGOやNPOが「脱北者」の支援に関わっているし、アメリカは難民として受け入れることを検討している。この問題で、日韓共同で取り組める可能性は高い。また、この問題に対処するためには、北朝鮮との陸続きである中国との協力は欠かせない。

 このような、東アジアの平和構築のための具体的な枠組みを設ける取り組みがあってはじめて、この地域間での信頼醸成につながる機運を高めることができると私は考える。

 マイナス13度という寒さの中、板門店から北朝鮮を眺めた。寒々とした土地と山々を見ると、豊かな土地とはとても言い難い。その土地で暮らす人々は、金正日体制下の経済運営の拙さと各国の経済封鎖のため食糧難に苦しんでいる。日本が経済制裁を行えば、そのしわよせがますます北朝鮮国民にくるであろう。その窮状に胸が痛むが、そのような状態を生み出した現政権の変化が求められており、それを促すためのある一定の圧力もまた必要である。

 北朝鮮問題にあたるとき、両国の国民感情を無視することはできないが、国民感情だけでも問題解決は困難である。この困難な状況を乗り越え、日韓両国が手を携えて共通の政策に取り組むとき、東アジアの共同体へ向けての大きな一歩となるだろう。

 今、日本の東アジアへの関わり方が試されている。国家の枠組みを超えた東アジアの共同体建設に向けて、重要な岐路に立っていると言える。北朝鮮問題をはじめ、まずは隣国の韓国とどのような共同歩調がとれるのか、ということは今後益々必要となってくるだろう。

2003年12月 執筆
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