論考

Thesis

「メイド・イン・ジャパン」の現場から -外国人技能・実習制度を考える-

地場産業の衰退と産業空洞化に直面している地方都市。地域経済の悪化に伴い、失業率も増加しつつある一方、中小零細企業では労働力不足に頭を抱えている。中小企業、とりわけ製造業では、大都市圏、地方を問わず、日本人の働き手がこないという共通の問題を抱えている。この問題を解消し、事業を継続していくために、働き手を外国人に依存することは避けられないようだ。

 今回の月例報告では、徳島県における、中小零細企業での外国人を受け入れの実態について述べていきたい。ここでの受け入れの多くが「外国人技能・実習制度」を利用していた。この制度の運用上の長所と短所を考えながら、中小企業における労働力確保のために何が必要なのかを考えてみたい。

なぜ徳島県なのか

 以前勤めていた仕事の関係で徳島県に滞在することが多かった。その際、強く印象に残ったことあり、そのことが今回の調査のきっかけとなっている。その強い印象とは、市内中心部から離れた小さな工場の前で、10人ほどの中国人女性をみかけたことである。何の変哲のない小さな工場と10人ほどの中国人の姿に少し不自然さを感じた。それ以来、彼女たちは一体何をして働いているのだろうか、という疑問が心に残っていた。後に、彼女たちは、「外国人研修・技能実習制度」を利用して、その工場で「研修」している、ということがわかった。この制度の概要は後述するが、制度を利用した外国人の研修生を、徳島の工場でも受け入れているのだ。

外国人受け入れの現場

縫製業の現場訪問

 知り合いの紹介で、縫製業を営む事業所を3ヶ所訪ねた。ミシンが3列ほどずらりと並ぶ作業所内には、カタカタカタと生地を縫う音が響いていた。作業所内で黙々とミシンに向かう中国人研修生、有線から日本の歌謡曲が流れている現場にいると、一瞬、ここはどこなのかが分からなくなった。

 日本の中小企業、とりわけ製造業の現場では、外国人が働く姿はそれほど珍しいものでもないことが実感された。



企業経営者からの話

「縫製の仕事は若い人でないと勤まらない」ある経営者はそう教えてくれた。若い人でないと、ある程度の視力が求められる、細かい刺繍や微妙な工程は務まらないようだ。しかし、日本人の若い人は、今や縫製の仕事はやりたがらない。だから研修制度を利用して外国人研修生を受け入れているのだという。

 中小零細企業では、人件費にそれほど費用を割けないため、研修生の賃金はさぞかし安いのであろうと予想していた。しかし、賃金は、訪問した3ヶ所とも、一時間当たり611円(徳島県の最低賃金)を払っていて、日本人従業員と同額であった。安い賃金で働いているのは、外国人研修生ではなく、むしろ日本人従業員の方ではないだろうか。日本人従業員の雇用を守るということを最優先して考えると、賃金をあげることは二の次となるのだ。

 労働時間の差は若干あるように見受けられた。労働時間の8時から17時までは日本人従業員と同じだが、毎日ではないが、研修生には残業(事業所によっては、その時間を内職の時間としている)をしてもらっている。もちろんそれに見合った手当ては支給されているようだ。

 作業内容は各事業所でそれぞれ違う。同じ縫製業といっても、ある事業所では、女性の下着であったり、パジャマであったりとそれぞれ作業も違ってくるからだ。ただ、ミシンに向って黙々と作業するという点はどの事業所も同じであった。

 どの事業所にいっても、研修生が真面目に働いていることを聞いた。研修生の中にも、仕事を好きになれない者もいて、「する、しない」の差もあるが、それでも企業にとっては貴重な働き手になっているようだ。経営者のほうも、そのような研修生をただの労働力として扱うのでなく、日本人同様、いや、それ以上にお世話をしているように見受けられた。例えば、経営者が貴重な時間やお金を割いて、研修生を旅行に連れて行ったり、地元のお祭りに参加させたりしていることを聞くと、かけがえのない働き手として扱っている様子がうかがえる。

 私が訪問した事業所では、研修生は貴重な労働力として、なくてはならなくなっており、3年間の在留期間は短すぎるという声を聞いた。

中国人研修生からの話

 今回、研修生にはなかなか話しかけることができなかった。黙々と作業を続ける中で声をかけづらかったというのもあるが、それ以上に日本語を話せる人が少なかったのだ。そうした中、数少ない日本語を話せる人の一人から話しを聞いた。

 話しを聞くと彼女らの「研修」の目的は、働いてお金を稼ぐことであるようだ。これまでミシンに触ったことがない人も多いらしい。お金を稼ぐために来ているため、少々のきつい仕事は我慢できるが、それでも縫製の仕事を好きになれないものもいる。帰国後もこの仕事を続けるのかと聞いたところ、続けないという答えが返ってきた。

 彼女らの目的はあくまでもお金を稼ぐことである。だからこの研修制度の目的である「学習」への意欲はあまりない。また、帰国後は、日本で身につけた技術を活かせる仕事に就くということが条件になっているが、どうやら履行されないようだ。

 お金を稼ぐことが目的であるため、研修生にとっても、3年という研修期間はまだ短いようだ。しかし、これほどあからさまに、この研修制度が形骸化されているのには、少し驚いた。

外国人研修・技能実習制度とは

 これまで述べてきた外国人技能・実習制度の目的について簡単に触れてみたい。この制度は、受け入れ側としては「技術移転」や「人材育成」などの国際協力・国際貢献である。一方、入る側としては、「学ぶ」ことなどの学習、研修の機会となっている。

 この外国人技能・実習制度は、

「開発途上にある国々に対して技術・技能を移転することを目的として、我が国に研修生を招いて技術移転による人材育成を行い、それらの国々の発展を支援するという、長く広くその効果が浸透していく国際協力・国際貢献である。」(法務省HPより抜粋)
 1993年、開発途上国への支援策として、この研修制度は実施されている。研修生はあくまでも非労働者として位置付けである。一定の研修期間を終え、技能評価機関の試験をパスした研修生は技能実習生となる。実習生になると、受け入れ企業との間で労使協定を結び、雇用関係の下での実習が認められる。しかし、ここでも労働者としてではなく、あくまでも技術習得を目的とした実習生としてみなされている。


 このように、「学び」や「人材育成」といった研修がこの制度の目的であるにもかかわらず、実態は、単純労働の担い手となっているのは、現場にいくと明らかにわかる。

制度の形骸化

 外国人研修・技能実習制度の目的と実際の運用はかけ離れている。受け入れ企業は「雇用」という理由で、研修生側は「働く」という理由である。労働力不足に悩む企業と働きたいとする外国人のニーズがマッチしているのである。

 研修という名目を保たせようと、様々な検定・資格試験等を実施しているが、経営者や研修生に話を聞くと、真剣に取り組んでいる者は誰もいないそうだ。しかし、真剣に取り組まないのに、試験には簡単に合格できることを聞いた。問題用紙を見ていないので断言できないが、おそらく誰でも通るような試験なのであろう。

 先に述べたように、研修生に「学習」の意欲が見られない中で、どれだけ試験や資格を用意しても意味はない。この研修制度のありかた自体がすでに形骸化しているのだ。

制度外目的利用での長所

 しかし、制度が形骸化されているとはいえ、この制度が利用されるのは、制度外目的に長所が見られるからだ。この制度の利用で、最も大きな長所とは、人材不足に悩む中小企業が、安定的に労働力を確保できるということである。今回訪れた事業所では、いずれも中国人研修生が働いていた。中国では、この研修の応募が殺到しているようである。いずれの事業所も、いい「働き手」を求めて、中国まで足を運び面接しているという。

制度外目的利用での短所

 もちろん現在の制度外目的利用の中にも短所がある。この制度の利用で、最も大きな短所とは、人材不足に悩む中小企業が、長期的に労働力を確保できないということである。つまり研修生の長期雇用ができないことである。研修・技能実習の期間は3年で、それを越えると延長はできない。研修生が、日本に来て、仕事に慣れ、日本語にようやく慣れ始めたところに、帰国してしまうことになる。

 この研修制度を利用して安定的に労働力を確保できているとはいえ、制度上の制限がかかることにより、中小企業の労働力不足の悩みが根本的には解消されていないことがわかった。

外国人受け入れの見直し(制度の改善点)

 中小企業での現場に入って分かったことは、外国人労働者を雇用する理由は、切実な労働力不足にあるということだ。また、不足している働き手を求めるには大変な苦労が伴うのである。外国人は安い賃金で雇えるということもあるが、それ以上に、日本人の働き手が得難い職業であるため、そこを補ってくれる外国人が雇われた、と言えよう。

 このような現場の要求に応えるかのように、政府も制度の変更を検討しようと動きだしている。平成12年3月に発表された第二次出入国管理基本計画では、

「外国人の受入れによる国際貢献や国際協力への寄与はこれまでも出入国管理行政の基本方針としてきたところであるが、今後は、それらの施策をより実効性あるものにするため、国内的に、研修生、技能実習生を受入れやすい環境を整え、その貢献や寄与をより効果的に実現する必要がある。」

 と、書かれている。

 制度の変更を検討することは望ましいが、この制度を国際貢献や国際協力としてとらえるのは、現実に即しているとは言い難い。

 国内産業とその担い手不足の現状をみると、なるべく実態に合わせた制度にすることが必要だと私は考える。そのためには、そもそも単純労働の受け入れを認めないこと自体が問題だと言えよう。今後も国際協力・国際貢献という視点は必要であるが、一方で、現実に日本の(産業・企業)貢献のために外国人受け入れもまた必要である。現行の制度を廃止し、単純労働を含めた外国人の雇用を認めた上で制度を再構築することがより重要になってくるだろう。

在留期限延長の必要性

 中小零細企業の経営者は、せっかく事の覚えた働き手に長期間勤めて欲しいと願っている。研修生の中には、「仕事をする人、しない人」がいるが、「仕事をする人で、日本にいたい人」は就労ビザを発給し、在留期間を延長できるようにすべきではないだろうか。短期間でしか仕事ができないとすれば、また新しい働き手が仕事を覚える時間がかかってしまい、企業にとってはいつまでたっても安定した労働力を確保することができない。このことも、外国人受け入れを研修としてみるのか、雇用としてみるのかで大きな違いが出てきている。

人材登録制度

 また、外国人に限らず、中小零細企業が求める人材を登録しているような人材派遣会社のようなものができるのが、人材不足解消には望ましいのではないだろうか。人材派遣会社が中小零細企業へ、日本国籍、外国籍を問わず登録者を派遣することができれば、労働力を確保できるいい材料となるであろう。日本語を習得し、ある程度の技術を持った外国人労働者は他の業種や企業のニーズにも応えることができるのではないだろうか。

まとめ

 今回、地場産業の衰退と産業空洞化の直面している徳島県を訪問し、厳しい環境の下、働き手不在に悩む中小企業の苦悩を聞いた。そして、働き手不足を補うために外国人に依存せざるをえない状況が、全国的な傾向であることがわかった。中小企業の切実な需要によって外国人労働者が受け入れられていることから、単純労働であってもきちんとした形で入国を認める必要があると言えよう。このように外国人労働者を認めることは一つの解決法ではあるが、わが国の中小零細企業の働き手不足が深刻になりつつある中、これをどのように解消していくべきか、多角的な視点で今後も引き続き研究を重ねたい。

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上里直司の論考

Thesis

Tadashi Uesato

上里直司

第23期

上里 直司

うえさと・ただし

沖縄県那覇市議/無所属

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