Thesis
前月のレポートでは、日本で働く外国人の労働環境と彼らの心境に焦点をあててお伝えした。今回は、彼らを受け入れる企業の実態や経営者の意識についてレポートをしたい。主に今回研修させていただいたA社の社長にお話しを聞いたことを中心にまとめた。社長の話を聞きながら強く感じたことは、「職場には日本人がなかなか入らない」ということだった。研修前には、安い賃金で働けるため外国人を雇っていると思っていたが、どうやらこの現場においては見当違いであった。
今回のレポートでは、企業側から見た外国人労働者と、前編、後編を通してのまとめと感想を述べてみる。
1.なぜ外国人か
A社を含むこの地域の工場では、20年ほど前から、外国人を働き手として迎え入れているという。当時は、パキスタンやバングラディッシュ出身者がこの工場や周辺の工場で働いていたそうだ。彼らの一部は現在もこの地域で働いているが、帰国したり、もしくは定住化して別の仕事に就くケースもあり、そうした人々に代わってアフリカ出身者が働くようになっている。約20年間、外国人に労働を依存している状態というのは、少し驚いた。なぜ、これほど外国人労働者に依存しなければならないのであろうか。
社長にそのことを聞くと、あっさりと、「日本人の働き手がいないから」、と答えた。「町工場の、しかも力仕事の多いところに、日本人は長期間働かなくなっている」という。A社を含む工場では、厳しい作業や力仕事を厭わず、1~2週間程度の短期的なアルバイトではなく、長期的な働き手を求めている。なぜなら、単純労働といえども意外と熟練度が作業の中で求められるからだ。現場で作業をしながらわかったことなのだが、作業中に小さなトラブルが発生し、機械が止まることが何度かあった。そのような小さなトラブルは、従業員レベルで機械の修理や調整をおこなう。それらの作業をこなすためにも、機械の特性を十分理解する必要がある。また、働くなかで、様々な状況に柔軟に対応することも必要である。それらのことを身につけるためにも、長期間働くことが求められる。
しかし、このような現場で働こうとする日本人はいない。
もっとも、日本人の希望者がいないわけではない。社長から、3年前、ハローワークを通して従業員を募集した時の話をきいた。この募集は、採用が若干名であるにもかかわらず、20名ほどの申し込みがあった。そこで、社長は一人一人面接をし、2名の採用を決定した。その際、「この仕事はきついけど大丈夫?」と念を押したが、彼らはいずれも「大丈夫」と答えたので、働いてもらったという。しかし、彼らは、働き始めてわずか2、3日で仕事を辞めてしまった。社長は、長く勤めてもらおうと、ハローワークで募集の少ない中高年に絞ったのだが、長続きはしなかった。この仕事が、厳しい環境で、体力が必要であることを考えると、中高年には厳しく、長続きがしないのも少し分かる。しかし、失業問題が深刻であり、とりわけ中高年の再就職が厳しい中でさえ、このような工場には日本人の働き手はなかなか入ってこない のである。「本当なら日本人にきてもらいたい」と社長は嘆くが、そのためには、ハローワークで煩雑な募集の手続きをしなければならない。そうして時間をかけて採用すれども、長続きしないとなると、社長の募集にかけた時間は無駄になるばかりだ。中小企業においては、社長といえども、貴重な働き手の一人である。その社長が募集業務に時間を割かれるとなると、本業の仕事に穴をあけてしまう。だから、やむを得ず、「長期的に、真面目に仕事に取り組む外国人」を受けいれているという。
2.「悪くない」労働条件
受け入れる企業側も、「長期間、まじめに」働く労働者を求めている。そこには、事前に想像していたような、「安い労働力」としての外国人労働者とは異なる現実があるようだ。
労働条件を見てみよう。A社では、3人の外国人の賃金は、日給7000円であり、他の日本人従業員とほぼ同額が支給されているという。若干の差額はあるが、その差額分は、工場の2階の生活スペースの使用料として充てられている。また、労働時間や仕事の量も他の日本人従業員と同等としている。
もちろんこれは、「人道的見地」からだけではない。また、「労働者の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定めている労働基準法第3条が理由のすべてでもない。すでに述べたように、A社のような中小企業が抱えている問題は、継続的に仕事に従事する労働者の不足であり、単に賃金を低く抑えよう、という動機からではない。企業にとって、労働力不足が差し迫った状態であるならば、労働時間や労働条件を国籍によって差別することはできない現実があるからである。
もし、外国人だからといって、あまりにも低い賃金とひどい労働環境であるならば、つらい仕事を覚悟して母国を出てきた外国人といえども、働くのを敬遠したくなるであろう。そうなると、本来の目的であった「長期的な働き手」を確保できなくなってしまう。適当な賃金を支払うことは、人手不足の企業にとっては、ごく当然のことであるといえそうだ。
もっとも、一般的に、「不法就労」というだけで雇用者に対して弱い立場に立たされてしまう外国人労働者の現状を考えるとき、A社のような事業所はむしろ「良心的」といえるのかもしれない。
3.「口コミ」で確保
それでは、ハローワークを経由せず、どうやって働き手を確保しているのだろうか。A社で働くアフリカ出身のジェームスやパトリックの場合、いずれも、この工場で働いていた友人が仕事を辞める際、紹介されて引き継ぐように働き始めた。このように、自分が仕事を辞める場合は、身内や知人といった同国人を社長に紹介しているようだ。もちろん、社長の方から、辞めていく彼らの身内や知人に働き手がいないかと、お願いする場合もある。彼らがはるばるアフリカからやってくるのは、いずれにしてもこのように、ある程度就労が約束されているからである。
また、賃金、労働時間といった就労条件が、明示されていることも、アフリカ東部B国から日本までの片道航空券、約13万円を出してまで、遠路はるばる働きに来る理由の一つであろう。
聞いたところでは、そうした見通しのないまま、工場を一軒、一軒回って、「仕事ありませんか」と尋ねる外国人もまれにいるようだ。当然、「出てけーっ」と言われることがほとんどだが、中にはそれで雇用してもらえるケースもあるという。
今回、研修をさせていただいたA社では、日本人の働き手不足を補うために、外国人労働者に依存し、適当な労働条件と 「口コミ」によって、お互いに良い関係を築いているように見受けられた。
とはいえ、その実態は、外国人による「不法就労」そのものである。不法就労は、摘発されれば働き手を失い、そればかりか、事業者自身も罰則を受けることで、会社の信用を失い、事業の継続をも危ぶまれることになりかねない。
そうした事態を避けるためにまず必要なのは、「合法的」な働き手を確保することである。「合法的」な働き手を確保するためには、工場に日本人の働き手がこないとされている、3K(きつい、汚い、危険)といった労働環境、そしてそれに見合った賃金を改善しなければならないであろう。
しかし、これだけのことを中小企業のみの力で実現できるかは疑問だ。3Kの労働環境を改善するといっても、作業場の改装、新しい機械の導入、危険防止のためにどれだけ設備投資ができるのだろうか。また、作業の負担を軽減する理由で、従業員を増やし作業を分担させることは、長続きする働き手がいない中で、どれだけ実現できるのだろうか。さらに、今の賃金を上げる余裕のある中小企業がどれだけあるのだろうか。いずれも今のままでは、私が研修したA社やその他の多くの中小企業では、「合法的」な雇用の実現は難しいであろう。
もちろん、「不法就労を黙認しろ」と言うつもりはない。むしろ、不法就労を認めて はいけないと私は考えている。ただ、今回の研修を通じて、「不法」「合法」を、現状を無視して論じても意味のないことであると感じた。もし、自らの事業を継続していくために外国人労働者が不可欠であるならば、また、「不法就労」を承知で雇用せざるを得ないならば、私は、制度を見直し、日本も単純労働を目的とした外国人の入国を認めるべきだと考える。
実際、研修制度、日系人の単純労働の認可により、もはや外国人の単純労働の禁止は制度的にも破綻しており、それを 取り繕うのは無理があるのである。
1.不法就労の実態
そのことを裏づけるのが表1である。90年の入管法改正により、外国人労働者数、不法在留者数も増えた。この不法在留者のほとんどが、生活する上でなんらかの労働をしなければならないことから、外国人労働者の一部として計上されている。不法在留者は、93年をピークに減り続けるが、外国人労働者に占める割合は、3割程度となり、かなり高い割合となっている。
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市場のグローバル化という観点から、「安い賃金でまかなえる外国人労働者を中小企業は求めている」、と最初は思っていた。しかし、私が接した中小企業の経営者は、ただ安い労働者を求めて外国人労働者を受け入れている訳ではなかった。労働条件が厳しい中小企業であればこそ、長期的に、真面目に働く人材が不足するという深刻な問題を抱えているというのである。その不足している働き手を求めた結果、外国人労働者に行きついたといえるであろう。
日本人の労働者が来ることも望んでいるが、実際には来てくれる人がいない。こういった日本人の労働者が来ないために、外国人労働者が受け入れられることになった現場を見ると、よく言われるような、外国人労働者が「日本人の仕事を奪う」ということは、短期的には必ずしもそうならないことが分かった。
ただし、手放しに外国人を単純労働者として受け入れることにもまだ多くの問題がある。しかし、それらの問題を乗り越えて、日本人の働き手のない事業所には外国人労働者を認めることは必要であろう。
今回のレポートでは外国人労働者と中小企業に焦点をあてた。そのため、伝え足りない部分もある。例えば、外国人労働者と 彼らを受け入れる地域の関係など、外国人労働者の受け入れを考えるとき、避けて通れない問題である。外国人労働者と中小企業 との関係に焦点をあてたので、この問題を深く掘り下げることはできなかったが、いずれ、月例レポートで取り上げてみたい。
最後に、レポートの本題と異なるが、今回、外国人労働者と共に働いた感想をつけ加えたい。私は、正直に言うと、工場で働いた当初は、外国人労働者に対して肌の色の違いや文化的な習慣の違いから、強く「違い」を感じた。しかし、共に働き、交流することで、彼らの真面目さ、誠実さに触れることができ、違和感は払拭された。また、それだけでなく、彼らとの友好関係も築くこともできた。このような場が日本のあらゆる場所で生まれると、違い」を意識することなく彼らへの信頼感は醸成されてゆくのではないだろうか。
(注)今回出てくる外国人労働者の名前はすべて仮名である。
Thesis
Tadashi Uesato
第23期
うえさと・ただし
沖縄県那覇市議/無所属