松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2002年9月

塾生レポート

本物のチャリティ・コンサート
原田大/卒塾生

 
 秋の運動会シーズンを過ぎると、文化の季節となる。巷の学校、大学などでは文化祭(本当に文化的かどうかは別の議論に任せる)が行われる。音楽も同様で、年末にかけて様々なコンサートが開催される。

 この様々なコンサートの中で、時々「チャリティ・コンサート」もある。しかし、収益金の全部か一部を慈善団体に寄付する形のものが一般的である。ここでは金銭を提供することが目的であり、音楽そのものを届けるわけではない。チャリティ・バザーにしろ、チャリティ・展覧会にしろ、同じことである。

 例えば、東京都心の大ホールで著名な音楽家がアフガニスタン支援のチャリティ・コンサートを行ったとしよう。この音楽会を聴きにくることができるのは、立派なスーツと素敵なドレスに身をまとった、ホールに簡単に来ることができる人たちのみ。この音楽家の演奏は、彼らの一夜の楽しみに消費されるだけである。この音楽家が本当に救いたいと願う襤褸を纏ってアフガンで苦しむ人たちのところに、希望の調べが届くことはない。はたまたアフガンで銃を撃ったり爆弾を落としたりしていきり立つ人たちの心を和ますこともない。音楽家にとって最大の喜びは、音楽の力によって人々を幸せにすることである。彼の演奏には、音楽本来の力、人々の心に訴えかけて、沈んだ心を明るくしたり、傷ついた心を癒したり、はたまた明日に向かって生きる活力を呼び覚ましたりする力が備わっているのだから。この喜びを知る音楽家にとっては、単に金品へと還元されてしまうようなチャリティ・コンサートは、例え傍目に「成功」したといわれるようなコンサートだったとしても、何かすっきりしないものが残るものである。

 また別の例を挙げよう。重い病気や障害で入院している患者さんたちのことを考えてみよう。日本の場合、経済的にはさほど困っていないケースも多い。しかし、病院や施設の中で寝ていては、さしたる楽しみもない。そこで例えば素晴らしい生の音楽を聴こうと思い立っても、都会の大ホールまで出かけていけるだけの体力はない。点滴を受けていたら、電源のないところへ1時間以上出かけることもできない。だから、お金と時間は持ち合わせていても、本当に欲しい心の楽しみや癒しに接するのは、想像以上に大変なこととなる。

 このような人たちの求めるものは、生演奏などの本当の楽しみであって、お金やモノではない。

 都内のある大学病院で、毎年クリスマスの時期にクリスマス・コーラスのコンサートを開催している団体がある。会場は病院最上階の大会議室。そもそも病気治療を目的として機能的に造られた病院に、音楽用のホールなどという目的外の施設はない。当然、専門のホールと比べれば設備も整っていないし、音響効果もいいとはいえない。それでも患者さんたちに一番近いところで演奏することに意義があるのだ。しかし、この「一番近い」ところに来るのでさえ、点滴の器械を引っ張ってきたり、家族に車椅子を押してもらったり、さらには数名の看護婦さんたちにストレッチャー(担架)を押してもらったりして来られる方もいた。それでも、人との関係性を絶って病室に閉じこもっていたり、CDの奏でる音楽を聴いてヴァーチャルな関係を持つよりも、生演奏を聴くことで直接的な関係性を求めたいという人たちが大勢いたのだ。100名以上入る会議室はそんな人たちで一杯になる。その様子を見て、患者さんたちがこのようなことを求めていたことに今まで気付かなかったと感想を述べられる先生もいた。

 効率性を求めると、その目的に適わないと見做されたものはどんどん切り捨てられていく。そして行動はどんどん抽象化される。経済的な合理性を追求していくとき、最終的に全ては一度お金に還元される。そして、カネさえあれば、何でもできる。逆に、カネの切れ目は縁の切れ目となる。そして手段と目的は転倒していく。

 有償、無償を問わず、様々な価値の交換を通じて関係性を結んでいくことは、社会的動物としての人間にとって不可欠なことである。身近なところから関係性を拡張していくような手段をいかに多く持つかが重要である。カネだけでは寂しい。かといってあまり社会に縛られるのも息苦しい。そのへんのバランスを兼ね備えた媒体が必要である。「悪貨は良貨を駆逐する」のだとしたら、現在の貨幣は「悪貨」かもしれない。「良貨」を存続させるためには、経済的価値とはねじれの位置にベクトルを持つ媒体を開発する必要があるだろう。

2002年9月 執筆
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