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2002年8月

塾生レポート

地域通貨と税制を用いた公共空間の再編-地域通貨国際会議から
原田大/卒塾生

 
 2002年8月22日、23日の両日、北海道夕張郡栗山町において第1回地域通貨国際会議が行われた。竹中平蔵経済財政政策担当大臣がオープニング・スピーチを行った後、海外から5事例、国内から5事例の発表があった。このなかから、国内外それぞれ一つづつ紹介しよう。

 サンフランシスコに本拠を置く「フレンドリー・フェイバー」の主催者、セルジオ・ラブ氏は3つのパスポートを持っている。一つは両親の祖国であるロシアのパスポート。一つは生まれた国であるアルゼンチンのパスポート。そしてもう一つが現在生活の拠点としているアメリカのパスポートである。ロシア(旧ソ連)、アルゼンチンという激動を経験した国を見てきたラブ氏にとって、国家とは脆く頼りないものだった。そんなときに助けとなったのは、いつも友人たちのネットワークだったという。この友人たちとの助け合いのネットワークをネット上に構築したのが「フレンドリー・フェイバー」である。フレンドリー・フェイバーのサイト上では、各メンバーが自分の提供できるサーヴィス、提供してもらいたいサーヴィスを登録し、「Thank you」という単位でサーヴィスのやり取りをする。ラブ氏に限らず、地域通貨に取り組んでいる人たちには、国家に頼らずに生きていこうとする人たちが多い。これは日本人に関しても同様である。しかし、国家の役割をまったく否定しているわけではない。国家に対して冷静な目を向けつつも、最低限のところではその役割を認めている。要は、お互いに干渉せず、できる範囲のことを適切にやっていけばいいというようなところである。

 こうした取り組みにおいて問題となってくるのは、既存の社会システムとの兼ね合いである。例えば「フレンドリー・フェイバー」において医者のA氏が弁護士のB氏の治療を引き受ける代わりに、B氏がA氏の弁護をしたとしよう。そしてその対価を相殺してしまった場合、見かけ上の収入は減り、本来納めるべき税金の額が減ることになる。このことに対してラブ氏の見解では、自分は実業家としてもともと多額の税金を納めていること、にもかかわらず税金の使い道については自分で選べない事実が示された。さらに、子供と老人はお金を介在させないで助け合う「ギフト経済」の中に生きているのに、生産年齢の間だけこの「ギフト経済」の中に生きることを否定することはおかしいとのことであった。よく考えてみれば、現在でも主婦(主夫)の家事サーヴィスについて売り上げを計上して税金をかけるなどということは行われていないし、隣近所との助け合いでもそうである。こうした助け合いの部分について、サーヴィスの交換に地域通貨を用いるようになったからといって即課税というのはナンセンスな部分もあるだろう。どこまでが商売で、どこまでが助け合いかは、社会的なバランスの中で判断するしかないだろう。もしこうした問題を厳密に避けようとすれば、上に挙げた弁護や治療といった現行の経済システムの中でも商売として成り立つサーヴィスの交換を地域通貨の取引から除外し、隣近所のちょっとした助け合いやボランティア活動などでのみ使うしかない。または、すべての地域通貨での収入を円収入と同様にみなして課税するしかない。

 神奈川県大和市-ここでは行政と市民が一体となって「LOVES」という地域通貨の取り組みを進めている。大和氏市の地域通貨で特徴的なのは、ICカードを利用した電子地域通貨であることだろう。一般的には紙幣タイプ、通帳タイプのものが多い。ICカードは、現在のところ1枚約1000円するといわれている。大和市のケースでは、これを参加者約9万人に対して発行したというから、ICカードの導入だけでも相当な金額が動くことになる。これだけの規模のものができるのも、自治体が関与しているからともいえる。ちなみに、平成14年度の大和市の予算では、「ICカード普及事業費」として4435万円が計上されている。内容は、ICカードの発行や、店舗等に配置するLOVESシステム等の保守管理、定着活動などである。ここで、大和市の予算で「地域通貨普及事業費」ではなく、「ICカード普及事業費」となっているのには訳がある。それは、この事業が経済産業省(旧通商産業省)の「ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業」として行われているからである。これにより、ICカードはもちろん、それを運用するためのシステムの開発や整備の費用を国が負担することになっている。本来、地域通貨は地域独自のものとして行うことに意味があろう。しかし、何も大和市に限ったことではないが、地域通貨の導入を検討するに当たっても国から予算が付くかどうかといった要素を無視し得ないのが、現在の地方自治の状況である。

 大和市のICカード事業で扱われているのは、地域通貨だけではない。将来、住民票や印鑑登録証明書の交付手続きに用いたり、私立病院で健康保険証として用いたり災害時の避難場所確認に用いたりする予定である。こう聞くと、住基ネットと同じようなプライバシーに関する懸念が拭い去れない。特に民間の機関よりも個人情報を集められる地方政府が地域通貨の発行に関わる場合留意する必要があるだろう。ちなみに、現行の大和市のカードと住基ネットのカードとは、一応全く別のものである。

 地方政府が地域通貨に関わるメリットは、より直接的に税の問題を考えられることである。地域通貨で扱われる内容は、公共の福祉を増進する内容を持ったものも多く、その意味では税金を取って公共サーヴィスを提供する政府との関係の再考は避けて通れないからである。例えば、近所のお年寄りの家へ行って、家事を手伝ってあげたとしよう。こうしたサーヴィスは介護保険で行われているが、もし市民が自発的にこうした介護サーヴィスをお互いに提供するようになったら、介護保険制度はいらなくなるはずである。そこで介護サーヴィスに対して地域通貨を発行し、これをもって介護保険料、税金、公立の施設の利用料などに充てることができれば、介護保険料や税金を取って政府が煩雑な事務をする必要がなくなる。しかし現在では、税金を地域通貨で受け取ることは難しく、公立の施設の利用料を受け取るところにも至っていない。

 日本では中央地方を問わず、官僚機構が公的空間を半ば独占し、公共サーヴィスの提供を一手に引き受けてきた。国民もそれに慣れてしまい、軒先の蜂の巣を取るにもいちいち市役所の職員に来てもらうというような話も聞く。このような依存体質のもとでは健全な政府を求めることは難しい。お互いの自立と助け合いの世界である「ギフト経済」を促進することは、政治離れにではなく、よりよい政治の再建につながるものである。

 政府に頼らずに生きていけるネットワークを模索する「フレンドリー・フェイバー」、行政が積極的にかかわっている大和市の例。そこから一歩進んで公共空間での自立した市民と政府の役割分担、そしてそれを支える税金という問題を考えたとき、地域通貨は自立した市民と節度ある政府を結ぶよい紐帯となるだろう。

2002年8月 執筆
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