論考

Thesis

児童家庭支援センターの拡充を ~児童福祉施設現場体験リポート 後編(育児支援編)~

三.児童家庭支援センターでの研修

 前回、前々回に引き続き、茨城県高萩市及び東茨城郡内原町にある社会福祉法人同仁会で研修体験をレポートさせていただく。先月号では、児童養護施設で暮らす子ども達の様子をレポートする中、虐待を受けた子ども達の様子をレポートし、これは決して特別な問題ではない、と述べた。

 今回のレポートでは、一般の家庭にも拡がっている子育て不安の援助・相談にあたる施設である児童家庭支援センターでの取材結果を元に報告させていただく。

今どきの子ども達、親達の戸惑い・不安

 昨今、いじめ、虐待、不登校、非行など子どもに関する問題は複雑化し、子どもも、そして子どもを育てる親の間にもこれまでにない戸惑いや不安が拡がっている。例えば、内閣府の調査(国民生活選好度調査,1997年)によれば、一番目の子どもが小学校入学前の母親に対して聞いたところ、「育児の自信がなくなる」との問いに、「よくある」「時々ある」と答えた割合は、専業主婦では70%、職業を持つ母親では、50%にものぼっている。育児をしながら感じることとして、「なんとなくイライラする」に至っては、職の有無に関わりなく約8割もの母親が「よくある」「時々ある」と回答している。

児童家庭支援センターとは?

 こうした子どもの問題や育児に関する問題は、従来は主に児童相談所が相談や援助の機能を担ってきたが、問題の複雑化・多発化(特に児童虐待の顕在化、増加)によって、パンク状態に陥ってしまっていた。

 このような背景から、平成10(1998)年の児童福祉法の改正に伴い、「地域に密着したよりきめ細やかな相談支援を行う児童福祉施設」として、地域で、子育てやしつけに悩む親や、学校のこと、家庭のことに悩んでいる親や子どもの相談に乗り、必要な支援を行う施設として新たに設置されるようになった(※参照条文 児童福祉法)。

 児童養護施設を中心に既存の児童福祉施設に附置できるようになったこの児童家庭支援センターであるが、昨2003年4月の段階で、全国に43ヶ所しか設置されておらず、未だに設置されていない県も多く、未だ一般的に知られてはいない。

児童家庭支援センターの事業

児童家庭支援センターでは実際にどのような事業を行い、どんな苦労があるのか、同仁会児童家庭支援センターの芳賀英友相談員にお話をうかがった。

 同仁会児童家庭支援センターは、児童養護施設臨海学園に附設されている。

 全般に厳しいのは、予算の制約から人員が限られていることで、常勤、非常勤の心理療法士、夜間相談員(非常勤)各1名の僅か3名の体制で、下記の各事業への対応を、24時間行うことを余儀なくされている。

1.相談事業

 相談事業には、(1)来所相談 (2)電話相談 がある。

 通常の事業に加え、「茨城県児童虐待24時間相談体制整備事業」(虐待ホットライン)を県からの委託を受けて行っている。

 相談内容は多岐に渡るが、深刻な内容のもの、緊急を要するものから、軽微なものまで諸々あるそうだ。「子どもが宿題をしない」「ペットの面倒をみない」という内容で、1時間、2時間の相談を受けることもあるという。

 ホットライン相談は、夜間の電話相談が多く、児童相談所の閉所後には、児童相談所宛の電話も転送されてくる。また警察、医療機関からの電話も夜間に多いという。夜間相談員は、仮眠が出来るが、一人の配置で、電話がいつ掛かってくるか気になり、熟睡は出来ないそうである。さらには、深夜、女性の相談員に対し、相談を装って卑猥な電話をかけてくる輩までいるそうだ。

 なお、厚生労働省は設置基準として、年間相談実績500件を課しているが、同仁会児童家庭支援センターでは、昨年度では、1,000件以上の電話相談、413件の面接相談を受けたそうである。

2.心理療法の実施

 昨年度(平成14年度)には、児童またはその保護者33名に対して、延べ314回の心理療法士による心理療法を実施したという。

3.地域子育て支援事業

 一般家庭向けに、乳幼児期の子どもを持つ家庭対象の講演会や、学童、思春期の子どもを持つ家庭の講演会、さらには地域機関の専門職員対象の講演会を開催している。さらにはボランティアの養成講座も実施したそうである。

 児童相談所から委託を受け、指導することも行っている。具体的にはしつけ指導、不登校児の登校、生活指導、心理療法などである。さらに虐待防止に関する地域活動として、「高萩市虐待防止・早期発見のためのネットワーク」事務局運営をしており、啓蒙・啓発活動(パンフレット作成、配布)や定期連絡会議を開催している。

現場職員の見た現代家庭の問題

 このセンターで数多くの家庭の相談にのってきた芳賀相談員に現代家族の問題について、御所見をうかがった。

 不登校や非行などの問題行動をする子どもの相談に来る親に「お子さんの感じは?気持ちは?」と問うと、ほとんどが「話さないので、わからない」と答えます。言語化しないとわからないとする人が多く、子どもの表情や様子を見て、「苦しそう」などと想像する力が欠落してきているのではないかと思います。言葉にならないことへの共感性を高めて行くことが必要ではないでしょうか。

 親や大人自身が忙し過ぎて、余裕がないことも一因と思います。大人が「私たちも大変、だからあなたも頑張れ」という状況。そのままで良いという時間も必要なのではないでしょうか。

 とても考えさせられたお話であった。

児童家庭支援センターの課題と今後

1.関係機関との連携

 児童虐待防止法に見られるように、虐待防止など子どもに関する問題では、児童相談所、保健所、教育委員会、病院等医療機関、警察など様々な機関の連携が必要となるが、実際には、なかなか難しいそうである。それは、児童福祉、医療、行政の機関がそれぞれの専門性による物差しを持ち、とらえ方がバラバラであるからという。

 芳賀氏は、児童家庭支援センターの役割について、「橋渡し役を担えるのではないか」と言われる。センターを「バーベキューの串」に喩え、「違う食材をつなげる」と言われた方もあるそうである。

2.増設

 冒頭述べたとおり、昨2003年4月の段階で、全国に43ヶ所しか設置されておらず、未だに設置されていない県も多い。全都道府県への設置、さらには市区町村での設置、18歳未満人口○万人に一ヶ所というような目標値を定めて、増設していくことが必要と考える。

3.予算と人員の拡充

 一番の課題として挙げられるのは、児童家庭支援センターの予算と人員が少な過ぎるということだ。

 センターは既存の児童福祉施設(多くは児童養護施設)に附設されることとなっており、厚生労働省は、本体施設からの支援を期待しているが、前回レポートしたとおり、本体施設自体も大人が少なく、余裕の無い状況で、職員の熱意で何とか持ち堪えている状況にあり、支援は困難である。

 児童家庭支援センターが広報・宣伝に力を入れ、知名度が上がり、相談者が増えていけば、少ない職員では、容量オーバーとなり、パンクしてしまうというジレンマにも直面するであろう。また、増員という量に加え、現在非常勤である心理療法士の方や相談員を常勤で雇用できるような質、雇用の質量両面の改善が必要である。

 地域で大きな役割を果たすことを使命とする児童家庭支援センターを質量ともに拡充させていくことは不可欠である。

最後に同仁会での研修を振り返って

 この場を借りて、研修の機会を与えてくださった遠藤光洋理事長を始めとする関係者の皆様に感謝を申し上げたい。

 全体を振り返っての感想は、第一に、限られた予算と人員の中で、児童福祉の現場で、職員の方々が一生懸命子ども達のために働かれていた姿が尊く、眩しかったということである。

 第二に、将来の国や社会を背負っていく子ども達や、現在子育てをしている親に対しての支援が、予算、制度、人員に渡って不十分であるということだ。子ども達や家族をどう支援していくべきなのか、今後研修を通じて考えていきたい。

<参考>

※参照条文

児童福祉法

第44条の2
児童家庭支援センターは、地域の児童の福祉に関する各般の問題につき、児童、母子家庭その他の家庭、地域住民その他からの相談に応じ、必要な助言を行うとともに、第26条第1項第2号及び第27条第1項第2号の規定による指導を行い、あわせて児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整その他厚生労働省令の定める援助を総合的に行うことを目的とする施設とする。
2 児童家庭支援センターは、厚生労働省令の定める児童福祉施設に附置するものとする。
3 児童家庭支援センターの職員は、その職務を遂行するに当たつては、個人の身上に関する秘密を守らなければならない。

第26条
児童相談所長は、第25条の規定による通告を受けた児童、前条第1号又は少年法(昭和23年法律第168号)第18条第1項の規定による送致を受けた児童及び相談に応じた児童、その保護者又は妊産婦について、必要があると認めたときは、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
1.次条の措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。
2.児童又はその保護者を児童福祉司若しくは児童委員に指導させ、又は都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター若しくは都道府県以外の障害児相談支援事業を行う者に指導を委託すること。
(以下略)

第27条
都道府県は、前条第1項第1号の規定による報告又は少年法第18条第2項の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
1.児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること。
2.児童又はその保護者を児童福祉司、知的障害者福祉司、社会福祉主事、児童委員若しくは当該都道府県の設置する児童家庭支援センター若しくは当該都道府県が行う障害児相談支援事業に係る職員に指導させ、又は当該都道府県以外の者若しくは当該都道府県以外の障害児相談支援事業を行う者に指導を委託すること。
(以下略)

Back

橘秀徳の論考

Thesis

Hidenori Tachibana

橘秀徳

第23期

橘 秀徳

たちばな・ひでのり

日本充電インフラ株式会社 代表取締役

Mission

児童福祉施設で現場実習

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門