Thesis
私は、自らの志「地域主権社会の実現」のために「湘南の海を活かしたまちづくり」を切り口として掲げた。松下政経塾に入塾後2年間が経過しようとしている現時点で、改めて自らの志を振り替えるとともに、この半年間の実践研修の内容を報告したい。
松下政経塾生として、自分の一生をかけて公のために何ができるのか、自分なりに考え、研修を行ってきた。そして私は、自らの志「地域主権社会の実現」のために「湘南の海を活かしたまちづくり」を切り口として掲げ、実践研修のテーマに決めた。松下政経塾に入塾後2年間が経過しようとしている現時点で、改めて自らの志を振り替えるとともに、この半年間の実践研修の内容を報告したい。
私が自治体職員として働いていた1999年から2010年までの約10年間は、自治体を「国の下請け機関」とみなした機関委任事務を廃止され、国と地方が法制度上、「上下・主従」から「対等・協力」の関係に変わるなど、第一期地方分権改革の成果が出て急速に改革が進んだ時代であった。第二期地方分権改革でも、国からの地方への権限移譲、法令による義務づけや関与の廃止、より一層の税源移譲などが進展し、「中央から地方へ」というこの潮流は、自治体の“地方政府”としての裁量権の拡大が図られたという意味で、一定の成果があったと言える。
しかし、その一方で、中央集権的な行財政制度がいまだに多く残っており、自治体や住民の側にも国に依存する体質が依然ある。結果として、自覚と責任感を持って地域経営を行う人材がまだ十分に育たず、地域ニーズに合った効率的・効果的な地域経営ができていないのが現状である。真の「地域主権社会」の実現を目指すために残された問題は多い。
私は、自治体の現場に身を置く中で、これらの問題に強い危機感を持つようになり、どうすれば解決できるのか、苦悩し続けてきた。その結果、これらの問題は、政治・行政・住民を取り巻く構造的で根深いものであり、一自治体職員の力で解決するには限界があると感じるようになっていった。もちろん自治体職員としてできることはある。しかし、「政治」の役割の重要性を痛感せざるを得なくなったのである。
そして、行政職員としての専門性を持つ自分が「政治家」という立場から自ら行動していけば、自らの志を実現することができるのではないか。それが自分に与えられた使命ではないか、そう考えるに至った。私は自治体を退職し、「地域主権社会の実現~地域のリーダーシップで日本を変える~」を志とし、松下政経塾の門を叩いた。
入塾後は、松下幸之助塾主の理念研究を続けた。そして、「地域主権社会」を実現していくためには、国・自治体・住民それぞれが、お互いに依存することなく自立し責任感をもって与えられた使命を果たすことが、最も重要な基本理念であると考えるようになった。もちろん地方分権改革において権限や税源移譲などの制度的な改革は重要である。しかし、最も重要なのは、国・自治体・住民の「自立」であり、その「意識」である。それがあって初めて国と地方は「対等」となり「協調」が可能になるのではないだろうか。
私は、今後この理念をもとに、本当の意味で全国のそれぞれの地域の潜在力が十分に発揮され、地域の個性が輝き住民一人ひとりが幸せに暮らせるような「地域主権社会」を実現していく決意である。塾生としての実践研修では、その具体的な方策の一つとして、「湘南」から地域主権のまちづくりを実践していくことにした。
私は湘南の地に生まれ育った。海辺の近くで幼少期を過ごした私にとって、海は一番身近な遊び場だった。高校時代からはウィンドサーフィンを始め、大学時代は競技スポーツとしてサーフィンに打ち込んだ。海という大自然のエネルギーを直接感じ、海と一体化できるのがサーフィンの一番の魅力だ。海は私に自然の偉大さを教えてくれた。海という自然を通して、精神力や体力が養われ、また、自然の脅威、気象知識、地元の歴史文化、郷土愛、海のローカルルールなど、多くのことを学んでいった。そして、私はこの美しい湘南の海を未来に残したいと強く願うようになり、環境問題への関心を高めていったのである。
私が考える理想の「地域主権社会」とは、地域の潜在力が十分に発揮され、地域の個性が輝き住民一人ひとりが幸せに暮らせるような社会である。湘南には「海」という恵まれた資源がある。湘南の魅力あふれる地域資源である「海」を最大限に活かしたまちづくりを自ら実践していくことで「地域主権社会」の一歩を踏み出すことができるのではないかと考えた。
しかし、「湘南の海を活かしたまちづくり」を切り口として「地域主権社会」の実現を目指していくと一口に言っても、海をめぐる諸課題は山積しているのが現状である。「環境」と「経済」という相反しがちな政策の両立、「防災」への対応、海の資源をめぐる様々な利権の問題等・・・。これらの課題は複雑に絡み合っており、湘南の各自治体が連携して取り組むべき地域政策課題であるが、自治体ごとに住民、NPO、企業、行政、政治等の各セクターが独立して解決に当たっているのが現状である。これらの課題をどのようにして解決していくか。松下政経塾での実践研修のなかで、具体的にどんな取組ができるだろうか。
そうした想いから私は、今後の実践研修において、「湘南の海を活かしたまちづくり」の具体的取組として、海岸の国際認証基準「ブルーフラッグ」の取得に向けた活動と、「湘南都市構想2022」の策定という2つの目標を掲げることにした。
「ブルーフラッグ」とは、FEE(Foundation for Environmental Education:国際環境基金)により行われている海岸の国際的な環境認証基準である。FEEとは、世界61カ国に加盟組織のある世界最大規模の環境NGOの一つであり、安全、衛生・清潔、美観、環境保全などの一定基準をクリアした海岸は、FEEから認証を与えられ、その証明である「ブルーフラッグ」をビーチに掲げることができる。1987年にヨーロッパ10カ国を発祥とし、その高いステータスと来訪客の誘引力により現在、44カ国約3650のビーチが認証されている。日本の海岸では残念ながら認証事例はない。
「ブルーフラッグ」運動は単なる海岸美化活動ではない。沿岸地域には、水質保全、衛生管理、観光、商業、漁業、マリンスポーツ、環境教育、河川、津波対策、景観保全、交通渋滞、騒音・治安問題など多くの課題が集約されている。現在、各課題に対して行政が個別に解決に取り組んでいるものの、関係団体それぞれの、時には利益相反となる行動に対して一体的な地域政策を図ることは困難であるというのが現状である。
このような複雑な問題を地域から自発的に解決していこうという試みが「ブルーフラッグ」運動である。地域が「ブルーフラッグ」認証取得という一つの大きな目標を掲げることによって、行政を含め各種団体がお互いに連携するきっかけとなり、地域が一体となったまちづくりを実現していくことができると私は考えている。
「ブルーフラッグ」の基準をクリアするのは大変難しい。しかし、だからこそ地域の自発的で一体的な活動が不可欠であり、地域発での認証取得を目指す意義は大きいと感じている。まずは、地元の藤沢市内の海岸での取得を目指したい。さらには、湘南地域に広げ、湘南の魅力を最大限に活かした広域的な海のまちづくりを実践していこうというのが私の考えである。
湘南独自の地域政策を実現していく過程では、地域政策を縛る国の法規制も明らかになるだろう。国に対して法制度の改正や具体的な権限移譲を要求していくことにも大きな意味がある。そして、こうした過程により、行政や地域に自立的なまちづくりへの自覚と責任感が醸成されるだろうと私は考えている。
このように、「ブルーフラッグ」運動は、自治体のあるべき環境政策を考え、湘南での政策連携の可能性を探る機会となり、ひいては国の法制度や権限移譲を進めるとともに、地域の自立的経営の自覚と責任感を醸成することにつながるだろう。理想の地域主権社会の実現の第一歩になれるよう達成への方策を模索していきたい。
「湘南都市構想2022」とは、10年後の湘南地域のまちづくりビジョンである。現在、湘南地域の各市町及び神奈川県では、「総合計画」という長期的・体系的な行政計画を策定しているが、これらの計画は国の法制度や規制の枠内で自治体ごとに個別に策定せざるを得なく、また行政の継続性や網羅性が重視されるなど様々な制約があることから、地域住民が求める理想のまちづくり計画になっていないのが現状である。
そこで、湘南地域を行政単位ではなく一体の生活圏と捉え、湘南の特性を最大限に活かした理想のまちづくりを目指し、湘南地域の住民が主体になって10年後の理想の湘南地域まちづくりビジョン「湘南都市構想2022」を策定していこうと考えている。
この構想は、地域住民が主導で策定することにより、各自治体の総合計画では必ずしも反映できなかった住民の意見を反映し、地域の人々が本当に住み続けたいと思える夢のある理想の地域ビジョンとしたい。また、湘南地域の持つポテンシャルを最大限に活かした特長ある地域ビジョンとし、行政計画のように総花的でない、地域住民が愛着を持てるようなものとすること。さらには、各自治体の総合計画が、湘南地域に共通の資源や共通の課題があるにもかかわらず相互に政策連携が進んでいないという現状を踏まえ、行政区域に縛られることなく、各自治体が政策連携できる「広域」の地域ビジョンとしたいと考えている。
この2つの取組を行うため、私は「湘南ビジョン研究会」という組織を結成した。「湘南ビジョン研究会」は現在、湘南の海に対する思いを同じくしたメンバー13名から成り、「ブルーフラッグチーム」「湘南都市構想チーム」「広報戦略チーム」の3チーム制で各担当分野の研究や活動を行っている。後述する「湘南の海を考えるミニフォーラム」の開催やフリーペーパー「読む湘南」の発行など、すべてのイベントはこれらのメンバーが中心となって運営している。
2011年10月から実践研修に入った。最初に「ブルーフラッグ」認証取得に向けた活動について具体的な取組内容を述べたい。
まず、実践研修を始めるに当たって、湘南海岸が抱える課題をしっかりと把握する必要があると考え、海に関係する研究者、行政官、政治家、各種団体、市民活動家等に広くヒアリングを実施した。
例えば、ブルーフラッグ認証機関であるFEE JAPANの代表理事、観光学や海洋学を専門とする大学教授、海洋政策研究財団研究者、国土交通省国土技術政策総合研究所沿岸海洋研究部、水管理・国土保全局河川環境課、環境省環境省水・大気環境局水環境課海洋環境室、海上保安庁第三管区湘南海上保安署、神奈川県警本部危機管理対策課、神奈川県政策局政策総務課・総務局市町村財政課・県土整備局砂防海岸課・環境農政局資源循環課・安全防災局災害対策課、湘南地域県政総合センター・藤沢土木事務所なぎさ河川砂防部、藤沢市環境保全課・災害対策課・観光課・資源廃棄物対策課・農業水産課、市議会議員、県議会議員、海水浴場組合、漁業協同組合、小学校、民間企業、各種NPO団体、自治会、サーフショップ、飲食店などである。
湘南地域は一見、海と緑の豊かな自然と多くの伝統文化に恵まれた魅力的で活気ある地域である。しかし、ヒアリングを実施した結果、湘南海岸が抱える様々な課題が見えてきた。河川や海の汚染、海岸のゴミ問題などの環境問題に加え、海岸侵食、都市型漁業の高齢化と担い手不足を抱えた漁業振興の課題、観光産業の振興、慢性的な交通渋滞、治安・騒音問題、マリンスポーツと漁業のルール化の問題、環境教育、津波対策、放射能汚染の風評被害対策、海浜生物の絶滅危機などである。湘南の地域課題がまさに沿岸部に集積しており、その課題が複雑に絡み合っていることが明らかになったのである。また、それぞれの地域課題に対して行政機関とそれに関連する関係団体が縦割りに繋がっている実態も見えてきた。
私は、湘南海岸が抱える課題を多面的に把握し、その解決策をまちづくりの視点で総合的に考えていく必要性を強く感じるようになった。これらの実情をしっかりと把握し解決していくことこそが、ブルーフラッグの取得へ繋がることにもなる。そこで、毎月、湘南海岸を取り巻く様々な課題に焦点を当て、その解決策を探っていくため、「湘南の海を考えるミニフォーラム」を開催していくことにした。
「湘南の海を考えるミニフォーラム」は、これまでのヒアリングで把握した湘南地域が抱える課題毎にテーマを設定し、毎回、そのテーマに関係する有識者や関係団体を講師として招き、パネルディスカッションを通して、その解決策を探っていくことにした。全12回で毎月1回ずつ開催していき、企画・運営は全て「湘南ビジョン研究会」のメンバーで行っていく。
第1回目は2011年11月16日に藤沢産業センターで開催した。テーマは「湘南の海を活かしたまちづくり」。前半はFEE JAPANの代表理事からビーチに与えられる国際環境基準である「ブルーフラッグ」について、海外の事例を中心にご講演いただいた。後半は、主催者として私から、なぜこのような活動をはじめようと思ったのか、今後、具体的にどのような活動をしていきたいかについて自分自身の思いを述べさせていただいた。そして、第2回目以降は、湘南海岸が抱える具体的な課題をテーマにすることとした。
第2回目は2011年12月13日に開催した。テーマは「湘南海岸のごみ問題への挑戦」。湘南海岸のごみ量は年間約6000トン。2億円の税金が投入されているほか、年間延べ14万人ものボランティアの協力を得て清掃しているが、一向にごみは減らない。海岸ごみは、人間を含めた生態系に悪影響を及ぼし、漁業や観光産業などへの経済的被害も大きい。また、海流に乗って諸外国からもごみが流れ着くことから、外交問題としても取り上げられるなど多くの課題を抱えている。しかし、その有効な解決策を見出せていないのが現状である。拾うだけでは海岸ごみ問題は解決できない。どうすればきれいな湘南海岸を取り戻せるのか、その解決策を見出していく必要がある。そこで、ミニフォーラムでは海岸ごみのプロフェッショナルである、かながわ海岸美化財団事務局長、一般社団法人JEAN事務局長、海さくら代表の3人の講師にお越しいただき、パネルディスカッションを通して、湘南海岸のごみ問題の解決策を考えていった。
第3回目は2012年1月17日に開催した。テーマは「どうする!?湘南の津波対策」。東日本大震災では、太平洋側の広い範囲を大津波が襲い甚大な被害が発生した。それを受け、神奈川県では津波浸水予測を見直し、新たな「神奈川県津波浸水予測図」の素案を公表した。その素案によると、過去の大地震から想定される津波の高さは、湘南海岸の一部では最大10メートルを超え、これまでの5~7メートルという想定を大幅に上回った。東日本大震災の津波から私たちは何を教訓とすべきなのか。こうした津波から身を守るためには、どうすればよいのかを早急に考える必要がある。そこで、ミニフォーラムでは国土交通省国土技術政策総合研究所沿岸海洋研究部主任研究官、藤沢市災害対策課長、西浜サーフライフセービングクラブ理事の3人の講師にお越しいただき、パネルディスカッションを通して「研究」「行政」「実践」の視点から湘南海岸の津波対策を考えていった。
第4回目は2012年2月22日に開催予定である。テーマは「湘南の海岸侵食は止められるか?」。湘南海岸では、昭和30年代から海岸侵食が顕在化し始め、局所的には30メートル以上も海岸線が後退した。これはダムの建設や砂利採取によって河川の流出土砂量が激減し、さらに漁港などの人工物の建設で沿岸漂砂が阻止されてしまったためだと言われている。海岸侵食の結果、高波浪による護岸破壊や、海水浴場の閉鎖による観光面での打撃など深刻な被害が発生している。こうしたことから神奈川県では昭和60年代以降、多くの税金を投入し養浜に取り組んできた。しかし、様々な課題があり、養浜はなかなか思うように進んでいないのが現状である。そこで、ミニフォーラムでは、湘南海岸の侵食問題の専門家である神奈川県藤沢土木事務所なぎさ港湾課長、海洋政策研究財団研究、ほのぼのビーチ茅ヶ崎海岸環境部会長の3人の講師にお越しいただき、パネルディスカッションを通して、「行政」「研究」「市民活動」の視点から、湘南海岸の侵食対策を考えていった。
本ミニフォーラムの参加者は、研究者、政治家、行政職員、各種団体職員、市民活動家、サーフショップや飲食店の店員、近隣住民など多様であった。参加人数は、第1回目が70人、第2回目が40人、第3回目が80人であった。
ミニフォーラムを毎月開催していくことは大変な労力であるが、その効果はとても大きいと感じているところである。第1に、私自身がパネルディスカッションのコーディネートをするので、事前に各回のテーマについて深く勉強し、論点を考える過程が、各テーマの本質的な問題を深く知る機会となっていることである。第2に、毎回3人の方に講師をお願いし、また多くの一般参加者に来ていただくことによって、テーマに関係する有識者や市民活動家、市民との交流が促進され、同志のネットワークの形成が進んでいることである。第3に、「湘南ビジョン研究会」のメンバーが全てミニフォーラムの企画や運営を行うことによって、運営ノウハウが蓄積されるとともに、結束力が強くなってきていることである。
ミニフォーラムは2月開催を含めて残り9回を予定している。今後も、湘南海岸の抱える課題に焦点をあて継続して実施していきたい。
有識者へのヒアリングや「湘南の海を考えるミニフォーラム」を開催するに当たり、湘南海岸の抱える様々な課題について勉強しているが、単に机上で考えているだけでは物事の本質は見えてこないことを痛感した。そこで、現地現場主義のもと、自ら現地に飛び込み、現場の課題を自分自身の目で見て、身体で感じ、そして解決に向け行動してみることにした。
まずは、地元の鵠沼海岸や茅ケ崎海岸のビーチクリーンを行った。さらに、かながわ海岸美化財団に依頼し、作業員のトラックに同乗し、逗子海岸から大磯海岸までの海岸パトロール及び海岸ごみの収集をさせていただいた。また、ビーチクリーナーというごみ清掃業者専用の重機に乗り実際にごみ回収を行い、さらに茅ヶ崎市環境事業センターで、ごみの仕分けや最終処分の工程まで見学させていただいた。
また、茅ヶ崎の中海岸を歩き海岸侵食の実態を調査するとともに、「湘南海岸をきれいにする会」にお願いして、船上からの二宮から辻堂までの海岸調査にも同行し、湘南の海岸侵食の深刻な現状を見るという経験もさせていただいた。さらに、藤沢市環境保全課の河川水質調査やかながわ海岸美化財団の真鶴小学校での環境教育にも同行させてもらった。国土交通省国土技術政策総合研究所に行き、津波実験施設などの施設を見学させていただいたり、海上保安庁の巡視艇に乗せていただいたり大変貴重な体験をした。2012年4月には江の島湘南港付近の海底清掃を実施する予定である。今後も、現地に可能な限り入り、問題の本質を探究していきたい。
ブルーフラッグの認証を取得するためには、FEEが定める認証基準をクリアしなくてはならない。認証基準は、「【1】環境教育と情報分野」「【2】水質」「【3】環境マネジメント」「【4】安全性とサービス」の4分野で30項目以上ある。以下例示する。
1つ目の「環境教育と情報分野」では、「1.ブルーフラッグプログラムの情報提示」「2.ビーチ利用者への環境教育活動」「3.遊泳場の水質の公開」「4.地元の生態系及び環境情報の提示」「5.ビーチ近辺の地図の設置」「6.ビーチ及び近隣の行動規範の提示」の基準がある。
2つ目の「水質」分野では、「7.適切な水質調査」「8.水質の基準をクリアすること」「9.産業排水など下水がビーチ付近に影響しないこと」「10.大腸菌などの微生物が基準の範囲内であること」「11.ゴミなどの浮遊物を基準の範囲内に抑えること」の基準がある。
3つ目の「環境マネジメント」分野では、「12.ビーチ管理委員会の設置」「13.ビーチに携わる団体が、既存のあらゆる規制を順守していること」「14.ビーチが清潔であること」「15.藻類や動物の死骸を可能な限り放任すること」「16.ビーチに十分なゴミ捨て場を設置及び管理すること」「17.ビーチ内にゴミ分別施設を設置すること」「18.十分な量のトイレや洗面所を設置すること」「19.18が清潔に保たれていること」「20.18の下水処理が行き届いていること」「21.ビーチに無許可の、キャンプや駐車、不法投棄がないこと」「22.ペットの連れ込みを管理していること」「23.ビーチ付近の施設、設備が適切に維持管理されていること」「24.ビーチ近隣にあるサンゴ礁が管理されていること」の基準がある。
4つ目の「安全性とサービス」の分野では、「25.ビーチエリアでは、持続可能な交通手段が推進されていること」「26.ビーチに十分なライフガードの設備があること」「27.ビーチに緊急救護設備があること」「28.汚染リスクに対する緊急対策案があること」「29.紛争や事故を防ぐために、利用者及び利用方法の管理が行き届いていること」「30.ビーチ利用者を保護するための安全対策があること」「31.ビーチで飲料水が供給されていること」「32.身体障害者向けのアクセスと設備があること」の基準がある。
ブルーフラッグの認証取得の事例はまだ日本ではない。日本で最初にブルーフラッグプログラムを導入する際はFEE JAPANが日本の海岸環境に適した基準づくりを行う。よって、上記の基準がそのまま日本の基準になるわけではない。また、申請には、地域の関係団体が合意した上で、当地域の自治体を窓口とするなど他にも認証条件があるが、今回は、現時点で湘南海岸のビーチがブルーフラッグの認証基準をどれだけクリアしているのか、逗子海岸、片瀬西浜海岸、片瀬東浜海岸、茅ヶ崎サザンビーチのブルーフラッグ認証基準の達成状況を調査した。
結果としては、32項目の基準のうち8割以上は達成できる見込みである。例えば、片瀬東浜海岸において現段階で達成できていない項目は、「1.ブルーフラッグの情報提供」「2.ビーチ利用者への環境教育活動」「4.地元の生態系及び環境情報の提示」「12.ビーチ管理委員会の設置」「22.ペットの連れ込みを管理していること」「24.ビーチ近隣にあるサンゴ礁が管理されていること」「28.汚染リスクに対する緊急対策案があること」である。ただし、「7~11.水質」については詳細な調査をまだ実施していないので判断ができない。
今後も引き続き、有識者へのヒアリング、湘南の海を考えるミニフォーラム、現地実践、ブルーフラッグ認証基準調査を行い、ブルーフラッグの認証取得に向け課題を明らかにするとともに、その解決に向けた取組を行っていきたい。
実践研修で取り組んだ2つ目の活動が、「湘南都市構想2022」の策定である。「湘南都市構想2022」とは、10年後の湘南地域のまちづくりビジョンである。現在、湘南地域の各市町及び神奈川県では、「総合計画」という長期的・体系的な行政計画を策定しているが、これらの計画は国の法制度や規制の枠内で自治体ごとに個別に策定せざるを得なく、また行政の継続性や網羅性が重視されるなど様々な制約があることから、地域住民が求める理想のまちづくり計画になっていないのが現状である。そこで、「湘南ビジョン研究会」では、湘南地域を行政単位ではなく一体の生活圏と捉え、湘南の特性を最大限に活かした理想のまちづくりを目指し、湘南地域の住民が主体になって10年後の理想の湘南地域まちづくりビジョン「湘南都市構想2022」を策定することにした。
まず、「湘南都市構想2022」の策定に当たって、基本方針を作成した。基本方針は、上述した策定の「目的」のほか、「策定期間」「体制」「構想の特長」「策定方法」「スケジュール」等からなる。
「策定期間」は、2012年3月から2012年11月を予定している。「体制」としては、「湘南ビジョン研究会」の「湘南都市構想チーム」に、「教育・スポーツ分科会」「観光・産業分科会」「福祉・医療分科会」「防災・交通分科会」を設置する。
「構想の特長」は次の3つである。特長(1):「行政」都合ではなく「市民」主導の夢のある理想の地域ビジョン。各自治体の総合計画は、国の法制度など様々な制約があり、地域住民のすべての意向を反映できるわけでない。本構想は、湘南地域に住んでいる住民自らが主導して策定することにより、住民が本当に住み続けたいと思える夢のある理想の地域ビジョンとしたい。特長(2):「総花的」ではなく「湘南の特性」を活かした特長ある地域ビジョン。行政計画は様々な制約により総花的で特長がなくなり、地域住民にとって分かりづらく、遠い存在だった。本構想は、湘南地域の持つポテンシャルを最大限に活かした特長ある地域ビジョンとし、地域住民が愛着を持てるようなものとしたい。特長(3):「各自治体単独」ではなく湘南地域の自治体が連携できる「広域」の地域ビジョン。各自治体の総合計画は、湘南地域に共通の資源や共通の課題があるにもかかわらず自治体ごとに策定され、相互に政策連携がまだまだ進んでいないのが現状である。本構想は、行政区域に縛られることなく、各自治体が政策連携できる「広域」の地域ビジョンとしたい。
「策定方法」としては、「湘南ビジョン研究会」代表が「湘南都市構想2022」の基本理念を策定し、その理念に基づき、代表と4つの分科会リーダーが「湘南都市構想2022」全体構成体系を策定することにした。さらに、基本理念及び全体構成体系に基づき、各分科会で当分野の政策を5本程度立案していく予定である。完成した構想は、湘南地域の各市町村及び神奈川県へ提言するとともに、メディアを活用し湘南地域の住民に広く周知することで市政及び県政への反映を目指していく予定である。
「スケジュール」としては、2012年2月~3月に基本理念・全体構成体系を作成し、分科会メンバーを確定する。4月にキックオフミーティング(全体会議)を開催し、4月から10月で分科会ごとに政策立案を行い、11月には全体構想をまとめた上で発表し、市町村及び神奈川県への提言、メディアへの広報を行いたいと考えている。
現在、「湘南ビジョン研究会」の「湘南都市構想チーム」に、「教育・スポーツ分科会」「観光・産業分科会」「福祉・医療分科会」「防災・交通分科会」を設置し、メンバーを集めているところである。「湘南都市構想チーム」のリーダーは「湘南ビジョン研究会」の代表である私が務め、各分科会のメンバーは3~8人程度で、湘南地域在住在勤の住民、研究者、行政職員、小・中・高校生、大学生、研究者等とする予定だ。
「湘南都市構想2022の策定」と「ブルーフラッグの認証取得に向けた活動」の関係は、「目的」と「手段」の関係である。「湘南都市構想2022」が湘南地域の理想のまちづくりビジョンであり、それを実現する手段として、「ブルーフラッグ」を位置づけ、海を活かしたまちづくりの具体的な取組みを行っていきたいと考えている。
実践活動の2つの柱が「ブルーフラッグ認証取得に向けた活動」と「湘南都市構想2022の策定」である。これらの2つの活動を支え、前に進めていくために、メディアを活用した広報活動にも取り組んでいる。
具体的には、「湘南の海を考えるミニフォーラム」の内容を、「鵠沼海岸チャンネル」の協力によりインターネットでライブ発信するとともに、「鵠沼海岸チャンネル」へ出演し、ミニフォーラムの振り返りや翌月以降の宣伝等をさせていただいている。また、「湘南ビジョン研究会」のメンバーでフリーペーパー「読む湘南」を作成し、毎月500部程度発行し、湘南地域の飲食店やサーフショップ等に置かせていただいている。「読む湘南」では、毎月のミニフォーラムの内容紹介や海に関する法律の説明、湘南地域で活躍するキーマンへのインタビュー、飲食店の紹介など、「湘南ビジョン研究会」の活動紹介以外にも気軽に読めるコンテンツを掲載している。今後、12回発行していく予定である。
さらに、「湘南ビジョン研究会」のホームページやFacebookページを立ち上げるとともに、「江の島・藤沢ポータルサイト」の協力により、当ポータルサイトに「湘南ビジョン研究会」の活動記録をまとめた専用のページも作成していただいた。タウンニュース藤沢版等の地域情報誌への掲載も少しずつ進めているところである。
このように、メディアを活用した広報活動に積極的に取り組むことで、「ブルーフラッグ認証取得に向けた活動」と「湘南都市構想2022の策定」を広く地域住民に知ってもらい、将来的には地域活動に発展させていきたいと考えている。まだ始めたばかりであるが、協力してくださる方も少しずつ出てきたところである。今後も引き続き、継続した情報発信と丁寧な説明を心がけていきたい。
前述のとおり、「ブルーフラッグ」の認証取得には多くの満たすべき基準がある。第1の課題は、海岸の現状調査が不足していることである。今後は、「ブルーフラッグ」の認証取得に向けて、海岸の現状調査を詳細に行い、課題を整理し、解決に向けた取組を行いたい。
第2の課題は、関係団体との調整が不足していることである。海岸をめぐる複雑な地域問題を地域から自発的に解決していくため、行政を含め各種団体がお互いに連携するきっかけとして掲げた目標が「ブルーフラッグ」の認証取得である。しかし、複雑多岐に渡る関係団体に未だ入り込めていないというのが現状である。今後は、私自身、また「湘南ビジョン研究会」が積極的にビーチクリーンを始めとした海に関わる活動を積極的に行いつつ、関係団体の方々との信頼関係を築き、協力をお願いしていきたいと考えている。
第3の課題は、地域活動へ発展するプロセスが不明確であるということである。今後、活動が軌道に乗り、「ブルーフラッグ」の認証を取得したとしても、それが我々の一過性の活動に終わってしまえば、地域発の地域主権社会の実現には至らない。したがって、地域の関係団体を取りまとめる「(仮)湘南ブルーフラッグ協会」を設立し、「ブルーフラッグ」の認証取得によって一体となった地域が引き続き地域活動を発展させるプロセスを明確化することで、湘南の海を活かしたまちづくりを継続的に行える土壌を醸成することを検討したい。
第1の課題は、「ブルーフラッグ」の認証取得が具体的、視覚的な目標であるのに対し、「湘南都市構想2022」は理念探求であり、基本理念が分かりにくいことである。ミニフォーラムやイベントを通じ、より多くの地域住民の方と議論を行っていき、ニーズを把握することが重要である。
第2の課題は、各分科会の組織化の難航である。「湘南都市構想2022」は、4つの分科会をつくり、各分科会におけるリーダーが研究テーマから最終的な取りまとめなどを一手に担う。そのため、分科会ごとの進捗状況を的確に把握し、分科会リーダーを中心とした自立した運営を目指していきたい。
第3の課題は、「湘南都市構想2022」は何のために策定するのか、策定することで地域に何が得られるのかという、この構想の活用方法が不明確であるという点である。私は、最終的に「湘南都市構想2022」を提言書としてまとめ、湘南の海を取り巻く各自治体の首長へ、構想につめられた住民の方々の真摯な思いを届けたいと思っている。
今回、実践研修に取り組んで感じたことは、海岸問題には、中央集権体制による弊害が凝縮されているということである。海に関する課題は根深く複雑ではあるが、一方で、私が行政職員であったときには見えていなかった住民の方との会話や議論の中で解決の糸口を見つけ出す機会が多くあることを知り、行政、特に基礎自治体同士の広域的な連携や、自治体と住民との連携が不可欠であり、住民と行政が力を合わせれば解決できることが多くあるという事実を認識した。すなわち、海岸問題に取り組むことは、中央集権の弊害を紐解くことであり、新しい地域主権のかたちをつくっていくことであるということが、これまでの私の実践活動から見えてきたものである。
今後1年間、さらに現場に入って湘南海岸が抱える課題に向き合うことで、現場で起きている中央集権体制の弊害をしっかりと把握し理解していきたい。そして、「湘南都市構想2022」を策定していくなかで、地域主権社会のあるべき姿と、それを実現するための一つのモデル地域の実現を目指していきたいと思う。道のりは遠く険しいが自らの志を忘れることなく、ひたむきに一歩一歩進んでいきたい。
Thesis
Kiyohiro Katayama
第31期
かたやま・きよひろ
一般社団法人 日本ブルーフラッグ協会 代表理事 / 慶應義塾大学SFC研究所上席所員
Mission
地域主権社会の実現-地域のリーダーシップで日本を変える-