松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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2013年3月

塾生レポート

居眠りに打ち勝つコツとは?~根性論を超えた自己経営を目指せ!
岡﨑広樹/卒塾生

気が付くと朝の5時。課題や仕事に取り組んでいる最中、いつの間にか寝てしまった、という失敗は、誰しも経験したことがあるかもしれない。そこで、居眠りさえしなければもっと出来たのに!とお悩みの方々に贈る、松下幸之助塾主(以下塾主)の経営観から考察した、居眠りに打ち勝つコツとは・・・

 

1.課題との格闘の日々

 「眠い!」、と目をこする夜中の1時。目の前には、山積された課題図書。政経塾での1年目は、早朝から始まる毎日の掃除や、各界有識者からの講義を受けたり、塾主研究に取り組み、実習で東北や中国に行ったりと明け暮れる。それらの一環で、大量の課題図書を読むことが求められるのだが、これが結構大変なのだ。一体何が問題なのかと言うと、かくいう私は本を読むのが本当に遅いのだ!
 読書は教養を育むのにもってこいだ。それはわかっている。読書は、人間の幅を拡げ、物事を多角的に考える力を養う。そこで培った幅広い知識は、専門分野で問題を抱えた際、全く異なった視点で考察する力となる。これらの力を養う為に、海外ではリベラルアーツと呼ばれる基礎的教養を徹底的に学ぶことを重視する大学もあるくらいだ。
 今の日本は、様々な問題が複雑に絡み合っており、その解決には多角的な考察を必要とするはずだ。それには、幅広い教養が役に立ち、それを身に付けることの必要性を痛感している。そう。私はちゃんと痛感しているのだ。ああ、それなのに!今夜も舟を漕ぐ私の手からは、いつも通り課題図書が滑り落ちている。恐ろしく強烈に襲い掛かかってくるこの眠気は、私の根性が足りないせいなのか!はたまた私の弱さのせいなのか!嘆きながらも眠りに落ちる私なのである。
 

2.人生は経営である~塾主の経営観

 居眠りしないために、コーヒーを飲んだり、塾生の共有部屋で課題に取り組んだりと、様々な工夫を試みた。しかし、何れの工夫も、この猛烈な眠気を無くすことはできなかったのである。
 そこで、この眠気は、根性以外に原因があるのではと考えてみた。結果、一夜漬けの連続が、日々の眠気を助長する悪循環になっているのではないか。つまり、普段の計画性の欠如が根本の原因ではないか、と考えるに至った
 この時、

“人間が計画を立てて行う活動なり営みは、すべてこれ経営” *1

、という塾主の言葉を思い出した。経営と聞けば、一般的には企業経営を連想するだろう。しかし、企業経営のみならず、個人の生活や学校の部活動、更には国家の営みにも、経営という概念を拡大できると塾主は考える。それは、ある計画に基づいて活動を実施し、その成果を振り返りながら改善点を洗い出し、翌年度に生かす一連の活動のことなのだ。
 この概念からすれば、これまでの日々の暮らしは、漫然と過ごしていただけに過ぎない。個人の活動が経営ならば、計画を立案・実行し、その成果を反省して次に生かす必要があるはずだ。従って、根性論から抜け出す為に、先ずは人生を経営していく、という強い自覚の下に、睡眠時間を確保できる計画を立てる必要があるのではないだろうか。
 

3.目標が最も大切~経営理念の重要性

 更に、塾主は、経営において最も大切なことを経営理念の確立としている。経営理念とは、

“この経営は何のために行なうか、そして、それをいかに行っていくのか”*2

、という企業の存在意義を明文化したものであり、時代に左右されない不変的なものであると、塾主は述べている。
 例えば、塾主は松下電器製作所(現パナソニック)の経営理念に水道哲学の達成を据えた。水道哲学とは、

“産業人の真の使命は、生産につぐ生産により、水道の水のように低廉な物資を無尽蔵に供給し、それによって貧を除き、楽土を建設する” *3

、という考え方である。塾主は、

“自転車に乗って物を配達して、天王寺の下寺町〈したでらまち〉を通ったら、夏でね、汗をふきふき走っとるときに、みすぼらしい風体〈ふうてい〉の男が水道の栓をひねって飲んどるわけですよ。これ、だれも怒れしまへんわな。水道は水道料を取られる。価値あるものを無断で取れば罰せられるわけですな。水道の水かて価値あるものです。それを飲んでも罰せられない。
なんでやろな。水道はあまりに量が多いからや。貴重なものであるが、量が多いために、取っても罰せられない。生産の使命はここやな、と思ったんです。貴重な高いものでも、水のごとく大量につくってやれば、みんなに行き渡る。取って咎〈とが〉めんようになるほどつくればええ” *4

  、とその使命を悟ったのである。塾主は、事業成功の50%は経営理念で決まる、と述べている。まさしく、これこそが経営の成功する分かれ道なのだ。
 従って、自分に置き換えれば、自己の経営理念を確立せずに、自己経営が成功することはないのである。それは、自分の存在意義を明文化して、普段の活動を力強く推進する目標を設定することなのだ。
 入塾後の1年間は、膨大な課題や、様々な実習をこなすことだけに追われていた。根性だけでは、これらに対処していく難しさを実感している。やはり、自己の目的地を明確にした上で、その場所に向けた歩みを力強いものにすることも大切ではないだろうか。

4.素直な心もち~自己の性質を認めよう

 自己を経営することの重要性や経営理念を掲げることの大切さは理解できたが、最大の問題である睡眠に関して、塾主はどう考えていたのだろうか。塾主の若い頃は、三時間半の睡眠時間であったが、戦後には睡眠薬を毎日飲むようになったようである。
 終戦直後、松下電器には一万五千の社員がいたが、仕事が無くなっている中、物価が段々と上昇し、社員からは給料を上げてくれと言われ、全く眠れなくなった結果、睡眠薬を服用するようになったそうだ。
 一般的には、睡眠薬を服用することは望ましくはないだろう。しかし、塾主は、

“非常によく眠れる方もあるでしょうし、私と同じようにあまり眠れない方もあるでしょう。それを取り換えるというわけにはいきませんね。 -中略- そういうことを悔やんでもしかたないということです。まあ、あきらめとでもいいますか、そういうものを私は感じるわけです。
これまでは多少そうしたことを苦に病んだこともあるんですが、結局は、先ほど申しましたように、素直にこれを承認しよう、これは自分がもともとそういう生まれつきなんだ、生まれつき非常に肥満した人もあれば、細い人もあるように、人にはいろいろな体質がある、それをいちいち苦に病んでいてはならない、素直にこれを承認しよう、ということがだんだん分かってまいりました” *5

、と睡眠薬の服用を問題にするのではなく、自分の性質を素直に認めた上での対処を強調しているのである。
 確かに、六時間は寝ないと疲れが取れない人が、毎日平均三時間の睡眠で課題に取り組んでも、効果は殆どあがらないだろう。自己の性質を素直に受け入れた上での対応こそが、根性論を超えた、最も効果的な解決策ではないだろうか。

5.日々の生活に活かす

 以上の点を踏まえて、日々の生活への生かし方を考えてみる。

 第一に、人生は経営するもの、という自覚を持つことだ。人生とは、漫然と過ごすものではなく、計画的に創るものと心に刻むことである。そして、各課題を計画的に取り組めなかった、今までの日々をまず反省したい。

 第二に、自己の経営計画を立案する前に、自己の経営理念を明文化することだ。自己の経営理念とは、人生で成し遂げたい目標である。計画とは、目標があって初めて立てられる。例えば、旅行の計画は、どこで何をしたいのか決まっていなければ、その途中経過を決めることはできないだろう。

 第三に、自分の性質を素直に認めた上で、自己の経営計画に生かしていくことだ。今までの経験から、平均三時間の睡眠では、結局、居眠りすることを受け入れることである。これを踏まえて、課題をこなす計画を立てなければならないだろう。今までのように、根性で対処できると思っていても、そもそも自己の性質に反した行いは、成功するわけがないのだ。

 上述の三つは、1.計画を立てる、2.目標を設定する、3.自己を理解する、という世間で成功するために必要な要素として、よく言われていることかもしれない。しかし、改めて考えると、やはり至らない自分に気づいたのだ。自己経営には、自分に対する冷静な分析力と、反省点を逐次改める姿勢も大切であろう。

6.終わりに

 結局、色々と考えてみたが、それでも思い通りにならないのが人間だ。その弱さも含めて、現時点の自己を素直に認めることから、前進が始まるに違いない。しかし、弱い自己を認めつつ、日々努力していくことが大切である。松下政経塾の研修心得である“五誓”の、“自主自立のこと”には、

“他を頼り人をあてにしていては事は進まない。自らの力で、自らの足で歩いてこそ他の共鳴も得られ、知恵も力も集まって良き成果がもたらされる”*6

、とある。何かを成し遂げるには、率先して一生懸命に取り組むことで、多くの人々を惹きつけなければならない、ということだろう。
 その力は、膨大な課題を一生懸命に取り組むことで培われるに違いない。その時、根性論を超えた、自己経営に基づいた一生懸命さが求められるだろう。これこそが、居眠りに打ち勝つためのコツではないだろうか。そう信じて、今日も机の上の膨大な課題図書と、にらめっこしているのだ。

注*:
1.松下幸之助『松下幸之助発言集40』PHP研究所 1991年 P20
2.松下幸之助『実践経営哲学』PHP研究所 1978年 P11
3.松下幸之助『松下幸之助発言集13』PHP研究所 1991年 P345
4.松下幸之助『松下幸之助発言集12』PHP研究所 1991年 P366-P367
5.松下幸之助『松下幸之助発言集10』PHP研究所 1991年 P32-P33
6.松下政経塾HP http://www.mskj.or.jp/how/chikai.html 2013年7月29日現在

参考資料:
松下幸之助『人間を考える 第一巻』PHP研究所 1975年
松下幸之助『実践経営哲学』PHP研究所 1978年
ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス『ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則』日経BP社 1995年
佐藤悌二郎『松下幸之助成功への軌跡 その経営哲学の源流と形成過程を辿る』PHP研究所 1997年
松下幸之助『松下幸之助の哲学 いかに生き、いかに栄えるか』PHP研究所 2009年
野中郁次郎編著『失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇』ダイヤモンド社 2012年

2013年3月 執筆
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