論考

Thesis

経済政策は誰のために ~起業促進が日本経済再興の最終解~

経済政策の究極の目的は、国民一人ひとりの生活を豊かにすることだ。そのためには、「良い雇用」の創出が欠かせない。企業減税、金融緩和、財政出動はそのような雇用の拡大に繋がっておらず、日本は依然として低成長に喘いでいる。起業が雇用創出に果たす役割を再確認し、起業促進を経済政策の一丁目一番地とするべきだ。

1. 経済政策の目的とは

 昨年末に実施された世論調査1において、安倍政権に来年、優先的に処理してほしい政策課題を複数回答で聞いたところ、「年金など社会保障改革」が54%で最も多く、「景気対策」が38%、「地方の活性化」が32%、「財政再建」が30%で続いた。また「外交・安全保障」は25%、「憲法改正」は12%と、これらの問題に対する政策課題としての関心は比較的低かった。上位4位に入った政策分野は、いずれも経済政策の課題とすることができる。社会保障政策と財政再建は、どちらも経済状況にその行方を大きく左右され、日本経済が再び成長基調に戻れば、いずれの政策課題においても採れる選択肢は増えてくる。調査結果に出てくる国民の政治に対する関心事は、「より豊かで安心できる生活を送りたい」という切実な願いの表われであり、経済政策の目的とはこの願いに応えていくこと、つまり国民一人ひとりの生活を豊かにしていくことなのだ。

 私自身、日本で育ち、そして働いてきた経験の中で、日本の経済的な弱体化に危機感を強く持った。そして、これらの問題に取り組みたいと思ったことで、松下政経塾に入塾し、研修・研究の日々を送っている。私のように家計が苦しい家庭で育っても、教育や安価な医療を受けられて、豊富な雇用の機会も保証されているという日本社会の素晴らしさを身をもって経験してきたからこそ、それを守りたいと思っている。これが私の志であり生涯にわたる活動のテーマであるが、これは、国民一人ひとりの生活を豊かにするという目的に適うという前提の下で、いかに有効な経済政策を実行するか、と言い換えることもできる。

 国民に広く行きわたる形での経済成長の実現というのは、先進各国が共通して取り組んでいる課題でもある。2008年のリーマン・ブラザース破たんを引き金とする世界的な不況の後、先進各国の経済の立て直しは遅れており、最も立ち直りが早かったアメリカでは、経済成長の一方で格差が広がり、全家計所得の中央値が逆に下がるという事態が発生している2。日本や欧州の状況はさらに厳しく、日本では「アベノミクス」として安倍政権が経済政策に最も力を注いでいるが、国民に経済が上向いているという実感は広がっていない。「少しでも豊かな未来」というのは、世界中の人々が共通して持つ願いであり、他国との紛争や重大な災害などの危機が発生しない限りは、経済政策が政治の課題として最も関心を集めるというのも世界共通の傾向だと思うが、日本を含む世界各国はその実現に向けて大きな壁に直面している。

2. 起業促進こそが雇用拡大を生み出す

 私は、日本の経済政策においても最も出遅れており、そして最も可能性がある分野として「起業促進」政策を研究している。本稿の結論を先に述べれば、「起業促進」こそが日本経済を再興する上で最も注力するべき政策分野である、となる。なぜ起業促進がそこまで重要なのか。その最大の理由は「起業は雇用を生み出す」からである。起業のもたらす効果は様々である。例えば、起業することで経済的な独立を手に入れる人が増えることも、起業の持つ効果として考えられるが、前述の国民全体の豊かさを実現するという経済政策の目的に沿えば、起業がもたらす雇用創出効果が極めて重要になってくる。『中小企業白書2011』によれば、2006年から2009年までの期間の開業事業所は全事業所の8.5%に過ぎない一方で、この新規事業所によって生み出された雇用は、既存事業所分も合わせた全雇用創出の37.6%に達している3という。

 起業大国として知られるアメリカでも、同様の指摘がなされている。メリーランド大学カレッジパーク校の研究者が中心となって1976年から2005年の間のデータを使用して行われた研究4によれば、雇用の増加に寄与しているのは、大企業でも中小企業でもなく、規模に関わらず「若い企業」であることが明らかになっている。ほぼ全ての雇用の純増分と、総雇用創出の20%がその年に設立された企業によってもたらされているという。もちろん、若い企業は廃業する確率も高く雇用も失われるケースが多いが、生き残りに成功した若い企業は、他の既存企業よりも速いスピードで雇用を拡大することも分かっている。なお、既存企業が経済上重要でないというわけではもちろんなく、事業所の大半を占める中小零細企業も、そして数は少ないが雇用の大部分を担う大企業も言うまでもなく重要だ。雇用創出の面から捉えると、いずれの規模でも既存企業は、毎年その規模に応じた同程度の雇用の創出と雇用の喪失を生じさせており、雇用の維持という役割を担っているといえる。

3. より望まれる「さらなる成長」を目指す起業

 前述の研究成果では雇用創出ほどではないが、若い企業の市場からの退出、雇用の喪失も大規模に生じていることが指摘されていた。起業促進によって、より良い雇用を多く創出したいのなら、創業間もない時期の不安定な経営状況を乗り越え、さらなる成長を目指す若い企業の存在に注目し、応援をしていくべきだ。飽くなき成長を目指し、イノベーションをもたらす若い企業こそが、条件の良い雇用の創出に寄与する。まさに「ベンチャー企業」と呼ばれるこのような企業を増やすことも、起業全体を振興することとは別に考えていくことが必要となってくる。

 以下では、起業振興につながる施策について考察していくが、まずはベンチャー企業のさらなる成長を目指すための施策を論じたあと、起業大国と呼ばれる米国の例も活用し、起業活動全体を高めるための施策を論じたい。ベンチャー企業のさらなる成長を目指す施策は、既に政府が行っている取り組みを土台にその改善案として論じる形式をとるが、特に日本が出遅れている起業家精神の育成5に関しては、社会通念に変化をもたらす新たな政策の導入が求められると考えている。

 なお、本稿では敢えて業界による違いや特徴をほぼ無視して、あらゆる業界・業種の起業に必要となる施策を論じている。これは本稿の項数が限られていることだけが理由ではなく、政府の経済政策の根本の部分においては、業種などを絞って取り組むことは、私は相応しくないと考えていることが最大の理由だ(政府が関与する「個別具体的」な産学官連携への研究資金の支援などの取り組みは必要)。それは市場原理に反するというよりも、政治や行政に「次の日本を担う産業」を予見することが不可能であると考えているからである。先進各国の後ろ姿を見て経済政策を立案できた高度成長期はとっくに終わり、日本もトップランナーの一人として、他の先進国同様、次の成長産業を自ら模索するステージに立っている。そもそも民間でベンチャー投資を生業とするベンチャー・キャピタル(VC)やビジネス・インキュベーター(BI)を運営する「プロ」にでさえ、合理的にそのような「次の産業」を予見をすることは不可能ではないだろうか(結果として当たっていたことは多々あったとしても)。また、社会に新たな価値を生み出し、人々の生活を向上させ雇用を創出する「イノベーション」は、ハイテク産業などの特定分野に限らず、あらゆる業界で生じる。このような理由から、あらゆる人間(起業家予備軍や起業家)が持つ知恵・知見を活かす形で、業界を絞らずに起業全体を振興する施策について考えていきたい。

4. 現状の支援策で改善が求められるもの

 まず、既に行われている取り組みの改善を通じて、ベンチャー企業、創業間もない若い企業の成長促進につながる施策について論じていきたい。ここでは、適正な競争環境を構築すること、また企業が成長やイノベーションの創出につながる活動に集中できる経営環境を構築することが重要になる。

i) 適正な競争環境を

 日本は、他のOECD諸国に比べて、既存の企業に対する政府支援が大きすぎ、それが企業間の公正な競争、ひいては若い企業の新規参入を妨げているという懸念がある。『OECD対日審査報告書2015年版』によれば「政府は、中小企業融資の約10%、政府保証も入れると20%を提供し、その割合は他のOECD諸国よりもずっと高い」6。過剰な政府支援は、企業の自助努力をそぎ、中小企業による成長やイノベーションの創出を妨げている可能性がある。ベンチャー企業の雇用創出やイノベーション能力を活用するためにも、既存企業への政府支援を縮小し、公正な競争環境を構築すると共に、財源を若い企業の支援に回すことが求められる。

ii) 税率の控除や補助金よりも、制度の簡素化を

 日本でも、エンジェル税制の整備など、起業間もない若い企業に対する税制支援は存在するが、支援の方法に発想の転換が必要である。端的にいえば、税負担そのものよりも、納税などにかかる業務負担の解消を主眼とすることが重要である。私は昨年数か月に渡ってベンチャー企業の管理部でインターンを行い、管理業務全般を補助させて頂いたが、各種の法令順守や財務会計、税務の業務負担が重く、特に中小企業においてはその負担感が大きくなることを感じた。ただでさえ人員数が少ない若い企業でこれらの管理系の業務への負担が大きいことで、事業に充てられる人員、マンパワーがそがれ、成長活動やイノベーション創出の阻害要因になることが懸念される。企業として最低限保持すべき管理機能は存在するにしても、若い企業に限っては、管理業務に関する負担を軽減する制度設計が必要だ。これは、税率を下げたりすることよりもイノベーションの実現において重要だと考えている。例えば、税制を簡素化する(あるいは若年企業はあらゆる税を免除し当該業務にかかる負担を解消)といった取り組みで、若い企業にイノベーション活動により集中してもらえる環境が形成できる。

iii) 規制見直しの恒常的組織の設立を

 規制を絶えず見直し、民間の活力を生かし、新しい企業の参入とイノベーション創出を促すことも欠かせない。もちろん、国民の安全や便益を確保するために必要な「良い規制」は設ける必要があるが、規制によってそのサービスを行う事業者が不足し、十分なサービスを国民が受けられないのならば、そのような規制は「良い規制」とは言えない。たとえば、少子化対策及び出産後の女性の職場復帰を促進する上で大きな障害となっている問題に、待機児童の問題がある。保育事業所の増加を実現する上で、また保育料の低減を図るためにも、保育事業への株式会社及びNPO法人の参入障壁を撤廃することが考えられる。鈴木(2014)によれば、保育事業に関しては、参入する株式会社が株式市場で資金調達することや配当することが禁じられている、あるいは株式会社やNPO法人が事業の質などを担保していても、保育団体からの反対で自治体が認可を出さない、といった参入障壁が存在するという。このような再検討するべき規制はあらゆる分野に存在しており、また技術が進歩し社会が変化するにしたがって、新たに設けたり変化させたりするべき規制も出てくるだろう。その際に、できるだけ民間活力を活用し、新しい企業の参入を可能とする規制の在り方を絶えず検討する専門機関を設置することで、新しい産業・イノベーションの創出につながる市場環境が構築できる。

5. 米国が教えてくれる意外な事実

 次に、そもそも起業の数自体を増やすに上で必要なことを考えていきたい。起業を増やすためには、起業家予備軍と呼ばれる起業の意思がある人、起業を検討する層を増やす必要があるが、起業家予備軍の形成に重要な役割を果たす「起業家精神」が日本では低いと言われて久しい。様々な調査で日本の起業家精神は低い5、起業というキャリアが不人気7、という結果が出ており、日本で起業が振るわない主要な原因の一つであると考えられる。

 一方で、米国は先進国の中では極めて良好な起業活動率を誇っているが、その米国の最新の調査結果からは、起業を増やす施策を考える上で有用な、そして意外な事実を読み取れる。その一つが、起業段階でベンチャー・キャピタル(VC)やビジネス・インキュベーター(BI)を利用する起業家が少ないというデータだ。高い成長率を誇るベンチャー企業479社を対象に行った調査では、VCを利用している企業は7%に過ぎなかったという8。また、BIを利用した企業とそうでない企業の間に有意なパフォーマンスの差異が見られないことを指摘する声もある9。もちろん、VCやBIを利用して大きな便益を受けた企業は存在するし、様々なタイプのものが存在する中で、一括りにその役割を語ることはできないだろう。(私は素晴らしいインキュベータが存在することを知っているし、そのような方々の活動は必ず起業促進にプラスに働いていると確信している)。私がこのような研究成果から読みとったことは、経営支援の存在や金融支援の存在が、起業を増やす上で助けになり得ても必須事項ではなく、必須なのは人々の起業への機運を高めるという「起業家精神」の育成なのだろう、ということだ。以下で、この最も重要で、そして最も難しい起業家精神の育成につながる施策について考えたい。

6. 起業家精神の育成につながる取り組み

 起業家精神の育成が難しい理由は、まさにそれが「精神」の問題であり、様々な社会的な背景に基づいて形成されているからである。日本人は大企業、公務員志向が強く、起業することのリスクを強く感じている、というのはステレオタイプな日本人のキャリア観だが、前述の日本の起業家精神に関する調査結果を見れば、当たっていると言わざるを得ないだろう。このようなキャリア観に変化を及ぼし、起業家精神の高まりを目指すのなら、それを生み出している背景を理解し、そこに働きかける必要がある。私は、このキャリア観を生み出しているのは、まぎれもなく日本の雇用慣行であり、その雇用慣行に基づいて形成された日本の社会通念、教育制度であると考えている。このような理解に基づき、以下で起業家精神を高めるために必要な施策について考えていきたい。

iv) 雇用慣行の改革を

 日本人が大企業志向なのは、それが日本社会において比較的に合理的な選択であったからに他ならない。日本の雇用慣行は「メンバーシップ型」と呼ばれる。メンバーシップ型雇用慣行の下では、社員は職務を限定せずに採用され、職場でのOJTなどを通じて業務を学んでいき、配転で経験を積んでいく。企業が社員の雇用を守る代わりに、社員には企業に対して強力な人事権を認め、配置転換や転勤に従うことが求められる。このような企業と社員の関係、社員のキャリアパスを前提としているため、企業にとっては会社に対する忠誠心を植え付け、その企業の特性に応じた技能を身に着けさせる上で都合が良いように、採用形態は新卒一括採用が中心になり、中途採用は重視されない。

 このような雇用慣行の下では、新卒採用時にその企業に入社し「メンバーシップ」を得ること、そして勤続年数を積み重ねメンバーシップを維持していくことが重要であった。メンバーシップを一度得て、自ら手放さない限り、給料もポストもほぼ横並びで上がって行くので、業績が順調で安定している大企業のメンバーシップは極めて貴重であり、逆に、メンバーシップを放棄することは極めてリスクが高くなる。このような雇用慣行下で、しかも大企業の業績が良い時代が長く続いた日本で、大企業志向の形成は合理的な選択の結果であったといえる。

 このような大企業志向を生み出すメンバーシップ型雇用慣行は、起業家精神を高める上では、全く逆効果になる社会制度だ。メンバーシップを手に入れられなかったり、失ったりすることに対する機会損失が極めて高いのであれば、会社に入らずに、あるいは会社を辞めて起業しようと考える人が少なくなることは想像に難くない。このメンバーシップ型雇用を改めることが、起業家精神の高まりに大きく貢献することが期待できる中で、その他の社会的要因からも、この雇用慣行を変えていこうという流れが出てきている。第一に、大企業の業績ももはや右肩上がりではなく、社員全員に一律の昇給やポストが(建前上も)約束される時代ではくなったことで、メンバーシップ型雇用慣行の前提が崩れていることがあげられる。第二には、無限定の配置転換や職務が限定されないことで長時間労働に陥りやすいこの雇用慣行は、21世紀の女性の社会進出や夫婦共働きを前提とする社会情勢にそぐわなことがあげられる。また、メンバーシップ型雇用慣行は、「メンバー」である正社員と、そうでない非正規社員の間の格差という問題も生み出していることも見逃せない。日本では間違いなくこのメンバーシップ型雇用に対する改革の機運が高まっており、これを確実に実現をすることを通じて、結果的に起業家精神が育成されやすい社会的背景が形成されていくことが期待できる。

v) 教育改革の必要性

 日本の教育制度も、日本のメンバーシップ型雇用慣行に沿う形で形成されてきた。企業は自ら社員教育を行うので、スキルに基づいて学生を採用することはせずに、「人間性」を重視することになる。そのため、日本の大学などではキャリア教育や実学は重視されてこなかった。これらの傾向も、メンバーシップ型雇用慣行が変化する中で変えていくべき点であり、必然的に変わっていくとも考えられる。その中で、起業家精神を養う上で必要な、教育上の取り組みがいつか考えられる。

 まず、初等・中等教育では、「考える力」を養うことを目標とする、総合学習などへの取り組みをさらに強化することが、起業家精神の醸成につながる。なぜなら、あらゆる起業活動は、身の回りにある問題を把握し、その解決に向けて取り組む活動であると定義できるからだ。総合学習の時間などを活用して、学校や地域にある課題を把握し、それをどう解決するかを考えるプロジェクト学習は、最高の起業家教育であると言える。また大学のような高等教育では、そこで教えられる専門的な技能を如何に起業に結び付けられるかを考えられる、「起業家過程」のようなものを、学部横断で設けることが考えられる。こういった取り組みは、起業をより身近なものとして捉える機会を与えることでも、起業家精神を育成することにつながる。

vi) 起業家移民を歓迎しよう

 最後に、日本で起業家を増やし、起業を振興する上で、日本での起業を目指す外国人を受け入れる、という施策が考えられる。米国では、移民のほうが、米国で生まれた市民よりも起業活動が2倍活発であるといわれており10、移民のもたらす経済効果の1つとして認識されている。大規模に移民を受け入れることに対する日本国内の議論は進んでいない状況だが、起業家予備軍の受け入れという限定的な移民政策であれは十分現実的だと考えている。世界中から様々なアイデア持った人々を集められれば、日本人の起業家精神にも大きな刺激を与えるだろう。

7. 「ベンチャー立国日本」の大号令を

 これまで、様々な改革メニューを通じて、日本の起業促進を実現する方法について論じてきた。これらの施策は、なにも日本経済や社会を革命的に変化させようとするものではない。いずれも現状からの少しの変化、あるいは現状既に起こっている変化の中で実現を目指していけるものだ。今は起業大国と認識されている米国でさえ、1960年代あたりまでは極めて大企業志向が強く、大企業の雇用形態も社員を家族のように扱うものであり、起業が盛んになってきたのは、不景気を経てそのような雇用慣行が崩れた結果でもある。また米国で起業が盛んだと言っても、現在でも圧倒的大多数は大企業への就職を志向するし、そのために学歴を重視する姿勢も、日本と同様だ。米国のそういった姿を見ると、文化的背景を少し変化させて、起業家精神の育成と起業振興を日本で実現することは、何ら不可能なものでないと確信できる。今日本を支えている大企業も起業家によって設立されたベンチャー企業として出発している。このように、日本にも世界に誇れるようなベンチャー企業の歴史があることも、起業振興が必ず実現できることを確信させてくれる。

 引き続き起業振興策について研究を重ね、できるだけ近い将来にその実現に向けて政治に働きかけたいと考えている。これまで述べてきたような施策の効果を少しでも高めるためにも、例えば「起業促進法」のように法案を通過させるなどして、「ベンチャー立国日本」を大々的に打ち出すことが有効だと考えている。日本で起業振興を阻害している社会通念を変化させるためにも、起業の素晴らしさと政府の起業支援の姿勢を鮮明にすることで、起業に対するイメージの変化、起業家精神の育成につなげることが重要だ。

 起業振興を通じたイノベーションと雇用創出で、国民一人ひとりに豊かさが行きわたる日本を目指し、引き続き活動を進めていきたい。

【注】

注1 日本経済新聞社とテレビ東京による調査。リンクは以下。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H1Y_X21C15A2PE8000/ 

注2  アメリカのGDPはオバマ政権下で計10%以上伸びているのに対して、この期間の全家計所得の中央値は2%のマイナスになっている。セントルイス連邦準備銀行のデータベースFRED (Federal Reserve Economic Data)にて米国の家計所得のデータを取得可能。

注3  中小企業庁『中小企業白書2011』、193頁 

注4  John Haltiwanger, Ron S. Jarmin, and Javier Miranda. 2013. “WHO CREATES JOBS? SMALL VERSUS LARGE VERSUS YOUNG”. MIT Press Journals – The Review of Economics and Statistics. VOL. XCV: 347-361.

注5 国家の国際競争力の調査として有名な、国際経営開発研究所(IMD; International Institute for Management Development)が発表している「世界競争力年鑑」(WCY; World Competitiveness Yearbook)の2013年版において、日本は60か国中24位にランキングされているが、起業家精神の項目では56位という非常に低い評価となっている。

注6 OECD (2015)『OECD対日審査報告書2015年版 概観』、23頁

注7 例えば、GEM(2015)『Global Entrepreneurship Monitor 2014 Global Report』によれば、日本の労働人口のうち、起業を良いキャリアの選択であると答えた人は約31%に過ぎず、全調査対象国の中で最低レベルである。

注8  Alex Krause. 2015. “Expelling 4 Myths of High-Growth Companies”. Kauffman Foundation. http://www.kauffman.org/blogs/growthology/2015/08/expelling-4-myths-of-high-growth-companies

注9 Emily Fetsch. 2015. “Are Incubators Beneficial to Emerging Businesses?”. Kauffman Foundation. http://www.kauffman.org/blogs/growthology/2015/03/are-incubators-beneficial-to-emerging-businesses

注10 Jason Wiens, Chris Jackson. 2015. “The Importance of Young Firms for Economic Growth”. Kauffman Foundation.

http://www.kauffman.org/what-we-do/resources/entrepreneurship-policy-digest/the-importance-of-young-firms-for-economic-growth

【参考文献】

鈴木亘(2014)『社会保障亡国論』 講談社

富山和彦(2014)『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』 PHP研究所

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斎藤勇士アレックスの論考

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Alex Yushi Saito

斎藤勇士アレックス

第34期

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