松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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国家観
2007年12月

塾生レポート

海外の魅力ある水辺づくり ~海洋立国・日本のための遊び心のすすめ~
黄川田仁志/卒塾生

今、新しい海洋国家を目指して日本は船出をしようとしている時である。その進む方向として、経済も大切であるが、環境を守ることや遊ぶことも考えていきたい。経済のみに重きを置いて、日本を運営していくことを続けていては、今後の日本人は幸せになれない。海外のゆとりある水辺や遊び心のある公園には、学ぶべきヒントが隠されている。

 

1.はじめに

 松下政経塾のすぐ裏手には辻堂海岸が広がっている。早朝研修で、朝6時からの掃除が終わると塾生は、この辻堂海岸沿いのランニングコースを走り朝食をとるのが朝の日課だ。2年生になると外の研修へ出てしまうので、海岸を走ることが少なくなってしまったが、私は、砂浜を裸足で走ったり、水辺をバシャバシャ立てながら行ったりすることが好きである。また私はスクーバダイビングや船に乗ることが好きなので、比較的海と戯れてきた。しかし、多くの人々は大人になるにつれて海から遠ざかってしまっているのではないだろうか。それが日本の海洋政策の関心のなさにつながっていると考える。

 国民の海への関心のなさは、政治や行政に反映して、日本の海洋政策は他の先進国や東アジア諸国(中国や韓国)に比べて、大変な遅れをとってきた。そのことに危機感をもった人々の努力で、ようやく今年海洋基本法ができ、現在(2007年12月)、内閣官房の総合海洋政策本部で海洋基本計画をつくっているところである。この海洋基本計画を良いものにつくりあげるために、色々な動きがなされている。その一つが海洋基本法フォローアップ研究会という、超党派でつくる海洋基本計画に提言をおこなうための研究会である。私は研修のために、この研究会の事務局として参加させてもらっている。研究会では、海洋資源、海洋環境、海上交通、情報整備、海洋教育など、様々な提案や要望が出きており、全体として良い方向に向かっているように見える。

 このような動きは大変喜ばしいことで、必要なことである。しかし、より人々が海に関心をもち、世論が政治や行政を後押しさせるようにするには、国民が「海で遊ぶ」ことが必要であると考える。特に大人や老人の遊びが必要である。海は子供や若者のものだけではない。これから高齢化社会に向けて、海は遊びの場と癒しの空間を提供するだろう。そこで、本稿ではその海洋立国の形を考えるために、海外の海辺の利用について、実際に私が行って感じたことを紹介する。

2.海外の魅力ある水辺

 「海で遊ぶ」ためには、いろいろなツールが考えられる。たとえば、スーバダイビング、サーフィン、ヨット、クルージング、フィッシングなどマリンスポーツがある。しかし、これらは免許や経験が必要でなかなか人々が気軽に海を楽しむというわけにはいかない。もちろん、これらのマリンスポーツ人口が上がっていくことが良いのであるが。

 そこで私は、人々がより海に親しんでもらうには、魅力ある水辺の創造が必要であると考えている。しかも、今の経済中心の開発ではなく、商業ばかりでない、若者も老人も一緒になって楽しめる水辺が欲しい。残念ながら、日本にはそのような水辺が思い浮かばない。誰か知っていれば教えてほしい。確かに、みなとみらい21やお台場などいい海辺がつくられている。しかし、それらは開発、経済、商売といった色が濃い。

 海外には、より庶民感覚にあふれる自然なかたちでつくられた水辺や、人工的であるが面白い仕掛けがある親水公園があった。これから紹介する水辺の例は、特に先進事例と呼ばれるものではない。しかし、私が実際に行ってみて、楽しいと感じた水辺や日本にもあると良いと思った親水空間である。

2.1.生活の中にある水辺の町~アレキサンドリア

 アレキサンドリアはアメリカ・ヴァージニア州にあるポトマック川沿いの小さな町である。首都ワシントンDCから車で30分位のところにある。ポトマック川沿いに歩道や自転車道が通っていて(写真1)、人々が気軽に散歩、ランニング、サイクリングなどを楽しんでいる。

写真1.ポトマック川と遊歩道

 水辺まで小さな個人商店が軒を連ねている。ウインドショッピングをしたり、チェサピーク湾でとれるカキなど食べたり、商店街はにぎわっている。店の外の歩道でもイスやテーブルを設置することができ、オープンカフェを楽しむことができる(写真2)。水辺にもレストランがあってヨットを見ながらお酒が飲める。

写真2.アレキサンドリアのオープンカフェ

 日本では、海辺にはにぎわいがあるところもあるが、みなとみらい21やお台場など、どこか人工的である。大型ショッピングセンターを誘致してそこに多くの人が集まっている。私はこれらの場所も好きではあるが、アレキサンドリアのような個人商店が自然発生的に軒を連ね、生活感漂う落ち着いた町が日本にもあれば良いと思うのである。日本は公道にテーブルやイスを置けないが、ある場所に限って、このような外で食事やお茶ができるゆとりの空間を演出したいものである。

 横浜の元町が港に近く、個人商店が軒を連ねているが、惜しいことに港に行く途中、道路と川(汚い!)に遮られていて、障害なく水辺にたどり着くことができない。商店街から港まで一本つながるとより良い町になると思う。また、公道に店が張り出せるように規制緩和してみても良いのではなかろうか。

2.2.ボートでレストランに食事~アナポリス

 アナポリスは首都ワシントンDCから西へ1時間ほど行ったところにあるメリーランド州の州都だ。ここには海軍学校がある。

 ここもアレキサンドリアと同様に個人商店が軒を連ねて、海辺まで届いている。しかし、ここでは道にテーブルやイスを置いているお店は見当たらない。道が狭いからか、なんらかの規制があるのであろうか。

 この町の面白い点は、船から直接レストランに着けられるところであろう。夕食時になると、個人所有のボートがどこからかやってきて、店の前の岸壁につける。そこから人が降りてきて、そのままレストランに直行し、食事を楽しむ。そしてまた乗ってきたボートを運転して帰っていくのである。水上タクシーも頻繁に出ており、人々はそれも利用してアナポリスの町を楽しんでいくのである。

写真3.アナポリスハーバーの風景

 このような風景も日本で見たことがない。日本ではボート所有者が少ないからであろう。また、ボートがあってもこのような施設や場所を見たことがない。個人のライフスタイルと町の利用スタイルが会わないとこのような場所が生まれない。余裕のある人々の暮らしと遊び感覚の街づくりの織り成す風景である。日本はバブルで経済的な豊かさを享受したときもこのような海辺をつくれなかった。

2.3.海辺のIT化~ケアンズ

 ケアンズはオーストラリアの北東部にあり、世界最大の珊瑚礁・グレートバリアリーフへの玄関口である。ケアンズはグレートバリアリーフへのダイビングやクルージングのためのみでなく、その町の浜辺も魅力的で多くの人々が楽しんでいる。残念ながら、ここの海はきれいなのだが、直接泳ぐことはできない。泳いでも良いのであるが、クロコダイルがいるので命の保証はない。残念である。

 ケアンズの海辺の魅力は、景色が良いことが一番であるが、その公園内にある施設が、ケアンズを楽しむために一役かっている。公園にはプールがあって、誰でも無料で入ることができる。監視員もしっかりいるので、安全対策も万全である。また、バーベキュー施設もあり、スイッチを押せばガスが出てくる(写真4)。家族や友人同士のグループが、肉や野菜を焼いてバーベキューを楽しんでいる光景を目にした。公園設備やスケートボード場などもあり、小さな子供や若い人が遊ぶ施設も設置している。

写真4.ケアンズのバーベキュー施設

 ケアンズの場合はクロコダイルが原因であったが、都心の海は水質と護岸形状などの理由から泳ぐことができないので、プールと一体となった浜辺を演出してみるのもよいだろう。また家族などが集える憩いの場として、公園施設やバーベキュー施設などをつくり、特別でない気軽に足を運べる空間にすることも、市民と海との距離を縮めることになるであろう。また緑や木々も多く生えており、朝は小鳥がさえずり、人々の耳を楽しませてくれる。公園周辺にはレストランや娯楽施設が並びにぎわいを見せている。

 ケアンズの海岸はITもしっかり導入している。写真5にあるのはケアンズの情報ブースである。情報ブースの中にはタッチパネル操作ができる情報端末が設置されている(写真6)。情報端末からはケアンズやクイーンズランド州の旅行、レストラン、宿泊、買い物、交通エンターテイメントなどの情報を得ることができる。またブースのパネルには周辺地図や生息する動植物の紹介などが表示してある。

写真5.ケアンズの情報端末ブース


写真6.情報端末の画面


 日本でもこのような情報端末施設を愛媛県の松山市内で見たことがあるが、港湾開発分野で進んでいると言われている横浜みなとみらい21や山下公園に、このような施設を目にしたことがない。他の海岸でも見たことがない。横浜ならば、周辺施設、中華街レストラン、元町ショッピング情報など紹介すると面白いのではないだろうか。英語での情報も整備し、外国人観光客にも使ってもらうとよいだろう。

2.4.じいさま、ばあさまも海水浴~大連

 日本人になじみの深い旧満州国の大連の海岸にも、日本にはない興味深い風景を見ることができた。写真7にある海水浴客のにぎわいは、なんと朝6時に撮影した風景である。もちろん観光客も混ざっているが、こんなに早朝から大連の人たちは海水浴を楽しんでいる。しかも若者よりも中高年が子供のようにはしゃいで泳いでいる。案内してくれた中国人に話を聞くと、大連では海水浴は体に良いと信じられていて、特に朝入ると仕事前に頭がすっきりしてよいというのである。大連には海水浴場が何箇所かあり、車で30分ぐらいの距離であり、この人たちは泳いだ後、仕事にいくそうである。海水浴が習慣化しているのである。

写真7.大連の海水浴場とそのにぎわい

 湘南海岸付近に住むサーファーに少し似ているが、友達と連れ立って海水浴をしている姿は、とても楽しそうであった。一般の人に海が本当に身近にある。日本の海水浴場はどのようになっているであろうか。そこにはまず、老人はみられない。中高年もいない。海洋教育(定義があいまいであるが)を初等中等教育でしっかりと行うようにとの要望があるが、大人がまずは海で遊ぶべきである。親や家族が楽しくなれば、社会がそのような雰囲気をつくれば、子供は自然と海に目がいくであろう。

 大連の海岸は非常によく管理されており、ゴミが全然落ちていなかった。これは、海域使用法という法律で管理者が決まっており、ゴミ清掃が頻繁に行われている(写真8)。中国の海域の所有者は国家である。ただし、所有者である国は、海域使用申請者に使用権を与えるかわりに管理義務を負わせるのである。海岸整備にあたって、中国の政策は徹底している。これは議論が必要であるが、観光利用地域に定められた海岸にあった工場は移転を迫られるケースもある。所有者はあくまでも国であるので、工場の使用期限の延長を認めずに、工場を強制的に移転させることもできる。大連市で工場跡地を海浜公園などの観光のために整備するケースも見ることができた。

写真8.ごみ拾いをする人(大連の海岸)

 日本では海域の所有者、使用者、管理者があいまいである。その結果、だれも責任をとらず、海岸管理がしっかりおこなわれていない(港湾と漁港は別として)。海水浴場は海岸清掃等の管理がよくされておらず、ごみも多くみられる。日本にも早急に中国のような海域の管理に関する制度を作るべきである。そして、市民が快適に利用できる海辺の創造をおこなってほしいものである。また、海辺を経済の視点のみで使うのではなく、遊びの場として整備することを望む。日本は社会主義国ではないので、強制的に工場や商業ビルを移転させることはできないが、自発的に使わなくなった場所や遊休地などは市民生活の場としてもより有効に使っていってほしいものである。

2.5.遊び心のある港公園~煙台

 煙台は、山東半島の東北部にある港湾都市である。日本人になじみのある青島の北の沿岸に位置する。煙台市も非常に観光に力を入れており、北京五輪に来た客を呼び込もうとしている。よって、港湾内の公園も非常によく整備されている。人海戦術の中国らしく24時間体制で清掃員が働いている。よって、ゴミがなく非常に清潔感がある公園であった。以前はゴミがあって汚く、湾内の水質も悪かったようであるが、近年の環境意識の高まりで、行政管理と市民のマナーの相乗効果で海の環境が大きく改善された。

 この港湾公園の特徴は、ユニークな海洋生物を模したオブジェやイスが点在しているところだ。陸上にいても、なんとなく海との関わりが感じられる。写真9にあるのは亀のオブジェだが、ほかにヒトデ、アザラシ、貝殻、カニ、タツノオトシゴなどのオブジェもあった。また、イスのかたちも同様にクジラ、貝殻、ヒトデなどあり面白く、写真10にあるようにくじらのイスに子供が体をあわせて寝ていたりしていた。

 また公園の中央には世界地図、山東地図、煙台地図があって、海洋都市煙台の位置を理解することができる。このように、遊びながら海を理解するいろいろな工夫がされている。

写真9.かわいい亀のオブジェ(煙台)

写真10.くじらのイスで遊ぶ子供(煙台)

 夜になると按摩さんたちが20人ぐらいずらっと公園に並ぶ(写真11)。1時間300円の安さで全身をマッサージしてくれる。中国にはどこでも野外マッサージがあるのではないので、これも煙台の特長であろう(少なくとも大連では見なかった)。このようなサービスがあるのも面白い。

写真11.港の公園で客待ちする按摩さんたち

 日本ももっと海浜公園にあるオブジェを海に関連づけるなど工夫したり、画一的なサービスではなく、その土地にあったサービスを提供するように工夫できたら、海辺のにぎわいももっと多様で面白いものになり、人をもっと海に引きつけるであろう。詳しく調べる必要があるが、日本の公園ではこのような行為をすることは禁じられていると考えられる。もっと行政も遊び心をもって、海辺をより魅力ある空間にするために、いろいろな取組みにチャレンジしてほしいものである。

3.まとめ

 日本は近代化を協力に進めるために、人々が気軽に楽しめる水辺や目を癒してくれる美しい海岸線の多くを失った。資源のない工業国として生きるために、海外から輸入される原料を受け取り、すぐに加工して工業製品にして輸出するために海の浅瀬は埋立てられて工業地帯となった。その恩恵を受け日本は先進工業国となり経済大国となった。それを私は否定しない。しかし、その反面、人々の暮らしから海というものが遠くなってしまった。海が提供する癒しの空間、憩いの場、遊び心を育てるという機能が消えた。私たちはそのような海の果たす役割を再生させるべきではないだろうか。海洋技術立国として、資源開発や海運整備を行っていくのと同時に、人々が海に関心をもち、その大切さを実感するためにも、海辺を再生させなければならない。

 私が尊敬する大久保利通も堺の白砂青松が消えゆくのをなげき、当時の堺県の知事にそこの浜松の伐採を思いとどまらせた。この維新の大改革の中にあって、このような情緒のある行為を行う。このような感覚が、今一度国土形成にとって必要ではなかろうか。海洋基本法ができて、新しい海洋国家を目指して日本は船出をしようとしている時である。その新しい海洋国家像として、経済も大切であるが、環境を守ることや遊ぶことも考えていきたい。今の日本人は恵まれていると思うが、このまま経済のみに重きを置いて、日本を運営していくことを続けていくのでは、今後の日本人は幸せになれないと考えている。海外のこのゆとりある水辺や、遊び心ある公園から学ぶべきヒントが隠されている。

2007年12月 執筆
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