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Activities
1999年1月

中央アジア政策への提言(上)
甲斐信好/卒塾生     桑畠健也/卒塾生     金子将史/卒塾生     城井崇/卒塾生     小林献一/卒塾生     島川崇/卒塾生     松浦元子/卒塾生     高橋斉久/松下政経塾元塾生     小野裕之/第19期インターン     坂口友治/第19期インターン     金柄圭/第19期インターン

 松下政経塾の研修活動には、アソシエイト(1年目の塾生)が全員で行う共同研究がある。今年度は、その対象をエネルギーや日本の外交戦略の面から極めて重要になると思われる中央アジアに設定し研究した。その内容を今月と来月の2回にわたって報告する。

 
●なぜ、中央アジアか

 今回、我々が共同研究の対象にウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、カザフスタン、タジキスタンの5カ国から成る中央アジアを選んだのは、次の3つの理由からである。

  1. 中東に次ぐ石油埋蔵量や世界第3位の天然ガスなど豊富な天然資源が存在する。日本のアジア外交の戦略やシーレーンの問題とも密接に関係する。
  2. 中国・ロシアとの関係を考えた場合に、戦略的重要性を持つ。政教分離だがイスラム国家であり、イスラム世界への橋頭堡としても考えられる。
  3. 1997年7月橋本竜太郎・前首相が提唱した「太平洋から見たユーラシア外交」など、日本がこれから進めるシルクロード外交のキーとなる地域である。

 中央アジア5カ国は、いずれも1991年8~10月に旧ソ連から独立した。中央アジアの盟主を自称するウズベキスタン、豊富な資源と独自外交を展開するトルクメニスタン、豊富な水資源のあるキルギス、最大面積を誇るカザフスタン、内紛状態が続くタジキスタンと、それぞれ異なる特徴を持つが、歴史的、文化的な共通点は多い。この5カ国についてウズベキスタンを中心に話を進める。

 ウズベキスタンは人口2380万人(1997年央)、一人当たりの国民所得は約970米ドル(95年)、面積は日本の1.2倍に当る44.7万平方キロを持つが、その60%は砂漠・ステップである。ちなみに日本からウズベキスタンへ行くには、韓国で飛行機を乗り継いでいくのが一番近い。ソ連時代にはロシアに経済的に従属し、共和国間分業体制の中で綿花生産モノカルチャー(単一作物に依存する経済)に押し込められていた。独立後は、他の中央アジア諸国と同じく混乱したが、もともと農業国なので食料に困ることが少なかったことや、エネルギー資源が豊富なことなどの好条件に恵まれ、近隣諸国の中では比較的順調に発展を遂げている。95年までのGDP成長率はマイナスだが、96年には1.6%のプラスに転じ、97年は2.4%の成長率が予測されている。  日本との関係では共に大使館を開設し、商社も10社が現地事務所を置いている。基本的に政府は親日的で常任理事国入りを強固に支持するなど、日本にとっては国際舞台での重要なパートナーである。また、日本はウズベキスタンの最大の供与国で、政府開発援助(ODA)は96年からの累計で無償343億円・有償47億円に上っている(世界銀行などによる)。

●山積する難問

 中央アジア諸国は独立以来、経済発展とは逆の「経済後退」に見舞われた。5カ国の一人あたり国民所得は年平均8%で減少し、医療制度の崩壊と乳幼児死亡率などの上昇で平均余命が減少した。これは戦争以外では極めて稀なケースである。そうした中にあってウズベキスタン経済は比較的堅調でインフレも改善の方向にあるが、中央銀行の機能が弱く、金融システムが未整備なままなので、今後とも予断を許さない。また、複数為替の問題も存在する。為替レートが銀行と市中の両替屋で大きく異なるのだ。たとえば前者が1ドル115スム(現地通貨の単位)のときに、バザールの両替商は240スムと倍以上違うこともある。こうした複数為替は、経済的不平等と国内資源配分の撹乱要因となっている。

 環境面では、アラル海の環境破壊が深刻である。かつて世界第4位の大きさの内陸湖であったアラル海の湖面が今や半分以下に縮小している。ウズベキスタンの主要な外貨獲得源である綿花(金額ベースで全輸出の6割)は多量の水を必要とする。綿花栽培の増大に伴って、アラル海に流れ込むアムダリア・シルダリア川の流量が減少し、湖面が下がった。そのため川から流れ込んだ農薬を含む塩類が湖床に浮き上がり、さらにそれが風によって大気中にまき散らされたことが原因と考えられる人体への被害が発生している。アラル海周辺地域の乳幼児の死亡率は、1000人中51.4人と、国内他地域に比べ高い。世界銀行やUNDP(国連開発計画)などの国際機関がこの問題の解決に取り組んでいるが、日本もアラル海救済のための国際的枠組みへの積極的関与や農業技術支援などが望まれる。
 こうした理由からも綿花を補完する外貨獲得手段の確立が急務である。その一つは観光である。ウズベキスタンにはサマルカンド、タシケントとシルクロードの中継地として栄えた代表的な都市がある。こうした都市を観光地として売り出すのである。しかし、ビザ取得や入国手続き、未整備なインフラや随所に残る社会主義的体質が障害となっている。ここに日本のノウハウを提供できる余地がある。鍵は航空便の充実と人材育成だろう。

 人材育成は観光産業に限らず重要な課題である。世界経済外交大学、財政金融アカデミー、東洋学大学など現地の教育機関を訪れたが、そこで痛切に感じたのは、エリート養成に重点が置かれるあまり、国民全体の教育水準の向上があまり顧みられていないということである。また、日本との関係を考えるならば、日本語ができる人材の育成も欠かせない。中央アジアにおける日本語教師の数はわずかで、そのほとんどがボランティアである。政府派遣の日本語教師を増員すべきである。日本語ができる人の増加は、中小企業を含め日本の企業が進出しやすい土壌をつくり出す(小畑紘一駐ウズベキスタン大使)。同時に日本語を取得した学生の就職へのフォローも重要だ。ビジネス教育と組み合わせたカリキュラム編成やインターンの奨励などが望まれる。現在、ウズベキスタンから日本の大学へ留学している学生の数は10人に過ぎない。質量両面で留学生の受け入れ態勢を向上させる必要がある。

 ウズベキスタンの問題点を列挙したが、我々の念頭に常にあったのは、問題点の裏返しとして浮かんでくる日本の姿であった。日本にいるだけでは日本が見えてこない。また鏡として外国から日本を眺めるのに、アメリカやヨーロッパからの視点しかもたないことが多い。中央アジアという日頃意識に上りにくい地域を通すことで、日本の新しい姿が見えてきたように思う。来月は、以上のような現状と前提を踏まえた上で、わが国の中央アジア政策への提言を行う。


(松下政経塾第19期アソシエイト共同研究班/ 小野裕之・ 金子将史神前元子城井崇・ 金 柄圭・ 小林献一・ 坂口友治・ 島川崇・ 高橋斉久、 桑畠健也研修主担当)


1999年1月 執筆
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