論考

Thesis

同時多発テロ後、世界は本当に変わったか ―その2―

 先月の月例レポートにおいて同時多発テロ後の世界で、特に安全保障の分野において何か変化があったのかを論じた。そこでは、テロ後の世界は、「国家間の戦い」から「国家と非国家組織の戦い」へと変化したと言われているが、実際は、変化などしておらず、以前から問題であった非国家組織との戦いが、その重要性を高めただけに過ぎないと位置付けた。だが、同時多発テロを受けて大きく変化したことがある。

 第一に、同盟の意義が大きく変わった。冷戦時代には、抑止力のために同盟関係が存在したが同時多発テロの後、我々が分かったことは、抑止力だけではなく、対テロに関しての役割や例えばアフガンニスタンの復興など予防外交や戦争・紛争後の復興活動など色々な面で同盟関係の役割が重要であるということ。またこれらのことが、同盟関係の新しい意義の存在を示唆してくれたということである。そして同盟関係には柔軟性が必要であり、実際には、柔軟性が思っていた以上にあることを、日米だけでなく米英、米豪やNATOなど各々の同盟関係が、色々な面で新しい役割を見せたことによって証明した。ただ、まだまだ柔軟性が足りないということも同時に示したことも事実である。

 もう一つは、大国同士の協力関係である。今まで(同時多発テロ以前)の国際社会のシステムは、米中、米露など大国はお互いに(特に、安全保障の分野において)競争するのが当たり前であり、互いの協力などというのは考え難いと思われた。しかしながら同時多発テロで分かったことは、米、中、露、印などのグレート・パワーといわれる大国間の調整も可能であるということである。要するにお互いに競争しながらもならず者国家や国境を越える脅威であるテロやテロ集団に対処する局面においては、安全保障の分野でも十分大国同士が協力できる、ということをテロ後の世界は示した。

 三番目に、今までの抑止力、特に核による抑止力に於ける変化が挙げられる。抑止力というものは、相手が死にたく無いと思うから攻撃しない、それによって初めて成立するのである。いわゆるMAD(相互確証破壊)もその一例である、つまり、お互いに破壊されたくない、死にたくないと思うからお互いに攻撃することが無かったのである。けれども同時多発テロで分かったことは、テロ集団のメンバーは実際に死ぬことを前提にテロ活動を計画し、そして実行した。つまり相手が死にたいと思うのであれば、伝統的な抑止力は働かないのである。国家に対する抑止力は今も働くだろうが、テロ集団に対する抑止力は新しいものが必要であるということが分かったのである。

 悪の枢軸国と呼ばれたイラク、北朝鮮、そしてイランなどはWMD(大量破壊兵器)を開発している国であり、尚且つテロ集団との関係が直接的、或いは間接的にあると指摘されている。それが事実であるとすれば、WMDがテロ集団の手に入る可能性は否定できない。WMDの廃止やそれに対する抑止力が必要である、しかしながら従来の伝統的な抑止力だけでは不十分であると言うことが分かった。従って抑止力+予防外交、あるいは不拡散政策+ミサイル防衛などの対策が必要である。そして日米の戦略的対話も必要である、予防外交や問題の解決、或いは、問題が起きる前に日米の戦略を考えなければいけない。また実際にWMDが使用された場合、病院が対処できるか、そのような有事の際、日本国は有事に対処でき得るのか。その観点からすると有事法制は必要である。そして集団的自衛権の問題は、同盟の柔軟性のために前向きに検討すべきである。この議論において日本の軍国主義への回帰を懸念して慎重論が叫ばれるが、集団的自衛権が行使できないと言っている国は、世界ひろしと言えども日本だけである。権利として保持しているものを時と場合によって行使できるのだ、ということを確認するのに憲法の改正など必要ない。

 一方で、集団的自衛権の行使を認めるにしても他国の領土内では絶対に行使出来ない、という制限を設けて集団的自衛権の行使を認めるという議論があるが、そこにも本質的な問題点は見当たらない。権利と言うものは有るか無いか、そして行使できるか行使出来ないかであって、それをどのように管理・運営するかは政策レベルの話であり、憲法解釈の問題ではない。そして、その運営方法を間違えれば、新たな国際的な敵を生み出すことになる。故に、憲法解釈に慎重になるのではなく、集団的自衛権の運営方法にこそ慎重な議論が必要なのである。

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山本朋広の論考

Thesis

Tomohiro Yamamoto

山本朋広

第21期

山本 朋広

やまもと・ともひろ

(前)衆議院議員/南関東ブロック比例(神奈川4区)/自民党

Mission

外交、安保政策

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