Thesis
米国同時多発テロ事件の後、日本は同盟国である米国を支援する立場を表明した。テロ対策支援法を成立させ海上自衛隊を派遣するなど実質的な支援を行なっている。この一連の活動の節目ごとに浮上した議論があった。それは、イージス護衛艦派遣の是非であった。
イージス艦とは、目標の探知・追尾、情報処理、攻撃を高性能レーダーとコンピューターで自動処理するイージス・システムを搭載した海上自衛隊の最新鋭護衛艦である。レーダーの防空探知範囲は約500キロ(従来艦の約5倍)におよび、同時に200個以上の目標を追尾することが可能であり、また10個以上の目標を同時に迎撃できる。イージス艦派遣の是非を巡る最大の論点となったのは、憲法解釈上禁止されている集団的自衛権の行使に当たるのではないかという点である。高度な情報収集能力を有し、米艦との情報交換も瞬時にできる日本のイージス艦が、活動海域で敵機の接近を探知し、その情報を受けた米艦がミサイルを発射すれば、米軍との武力行使と一体化していることになると違憲論者はいうのである。
しばしば、新聞紙上や報道番組等で「データリンク」という言葉を見聞きした。その「データリンク」というもので日本のイージス艦と米艦が、高度な戦術情報などを交換できると報じていた。しかし、「データリンク」と呼ばれるシステムには「LINK-11」と「LINK-16」の2種類のシステムがあり、それらのシステムは性能に違いがあり、同じものとして論じるのは間違いである。「LINK-16」の方が、「LINK-11」より性能が高く、短時間により多くの情報を送ることができる。また、日本の有している4隻すべてのイージス艦が、「LINK-16」を搭載はしているわけではない。搭載しているのは、「こんごう」「ちょうかい」の2隻だけで、他の2隻「きりしま」「みょうこう」は「LINK-11」を搭載している。そして、海上自衛隊がこれまでインド洋に派遣した護衛艦はすべて「LINK-11」を搭載していた。
今回、派遣したイージス艦は「きりしま」で同艦は「LINK-11」を装備している。これまでも「LINK-11」を装備した護衛艦を派遣していたにもかかわらず、同じシステムを有しているイージス艦を特別扱いするのは、論理的に説明が付かないのではないだろうか。確かに、護衛艦の対空レーダーの覆域はイージス艦よりも狭く、当然情報量が少ない。従って、護衛艦は、米軍と「LINK‐11」というシステムをつなぎ、米軍から目標情報をもらうことで、その不足を補うことができる。つまり、情報交換と言っても、もらうことが主になる。それに対してイージス艦は、対空レーダーがカバーする範囲が他の護衛艦に比べて大幅に広いため、情報を多く得ることが可能となる。よって米軍から情報をもらうだけでなく、日本艦から情報を提供することも可能となる。それが、集団的自衛権行使に抵触する恐れがあるかもしれない。
しかし、そもそも現在インド洋に派遣されている護衛艦は米軍とLINKを介した情報交換は実施していない。また、日本のイージス艦と米国のイージス艦と情報交換することによって広範囲に渡って米軍が空域を切れ目なく警戒することが、可能であるとの論調もあるようであるが、実は「LINK-11」と「LINK-16」には、互換性が無いのである。従って、「LINK‐11」を装備した日本のイージス艦「きりしま」が「LINK-16」を装備した米イージス艦に情報を伝達しようとすれば、「LINK-11」と「LINK-16」の双方を装備した艦船を探し、一旦その艦を経由させて情報の交換をしなければいけない。そのような面倒なことを米軍がするとは考え難い。
日本が、米英艦などを支援するために補給艦を派遣する際に護衛艦を派遣する理由は、明らかである。それは、主として日本の補給艦を守るためである。また、補給を行なっている間は、非常に無防備であり、格好の攻撃対象にされるということも考慮しておかなければいけない。そのような状況においてイージス艦が護衛してくれることは、補給作業に従事するすべての者にとって力強い支援となることは間違いない。イージス艦派遣を躊躇する理由など初めから無かったのではないだろうか。むしろ、遅すぎた派遣だったと思えてならない。ただ、イージス艦派遣の是非を巡る議論の中で見逃されている日本の防衛にとって重要な論点がある。それは、日本の防衛力の問題である。来月のレポートでは、その点を踏まえて、イージス艦派遣問題を論じてみたいと思う。
Thesis
Tomohiro Yamamoto
第21期
やまもと・ともひろ
(前)衆議院議員/南関東ブロック比例(神奈川4区)/自民党
Mission
外交、安保政策