米国ピッツバ-グに学ぶ地域再生(3)
- ネイバ-フットとは
- 私は現在、ロ-レンスビル地域開発協議会(LDC)というネイバ-フットの現場で、インタ-ンとして実践活動している。ダウンタウンから車で東に5分、アレゲニ-川に沿った人口1万2千弱、65才以上の住民が25%のこの地区は、昔は製鉄所や労働者の住宅として賑わったそうだが、今では空家や空地が目立つ衰退地区である。
LDCは、1986年に「産業・商業・住宅など地域の経済開発を通じて、ロ-レンスビル地区の社会的・経済的な改善を目指す」ために設立されたNPOで、現在3人の常勤スタッフと私以外に1人のインタ-ンが勤務し、理事会が2ヶ月に1回、理事参加の各部会が毎月1回程度開かれている。
人口37万人のピッツバ-グ市内には、このようなネイバ-フットと呼ばれる、地域に密着した民間非営利組織が90近くある。日本では各地方自治体が一手に引き受けている都市計画や住宅整備など街づくり事業を、米国では小さなNPOが行政と協力しつつ実践している。この違いについて、今回は活動面と資金面から報告したい。
- 活動の中心は産業振興と地域開発
- ロ-レンスビルは都心に隣接する衰退地区のため、空き地に企業を誘致したり中小企業を援助する産業振興と、老朽化した建物の改善や開発計画の立案など地域開発が、LDCの活動の2本柱である。
産業振興を担当しているデニス・トロイさんは昨年、ロ-レンスビル地区の産業用地の土地利用状況を調査した。そして現在、地元大学が共同開発したグラフィック情報システム(GIS)と呼ばれるソフトを利用して、地区全ての土地や建物の情報(サイズ・ゾ-ニング・価格・交通アクセス・インフラ整備・環境問題の有無など)を網羅したデ-タベ-スを作り、進出希望者に提供している。この夏に、インタ-ネットに公開する準備も進めている。
一方、事務局長のナンシ-・ナシカさんは、主に地域開発を手掛ける。LDCが入居している建物は、その最初の仕事だ。1991年に購入した建物は、90年前に建てられた銀行のものだったで、ここ15年間は誰も使ってなかった。都市再開発公社(市の外郭団体)からロ-ンを借りて、改装し1階には新たに建築事務所の誘致に成功した。彼女のオフィスの壁には、14才の息子と10ヶ月の娘の写真の間に、歴史的建造物保存を表彰する州と市政府からの賞状が飾ってあった。
彼女は、以前はピッツバ-グ市のコントラ-室(市の行政に無駄はないかチェックする職場)で勤めていた。「紙のやり取り以外の、何か見えることがしたかった」という理由で、自分の生まれ育ったロ-レンスビルを再生するネイバ-フットの設立に、最初から事務局長として参加した。現在、空き家を質の高い住宅に改善する事業を通じて、同地区に新たな住民や雇用を創出する事業に取り組んでいる。
- 官の資金が民の活動を支える
- LDCの来年度の運営予算(1995年9月から1年間)の総額は、約16万7千ドル($1=¥85で換算すると、約1420万円)。収入の内訳は、ペンシルベニア州の地域問題局から9万7千ドル、ピッツバ-グ市の地域開発一括補助金から約3万5千ドル、都市再開発公社の地域経済開発投資ファンドから約2万3千ドルの融資(年利7%)、50名の個人寄付が約1万ドル、財団のピッツバ-グ地域開発ネットワ-クから約2千ドルとなっている。
運営予算の約8割(州:58%、市:21%)は、公共セクタ-に依存している。NPOの立場で公的な領域の仕事をしているLDCを、税金で支えている点は新鮮に感じる。勿論、だからといって、役所の言うなりになるわけではない。
支出は、人件費が約10万1千ドル、事務所経費が約6万6千ドルに大別される。人件費に、3人のフルタイム職員の給与・雇用保険・健康保険など。事務所経費は、テナント料や郵送費・パンフレット作製などが含まれる。
また、各事業は事業毎に予算を組まれている。
- 日米の違い
- 米国のネイバ-フットは、実行力があり広く社会で認知されている点で、日本の街づくり団体と異なる。実際、LDCはロ-レンスビル地区で住民に一番近い行政窓口のような印象すら私は感じた。一方、日本の街づくり団体は、昨年北九州で接したなかでは、プロパ-の職員や独立した事務所を持つ所は少なく、むしろ親睦団体に近い所も多かった。
建国以来、自由を尊び政府の役割を最小限に留めた米国と、明治以降、中央集権国家として生きてきた官尊民卑の日本と、風土が違えば仕組みも変わってくる。最低限の豊かさを得るために、全国に一律のインフラ整備をしたり、産業の育成を図る上では、日本の強力な公共セクタ-の仕組みは確かに有効に機能した。
しかし、ますます多様化・複雑化する日本の各地域の問題を、今まで通り一元的な公共セクタ-で処理するべきか疑問だ。LDCでのインタ-ン活動を継続するなかで、各地区のNPOが役所と責任や予算を共有して地域問題に取り組んだ方が有効であることを、実行性やコスト面などから検証してゆきたい。
Hiroaki Mori
プロフィールを見る