論考

Thesis

<コラム>

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1997/1/29

ここ数年、地方自治体によるコンサートホールの建設が相次いだ。いまでは人口数万の都市にも驚くほど立派なコンサートホールがある。しかし正直なところ、こうしたホールで行われている中身がその外観に比べ見劣りするのは否定できない。集客力を考えれば当然であるが、著名な演奏家のコンサートはやはり大都市に限られる。
 実際に、京都市内および京都府南部のいくつかのコンサートホール・文化会館の利用状況を一般に入手可能な催物案内などのデータから分析してみた。その結果、京都市内と周 辺部の市のホールでは利用日数に格段の差があるだけでなく、周辺都市では商業的なプロによるコンサートが少なく、アマチュアの発表の場、つまり、家族や知人などの限られた人しか足を運ばないような催し物で埋められていることがわかった。また、ホール自身の自主公演も少なく、行政の音楽振興の遅れも目立つ。

 このように大都市とその他の都市では音楽を楽しむ環境に大きな差がある。そこで私は、地方都市でより多くの人々が音楽を身近なものとして楽しむには、市民の手で地域の音楽文化を育てるための社会的なシステムが必要ではないかと考え、京都府城陽市(人口約 8万5千人)で研究活動を始めた。

 研究活動には二つの柱がある。一つは「城陽少年・少女合唱団」の育成である。これは隣接する宇治市や八幡市には教育委員会が主体となって設立・運営する合唱団があるのに、城陽市にはなかったので、有志の保護者が中心となって作ったものである。私は設立の 段階からボランティア・スタッフとして運営に携わり、地域での子どもたちの音楽環境をどのように創っていくかを合唱団の育成を通して研究している。
 もう一つは、民間の文化団体「城陽市文化協会」における研究である。城陽市文化協会は各種文化サークルの連合体で、各サークルから選ばれた理事によって運営されている。私は縁あってお手伝いをすることになったが、常に人員不足(とくに若年層)の状態であった。そこで私は、一般市民へ協力を呼びかけることを提案し、「スタッフ会員」を募集することとなった。現在は、私も「スタッフ会員」の一人として文化事業の企画・運営を行う中で、地域の音楽文化の振興策について研究している。

 社会が成熟期に入り、感性の時代と言われている現在、自分たちの生活する地域の文化活動に目を向けることは自然の流れである。文化創造の主体が個人であることは言うまでもないが、個人の力だけでは限界がある。個人をサポートする文化団体、さらにその文化団体を側面からサポートする企業や行政。これらをシステム化できれば、もっと音楽を、文化を身近なものとして感じられるはずである。

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