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2001年10月

塾生レポート

「安全性」を伝えられるか~多発テロ事件の観光業への影響~
喜友名智子/卒塾生

 
 アメリカにおける連続多発テロ事件によって、米軍施設が多い沖縄への観光客が激減している。 21世紀における沖縄済の柱を、観光業にしていこうという気運が高まっている矢先での出来事である。地元では、県外へのPR活動や県・国による特別措置、県民による観光施設の利用などで、なんとか観光業界を支えようという気運が出てきているが、「安全性」をいかに納得してもらうこと以外に、解決法はない。

激減した観光客

 観光業界への打撃は、県内への観光客数の激減に現れている。県ホテル旅館生活衛生同業組合が実施した調査によると、修学旅行が25万7277人(1097団体)、一般団体が6万9036人(1083団体)のキャンセルがあり、売上の減少は修学旅行だけで約30億円にのぼるという(注1)。これは沖縄が1年間で受けいれる修学旅行生の半数であり、影響は深刻なものである。県内の主要銀行は、今後1年間の観光客数が10%減少すると、県経済に与える影響は年間で640億円程度になるという予想を発表した。

 この打撃に歯止めをかけるため、県知事を初め関係団体によるPRを中心とした努力が続けられている。沖縄と同じ日本国内からの観光客が多いハワイとグアムからもリカバリーミッションが東京を訪れたが、同じ時期(10月上旬)に稲嶺沖縄県知事も上京して沖縄担当大臣や国土交通大臣に対策を要望している。7日には首相にも直接会って支援を要望している。

 21世紀の沖縄は民間主導の経済をつくる、その中でも観光業は重要な柱とする、と新しい開発計画で強調した矢先での今回の出来事である。観光業を支える社会的基盤とは何かという、本質的な問題を考えなくては、この経験は何ら建設的な結果を生まずに忘れられていく。短期的な対策のほか、打撃を受けた企業経営者や行政を集めて、長期的な観光戦略を共に考える必要がある。

県と国による緊急措置

 テロ事件で打撃を受けたのはもちろん沖縄だけではなく、国内の観光業界全体が落ちこみを見せている。海外旅行の取り扱い額は湾岸戦争以来過去3番目の減少である。これに対応するために国土交通省は緊急融資制度として、中傷企業信用保証教会の信用保証枠を拡大するほか、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫、国民生活金融公庫に新たな融資枠を設けるなどの支援体制を整えている。

 沖縄の観光業への対策としては、内閣府が補正予算案での来年度予算要求事業を前倒しで実施するほか、特別調整費で修学旅行生確保のための臨時対策などが組まれる予定である。 また、国土交通省は国・県・観光業界が連携して観光振興に取り組むとして、「沖縄観光促進のセミナーを開催」「企画旅行商品の造成と販売の要請」「沖縄への修学旅行の促進」「会議やセミナーの沖縄開催」「イベント・キャンペーン等への支援」などを行うと発表した。 さらに沖縄県は政府とは別に、1億円程度の特別予算を組む方針である。

観光業の隠れた基盤―「安全」―

 テロ事件という、ある意味で突発的な出来事によって打撃を受けたのだから、沖縄だけでなくハワイやグアムも客層こそ違えど、本質的には同じ問題を抱えている。観光とは、その場所に価値があるからこそ成り立つ業界で、その価値の中には安全も入っているはずだ。それにけちがついたらこなくなるのは当然の現象だ。一番の対策は「安全性」をいかに納得してもらえるか、であって、それ以外は小手先の対策に過ぎない。

 今回キャンセルが相次いでいる修学旅行担当の先生方から見ても、やはり安全性が一番のはずで、米国大使館や企業などへ近寄らないようにとの雰囲気がある中で、根拠もなく「沖縄は安全だから旅行に来てください」というのは無責任極まりない。日頃、膨大な基地の存在に対して抗議しているわけだから、米国の施設そのものが危険にさらされている中での「正しい安全の情報」を発信するのは、並大抵の対策で済むはずがない。

 観光業の振興を考えるときに、当たり前のように考えられていて、実は高い認識を持たれていなかったのがこの安全性ではなかっただろうか。

これからに向けての課題

 そうすると、短期的な対策以上に考えていかなくてはならないことがある。

(1)一過性にしてはいけない

 これまでの沖縄での政治や社会の様子を考えてみると、この危機が過ぎれば何事もなかったかのようになるのではと案じている。今は客数や売上の激減を乗りきるのに必死だろうから、当面の経営の議論がほとんどであろう。まず、短期的には何らかの措置が必要で、テロによる影響であるのは明白なのだから、国・県・業界が連携しての制度や対策は行うべきである。ただし、これはあくまでも緊急避難的な措置であることはどの程度認識されているのだろうか。いつものごとく「苦しくなったら補助金や特別措置頼み」と同じにとらえてはいないか、懸念している。

(2)行政の危機管理の問題

 今回の打撃の原因は、繰り返すが多発テロ事件に伴う、米軍施設への警戒心である。すでにある施設に対していくら「安全ですよ」といっても、観光客に対して即効性があるとは考えられない。安全性をアピールするためにカイワレ大根を試食したいつかの方策と対して変わるものではない。特に日頃から「米軍基地は危険だから撤去してくれ」という沖縄の主張を考えると、矛盾したことを言っていると私でも首をかしげる。

 安全性に疑問を持たれているのだから、なぜ米軍基地があるにも関わらず安全といえるのか、いざ何かあったときの対処をどうするのか、ということが観光客に対して最も強調して伝えられるべきことである。

 関係省庁のホームページを見たが、残念ながらそのようなことに対する情報はない。今回のテロ事件による沖縄観光への影響は、本来ならばテロが起こってからではなく、基地があれば当然起こり得ることとして、行政や産業界で対応策が考えられていてしかるべきであった。このテロ事件を機に、すでに行われるべきであったことを始めることが必要である。

(注1)琉球新報11月2日

2001年10月 執筆
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