論考

Thesis

島嶼地域のそれぞれの模索~マルタ共和国とオーランド島自治政府~

この1ヶ月間、地中海とバルト海にある島嶼地域を訪ねた。かねてより、沖縄について考えるとともに、島嶼という地理的状況の開発・発展・成長といったものはどのようにしたらよいのだろうかという問題意識を持っていたからである。 今回はそのうち、マルタ共和国とフィンランドのオーランド諸島を取り上げたい。

「島嶼」性とは

「沖縄のことを考えるなら、"島嶼"ということを忘れなさんな。沖縄の本質はそこにあると思う。」
 高校生のときに、当時の教頭先生から強調された言葉だ。
「小さい島であることはどういうことか。土地がない、資源がない、人口も少ない。大きな世界の中で、こういう地域が生きるために何が必要か、考えなさい。」

 島嶼という言葉を説明するのは難しい。まずもってこの単語を知っている人が比較的少ないことと、言葉に託す思いが人によって異なり、したがって使い方が異なってくるからである。多島海、群島…単なる地理的な形状を指すのではなく、それ以上の意味を含めないと、この世界の中での島嶼の位置付けが十分に説明できないのであり、まだ定義のない発展途上の概念である。その一方で、カナダのプリンスエドワード大学にある島嶼研究所や日本島嶼学会のように、「島」という環境から生じる課題をどのように解決していけばよいのかを考えるための模索が続いている。

 私は、土地・人口・資源が少ないという地理的特徴を持つ島嶼地域は、それが故に政治的な部分と経済的な部分で「辺境」の位置に置かれてきたことに、この地域が抱えるさまざまな問題の原因があると考えている。

(1) 政治的「辺境」
 人口が少ない、規模が小さいということは、政治の場での発言力や影響力が小さくなる。特に領土を拡張し、所有することで国の発展を試みた近代国家の発展の段階で、島嶼地域はそれに組みこまれた。時に国境に接する地域として軍事的な戦略拠点として位置付けられた。そこでは国家同士の間で島の位置付けが決定され、住民はそれに関わる余地がない。今回、訪れたオーランド諸島などに認められている高度な自治を認められなければ、島社会としての主張を通すことが難しい。

(2) 経済的「辺境」
 産業革命以降、人類は大量生産・大量消費社会の中で豊かさを築いてきた。この体制は、大規模な設備を必要としたために、それに有利な土地への産業の集中を加速させた。そこでは人口が集中し、それに伴ってサービス産業も発達する。しかし人口が減少し、加えて道路網を整備することができず、船舶や航空機の移動手段しか持たない島嶼地域は、物資の流れが悪い。

 以上のように、『島嶼』は、政治的には自分たちが持つ小さい影響力を以下にフル活用していくか、経済的にはこれもまた限られた資源を最大限に効率よく利用し住民の生活を成り立たせるか、その中でどのように生きるかを考えるための土台になる概念ではないかと思う。政治的・経済的に世界に与える影響は小さいが、それとは逆に影響力の大きい国や地域の動向如何によって、打撃を受けやすい社会なのである。こういう地域ほど、世界の流れと自分たちの社会の位置付けをきちんと認識し、方向を見定めなければ社会を存続させることは難しい。「ないないづくし」ということであきらめずに、知恵をふりしぼって島を守ることが、生き残る道であるように思う。

 このように、私は『島嶼』というものを極めて不利な立場であるという認識を強く持ち、それぞれの島が持つ課題にどう対処して、住民の生活を支えているのか、というところに注目して、これらの地域を訪ねた。

マルタ

 マルタ共和国は地中海のちょうど中央に位置し、6つの島(うち有人島は3つ)からなる島嶼国である。最も大きいマルタ島は海岸線が約140Kmである。人口は約37万人。比較的安い価格で海のリゾートが楽しめる観光地のイメージである。

 だが、飛行機の中からこの島を見たときの感想は、何よりも緑が少なく白い島だということだった。緑は島の中央部にわずかと、市街地にある手入れされた公園にある程度だ。島というと、緑豊かな自然の印象をもっていただけに、豊富にあるlimestone(石灰石)でつくられた建物群、乾燥した空気と車の排気によるほこりっぽさは想定していなかった空気であった。

 この島々の一番の問題は水の供給である。雨量に乏しく、乾燥しているため農業などにも影響を与える。実際に滞在させていただいたお宅も、水の出は良くはなかった。1?程度の飲料水をポットに入れると、しばらく待たなくては出ないのである。国の事業によって飲料水は十分になったとはいうものの、郊外地になると灌漑が進んでいないところが未だにある。淡水化プラントや地下水のくみ上げなどが試みられたが、充分ではないとのことである。今後観光部門での需要が増加することを考えると、深刻な問題である。

オーランドの自治政府

 オーランド諸島はフィンランドとスウェーデンの間にある、6500以上の島からなるまさに島嶼地域である。人口は約25,000人。ヘルシンキからのクルージングはその風景を楽しめるとして人気が高い。ここを訪れた目的は、島嶼地域の問題についての議論を行う北大西洋島嶼プログラムのフォーラムへ参加する予定だったのだが、今回はフォーラムが中止となった。それでも予定されていたsocial excursionは行うとのことであり、それに参加して、半日は自治政府の首相、議会関係者、行政関係者と議論をする時間があった。

 オーランド島が注目されるのは、フィンランド国内で自治政府という独自の機関を持っていること、国際的にも認められた非武装地域であることからである。EUでの地位も、フィンランド政府と同等のものだ。

 1809年まではスウェーデン領だったが、スウェーデンがロシアに敗北したことにより、ロシア領となる。その後、1921年にフィンランドの独立にともなって、スウェーデンとフィンランドで領有権の争いが起こる。結局、国際連盟の裁定によって自治権を認められたフィンランド領とされたのである。オーランド島のスウェーデンに対する親近感は、ずっとスウェーデン語を使っていたことと、このような歴史的経緯の影響が強いと思われる。 そもそも自治政府が国際的に認められたのも、フィンランド語ではなく、スウェーデン語を公用語として認めるという、住民の使用している言語や生活文化を維持する面が強かった。

 オーランド島の自治を可能にしている、国際的に認められている地位としては、以下のものがある。

(1) 島民は、フィンランド国籍の他に「オーランド籍」という国際的に承認された「地域的市民権」をもつ。(この市民権を持たないものは島内での土地の売買や、事業展開ができない)
(2)島民はフィンランド語の義務教育が免除される
(3)軍事基地や施設の設置、軍艦・戦闘機の寄港・着陸は禁じられており、フィンランドの徴兵制はこの島の島民には適用されない。

 たいていの島嶼地域の問題が経済開発や産業振興であるのに対し、オーランドは経済的には非常に恵まれているといってもよいだろう。失業率も2.1%(2000年)と非常に低い。経済的に急を要する課題は特にないとのことである。州都のマリエハムンも、これまでみたどの島よりも、まち並みが整備され、生活インフラで特に不足しているものも見られない。その経済を支えているのは、船舶業だ。フィンランドとスウェーデンとの航海の中継地点だったこともあり、船便の数も不自由はしない。

 だが、議論は自治の中での経済的面に集中した。自治があるといっても、課税権はフィンランド政府にあり、そこから自治政府に予算が下りてくる(おおむねフィンランド国家予算の0.5%)という、日本の中央政府と地方自治体の関係に非常に似ているからである。「課税権がないのに自治といえるのか」など、関係者の関心は、オーランドの自治に関して、政治的位置付けよりも、経済的な面に移ってきているようだった。

模索し続ける島嶼地域

 今回、訪ねた島だけを見て、島嶼地域については語れない。それぞれに所属する国や地域の制度が異なることや、人口から経済状況までさまざまだからである。

 だが、その島に対して、過去も現在も未来も、ずっと関わり責任を持つのはそこに住む人間しかいないことに変わりはない。

 今回訪ねた島嶼地域は、それぞれの国内での自治権やEUレベルでの島嶼地域開発の必要性を認めさせるなど、政治的な立場の確保には成功しているといえるだろう。現在はそれをもとに、経済的な自立に向けてどうしていくかが課題となっている。EUという枠組を基本としながらも、その流れの中で島の生活をどう守っていくか。地中海やバルト海地域では島嶼間連携の動きが出てきており、関係者の模索はまだ続く。

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喜友名智子の論考

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Tomoko Kiyuna

喜友名智子

第20期

喜友名 智子

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沖縄県議(那覇市・南部離島)/立憲民主党

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