論考

Thesis

まちづくりにコミュニティFMを活かす

沖縄・那覇市のメインストリート国際通りは、かつて、廃墟の中から復活した“奇跡の1マイル”といわれたほど活気を帯びていた。しかし現在では、人通りだけは多いものの、コミュニティとしてのまとまりに欠け、まちとしての活力を失っている。私は、国際通りを活性化させ、沖縄をリードする新しいまちに再生させようとする試みに参加している。

まちづくりの新しい視点

「まちづくり」という言葉は、今では珍しいものではなくなった。いろいろな状況で、さまざまな意味を込めて使われているのを見聞きするが、共通しているのは、個性的なまちづくり、行政主導から住民主導へ、ハード(建築物や道路など)からソフト(量で測れない快適さなど)へ、まちづくりを担う人材育成など、現在の都市や地域をよくしていこうという考え方や活動に関わること、と考えてよいだろう。
日本はこれまで「国土の均衡ある発展」という名目で、人口が集中する大都会も、人口が数千人しかいない地域も同レベルのインフラを備えた「まちづくり」を行ってきた。その結果、こんな所に利用者がいるのかというような場所に道路や橋、港湾などが作られる一方、必要なインフラ設備すら不足する地域が存在することになった。こうした現状にあって、本当に「住みよいまち」とは何なのかについて多くの人々が考え始め、自分たちの生活にあった「まちづくり」をしようとする活動が各地で行われている。
このまちづくりの中で、私が注目するのが「情報」である。情報技術の発達によって、「情報」というものが社会の中で占める位置が大きく変化した。これまで情報は、一方から他方に伝わる量・速さを競う効率の問題として捉えられてきたが、情報技術の発達で、情報のあり方そのものが変わった。情報が一方から他方へ一方向に伝達されるだけだったのが、両者が互いに情報を送受信する形に変わり、情報の偏在が少なくなった。全員が同じ情報を有することができるようになったのである。
私がまちづくりにおいて重要と考えるのが、まさにこの点である。コミュニティを活発にし、快適な空間をつくるには、地域内に存在する問題を解決せねばならない。それには、地域に関わる人々の問題意識を高め、共通の認識をもって問題にあたる必要がある。その第一歩が「情報の共有化」と考えるのである。地域に関わる人とは、そこに住んでいる人、仕事や学校のために通ってくる人、あるいは買い物等でやってくる人など様々である。そして、これらの人々はそれぞれ、何かを作る、売る、買う、使うと様々な側面を持っている。何か一つだけという人間は存在しない。まちはこうした人間の多種多様な活動の場という意味で、生産者と消費者の接点、住民意識の把握・合意形成など、情報交流の場となっている。まちをこのように捉えると、まちの強さ、活力は、そこに関わる人々が、どれだけ同じ情報を持ち、同じ価値観をもっているかにかかっているといえる。
では、どうすれば、われわれは情報の共有化を図ることができるだろうか。その可能性の一つが、コミュニティFMにあると考える。

地域の情報発信~コミュニティFM事業

今、人々の嗜好は、大量消費から本当に気に入ったものを少しだけという、個人的なもの、多種少量なものを求める方向に向かっている。そのため、かつては都会にだけ向けられていた人々の視線が、自分が住んでいる場所、つまり地域に向けられ始め、地域、あるいは「地元」を意識した情報発信が求められている。それを実現する手段は何かと考えたとき、放送エリアを小さく絞ったコミュニティFMが、その小ささゆえに有効だと考えるのである。
コミュニティFMは、市町村の地域情報を提供するために1992年に制度化された超短波FM放送である。現在、開局第1号として北海道函館市に創設された「FMいるか」をはじめ、全国に約140局以上が開設されている。従来のFM放送と比べて際立って違う点は、受信できるエリアが極めて狭い、したがって聞き手が限定されるということである。中には、東京の「葛飾エフエム」のように放送エリア人口300万人を抱えるところもあるが、基本的にコミュニティFMは聞き手が少人数に限定されるので、より地域に密着した情報の提供が可能になる。つまり、狭い範囲でしか受信できないのだから、それを超えた広域の情報は聞き手にはあまり魅力がないのである。たとえば、茅ヶ崎市内を車で走っている人には、東名高速道路の交通情報よりも「市内の○○交差点で事故発生」といった情報の方が役に立つ。これが広域の放送エリアをもつFM放送だとそうはいかない。この点で、コミュニティFMは、日々の生活に密着した情報を伝えるのに最適のメディアである。では実際にコミュニティFMはどのような活動をしているのか、鎌倉市を放送エリアとしている鎌倉FMを訪ねてみた。
鎌倉FMは、約17万人の人口を抱える鎌倉市を対象エリアとして1994年に設立された。この間、経営者が数回変わり、その都度番組構成が変った。現在は、1年前に替わった新体制で、主婦、高齢者、自営業者を対象に、地元の行政情報をはじめ、交通・天気予報、医療・福祉情報、文化・催事情報など市民生活に密着した情報をきめ細かくワイドに提供することを目標に運営されている。
常勤スタッフは4名で、その他に約90人のボランティアスタッフがいる。その40%が鎌倉市民だという。年齢は20代~60代と幅広い。取締役兼番組編成局長の亀和田俊明氏によると「番組の95%はボランティアが企画して作っており、現在放送中の番組の中で、常勤スタッフが製作したのは2番組だけ」ということである。番組表を見ると(表1参照)、徹底してローカル情報の発信に力を入れていることがわかる。
取材に訪れた時は、パーソナリティを務めるボランティアスタッフの生田典子さんと日丸邦彦さん、それに技術スタッフの計3人で、10畳ほどの広さの部屋に機材を置いて生放送を行っていた。その日の番組構成は「リサイクル情報」「わが街かまくら」「WHO’s WHO(人物紹介)」で、途中に音楽やCMが入り1時間半にわたった。
この局でユニークなのは、一般企業がスポンサーとなってイベント情報や新しい福祉サービスの案内、絵画展の開催情報などをスポットCMとして流していることである。また、情報集めには市内に住むボランティアが一役買っていた。
一番知りたかったリスナーの反応は、現体制になってようやく1年ということで、まだはっきりとしたことは言えないが、電話、FAX、電子メールなどで意見が寄せられているという。中には、手土産持参で局を訪れるリスナーもいるということだった。私自身の感想は、番組作成に地域住民がボランティア参加するなど、住民がコミュニティFMに愛情を持っていることが感じ取れた。

那覇・国際通りにコミュニティFM局開設

沖縄にはすでにコミュニティFMが2つあるが、今、新たに那覇市のメインストリートである国際通りにコミュニティFMを開設する準備が進められている。国際通りは、沖縄県庁から北東へ約1.6キロ伸びた那覇市のメインストリートである。三越、山形屋などのデパートをはじめ、土産物店、ブティック、映画館、レストランが延々と並んでいる。かつて「奇跡の1マイル」といわれたほど活気を帯びていたこの通りも、今は、人通りはあるものの、通りに立ち並ぶ商店は「勝ち組」と「負け組」に分れ、街全体としての活気を失っている。いうまでもなく、その原因は、観光客と地元の若者を十分に取りこめていないという点である。そこで、ここにコミュニティFM局を開設し、地元の利用者からは沖縄の中心地としての情報を、観光客からは彼らが訪れた沖縄各地の地域情報を発信してもらい、必要とする人に利用してもらうことでまちを活性化させる原動力にしたいと考えている。さらに将来的には、国際通りに、離島も含めた沖縄全体の情報の集積地としての役割と、そこを基点として県内外へ情報発信する基地としての役割も期待している。この事業は国際通りの活性化に焦点をあてているが、私はそれには次の2つの視点が欠かせないと考える。
(1) 沖縄全体の中心地としての「国際通り」という発想
沖縄は南北400km、東西1,000kmの範囲の中に160の島(うち有人島40)を抱える島嶼県である。地理的に本土と離れている以上、沖縄県内における那覇市の都市機能は重要である。東京・大阪・福岡に、都市機能を依存することが困難だからである。那覇に沖縄の中心都市としての役割を求めるならば、那覇の中心である国際通りは沖縄の中心としての役割を意識しなければならない。多くの離島が存在する環境では、当然、島ごとに中心市街地があるが、個々の島々との連携も含めた情報発信地として、那覇・国際通りを位置づけるべきである。
(2) 「都市」としての那覇市をつくる発想
都市の役割は大きく分けてハード面とソフト面がある。
那覇市には、建築物や公共交通の利便性などハードインフラ面で問題が山積している。日本全国の地方に公的資金が過剰に投入され、東京など大都市部のインフラへの投資が不足していることと、規模こそ違え同じことが那覇と那覇以外の沖縄との間で起きている。
コミュニティFM事業に関して言うならば、都市のハード面のインフラ整備は、この類の事業が直接に手がける分野ではない。車社会の発達による個人の移動形態の変化、それに伴った郊外地への居住や商業地の移動、郊外地と比べた場合の土地の価格の高さなど、那覇市が抱える構造的な問題は、一企業が解決するにはあまりに大きい。
ソフト面で求められる都市機能とは、情報が集まる場所である。情報インフラというと、光ファイバーの整備などのハード面が強調されることが多いが、それと同等、あるいはそれ以上にそれにのせるソフトは重要である。特に都市の消費的性格に注目すると、消費者のニーズを的確に捉え、生産者と結びつけることのできる仲介機能には大きな可能性と需要が期待できる。

最後に、コミュニティFMはそれ単独で行うよりも、インターネットと連携させることでさらに強力な方法となることを述べておきたい。コミュニティFMは、町村(政令指定都市の場合は区)の一部、または近隣を含むエリアが放送範囲である。したがって、直接情報を得ることができる人口が他のメディアと比べ極端に少ないが、インターネットと連動させれば情報の質は高いものにすることができる。さらに、放送内容をデータベース化したり、直接リスナーとやりとりしたりすることで、地域情報へのニーズがより細かく的確に捉えられ、放送内容の幅を広げることが可能性になると考える。コミュニティFMにあわせてインターネットを活用することは、番組が放送局からの一方的な情報提供にならないようにするために極めて有効である。

鎌倉FM(82.8MHz)番組表

▲出典 鎌倉FMホームページ(http://www.kamakurafm.co.jp/)番組表をもとに作成 (2001年10月現在)
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喜友名智子の論考

Thesis

Tomoko Kiyuna

喜友名智子

第20期

喜友名 智子

きゆな・ともこ

沖縄県議会議員(那覇市・南部離島)/立憲民主党

Mission

沖縄の自立・自治に関する研究

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