松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2001年6月

塾生レポート

「奥ヤンバルの里」の挑戦
喜友名智子/卒塾生

 
 今年4月29日、沖縄本島北部に、一つの施設がオープンした。「奥ヤンバルの里」である。過疎化に悩み、これといった産業もないことが問題となっている本島北部地域。大規模な地域開発計画が構想されるなかで、こじんまりとしたつくりのこの施設は、過疎地活性化のモデル事業となりうるのか。その可能性を考えた。

奥ヤンバルの里

 奥村落は、沖縄本島の最北端・辺土岬を過ぎたところにある。「カメさんに注意」などのほほえましい看板を見ながら、車道を走りぬけると、右手に小さな集落が見えてくる。 周りを山に囲まれ、村落の間を小さな川が流れる。時間の流れが違うような錯覚をおこしそうな場所だ。奥区長であり、「奥ヤンバルの里」の責任者でもある、島田隆久氏は「この集落は、自治意識が強かった。"奥"王国のようなもんだよ」と笑う。確かに、辺土岬を過ぎたあとは、道路が続くのみだし、一番近い集落とも車で10分ほど離れている。那覇から車で4時間ほどかかり、離島にいくほうが時間もかからず容易であると感じるほどだ。かなり共同体意識の強い場所であろうことは想像できる。
 「奥ヤンバルの里」は、宿泊施設や民具資料展示室などを併設した区営の施設である。国土交通省の過疎地域滞在施設整備モデル事業によって、1999年より建設が開始された。総工費5億8000万円の事業である。
 宿泊施設は全部で6棟、1~8名まで宿泊できる。つくりは沖縄の民家風のもので、一部にはバーベキューなどができるベランダもある。「民家の生活を体験しながら、自然を満喫し、やすらげる施設」というコンセプトだ。
 宿泊施設と川をはさんで建てられた展示室には、奥地域の生活の様子がわかる資料や民具がある。私がこの施設に関心を寄せたのは、少数のキャパシティしかないが、資料館を併設したりするなど、できるだけ地元と施設を共生させる方向にすすもうとしている姿勢を持っている、と感じたからだった。
 たいていこのような地域活性化事業とは、大規模なリゾート施設やスポーツ施設などを建設しようとする。むろん総工費だけを見ればこの集落にとっては、桁違いの大事業ではある。だが安易にリゾート的な要素を求めず、地元の自然や文化を取り入れ、自分たちのペースで発展させていきたいという考え方が伝わってきたのである。

これからの開発事業のモデル地域

 私がこの「奥ヤンバルの里」に注目したのは、先にも述べたが、地域活性化・過疎地活性化のために、大規模な施設建設をしなかったことである。
 もうひとつは、奥村の生活がわかる民具展示資料室が併設されたことだ。これだけ小さな集落でよくこれだけの展示品を集められたものだと驚いた。
 だが、一方でこの施設や奥集落には課題もある。

① どのような施設にしていくのか
 「奥ヤンバルの里」には、現在のところ施設として提供している、サービスはない。ここでいう"サービス"とは、一般にリゾートホテルで見られるようなエステやマリンスポーツといったものである。むろん山に囲まれた地域であるから、沖縄の観光イメージである「青い海に青い空、白い砂浜」は見られない。だが自然が豊かなことは一見してわかるし、それがここの魅力である。下手に洗練されたものを利用するよりも、この地域で提供できるものを大切にするほうがよい。
 スタッフの方と話していると、「癒し」「交流」がキーワードとして出てくる。だがどのような形でそれを提供していくのか。支配人は「ここには何もない。あるのは自然だけ。自分で自分の時間の使い道を考えられる人に一番合った施設だと思う」という。
たしかに小規模の施設であるだけに、観光市場の中では特にオプションツアーなどを必要としない、ニッチ部分をターゲットにしても客数だけは維持できる可能性はある。だが若い人に来て欲しい、と希望するにはあまりに何もなさすぎる、というのも事実なのだ。莫大なカネを使わずに、奥集落ならではの時間の使い方を提供する、知恵やアイデアが必要な部分である。

②奥集落での「奥ヤンバルの里」の位置付け
 過疎地域活性化のための事業として建設されたのはよいが、いったいどういう形で、これが過疎化の活性化に結び付けていくのか。これはこの事業が成功したかどうかを判断することにもなる重要な視点である。
 この施設には、地元にとっての直接の雇用効果はない。スタッフは3名で、うち2名は無給状態で運営に携わっている。普通、このようなコテージ風の宿泊施設の場合、リゾート施設であるなら単価は数万円と高くなる。しかしここでは数名で泊まって25,000円程度のために、赤字になるのは目に見える。実際に現在の段階でも光熱費だけをとってみても厳しい運営状況である。客が来ても単価が安く、カネにならない――沖縄観光の分野で何度も指摘されてきた問題点である。必ずしも収益のみにこだわるべきではないが、いつまでも公的資金に頼った運営は続けていけないことも考える必要がある。
 単に集落以外の人が訪れるだけでは、本来の意味での活性化ではない。集落の住民が、これにどう関わっていくのかということが課題になる。

 

2001年6月 執筆
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