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2001年1月

塾生レポート

「沖縄振興新法」には目標達成の期限と目的を明確につけよ
喜友名智子/卒塾生

 
 日本復帰後の沖縄振興は、3次にわたる沖縄振興開発計画法を中心に進められてきた。その第3次振計は、2001年度で終了を迎えるために、その後の振興計画の柱となる「沖縄振興新法」の成立に向けて、県を中心に準備が進められている。

 その検討項目が1ヶ月ほど前に新聞で発表されたが、今回の月例では、「振興」の目的とは何か、という視点からこれらの検討項目を考えてみたい。

「沖縄振興新法」について

 これまでの沖縄振興は、社会資本整備に比重が置かれ、沖縄独自の産業振興にはつながらなかった。これを反省点とし、民間主導自立型経済への転換を図ることを目指している。大まかな方向としては「活力ある民間主導型経済構築」「わが国およびアジア・太平洋地域の発展に寄与する特色ある地域としての成長」「文化、環境、長寿社会等の沖縄の特性も生かした安らぎと潤いのある生活環境を創造、維持、発展」の3つが挙げられている。
 これらの項目を見る限り、現在の沖縄で行われるべき"振興"とは、県内を拠点に活動する産業・企業群の発展と、生活空間の質の向上の2点であると県が考えている、ととらえてよいと思う。

目標達成の明確な期限を設けよ

 私は、過去の振計が持っていた「特色ある産業を生み出す」ことは、県内企業の実態をきちんととらえずに定めた、高すぎた目標であったと考えているので、社会資本整備が充実しただけで評価されるべきと考えている。復帰後30年間の過去は、在沖米軍基地との引き換えに等しい中央政府からの財政移転で支えられた経済だったのだから、企業に「特色ある産業をつくろう」というのが土台無理な注文だったのである。だが、新法で「特色ある産業」への基盤づくりをするのならば、産業界の自助努力による資本・技術などの蓄積を確実に行うことを結果として残さなくてはならず、公的な金に頼った企業は期限を決めて、それなしの経営を軌道にのせることができなければ原則として切り捨てることを明確にする必要があるのではないか。

 民間主導による自立経済をめざすといいながらも、①現在の沖縄振興計画法に規定される効率補助や、②沖縄振興特別事業の継続、が前提となっていること、「民間主導」を「県の振興策がリードする」など、"自立"という言葉が誰の何からの自立を意味するのかのコンセンサスがないとはいえ、考えてみればおかしな話ではある。これまでの振興策によって優遇されてきた産業・企業に対して、新法では明確な期限を設けるのならば、その間に産業基盤を強化するとして意味がある。これまでの振計では10年間という一応の期限がありはしたものの、その間に達成すべき目標が具体的に決められていたわけではない。振計を進める側も施策しっぱなし、「自立」すべき側も頼りっぱなし、これがいつまで続くかわからないどころか、いつまでも続くのではという感覚に陥っていたのが、今でも振興計画を必要とする沖縄経済の最も大きな問題点であったからだ。

 これまでの振計でできなかったことが、なぜ新法では可能になるのか。その理由をはっきりさせない限り、過去の3つの振計と同じになる怖れは十分だ。そして今までとは異なる振興策になるのは、産業・企業への補助金や優遇措置の期限を明確に設けることではないか。新法の目標となる「自立」とは、具体的に、①県内企業が補助金から自立する、②沖縄県が中央政府からの補助金から自立する、という方向で、期間などを具体的に決めたほうがよいのではないだろうか。

「振興」の目的は何か

 「振興」という言葉に、必ずしも普遍的で固定された意味をつける必要はない。しかし、振興法なる名前をつけた制度をつくり、それを公金を使って実施していくわけであるから、その目的は明確にしなくてはならないだろう。むろんその目的は「地域の発展」であろうが、その発展が「地元企業の活性化を通じて住民にも還元される」ものか、「まちづくり等を通して住民に直接働きかける」ものか、振興の目的によって、手段も無数に考えられる。
 「振興」という単語からは、地域経済の発展やそのための地元企業の成長、といった主に地域経済面からの意味合いが強いように思われるが、今一度、沖縄にとっての「振興」とは何を意味するものなのか、根本的な問いがあってもいいと思う。

 低迷する地域経済を"救う"ための振興であるならば、産業優先的、生産者優先的な性格を持たざるをえない。かつて地域活性化の目玉としてもてはやされたテクノポリス構想のように、政策理念はそうでなくても、実行する段階になると"生産者優先"の政策姿勢になっていく傾向は強くなるであろう。
 労働者数が少ない地方では、若者を惹きつけるために積極的に快適な住環境を整備するという姿勢にもなろうが、比較的若年労働者の多い沖縄では、「快適な住環境」整備をしていない段階でも人が集まっている状況だ。他の地域にもまして、生活者重視よりも生産者重視の姿勢が強くなることが予想される。

 ある研究者が「地域に労働力が豊富でも、彼らが伸ばしていきたい産業で"雇用されるべき"人材であるかは別問題」と指摘していた。「その"雇用されるべき"人材を外部から呼べる環境をつくるとき、時に今住んでいる人たちの意に必ずしもそぐわない場合もある」とも。
 振興の目的とは、それが行われる地域住民の生活の質の向上が何より優先されなくてはいけない。本来は民間の行きすぎた経済活動に歯止めをかけるために公的部門は介入する役割を持つものだが、現在の沖縄の状況ではそうもいかない。高い失業率や県内企業の不振を考慮して、経済活動を活発にする開発部分と、生活の質を高める部分を一度に進めていかなくてはならないのが課題となる。新法の柱のうち2つ「民間主導型経済を構築」「生活空間を創造、維持・発展」は妥当であろう。当初は前者に比重を置いても、徐々に後者に比重を移していくことが理想であると思う。

「期間内に目標達成する」姿勢を前面に

 一方で、「わが国およびアジア・太平洋地域の発展に寄与する特色ある地域として成長していくために必要な制度」として表されている内容には疑問を感ずる。「他の地域への貢献」などは、理念としては否定しないが、自分の地域もままならない状況ではある意味で背伸びしすぎで、目標が高すぎる。超長期の展望としてはよくても10年単位で行う事業にしては、企画倒れにならないか。この項目は本来の意味での"振興"ではなく、沖縄にカネを回す理由付けを、苦肉の策でひねり出したもののように見える。名目的に必要であるだけならばとりたてて「検討」する内容はなかろう。この目標が長期の沖縄の夢のようなものであるだけに、この部分のみを見て、他の目標がおざなりになる状況は避けなくてはならない。
 新法制定への県民、国民のコンセンサスを得るために、沖縄の全体ビジョンを示すのも重要だが、それがこの振興新法におさまりきる範囲のものなのか、そのビジョンの中で、この新法がどういう位置付けになるのかは、新法の目標達成の評価をする際の基準になるのだから、現時点で明らかにしておかなくてはなるまい。

 あれもこれもと総花的だったこれまでの振計に比べると、観光・リゾート、情報通信、加工交易型産業、新規産業の創出などに重点を置いており、その分目に見える結果が産業面で出るものと期待する。制度や金を「とりあえずもらえるもんはもらっとけ」的な発想ではいけない。
 なぜ県が国に新法の要望を出すのか、そして国はなぜ沖縄への振興新法を「与える」のか。その目的を達成するために、いつまでにどんな結果を出すのか。これまでの振計とは違う、沖縄の決意表明となるような新法にしなくてはいけない。

2001年1月 執筆
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