松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2000年10月

塾生レポート

WTOとNGO -国際機関の正当性-
小林献一/卒塾生

 
 本月例報告においては、現在執筆中のレポートからWTOとNGOの関係について、特に、EUと同様に、民主主義の欠缺が叫ばれているWTOが、NGOとの関係をとおしてその民主的な正当性を探る意義について報告したい。


(はじめに)

 1999年12月、世界各国から閣僚を集めて開かれたWTOシアトル会議。1994年にマラケシュで締結された諸協定を更に進めるために、新たなラウンドを立ち上げることがその目的であった。具体的には、新ラウンド立ち上げに際して、どの分野を交渉分野とするかを決めることが集まった閣僚達の使命であった。残念ながら、農業、アンチ・ダンピングなどといった分野での合意がなされず、会議は決裂した。世界中の注目を集めた会議の決裂という異常事態の中、WTOの制度上の問題点が指摘されている。問題点は、Internal TransparencyとExternal Transparencyという二つの言葉に集約されよう。


(Internal Transparency)

 まず、前者のInternal Transparency、すなわちWTO内部での意志決定過程の透明性についてであるが、これは、シアトル会議の直中で顕在化した。クリントン大統領のうたい文句は、「開かれた会議」であった。従来、GATT及びWTOにおいては、グリーン・ルームと呼ばれる、日米欧、そして限られた途上国の代表だけであらかじめ、交渉の概要を決定しておくという、裏交渉方式が公然と採用されていた。けれども、クリントン大統領をはじめ、アメリカ政府は、正式な交渉、すなわちWTO加盟国の代表がすべて集まった会議において交渉を進めてゆくことを、方針とし、世界中の閣僚達にシアトルへ集うことを呼びかけていた。会議は、当初、アメリカ政府の方針どおり、グリーン・ルームなしで進められた。けれども、交渉内容の複雑さと事前交渉の甘さから、どうしてもグリーン・ルームの開催に踏み切らざるを得ない状況となり、バーシェフスキー米国USTR代表は、会議終了の前日、グリーン・ルームを召集した。収まらないのは、クリントン大統領の「開かれた会議」という呼びかけに応えて集まってきた、グリーン・ルームに入ることのできなかった閣僚達である。このシアトル会議における失敗からクローズアップされてきたのが、Internal Transparency、WTO内での意志決定過程の透明性の問題である。
(External Transparency)
 第二のシアトル会議で顕在化したWTOの問題点が、External Transparency、すなわち対外的なWTOの意志決定過程の透明性である。クリントン大統領の「開かれた会議」という目標は、WTO加盟国だけに向けられたものではなかった。加盟国に加えて、WTO外部、すなわちNGOへもむけられたものであった。クリントン大統領は、「開かれた会議」というメッセージをNGOへむけても発し、NGOにシアトルへ集うことを呼びかけもしていた。2000年の大統領選を念頭に、クリントン大統領は、ゴア副大統領の援護射撃の意味も込めてNGOのご機嫌を取ろうとしたといわれている。(ラルフ・ネーダー氏が大統領選に立候補し、シアトルのなるワシントン州等で善戦し、ゴア氏の足を引っ張る形になっているのは、皮肉としかいいようがない。)大統領選の話は別にして、実際に対外的なWTOの透明性は大きな問題である。1994年のマラケシュ会議後、WTOがカバーする領域が急速に拡大している。従来は、WTOはモノに関するルールのみをカバーしていたが、次第に、モノ以外の分野、すなわち、サービス、政府調達、製品基準、そして知的所有権などとその管轄分野を拡大してきた。この結果、人々の生活に密着した事柄にまで影響が及ぶようになってきている。一例を挙げると、数年前に、日本でウィスキーの値段が安くなった。これは、WTOにおいて日本が日本酒等よりも洋酒への税金を高くしていたことがクロと判定されたことにより、税法が改正されたことによる。このように、自らの生活に密着したことがらにまで影響が及ぶような意志決定を行っているWTOで、実際にどのように、そして誰が意志決定をしているのかを、外部からもわかるように、というのが、External Transparencyの問題である。
(WTO紛争解決過程に関するExternal Transparency)
 本月例報告においては、これら二つの問題のうち、後者の問題について報告したい。External Transparencyは、WTOにおける立法過程と司法過程において特に問題になっている。このうち、特に司法過程、すなわち紛争解決過程における透明性に焦点を当てる。1994年のマラケシュ合意は、多くの変化をGATTにもたらした。GATTという貿易と関税に関する一般協定というあいまいないちづけから、WTOという確とした国際機関にまでその立場が高められたことは言うまでもなく最も大きな変化であったが、これに勝るとも劣らない変化が、紛争解決過程の強化であった。従来、GATTにおいては、協定違反の判定は、原則として当事国がその判定に合意しないと確定しない仕組みになっていた。例えば、日本が米国の通商301条を協定違反として訴え、GATTがクロの判定をだしたとしても、敗訴した米国が合意しなければ、その判定は確定しないことになる。これに対して、WTOでは一旦WTOのパネルとよばれる紛争解決機関が判定をだすと、判定を認めない旨、加盟国全部が合意しない限り、その判定が確定することになった。これはネガティブ・コンセンサス方式と呼ばれているが、少なくとも勝訴した国が、パネルの判定に合意すれば、その判定は確定することになり、GATTからの司法機能の強化は明らかである。

さて、この強化された紛争解決機関をとおして、いくつもの重要な事例が判定されている。特に、NGOとの関係で重要なのが、Schrimp-Turtle事件である。この事件においては、インド・マレーシアといった途上国において、米国への輸出用のえびを捕る際に、絶滅に瀕している亀をも捕獲してしまうような漁法が問題となった。米国は、亀の保護を理由に、このような漁法によって捕獲されたえびの輸出を制限する法律を制定した。この法律のWTO協定との整合性が争われ、クロ判定が出された。この判定に納得がゆかないのは、当然、米国の環境保護NGOである。このように、一国のなかで制定された法律が、WTO違反という理由で覆されている現状の中で、その判定がどのように、誰の手によってなされているのかが、WTOの正当性を高めるために不可欠となっている。

このExternal Transparencyは、大きく分けて、(1)紛争解決のために開かれる当事国とパネルとの会議の公開、(2)amicus brief(法定助言者による意見書)と呼ばれる、第三者、特に環境に関する事例であれば該当する環境に関する専門知識を有するNGOから意見書をパネルが参考資料として採り上げるか否か、そして(3)紛争解決に関わる当事国からの提出書類などの文書の公開の三点が問題となっている。
(21世紀へむけての課題)
 WTOは、NGOなどを正式に加盟団体として認めているILOなどと異なり、主権国家のみを加盟国する国家間機関である。この国家間機関であるWTOの正当性をいかにして担保するかが、External Transparencyの問題では問われている。香港などを中心とした途上国は、このWTOの国家間機関として性質を強調し、External Transparencyの問題には、非常に消極的である。実際、国際法であれ、国際関係論であれ、その主たる対象は主権国家という目に見える存在であった。けれども、世界経済の急速なグローバル化や、情報通信技術の進化と浸透により、WTOの正当性、もっと言うならば、実際に外交の専門家以外の一般の人々からどのようにWTOでの意志決定過程が正当なものとして認められるかという問題を、主権国家同士で構成される、従来の思考方法では、解決できなくなってきている。Civil Societyという、目に見えるような見えないような、形があるようでないような、不可思議な存在をどのように扱うか、そして、WTOの正当性、特に民主的な正当性をどのように高めてゆくか、External Transparencyの問題は、21世紀の抱える様々な問題の難しさを示唆している。
以上。
2000年10月 執筆
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