論考

Thesis

あびこ、”螺湾蕗と明日萌”で地域振興について考えた…の巻

1.はじめに

 現在、道内各地で展開されている産業クラスター創造活動。1999年6月末現在、13か所ある各地の研究会の動きは様々であるが、今回は生まれたばかりの産業クラスター研究会の活動を通じて感じたことを書くことにする。

2.あびこ、足寄町へ

 今回あびこが訪れた足寄町は、多くの人が最も北海道らしいと感じる風景を持つ十勝平野の中に位置している。東西60Km,南北41Km,面積1400平方キロ(香川県に匹敵する面積)で全国で一番広い町である。夏は暑く30度を越えることもしばしばあるが,冬は寒く零下20度を下回る。とはいえ、『足寄』と聞いて連想するのは、同町出身の「松山千春」という歌手だという方も多いものと思われる。
 6月下旬、あびこは足寄町のクラスター研究会の会合に参加した。道内各地の研究会の中では、発足して最も新しく、活動を始めてまだ日が浅いが、この研究会もまた、「地元の地域資源を活用して競争力のあるビジネスにつなげ、地域の核となる産業群を育成して雇用を創出する」という目標を持っている。
 今年度の活動として、足寄産業クラスター研究会は、

 A:螺湾蕗の栽培技術の確立:将来的には、成分の利用方法の開発へ発展させ、成分を利用した商品を開発したい。
 B:研究会の活動そのものを軌道に乗せる:「シンポジウム」開催によって、町民に『産業クラスター』とは何かということを浸透させる。

 「シンポジウム」に関しては、7月19日に開催して、町内にクラスター活動を周知させるよていとのことだ。そこでは、北海道産業クラスター活動の提唱者である、北海道経済連合会の戸田会長の講演や、ビジネスプラン推進モデル事業のアドバイザーでもある、帯広畜産大学地域共同研究センター長の美濃教授と戸田会長の対談でわかりやすく伝える予定だ。

 研究会のメンバーは、町の酒屋さんや地元の建設業の方や農家の人、役場や農協の方もいて多彩だが、活動は今のところ、町の名産品である螺湾蕗を、作物として生産するためには、どの防虫方法(農薬を使わない)が最も効果的かという試験を実施したり、いかに町の人に「産業クラスター」ということを伝えるのかということを模索している段階だ。足寄の産業クラスターのこれからの姿について議論していくためにも、戸田会長の講演を今後の活動に向けた第1歩にしたいと考えている。

3.明日萌と螺湾蕗の朝

 産業クラスター研究会に出席した翌朝、旅館の食堂で、朝食に螺湾蕗が出た。柔らかく、甘くて、非常においしかった。静かな町の中で食事をしながら食堂のテレビで流れていた、NHKの朝のドラマ『すずらん』を見た。ドラマも好評で、「すずらん」の収録が行われた明日萌(あしもい)駅のある沼田町(明日萌駅は架空の駅)は、観光客で賑わいを見せているとのことだ。東京在住のあびこの友人もわざわざ北海道旅行でこの地を行程に加えたほどだ。

 「すずらん」でのまちおこしということなら簡単に想像がつく。「すずらん」の名を付けた菓子や名産品等を売店で売り、ロケ地ということで、ロケ風景の写真やドラマで使ったセットや衣装などを飾った施設(「すずらん」記念館といったようなもの)をつくる。もしくは既存の建物の一角に特別展示室を設置する…とはいうものの、かつてあれだけ一世を風靡した朝のドラマ「おしん」の舞台になったところ(どこか東北の町だったはず)が現在も爆発的な集客力を誇るかというと、そういう話は耳にしたことが無い。

…こういうものは、継続させるのが難しい。同じように北海道を舞台にしたドラマ「北の国から」も、数年おきに放映されて、絶えず消費者(観光客)を呼んでいるが、富良野の自然という地元の素材を活かしているのが、東京のフジテレビということでは、必ずしも「富良野の」産業とは言えないだろう。富良野は、現在「演劇」をキーワードに、新たな展開を図ろうとしている。「北の国から」ブームから一歩踏み出そうとしているが、まだまだ動きは著についたばかりだ。

 その後、研究会の方に案内されて、螺湾蕗の試験圃場へ向かった。実際に見る螺湾蕗はあびこの背丈よりも大きく、青々とした葉が一面に広がっていた。ふるさと小包としても発送しているため、収穫されたものはまずこの注文に応じなければならない。そのため、例年通りの収穫が得られないと、普通に市場に回るものの量が減ってしまうとのことだった。また、虫の被害が大きいので、何とかしてこれらを食い止めたいとのことで、研究会の病害虫防止プロジェクトに参加しているとのことだった。

 螺湾蕗は、加工場に集められて、素材の良さを前面に押し出した加工食品として出荷されている。とはいえ、別な言葉で言うと、まだまだ工夫の余地があるということだ。原材料である螺湾蕗をどうするのか。「産業クラスター創造」の発想の原点はここにある。成分は何なのかをしっかり調べる。加工するためには機械の導入が必要なのかどうか(一部始終の時間を計測していた…かなり熟練した手つきで女性たちは作業をしていた)。市場にニーズはあるのかどうか、時間はかかるがこれらを丹念に調べ上げてこそ、産業クラスター創造につながっていくのである。

4.「しゃぶりつくす」ことができるかどうか?…クラスター創造の鍵

 「螺湾蕗から産業クラスターへ」と「”すずらん”でのまちおこし」の違いは何かということになるが、要は「しゃぶりつくす」ことができるかどうかだと考えている。これは、産業クラスターを形成する上で必要なものだが、地域資源について徹底的に調べ、使える成分は何か、どのように活用するのかをはっきりさせて製品化を目指すのが産業クラスター創造活動だと思われる。

 先ほど例示した「北の国から」を辿っていくと、最終的には、脚本家倉本聰氏にたどりつくが、これを「しゃぶりつくす」のは難しいのではないか。彼に負うところが多いということは、彼がいなくなると資源の供給源がなくなってしまうということになる。「すずらん」などは、今年は『旬』だからブームになるのであって、じっくりと「しゃぶりつくす」段階では、もう別な番組が始まり、寿命が尽きているのではないだろうか。次から次へと創造するしくみが備わっていないと、持続させるのは難しいと思われる。短命であっては、地域経済の軸に据えるのは危険だともいえよう。これは、ディズニーランドの人気と、その反面、各地に相次いで建設されたテーマパークの経営が危機に貧していることからもわかる。

 産業クラスター創造は時間がかかる。1,2年ですぐに結果が出るものではない。ただ、こういう地域作りには時間がかかるが、産学連携のプロジェクトから事業化につながり、売り上げをもたらすことで、単なる運動論ではない、ビジネスとしての結果が出せるという成功事例を示そうと、現在クラスター事業部では、7つのモデルプロジェクト(うち1つはすでに、製品の事業化している)を進めている。
 クラスター創造は時間がかかる。しかし、ただ待っているだけでは何も生まれない。自らが主体的に活動してこその成果となる。ブームというものは、すぐに火がつくが、なかなか持続しないし、それだけに頼ってしまうと、大怪我をしてしまう。

 誤解の無いように言うと、「産業クラスター創造活動」は錦の御旗ではないし、単なるまちおこし活動でもない。市場における競争力や、戦略性を持った経済基盤を作り出す活動なのである。この活動を続けるために、どうしても行政の対応の変化が求められたり、地元産業界の連携が必須になっていく。こういうことで、やがて地域が変わり、社会が変わっていくのである。唱えればかなうという類のものではない。足寄町にも、地元の現状を憂い、「何とかしなければ」との思いからこの活動に関わっている方がいる。まだ数は多くないが、活動を続けることでどんどん輪が広がっていくものと思われる。資源や経済基盤を使うも殺すも、最も重要なのは、そこで活動する人なのだから、彼らこそがクラスター創造の源といってもよい。

 「明日萌ブーム」は、おそらく長続きしないとあびこは考える。今まで数多くのドラマのロケ地が観光ブームを巻き起こした。とはいうものの、このブームはやがて細くなり、今年ほど沼田町を訪れる観光客は多くないだろう。ブームというだけに、ピークがあり、やがて過ぎ去ってしまうといった、一過性のものだと思われる。ドラマがもたらしたブームに便乗すること自体は否定しないが、これをしっかりと沼田町の産業振興につないでいくには、道のりは険しいと思われる。しかし、『すずらん』を軸に沼田の人々が集まり、知恵を絞って地元経済のために活動することにつながっていくのなら、期待が持てる。

 映画のロケ地を希望する自治体が多いと聞く。たしかに知名度が上がり、一時的には観光客の入りが増加するだろう。「○○まんじゅう」の類の土産品の生産が始まり、少しは収入につながる。しかし、このようなものは、一瞬(たまに富良野のような例外もあるが)、パッと盛り上がり、すぐにしぼむものではないだろうか。多かれ少なかれ「外部に依存する」というのは、自分たちでは何も考えずに、本州に依存するという北海道そのものがたどってきた道ではないだろうか?

 その結果が、域際収支3兆円の赤字。公共投資・官依存の体質だったのではないだろうか。このままでは、北海道は危機的状況を迎える…というところから北海道産業クラスター活動は出発している。そういう意味では、いまだにこういう一時的なブームに乗っている地域は、その先のことを今のうちに考えておかないと、「すずらん」関連施設が後になって、足を引っ張ることになりかねないのではないだろうか。

 足寄駅には、「あしょろ銀河ホール21」が併設されている。この建物の中には、先述した松山千春に因んだ展示がされていたが、特段目を引くものではなく、若い頃の彼の写真や獲得した賞などが飾ってあった。たしかに、足寄は松山千春で有名になったかもしれないが、彼の知名度に頼らず、地元の現状を憂い、「何とかしなければ」との思いからこの活動に関わっている方がいる。力強く歩み出しているという点で、今後の動きを注目していきたい。

 北海道にも夏が来た。クラスター創造の熱波が経済の冷えている北海道に広がっていくように期待している。あびこもこの動きについていきたい。


 螺湾蕗:ラワンブキとは足寄町螺湾地区に自生する巨大なふき。3メートルに達するものもある。フキの幹を切ると,水がどっと切り口からあふれ出る。大きくても柔らかく、味も最高。各地に出荷されている。

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我孫子洋昌の論考

Thesis

Hiromasa Abiko

我孫子洋昌

第18期

我孫子 洋昌

あびこ・ひろまさ

北海道下川町議/無所属

Mission

地域振興

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