Thesis
1.はじめに
表題のとおり、5月は活動報告書を仕上げるということで1ヶ月を費やしたといっても過言ではなかった。というのは、クラスター事業部の手がけている事業の中で、道庁などからの補助事業として実施した事業があり、前年度の事業を終了したことを報告するにあたり、それぞれの事業に関して報告書を作成し、検査(監査)を受けることになっていたためであった。クラスター事業部は、民間出資の財団に所属しているものの、その活動に関しては、民間からの資金および、道庁、開発局、通産省関係の団体からの補助を受けて実施した事業も多く実施している(もちろん、クラスター創造活動に関連しているのものばかりだが)ため、4月から5月にかけて、「監査・検査月間」になった。
3月締めの会計監査を受けるための帳簿の点検や、「精算払い」の補助金の確定のためには、担当部局の監査を受けるというのが、世のしきたりなんだそうだ。あびこは、「報告書よりも実績」が大事だと思っていても、年度ごとに活動を締めて報告すると、スポンサーの側は安心するものなのだと実感した。
あびこ以外のクラスター事業部のメンバーは、それぞれ担当した事業の活動報告や、経理上の作業もしながら、新年度の活動も両立させていた。広島から戻ってからのあびこは、昨年度主に担当した起業家育成事業と海外調査の報告書の執筆(分担して書いたが)に取り掛かった。
今月の月例報告では、「あびこの色」が強く出ている起業家育成支援事業の報告書を例に、「事業報告」ということについて、今回は考えてみることにしたい。
2.「北の起業家ファーム」報告書より
起業家育成研修事業「北の起業家ファーム」の報告書をまとめた。内容としては、(いつ、どこで…といった)事実関係を載せた部分と、参加者および開講準備委員会の意見、それに総括意見というものになった。できれば、個々の参加者について、この人のプランはこうだったけど、この事業を通して、どういう風になっていったということについて踏み込んだ内容にしたかったが、報告書自体が、公になる可能性もあり、会社に黙って開業準備をしている人もいたりするので、こういった情報は、クラスター事業部のメンバーの中に蓄積されていくことになっていく。ノウハウといった類の情報は、内部で蓄積していくのが、今後の事業を考えると有用なのかもしれないだろうが、表面的に「報告書」の体裁を取ってしまうと、なんだか「丸く収まってしまう」気がしてならない。
…とはいうものの、そこはクラスター事業部のやること。ただの事実関係の羅列に終わらないのが一味違う。政策評価という分野にも関連することになるのだが、やってみてどうだというのが加わってこその報告書だということで、総括意見(提言)を載せた。ここで、その要略を載せる。修正や構成はクラスター事業部の人に手伝ってもらったが、この部分のメインの執筆者はあびこなので、執筆者本人の快諾を持って転載することにする。
(「北の起業家ファーム」報告書より一部転載)
今年度の「北の起業家ファーム」を振り返るにあたり、この事業の目的に照らし合わせて、どれくらいの成果が得られたのかを述べる。
開講期間中にも参加者、開講準備委員会の方からこの事業に対する意見は以下のものであった。
クラスター事業部(以下、「当事業部」という。)が今回の研修を通じて得た貴重なノウハウは、上記意見とも照らし合わせて次のようにまとめることができる。
<既存の起業支援制度の照会・紹介をすることが重要である>
当初、企画段階では、今すぐにでも事業化ができそうな人たちを対象に事業を実施しようという案もあったが、実際募集してみると、実に様々な方からの反応があった。問い合わせの段階で、「この研修を受けると、何か資金補助が受けられるのか?」という質問があるかと思えば、「(事業化に向けて)何をすればいいのかわからないが、とりあえず受講してみたい」という方まで、実に様々だった。
そのためにも、当事業部が持ち合わせている、新規事業化支援に関係する機関、人材のネットワークや既存の各種起業支援制度に関する情報を、継続的に提供していくことが重要になる。これらは、何も目新しい情報ではない。よく探せば得られる情報なのだが、起業を志す人間が動き回るのでなく、クラスター事業部で情報収集して提供することにより、彼らはその労力を事業化へと振り向けることが可能になる。しかしながら、この程度の対応でさえ、実施するのとしないのでは、まるで異なる。
<事業化に向けたフォローアップ体制を自前で持っていることは強みである>
”勉強のための勉強”ではない、実践的な起業家育成事業。「やりっぱなし」ではない、その後のフォローアップ体制を持った事務局の取り組み姿勢。これが起業家研修「北の起業家ファーム」が、他と違う点である。半年間の研修でどれくらい起業家が生まれ、またその事業が成功するかどうかをこの時点で評価するのは難しい。起業家研修とは、研修実施後の参加者の活動状況、事業化の歩みが評価基準になるのではないだろうか。いくら効果的な講義、研修を実施したとしても、開業した者が皆無だったり、起業してもすぐにつまずいてしまうようではその研修事業の目的を達成できたとは言い難い。ある意味では、単年度決算では難しい事業なのかもしれない。長期的な視点と体制で参加者を支えていくことのできる体制と環境づくりが望まれる。
産業クラスター創造を念頭に置いた「北の起業家ファーム」は、参加者のフォローアップを最初から掲げており、既存の起業家研修とは一線を画すものといえるのではないだろうか。それは、当事業部で実施している「クラスタープロジェクト開発事業*1」へつなぎ、事業化までの具体的な支援を受けることができる道が開けている点である。
<起業家研修とアドバイス事業の組み合わせによる適切な対応が必要である>
「北の起業家ファーム」は、道内で起業家を生み出すために継続するに値するが、よりよい事業に発展させるためには、寄せられた意見を参考にして、もっと外部の人材を多く巻き込んでいくことが望まれているのではないだろうか。
そこで、今年度に実施された、SVAP*2で得られたノウハウ・人材の有効活用がアイデアの一つとして考えられる。この制度は、当事業部が財団法人ベンチャーエンタープライズセンターより受託して進められた事業だが、道内各地の経営者、起業家からの相談に、あらかじめ登録してある専門知識を持ったアドバイザーを派遣し問題解決にあたらせるというものだ。当事業部では、68名の専門家を登録している。
この運営で得られたノウハウ・人材を、「北の起業家ファーム」に対する要望に応える一つの方策として生かすことは可能ではないだろうか。
例えば、起業への第一段階の基礎知識を、「北の起業家ファーム」で固め、自分の開業する分野の専門的な課題について、専門分野アドバイザーからアドバイスを得るようなカリキュラム構成にすることも可能だ。
あるいは、事業化を考えて、専門分野アドバイザーと相談した結果、「北の起業家ファーム」を受講した方が良いという結論に達することもあるだろう。「起業家ファーム」の中で、必要と思われる部分について学んだ後、すぐに現実に役立てる場合もあるだろう。いずれにしても、起業家研修と個別のアドバイスの組み合わせは起業化を早める上で非常に有効な方法であることが今回のアンケート結果にもあらわれている。この点は、是非平成11年度の事業でも新たに取り組みたいノウハウである。
<開講準備委員会および講師陣について>
「北の起業家ファーム」では、新規事業化に携わる実務家・専門家による開講準備委員会を設置して、この事業の詳細について検討した。それぞれの起業家支援に関する専門知識を統合することでカリキュラムの編成が可能になった。また、彼らの人的ネットワークを総合させることにより、この事業に様々な分野の専門家を講師として招くことに成功した。そのため、この事業への参加者は、道内で得られる起業に関する最高レベルの講師陣という何にも代え難いものを得ることができたのである。このことは、クラスター事業部としても今後の起業家支援を考える上で、大きな可能性が開けていると言ってもよい。
<起業家を志す者の立場で考える>
道内でのアントレプレナー創造を目標に掲げる事業主体間で連携した方がより効率性の高い結果が出せるのではないだろうか。事業間で競い合うのは良いが、協力も必要である。
道内で起業家教育に従事できる人材は数少ないし、また、起業家を目指す人材にも限りがあるため、各事業が連携し、(例えば)Aという人間が①というアイデアを持参してきたら、その内容と熟度を考慮して、○○という起業家研修へ。また、Bという人間が②というプランを持ち込んできたら、△△という起業支援制度の適用を促す…という具合に、窓口を共有した方が、起業を志す人間にしてみたら、「まず、どこに行けばいいのかわからない」ということもなくなる。また各段階に応じたアドバイスを途切れることなく得られることになる。
もしくは、窓口の一本化が困難であるとしても、各事業主体で実施される起業家研修や、各種起業支援制度との連携を取り合うことによって、起業に関する情報をより多く起業家を志す人間に提供することが可能になるのではないだろうか。
これは、地域で起業家を生み出す風土をどう醸成していくのかにつながる。本研修でも講師間・ワーキンググループメンバー間の横の連携を通じて、自分たちの不足している部分を改めて見直す契機にもなった。しかし、道内でのアントレプレナー創造を目標に掲げる事業主体間で連携することによって、何よりも受講生にとって一番良いサービスを提供できたと感じている。
いくら制度を充実させて、起業しやすい環境を整えても、実際に起業家が誕生しなければ、「起業家育成支援事業」である「北の起業家ファーム」の成果は無に等しい。今回の「北の起業家ファーム」から、実際に事業化・もしくは近い時期に事業化予定のある参加者は、2つのコース合計14名の参加者中3名いる。この創業者数をどのように評価するかは読者に任せるが、初年度の事業からこういう結果になり、クラスター事業部にとってはよい励みでもあり、また次年度以降に対する目的意識の源にもなっている。
今年度の「北の起業家ファーム」参加者の中には、周辺分野で開業している方もいる。また、短期コースの参加者の中には、北海道への移住を念頭に置きながら事業化の準備を進めている方もいる。他にも製品の試作に取り掛かる方もいるなど、それぞれの歩みを進めている。中にはクラスター事業部の「クラスタープロジェクト開発事業」に引き続いて応募し、事業化を目指してフォローアップと支援を受けている参加者がいる。また、他の参加者もそれぞれ事業化の課題についての認識を持ち、「何がわからないのか」がわかったという点で、事業に参加した意義があったと思われる。
「私達は、北の起業家ファームの”第1期生”ですから…」という言葉をある参加者から耳にした。それまで事務局サイドでは意識していなかった。この事業に対する参加者の熱意というものを痛いほど感じる一言だった。当事業部の抱える事業のひとつであっても、参加者にしてみればこの「北の起業家ファーム」が、産業クラスター創造活動との出会いであり、事業化へ向けた第一歩なのである。
この事業から起業家が生まれ、道内で成長していくことは、すなわち「北の起業家ファーム」自体も成長することを意味するのではないだろうか。この事業の持つ意味は大きく、私達に課せられている責任も重いことには違いないが、今後、2期生、3期生…という将来の起業家たちとの出会いも期待している。
(注)
という内容で、報告書の中で最も訴えたい部分を書いたのだが、先述したように、この意見を出して、いかに事業を継続させて、起業家の卵たちの成長をサポートしていくところにこそ、この事業の本当の評価がされることになるのだろう。
3.おわりに—「報告」って何だろう?
普通に考えたら、上述のような提言を載せることは、単年度事業を振り返って報告する場合には、余計なことになるのかもしれない。単純に「どこで何をした」ということで事足りるといえばそれまでだとも言える。
公的な資金を使っている事業の報告だから、どういうことにお金を使っているのかということを、きちんと報告するのはもちろんだ。払っている人に対して、そういう義務が発生しているのはわかる。とはいうものの、そのための書類を作ったりすることに費やすエネルギーと時間を、本来の目的のためだけに振り向けることができたら、どれだけ効果が出るのかな…と考えてしまうこともある。ひとつの目的に向かって活動しながら、報告書を作ることは難しいものの、何らかの報告をしないと、スポンサーに対する責任を果たしていないことになる。とはいえ、その報告が「報告のための報告」になると、その報告の持つ意義も小さくなる。
しかし、報告書が欲しくて彼らも予算をつけているのではないだろう。本来の目的はもっと別のところにあるのではないだろうか?いかに成果をもたらすかということではないだろうか。もちろんその方法、経過について後ろめたいことがあってはならない。とはいえ、「いくらお金がかかりました。どこで何をしました。成果は生まれませんでした。おしまい。」という報告や、「Aという問題がある。Bというところが原因だ。Cという課題が横たわっている。以上」では、その事業を実施した結果が情報として伝わり、その報告を伝えられた側も「ふーん、なるほど」で終わることになると思われる。
せっかく、何かやったのならば、「どこをどうすれば成果が出るのか」というポイントや、「誰が何をすれば課題解決になるのか」というところまで踏み込まないと、せっかくの報告も「もう一息」のところになってしまう。
この文章自体も、「月例報告」そのものであり、塾生の活動・研究を報告し、それぞれの塾生が何を考え、どのように活動しているかがわかるようにという目的のものだということはわかっているつもりだ。あびこは、「松下政経塾第18期生の我孫子 洋昌」がどのように考えながら、塾生としての活動を行っているのかということを主眼において報告をしている。この報告は、「どこで何をしました」ということばかりに終始しないようには気をつけているが、やはり「最終目的を考えて、そのためにどう活動しているのか」ということだけは、忘れないようにしながら活動を続けていきたいと考えている。
北海道にも初夏が訪れる。夏、秋、冬が過ぎると政経塾から旅立つことになる。そのあと何をするのか、もっと後に何をするのか…今年は去年にも増して、「あびこ」の将来像を考えながら行動する年になることは間違いない。残された時間も限られているが、小さくまとまらないように、のびのびと活動を続けていきたい。
Thesis
Hiromasa Abiko
第18期
あびこ・ひろまさ
北海道下川町議/無所属
Mission
地域振興