松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1998年3月

塾生レポート

蒙古疾風録 怒涛編
平島廣志/卒塾生

 

はじめに
今回、開発政策と開発国の社会問題をテーマにフェロー有志による共同研究企画「モンゴル塾」を開催した。
事前勉強会と10日間程のスタディツアーを組み合わせたもので、計画準備段階から現地でのアポイントメントにいたるまで、幹事の尾関健治塾生(17期)の労を多としたい。 この企画が成功したことよりもフェローという枠をこえて協力し合えたことのほうが意義深く感じる。 いまだに塾内ではフェローの共同研究を「正規の研修ではないから」とあからさまに一段下に見る、また露骨に黙殺する空気もなきにしもあらずだが、研修の評価はいかに制度に則っているかではなく、いかに充実しているか、いかに将来政治家に成る上で意義があるかに重点が移るべきであろう。

モンゴルの抱える深刻な問題は、モンゴル社会の中に生じている時間的な亀裂に有るように思える。 それは大都市ウランバートルに対する地方の時差であり、貨幣経済に対する物物交換の経済の、定住民に対する遊牧民の時差である。
モンゴルには二種の国民がすくなくとも存在し、彼らはそれぞれ異なった時間の中で生きている。
現在、モンゴルを動かしているのは、全国民からきれば少数のウランバートルに定住している都市生活者である。
彼らはIMFから派遣されたアドバイザーの指示に従って経済政策を立案する優秀な数名の官僚と、国営企業の民営化で怪しげなお金を手にしている「民主派」の政治家からなっている。
96年の総選挙で突然政権が転がり込んできた現・与党の民主連合は上記の官僚が書き上げた急進的な行財政改革(彼らはそれをニュージーランドスタイルと呼んでいた)を強引に推し進めている。
次の総選挙が有る2000年までに現在の国営企業の70%を民営化するとのことであるが、この解体されるべき国有企業リストには、年間国家予算300億円の歳入のうち約2割をまかなうGOBI社(カシミヤ関係の繊維会社)や6割をまかなうエルデネット銅山会社が含まれている。
これら企業は民営化されたあと、それぞれ有力政治家やまたはその親族に分配されるしくみになっている。 市場が伝統社会を腐敗が無知を食い荒らしているといえる。
また一方で貧困を源とする社会問題は放置されたままである。
大量失業が、家庭の崩壊を引き起こし、それが飲酒を暴力う誘発する原因となっている。
家族の崩壊が社会問題として一番顕在化しているのがストリートチルドレンの問題である。 人口60万人のウランバートル市内に1万人のストリートチルドレンが存在するこの現実をどう考えればいいのだろうか。 財政再建とインフレの撲滅が最優先だとするオユンゲレル大蔵省構造調整局長は、ストリートチルドレンの問題を政策的にはプライオリティーが低いと言い切る。

モンゴルからの帰途は北京まで鉄道をつかった。所用時間は30何時間。
まだ朝なので冷え込みが激しいウランバートル駅をモスクワからきた国際列車はゆっくりと出発した。

ゴッ、トン。とゆっくり大きな音を立てながら列車が動き出す。尾関は車窓によって食い入るように外を見ていた。
ウランバートルへの名残惜しさからか、仲良くなったモンゴル国立大学の女子大生が見送りに来てくれるという望みをまだ捨て切れないためか、身じろぎもせず過ぎてゆく駅の入り口を見ている。
この駅でもあちらこちらで重そうな鉄屑を抱えるストリートチルドレンの姿が散見された。 彼らはこの鉄屑拾いで生計をたて、その多くはパンと水の食事一日一回という生活を送っている。
IMFとモンゴルが推進する政策はテキストとしては完璧であり、聞いていても耳に心地よい程理路整然としている。
でも、鉄屑がいっぱいつまった大きな荷を何度も何度も抱えようとしてはひっくり返っているボロボロの子供たちを車窓から見ていると、それがモンゴルの現実とはどこか救いようもなく乖離しているのではないかと思えてしまう。

1998年3月 執筆
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