Thesis
今回、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の短期実習生として5/30~7/13 までの期間、東アフリカのケニアにおいて難民キャンプの救済事業に関わる機会を得た。これまでにもUNHCRなどの国連機関が運営する難民キャンプを旧ユーゴ、ネパールな どで視察した経験はあったが、40日以上に渡って難民キャンプに滞在し難民とともに生 活をしつつその救済活動に実際に関与していくという体験は初めてであった。
私が今回活動の舞台としたケニアそのものは難民を流出する難民発生国ではないが、周囲 をソマリア、エチオピア、スーダン、ルワンダ、ブルンジ等など部族紛争により「大量難 民」を生み出している難民発生国に囲まれている。
推定で現在アフリカ難民は約750万人いると言われているが、ケニアだけでもその内の 60万人以上が存在しており、当然ながら貧しいケニア単独ではそれらの難民を救済する ことはできないので、UNHCRやUNICEF(国連児童基金)、WFP(世界食糧計画)など国連機関が代わりにケニア国内の難民救済事業を行っている。
この様な国連主導の難民保護を「難民の国際的保護」と呼び、移民の受け入れを中心とした各国政府による難民救済事業(例えば、ドイツ、スウェーデンの様なもの。)を「難民の国家保護」と呼んで一般には区別する。
今回の研修でアフリカ地域を選んだ目的も単に地域紛争の激化によって難民が大量に発生しているという理由からだけでなく、このような難民を国連がほぼ完全に肩代りして保護している「国際的保護」の代表的なケースであると考えたからである。
実際貧しいケニアは周囲をほぼ完全に紛争国に囲まれている。
米軍を主力とする国連PKOの失敗とその撤退の記憶が生々しいソマリア、その隣国エチオピアは北部に新興エリトリアとの独立戦争と南部にオモロ族の反乱を抱えている。
またスーダンは70年代の独立以来北のアラブ系イスラム教徒と南部のエチオピア正教( キリスト教の一派)を信仰する黒人諸部族が激しい内戦を展開しており、かつてヨーロッ パ人宣教師をして”アフリカのスイス”と言わしめたルワンダ、ブルンジはツチ族とフツ族が互いに大虐殺を演じているというありさまである。
これらの国から難民たちが陸続とケニアをめざして流入してくるのであるが、そのケニア とて現在のモイ大統領の露骨な出身部族優遇政策と実質70%にのぼる驚異的な失業率の ため各部族間の軋轢が激しく、首都ナイロビをはじめ政情が極度に悪化している。
アフリカの最大の特色は良きにつけ悪しきにつけ「部族」という単位が社会、政治、経済 全てにわたり基本的な単位として生き続けていることであろう。
例えば表向き議会制民主主義の制度をとっている国でも各政党はそれぞれの部族に立脚し て存在するので選挙そのものが部族間の亀裂となっている。
そのため経済の悪化、政治の不安定化は常にそく部族同士の抗争に発展する可能性があるといえる。
また冷戦体制の崩壊は東西両陣営が貧しいアフリカ地域から手をひくきっかけを与え、皮 肉にもこの地域の不安定化の主たる要因と今ではなっているのである。
この様な状況の中でケニア政府は難民たちを自国の治安に対する明白な脅威と考えつつも 彼ら難民を利用して先進国から援助を引き出す方法をとっている。
ケニア政府が土地を提供したケニア国内に設営されている15ヶ所の国連キャンプはその すべてが人が生活するのに適さない不毛の土地であるが、この様な地域には優先的に国連 の社会経済開発予算がつぎこまれている。
私が実習生として着任したツルカナ州カクマタウンの難民キャンプもその例にもれず何も ない不毛な砂漠地帯が広がるだけの土地であった。
ツルカナ州はケニアの最北に位置しスーダンとウガンダの国境線沿いにひろがる地域である。
この地にはもともとマサイ族と同じ様に近代文明を拒否してラクダの放牧と狩猟生活を続ける半裸のツルカナ族が暮らしていたが数年前に襲った大飢饉で人口が激減するという悲 劇がおきた。
ケニア政府はこの経験に基づいて、国連に難民保護のための用地を提供する代わりにツル カナ州の重点的な地域開発を支援させたのである。
こうして1990年に7000人のスーダン難民を最初としてカクマ難民キャンプが開設された。
現在では難民の人口は約40000人、その9割をスーダン人が占めている。キャンプの大きさは南北に8Kmと巨大で、部族宗派ごとに50のコミュニティーを作って暮らしている。
私の仕事はソーシャルサービス部門のコミュニティーディベロップメントという部署で、主に配給や職業訓練を担当し、時にはキャンプ内の巡回なども行うのである。
特に6月20日はアフリカ統一機構(OAU)難民条約の調印を記念した「アフリカ難民 の日」というアフリカ全土の祭日であり、その準備や当日のプログラムを担当した。
難民の苦情は多岐に渡っているが、中でもマラリア対策にたいする要求が大きかった。
マラリアの猛威は深刻で新生児の6割がこの病で死亡しているのである。
Thesis
Koji Hirashima
第15期
ひらしま・こうじ