Thesis
本稿では現在筆者が行っている「プロギング」の活動から、地域における住民参加や協働のまちづくりを考えていく。
突然だが、皆さんは「プロギング」という言葉・活動をご存じだろうか。プロギング(Plogging)はスウェーデン語で「拾う」を意味する(Plocka upp)と ジョギング(Jogging)を組み合わせた造語であり、その名の通りジョギングしながら道端のゴミを拾っていくというスウェーデンで発祥した新しいソーシャルアクションのひとつである。
ジョギングという健康のための運動とゴミ拾いという社会活動を組み合わせたこの活動は、昨今の環境問題への関心の高まりやSDGs(持続可能な開発目標)達成への取り組みが盛んに叫ばれる中で注目を集めている。
プロギングの長所のひとつとして、参加へのハードルが極めて低い点がある。ジョギング+ゴミ拾いというシンプルな活動は一人でいつでも始めることができるし、もちろん何人かでチームを組めば楽しみながらたくさんゴミを回収することができる。ビニール袋さえあれば(場合によってはトングや手袋等も必要になるが)、親子連れなど老若男女誰でも自分のペースで楽しむことができ、ジョギングもゴミ拾いも基本的にほとんどの人が経験していることなので特別なスキルも必要ない。
決まったルールもないのでコースも自由。ゴミ拾いをメインに走るスピードを落とす、反対に走ることをメインにして大きな目につくゴミだけを拾うなどやり方をアレンジしてもいい。
走った距離が伸びていくこと、またゴミ袋がいっぱいになっていく様が身にも心にも充実感を与えてくれ、こうした動きを通じて自身の健康増進と街の環境美化を目指していくことができるのがプロギングという取り組みである。
現在筆者は故郷である神奈川県横須賀市において近所の方々と月に一度程度プロギングを行っている。我々が行っている流れでは、毎回ゴミが多そうな繁華街などおおまかなエリアを決めて近くの駅に集合し、初めて参加する方たちも一緒になって簡単な準備体操を行う。それが終わると細かなルート決めを一緒にしていく。「〇〇公園は絶対汚れている」「ちょっとしんどいけど△△の坂道のほうまで行ってみようか」など地元ならではの情報もあり、自然とコミュニケーションも生まれていく。ルートが決まれば終了時刻を決めてスタート。あとは走りながらゴミを拾っていくのみだ。集団でするプロギングは楽しみながら取り組めることが第一なので、話をしながらでも、遠回りをして景色を見ながらでもよい。そうこうしているうちに、用意したゴミ袋はいっぱいになっていく。
しかし、走りながらゴミを拾っていくのは思っているよりも難しい。単にジョギングをするよりもスピードの上げ下げやゴミ拾いのためのかがむ動作が加わることでより複雑な運動になるのだ。簡単なように見えて、一時間もすれば汗をかいている立派なエクササイズである。街中のゴミの量も多く、走ることを中心にしつつも目に見えるゴミを見逃すことは心情的になかなかできず、結果としてハードな動きにもつながっている。
図1-4 横須賀でのプロギングの様子。市内各地で行っている(筆者・参加者撮影)
道端に落ちているゴミを拾うことに対して、「いいことだ」と思っている方は多いと思う。しかし実際に街中にゴミが落ちていたとして、それを拾うというアクションに変えていく人は筆者も含めてそう多くないのが現状ではないだろうか。ボランティアでゴミを拾う方々も「(自分たちと違って)意識が高い」と思われることで周りとの距離を感じたり、仲間集めに苦労しているような現実もある。こうした悩みを解決に導く一つのヒントがプロギングに隠されているように感じる。なぜなら、「なにかいいことがしたい人」「運動不足な人」「友達が欲しい人」「一時間だけならいいかと思った人」「みんなでイベント的にやれば拾いやすい人」などアプローチできる切り口が多く、参加が容易だからである。
筆者は現在地域経営を大きなテーマに研修を行っているが、これはまちづくりをはじめとした活動にもいえるだろう。ワークショップや将来のビジョン検討、タウンミーティングなど住民参加型をコンセプトとした活動は数多あるが、「意識が高そう」「自分たちとは違う」というネガティブな感情を誘発してしまうことで参加したいと思わせられない活動が多いこともまた事実だろう。そしてこのネガティブな感情は、やがてこうした取り組みに参加・賛同する方へ向けられる冷ややかな目線となり、意欲の低下、政治行政と住民の間でのさらなる乖離という悪循環につながっていく。どれだけ切り口を広げ、参加への身体的・心理的ハードルを下げられるか。多くの人々と本当に協働したまちづくりを目指し、草の根の活動を真剣に行っていくのであればこの視点は不可欠である。
昨今、心理的安全性の確保の重要性が叫ばれるようになってきた。地域の様々な活動の担い手不足も指摘される中、ほかの人たちが参加しづらい空気を醸成しながら一部の人たちが「いつものメンツ」で楽しく回してきたような地域はもはや持続できないだろう。プロギングを身近なヒントの一つとして、真に衆知を集め前に進めていく地域活動の形をこれからも考えていきたい。
Thesis
Yuta Kobayashi
第40期
こばやし・ゆうた
Mission
全ての人がその能力を活かすことのできる共創社会の実現