論考

Thesis

その土地ならではの右に倣わぬ発展を

最初の研究実践活動報告として、なぜ入塾に至ったのか、これまでどのような研修をさせていただいているのか、研修を通じて何を学び、今後どのように研修を行っていくかという点について記していく。

 2013年、私の故郷である神奈川県横須賀市がある数字で全国ワーストとなった。人口の転出超過数[1]である。私はこのことを大学入学後の2015年に知ったのだが、北海道から沖縄まで約1700ある全国の市町村のうち最も転出超過の進む街に故郷がなっていた事実は全くもって意外なものだった。しかし、横浜の高校に通い大阪の大学に進んだ自分自身が一例であるように、進学や就職、結婚などの節目において転出する人は多い一方で半島である立地上転入者は多く望めないという現実がこの結果に表れていたのである。

 横須賀市は神奈川県の南東部、三浦半島に位置する人口約39万人[2]の街である。市内中心部を走る京浜急行を使い、約30分で横浜へ、約50分で品川へと向かうことができる。首都圏に位置しながら、なぜこのような状況に陥ってしまったのか。そして少子高齢化・人口減少が全国的にこれまで以上に進んでいくといわれるこれからの時代にどのように街はあるべきか。といった点を探求し解決の方策を示せるようになりたいとの思いから松下政経塾に入塾をさせていただいた。

 入塾後、人それぞれの生き方ができる「暮らしの満足度が高い街の実現」が必要であるという考え方に立ち、研修をさせていただいている。個人として最初の研修では、和歌山県和歌山市で「リノベーションまちづくり」[3]について勉強をさせていただいた。和歌山市は人口規模が横須賀市と近似しており、北部の大都市(東京、大阪)との位置関係も似たものがある。そして人口流出や転出超過の深刻化、高齢化や企業の撤退、商店街の衰退に端を発した空き家問題の顕在化という横須賀市によく似た都市課題を抱えている。その状況下において、空き家や空き店舗をリノベーションする動きによって商店街の活性化や地価の上昇につなげていた。

 その中心となったのが「リノベーションスクール」[4]である。これは不動産価値を上げたい物件のオーナーと地元で事業を行いたい人とをマッチングさせ、専門家からの指導を受けどの物件をどういった事業で収益化するのか、効率的に空き家の価値を上げていくかを考えていく場である。建築士やデザイナー等のプロだけでなく、以前のリノベーションスクールで事業化に成功した経験を持つ方も指導側にいることで好循環が生まれていると感じた。

 この研修で学ぶことができたのはまちを「つくる」よりも「つかう」という考え方である。お金をたくさん使い新しい施設や豪華なイベントを作るのではなく、今その地域にあるもの(人、自然、生活、環境などの資源)をパワーアップさせ活用していく。我が国全体の人口が減少し続けていく中において、自治体間で人口の取り合いを加速させていくのではなく、地元の人々の豊かな暮らしを実現することとそれらを観光や生活の資源として生かしていくことを両立させていくところにこれから郊外の街がとるべき方策があるように感じた。

 一方、横須賀市内においてはこういった活動をしている人が塊になれておらず、大きなうねりとしてつなげていくことが課題となっているように感じる。市内での研修としてはリノベーションだけでなく、コロナ禍において部活動等の発表の場を失ってしまった高校生を支援するプロジェクト[5]や子供たちに野外で思い切り遊んでもらうプレーパークの計画[6]、遊びながらの海岸清掃[7]などの取り組みをさせていただいている。中でも市内東部に位置する走水海岸の清掃活動はまちの資源の再発見、活用という視点を得る学びとなっている。海の家が廃業し、2017年に海水浴場が閉鎖された走水海岸ではプラスチックごみや花火のごみなどが多く散乱している状態だった。最初はボランティア活動として清掃をしていたが、同じように活動している「横須賀をもっと良くしたい」「こどもたちが楽しめる街にしたい」という想いを持つ方々とのご縁をいただいた。地元漁師の方は「横須賀・走水の資源を活かしたおいしいものを食べてもらいたい」と横須賀産海ブドウの生産を進め[8]、近くのレストランとメニュー開発を進めている。幼少期から当たり前のように眺めていた海や何気なく接していた人たちが街の持つ資源であるということを知ることができた。海山に囲まれた自然環境や基地を中心とした独特な文化、問題意識を持ち解決へ取り組む人たちといった資源をどうまとめ、パワーアップさせていくか。どこにでもあるものではなく、横須賀の資源を最大限活用していくことによって唯一無二の横須賀にしかできない発展ができるのではないだろうか。

 他にどんな資源があるのか、発展を阻害する要因はどこにあるのか、何をもって発展とするのか。学ばなければならないことは多くあり、まだまだその問いへの答えに手が届いていない。今後の実践では各分野で地域をよくしたいと活動する人々と横須賀で暮らす人々、訪れる人々をまとめることのできる具体的なビジョンを掲げ、そこに至るまでのアプローチとしてどんなものが挙げられるのかといった点を念頭に置き、研修してまいりたい。

(以下、最終アクセス:2020年11月24日)

[1]住民基本台帳人口移動報告2013年より

http://www.stat.go.jp/data/idou/2013np/kihon/youyaku/index.html

[4]リノベーションスクールHPより

http://renovationschool.net/

[5]ヨコスカV-1フェス

https://v-1fes.com/

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小林祐太の論考

Thesis

Yuta Kobayashi

小林祐太

第40期

小林 祐太

こばやし・ゆうた

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