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2021年12月

塾生レポート

形無きものと回遊・広域連携の価値 ~『よこすかルートミュージアム満喫ツアートレイン』を通じて~
小林祐太/松下政経塾第40期生

 2021年12月18日、実践活動先である株式会社トライアングルが参画するツアー『よこすかルートミュージアム満喫ツアートレイン』に参加した。本稿ではこのイベントから見える強みや感じた今後の展望について記していく。

 

1.イベントの概要

 『よこすかルートミュージアム満喫ツアートレイン』[1] (以下:本イベント)は、横須賀市による市内回遊性を高め観光価値を向上させていくための施策『よこすかルートミュージアム』[2]『MEGURU PROJECT』[3]の一環として企画されたツアーイベントである。私の現在の研修先である株式会社トライアングルは本イベントにおける企画やガイドの部分で参画している。
 本イベントは主に首都圏からの旅行者向けのものであり、東京の玄関口ともいえる京浜急行の品川駅からスタートする。日程によって細部は多少変わるものの、品川駅から横須賀市内にある久里浜車両工場へノンストップの新型貸し切り列車で向かい、列車内でガイドによる解説付きの見学を行う。その後バスに乗り換えての市内の散策や昼食(メニューは地元の有名店の『よこすか海軍カレー』)、そして貴重なレンガドックである浦賀ドックの見学へと進んでいくのが大まかな行程である。このうちトライアングルは電車内、バス内、ドック内でのガイドを行っており、それぞれの場所でガイドが参加者を楽しませながらツアーを作り上げていく。


図1『よこすかルートミュージアム満喫ツアートレイン』の紹介
(MEGURU PROJECTホームページより)


図2『よこすかルートミュージアム満喫ツアートレイン』の貸し切り列車と筆者
(2021年12月18日、京浜急行品川駅にて撮影)


2.改めて感じた価値

 本イベントに実際に参加させていただき、改めて感じたのはトライアングルのスタッフが持つガイドスキルの高さである。トライアングルはこうしたイベント以外では猿島[4]や第二海堡[5]、『YOKOSUKA軍港めぐり』[6]において航路事業・ガイド・案内を行っている。そんな中、現場での業務やガイドの方々との話を通じて痛感するのが「無形の情報でお金をいただく難しさ」である。お金を払っていただき、安全に船で輸送することはある意味で分かりやすい商品の形であるが、ガイドや情報となるとそうはいかない。どうやってその場所やコンテンツが持つ価値を伝えていくか。どうやってエンタメ性を持たせていくか。事実誤認や間違った情報を伝えるガイドはあってはならないし、正確であっても単純なお堅い説明だけでは飽きられてしまう。客層によってガイドの色を変えていく必要もあり、何より情報が氾濫している現代において「ネットで調べればわかる」ことを話すだけではお客様はお金を払ってまで来てくれない。
 多くの制約や条件がある中、スタッフたちは常に最適解を探りつつ日々のガイドを行っている。そして本イベントではそのスキルが余すところなく発揮されたガイドが行われていた。ガイドの方の「終わった後のお客さんの拍手が達成感をくれる」という言葉はまさに本心なのだろうと伝わってきた。長い知識の勉強や研修、社内での試験といった厳しいプロセスをくぐらないと現場に立つガイドにはなれない。ここにガイドの方の矜持を改めて見ることができた。
 もう一点感じたことは「回遊してもらうことの価値」である。トライアングルは横須賀を拠点とする船会社である。船に乗ってもらいガイドを聞いてもらうためにはまず横須賀に来ていただかなくてはならない。飲食店も同様で、いかにおいしいものを作ろうとも来てもらわなければ始まらない。一方、今回のメイン事業者でもある京浜急行のような大きな公共交通機関は当然列車に乗る人や乗る理由を作っていかなければならないものの、ガイドのノウハウはそれほど豊富ではない。これらをまとめる行政や観光協会の力も必要不可欠である。横須賀の観光資源は山海の自然や戦跡、歴史にまつわるものが多く、点在しているため歩いて回りにくいという特徴もある。こうして各事業者の強みを発揮することで観光客が魅力を再発見し、満足度を高めることができるという意味で今回のイベントは風穴を開けることのできる取り組みである。そして、その中心にいるガイドやスタッフの多くがトライアングルの人々をはじめとする地元の人であることに持続性や特徴もあるのではないかと感じた。こうしたイベントを通じて、各事業者や観光資源、ガイドも含めた受け入れる人材がさらに磨かれ、地域全体の持つ力の底上げにつながっていくことが期待できる。


3.今後の展開

 今回のイベントは地域を回遊してもらうという点で特徴的であったが、一方で今後について見ると本イベントや今回の一連の取り組みがきっかけとなって更なる展開につなげていく可能性も見出すことができる。例えば私が2020年に調査させていただいた愛知県の8市町村で構成される東三河広域観光協議会の『東三河レストランBUS』[7]は市境にとらわれず域内の各地をめぐり、特産品を使っての料理を提供するというツアーである。こういった取り組みはさらに域内の回遊性を高め、また反対に「〇〇市堪能コース」のような設定をすることで各市町村のブランド価値を高めることにも寄与する。このような各地で広域を面としてとらえたアピールや商品開発は行われはじめているが、現状横須賀市の位置する三浦半島ではこの広域連携があまり進んでいない難しさも存在しており、伸びしろの大きい分野であると感じている。各自治体の役所には観光を司る部局があり、また観光協会もそれぞれ別で存在していたりするため、広域連携の推進に関しては「縦割り」の打破がカギとなる。先の愛知県での事例は民間主導で形成されたという点も特筆すべきところであり、行政区分にこだわらずに事業を行うことのできる民間事業者の大きな力も感じた。今回のイベントの成果と今後の伸びしろ、可能性を目の当たりして、そのプレイヤーであるトライアングル社の中にいる一人として民間主導の官民連携の形を今後も学んでいきたいと改めて感じる機会となった。



[1]https://www.keikyu.co.jp/cp/yokosukameguruproject/より(2021年12月20日最終アクセス)
[2]https://routemuseum.jp/より(2021年12月20日最終アクセス)
[4]https://www.tryangle-web.com/sarushima/tour.htmlより(2021年12月20日最終アクセス)
[5]https://daini-kaiho.jp/tbnより(2021年12月20日最終アクセス)
[6]https://www.tryangle-web.com/naval-port/より(2021年12月20日最終アクセス)
[7]https://www.aichi-now.jp/spots/detail/2896/より(2021年12月21日最終アクセス)
2021年12月 執筆
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