論考

Thesis

地域の可能性と新たな魅力を掘り起こす

2021年1月より、神奈川県横須賀市に本社を置く株式会社トライアングルにて研修をさせていただいている。本レポートではここでの研修に至った理由や現在の活動、今後について述べる。

1.はじめに

 私は入塾以降、地元である神奈川県横須賀市をどう住民・来訪者の満足度の高い街にしていくか、というテーマを軸に研修をさせていただいている。

 先レポート(https://www.mskj.or.jp/report/3462.html)においても記したが、2013年に横須賀市は転入者から転出者を差し引いた転出超過の数字が全国の市町村の中でワーストとなった。私は大学在学中にこのデータを知り、「この数字をなんとかせねば」との思いから入塾に至ったのだが、研究・研修をさせていただく中で「果たして転出超過や人口減少それ自体が問題なのだろうか」と感じるようになった。

 たしかに人口が減ることによって税収が減ったり、インフラ整備が間に合わなくなったりする影響は顕在化する。しかし我が国全体の人口が減っていく中において、街ごとにただ人口という数字だけを追い求めていても状況の好転にはつながらない。「人口減少の克服」から「人口減少による影響の克服」へと考え方を転換することが重要であると考える。

2.株式会社トライアングルでの研修に至るまで

 人口が減っているのにも関わらずその影響を食い止める、ということが簡単でないのは容易に想像がつく。それでもこれを実現するためには①「ターゲットを定めた政策」②「市外からの交流人口の増大」が不可欠であると考える。

 まず①の「ターゲットを定めた政策」であるが、前提として私は人口を増やすことを諦めるべきと考えているわけではない。ただ、とにかく人口が増えればなんでもいいという考え方では、結局一時的な補助金や実現性に乏しい総花的な政策に飛びついてしまう可能性がある。そうではなく、例えば年齢層や家族構成など詳細にカテゴライズした上で、「どの層に来てほしいのか」ということを明確にして効果的な施策を行う必要があると考える。この点について関東学院大学法学部の牧瀬稔准教授にご指導をいただき、研究を行っている。

 続いて②の「市外からの交流人口の増大」である。交流人口とは通勤・通学や観光など理由を問わずその街を訪れる人のこと だが、特に観光客を増やすことで経済を活性化させていくことは人口減少時代におけるまちづくりにおいて重要な要素となる。横須賀や三浦半島の持つ資源を最大限活用し人を引き寄せ、まず一度来てもらう。良さを知ってもらい、一度来た方にはもう一度来ていただける魅力づくりをする。そして暮らしている人にもその資源や良さを知ってもらう。こうした域外の方の「新発見」と域内の方の「再認識」を連動・循環させていくことで、地元のファンを増やしていく流れをつくっていきたい。

 こうした考え方に立ち、横須賀市に本社を置く株式会社トライアングルにて研修をさせていただくこととした。トライアングルは無人島・猿島への航路事業 や、海上自衛隊とアメリカ海軍の艦船を間近で見ることのできる「YOKOSUKA軍港めぐり」 を中心に観光業を営む横須賀を代表する企業のひとつである。

 昨今の事業内容を目にして、「ないものねだりではなく、あるもの探し」「今ある資源を使って未だ無い価値をつくる」という考え方を事業として体現している印象があり、こちらで学びたいと強く感じた。

3.現在の活動について

 突然のお願いにも関わらず快くお受入れをいただき、2021年1月よりトライアングルでの研修がスタートした。

 現在は営業企画部の一員として市役所や取引先の他企業の方との業務に加え、12の企業・学校・団体が連携して猿島を持続的な観光地にしていくことを目指す「つづく みんなの猿島プロジェクト」 の最前線に立たせていただいている。

猿島は東京湾に浮かぶ唯一の自然島であり、2019年度に約23万人もの方が訪れた大きな観光地である。この観光地をただ「消費」し続けるのではなく、猿島において「観光」「環境」「学び」を循環させることで今後も豊かな場所として持続させていくために立ち上がったのがこのプロジェクトであり、国連の定めたSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標すべてを猿島に当てはめ、電動クルーザーの運行やフードループ、横須賀市民の出すアルミ缶のゴミで造船するなど夢のある取り組みを絡めながらより魅力的な島をつくっていく取り組みが始まっている。(図1~3参照)


図1「つづく みんなの猿島プロジェクト」概要
https://sarushima-eco.com/ (2021年3月18日最終アクセス)


図2「つづく みんなの猿島プロジェクト」の考え方
https://sarushima-eco.com/ (2021年3月18日最終アクセス)


図3SDGsの各目標を猿島に対応させた「猿島未来宣言2030」
https://sarushima-eco.com/assets/pdf/future.pdf  (2021年3月18日最終アクセス)

 このプロジェクト内にある「エコステーション」について特に私は担当させていただいている。現在猿島にあるシンプルなゴミ捨て場を大幅に改修し、詳しい分別や出したゴミがどうなっていくのか、ゴミを減らすにはどのようなことができるか、など子供から大人までゴミ捨てをするだけで自然に環境のことや他の取り組みついて学べる空間づくりを目指している。このプロジェクトの中で最初に実行に移す記念すべき取り組みであり、現在はクラウドファンディングを活用した資金調達から実際に設置するところまで実現すべく関係企業・団体様と協力しながら日々取り組んでいる。


図4、5
活動中の筆者
(株式会社トライアングルにて、2021年2月21日撮影)

4.学んでいること

 私がこの会社にお世話になり学んでいる最も大きなことは「現在街が持っている資源をどう活用していけるか」という点である。これは元をたどると以前の研修で学んだ視点であるが、それを実際に横須賀というフィールドで事業として行っている場に携われていることは今後のビジョンを立て実践していく上においても大きな経験となっている。

 また、大学卒業後新卒で入塾した私にとっては長期間企業にお世話になるのは初めての経験である。この会社では鈴木隆裕社長を先頭に社員のみなさん一人ひとりが横須賀や地域のことを真剣に考えて提案や行動をしており、この環境から大きな刺激をいただいている。文字通り乗客の命を預かり、船を運航させる船長=かじ取りがたくさんいる会社はそう多くない。社長のリーダーシップや社員が同じ目標に向かって活発に意見を交わす姿を間近で見る中で、松下幸之助塾主の説く「衆知を集めた全員経営」や「対立と調和」「任せて任さず」に通ずるものがあると強く感じている。新型コロナウイルスの影響によって観光業界や旅客輸送の事業は大きなダメージを負っている。その中にあっても、うろたえたり暗い空気になることなく、将来を見据えた事業やプロジェクト、準備を皆で考え行う姿勢は「不況またよし」の考え方そのものである。こうした考え方と重ね、発展する企業の在り方という面においても勉強させていただいている。

5.おわりに

 今後に向け、まずは携わらせていただいている事業に全力投球をしたい。エコステーションの建設をはじめとした「つづく みんなの猿島プロジェクト」は単なる一事業でなく、市内の事業者が協力して行う横須賀の魅力を伸ばす一大計画である。こういったプロジェクトに携わらせていただけることに感謝し、研修としてだけでなく戦力として貢献できるように努めてまいりたい。そして、現在抱える課題を挙げるだけでなく今後50年後・100年後に横須賀はどうなっていたいかというビジョンや夢をしっかりと語り、そのための方途を示し故郷に真に貢献できる人材となるべく研鑽を積んでいきたい。


図6トライアングル本社
(三笠ターミナルが併設され、猿島発着船舶の拠点となる)(2021年2月22日、筆者撮影)

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小林祐太の論考

Thesis

Yuta Kobayashi

小林祐太

第40期

小林 祐太

こばやし・ゆうた

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