松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2020年5月

塾生レポート

北東アジア情勢からみるこれからの日本の安全保障~3年間の研究会活動を振り返って~
馬場雄基/松下政経塾第38期生

地方自治を専門に研修を積む一方で、塾内の外交・安全保障研究会に3年間所属。主に北東アジア情勢を扱い、韓国・アメリカ・スウェーデン・ベルギー・フランス等にて現地調査を行う。地方自治と安全保障の両面からこれからの日本を考える。

 

目次
1、外交・安全保障と私
2、北東アジア情勢
3、日本の外交・安全保障の背景
4、日本の外交・安全保障の課題
5、北東アジアの日本・世界での現地調査
6、日本に求められる対策
7、最後に

1、外交・安全保障と私

「北朝鮮が日本に対して弾道ミサイル発射準備を行い、その発射場所も判明していた場合、自衛隊の戦闘機が相手の基地を攻撃するまでどれくらいの時間がかかるか。」

 松下政経塾に入塾して間もなく、私は政経塾の先輩に質問された。答えに迷っていると、「どれだけ時間があってもできない」と先輩が教えてくれた。なるほど憲法上の問題かと考えていたら、先輩は続けて「日本の戦闘機には、敵地を攻撃できる能力がない」と教えてくれた。
 私は分からなかった。日本はどのように自分たちの国を守ろうとしているのだろうか。福島の復興を目指し、地方自治を専門に入塾をしたが、国防について学びたいと思い、2017年から3年間、外交・安全保障研究会に所属した。松下政経塾には在塾する全ての塾生が所属することができる研究会があり、地方自治や教育、ビジネスなど、自分たちが興味を持つ分野に対して、期をまたいで研修を積むことができる。

2、北東アジア情勢

 これまで研究会は年ごとにテーマを変えていたが、研究会のメンバーと話し合い、所属していた3年間は、テーマを変えず「北東アジア情勢」とし、研究を続けてきた。日本は地理的には北東アジアに属する。しかし、北朝鮮のミサイル問題を始め、ロシア、韓国、中国とは領土や歴史問題があるなど、決して穏やかであると言えない状況にある。この地で生きる日本として、これらの問題は避けては通れない課題であり、日本としてのこれからの道を指し示す必要性があると考えた。

 まず、その地域の最近の情勢を確認する。
 北東アジアは、世界で最も兵器が密集している地域である。

 Global Firepower(GFP)による「国別軍事力ランキング2020」では、北東アジアに関わる国(アメリカ、ロシア、中国、日本、韓国)が上位を占めている。日本は、世界で最も兵器の臭いを感じる地域にあり、有事の際には、尋常ではない被害が出る可能性がある。


(図1)国別軍事力ランキング2020を基に筆者作成
https://www.globalfirepower.com/countries-listing.asp (最終閲覧日2019年5月13日)

     

 北東アジアのきな臭さを確認した上で、各国の情勢を捉えていく。

(1)台頭する 中国


(図2)中国からみた日本地図 フリー画像より筆者作成

                       

 昨今、軍事拡大路線が止まらない中国だが、2015年、2019年と国防白書を改定し、特に2019年版は、中国の国防戦略を説明するように構成されており、海洋・宇宙・サイバー戦略の強化を試みている。北東アジア情勢を考える上で地理的に問題になるのは、特に海洋だ。中国から見た日本地図を確認すれば分かるように、中国は東シナ海沿いに海岸線を持っているが、朝鮮半島、本州、九州、南西諸島、台湾、フィリピンによって外洋の出口をふさがれている。中国は、地理的制約により他国の領海をかすめるような海路を通るしかないのだ。より自由な航行の確保のため、海洋進出戦略を強化する必要があった。国際戦略研究所(IISS) によると、中国海軍が2015年から2017年の間に建造した艦艇の総排水量は約40万トンに達し、この規模はアメリカの約2倍に相当する。

(2)唯一の同盟国 アメリカ

 海軍力を増してくる中国に対し、アメリカは「INF条約(中距離核戦力全廃条約)破棄」で対抗した。これは、アメリカとソビエト連邦(現ロシア)との間に結ばれた軍縮条約で、中距離核戦力として定義された中射程の弾道ミサイル、巡航ミサイルを全て廃棄する目的で締結された。破棄の理由は、ロシアが条約を守っていないというものだったが、海洋進出する中国に対する牽制である。これにより、中距離ミサイルを北東アジア各地にある米軍基地に配備し、いつでも中国本土を攻撃できる体制を整えることができるようになった。

(3)ミサイル開発が止まらない 北朝鮮

 ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は、北東アジアの悩みの種である。しかし、日本からでは見えない北朝鮮像が世界にはある。なぜなら、日本は北朝鮮と国交を結んでいないが、北朝鮮は162か国と国交を結んでいる。北朝鮮への対応は、日本だけではなく他国と連携した戦略を考える必要性がある。

(4)一番の隣国 韓国

 北朝鮮問題の脅威という点で一致している韓国だが、日本との関係性は冷え込んでいる。歴史認識による両国の溝は深い。「NO JAPAN」キャンペーンによる経済面だけではなく、北朝鮮のミサイル情報を共有するGSOMIAを韓国が破棄を決定するなど軍事面でも影響を与えている。その後、GSOMIAはアメリカの政府と議会が一致して韓国に強い抗議をしたことで破棄される前日に延長することとなった。

(5)経済協力が加速する ロシア

 北方領土をめぐって対立するロシアだが、最近は平和条約の締結に向けた交渉を行い、北方領土を共同開発する経済政策プランを推し進めている。開発を行うにあたり、日本の経済力を利用したいロシアは、強硬策以上に協力体制を構築することを優先してきている。

 これらが日本を取り巻く北東アジアの今の情勢である。

3、日本の外交・安全保障の背景

 揺れる北東アジアの中で、日本の外交・安全保障戦略はどのようになっているのかを捉えていく。
 敗戦の後、日本が主権を取り戻したのは1951年のサンフランシスコ平和条約の時だが、それと同時に結ばれたのが日米安全保障条約である。日本は、戦争の反省から平和憲法を取り入れ必要最小限度の軍事力を保持することに留め、その代わりアメリカの軍事力の傘に入ることになった。そのため、国際的に自国の立場を高めていくにもアメリカへの配慮が必要となった。1957年の外交青書で述べられた外交三原則は、①国連中心主義②アジアの一員としての立場の堅持③自由主義諸国との協調である。ここでも、自由主義諸国の代表であるアメリカと連携しながら進めていくことを国是として確認している。
 一方、国連中心主義を謳いながら、1958年、国際連合レバノン監視団(UNOGIL)に停戦監視要員として自衛官10人の派遣を要請されるも、自衛隊の海外活動が憲法上できないことを理由に拒否するなど、国連と足並みを揃えることができずにいた。また、アジアの中でもアメリカ頼みとなったことで、連携できる国も反共諸国だけとなり、広がりを持てずにいた。日本の外交戦略は、いつしかアメリカとの協調が第一・唯一の原則となっていた。その後、日本は国際社会の信頼を取り戻すため、国連活動に多額の資金拠出を行うようになったが、高度経済成長を終えた日本では、その維持も困難な状況と言える。
 また、防衛費の使い道もアメリカの影響を受けている。2020年度予算案では、ステルス戦闘機F35や地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」といった多額の米国製兵器の調達費がかさみ、6年連続で過去最大を更新して5兆3133億円となった。米国に有利な条件で兵器を購入する「対外有償軍事援助(FMS)」には4713億円を充て、在日米軍駐留経費の日本側負担額(思いやり予算)も13年ぶりに2000億円を上回るなど、米国追従が色濃い内容となっている。日本の防衛戦略を考えた中で必要な負担と考えることもできるが、アメリカ産の軍事品が多くなることで、高い軍事技術を持つ国内企業は製造ラインの確保が厳しくなり、経営は益々困難となる。


(図3)FMS予算額の推移 東京新聞2019年12月21日

     

4、日本の外交・安全保障の課題

 日本の外交・安全保障の背景を捉えてきた中で、3つの課題を整理する。

(1)アメリカの影響力の拡大

 日本唯一の同盟国であり、歴史的に見てもアメリカとの関係性は最も大切にしなくてはならない。しかし、日本とアメリカの双方の国益にかなった動きをしなくては、長続きはしない。日本は、自らの国益の追求と、アメリカが何を考え、何を欲しているのかを追求しなくてはならない。

(2)国際貢献の迷走

 日本の主な国際貢献活動は、自衛隊の派遣か資金拠出となっている。当然ながらどちらも大切ではあるが、大切なのは「何のために行うのか」という目的である。貢献ということはどこか他所事のように感じてしまう。そうではない、日本の国益にとって必要だから行うのだという固い決意を持った国際活動にしなくてはならない。

(3)国産軍事技術の危機

 日本の国産軍事技術は、大企業の開発チームかまち工場が持っている。一度失った軍事技術は復元することは極めて困難であるため、国内にある技術が常に高い水準で発展していくように制度設計し、技術が漏洩しないようにセキュリティーを強化しなくてはならない。

 

 北東アジアの緊張を乗り越えていくためにも、これらの課題に対して早急に取り組むことが求められる。

5、北東アジアの日本・世界での現地調査

 地理的関係性とこれまでの経緯から見て以下の通り仮説を立てる。
「北東アジア情勢に対し、日本はアメリカと連携をしながら対処していくことが望ましい」
日韓両政府の同盟国であるアメリカとの関係性を強化し、お互いの国益に見合った活動をするには何が必要であるかを日本、アメリカ、韓国にて調査した。匿名希望の方々も多いため、インタビューをした方の氏名は掲載しないこととする。

(1)現地報告1

ⅰ.日本
 2017年に防衛省や自衛隊、大学教授、また、各国を訪れた際にその国に派遣されている日本の防衛駐在官に話を伺った。

「日韓・米韓同盟はあるものの、日韓同盟の構築は非常にハードルが高いだろう。韓国は、日本に占領されたことがあり、日本を脅威に感じていると思う。」(大学関係者)
「韓国での勤務経験から、日韓W杯時は反米親日の印象を受けたが、島根県が竹島の日を定めてから反日親米へ変わっていった。中国とは地理的経済的理由から対立を避けたがる傾向がある。」(自衛隊関係者)
 実務経験を踏まえた意見を整理すると、韓国との直接的な協力ではなく、アメリカとの連携が必要である。

ⅱ.韓国
 2017年に各政党職員や、行政機関、シンクタンク、また、韓国国会議員などに話を伺った。
「韓国は歴史を後世に残そうとしているのであり、日本がこのことに反対するのは理解に苦しむが、歴史と外交や安全保障を一緒に考えてはいけない。」(行政関係者)
「以前は、韓国側にいきすぎた発言や行動があったものの、現在は日本側に問題があるように思える。」(民間関係者)
「国民感情として伝えなくてはならない事もあるため、互いに誤解を招かぬよう、本音で話し合える関係構築が非常に重要。」(国会関係者)
 日韓両国には緊張関係があり、第三者となるアメリカとの連携を、両国とも求めている。  一方、中国との関係については、「10年後の世界を予測したとき、日本はアメリカの力を信じているかもしれないが、韓国やEU・その他の殆どの国は中国の力が増大するとみている。その中で関係構築を迫られている。」(民間関係者)と述べていた。
 韓国では、同盟国であるアメリカとの関係性も重要であるが、陸続きである隣国の中国に対しても配慮した戦略が求められている。

ⅲ.アメリカ
 2017年に軍事企業、シンクタンク、また、大学教授などに話を伺った。
「日本は中国と経済協力を結び、ロシアも日本の経済力を望んでいる。しかし、アメリカはそこまでではない。相手が何を望むか考えるWarm Relationshipが必要。」(民間関係者)
「アメリカは、日米・米韓と関係を構築しているが、アメリカが自ら架け橋となって日韓をつなぐつもりはないだろう。」(大学教授)
 日韓両国の話ではアメリカの立場が重要になるとしていたが、実際にアメリカの意見を伺うとそこまでは考えていない可能性が見えてきた。アメリカの国益として北東アジアをどのように考えるか。アメリカとしては、日本や韓国を利用してどのように北東アジアでのプレゼンスを保つかが重要となる。
 また、アメリカが望む日本のスタンスとして以下のように伝えられた。
「日本は森元首相や小渕元首相、中曽根元首相も、イランと関係を保ってくれた。大使レベルで関係を維持してくれたことで、アメリカの方針を定めていくことができた。」(大学教授)
 このように、アメリカが直接話し合うことが難しい国と日本が積極的に交流することは、アメリカの国益にかない、日本の存在をアメリカに認められていくことになる。

(2)考察1

 2017年の研究を通して、仮設の検証を行う。
 日韓両国のアメリカ依存があり、それが日韓独自の関係構築が進まない理由ともなっている。アメリカが、アメリカ自身希望していないレベルのキープレイヤーとなってしまったことによる情勢の複雑化が起きている。日本としては、アメリカと連携を図るにせよ、外交力向上による国際的プレゼンスの堅持と、自国で防衛技術を担保することが求められる。
 よって、新たな仮説を、「北東アジア情勢に対処するため、日本は中立的な外交を行う国、かつ自国で防衛技術を持つ国となる」として打ち立てた。その調査を行う国として中立国であるスウェーデンとベルギー、防衛技術の点でフランスを選定し、関係者の方にヒアリングを行うことにした。

(3)現地報告2

ⅰ.スウェーデン
 2018年にシンクタンク、また、大学教授や国会議員などに話を伺った。
「平和とは戦争がないことではなく、戦争が起きないように体制を整え、万が一のことを考え、準備を怠らない事である。」(シンクタンク)
「日本はスウェーデンにはなれない。スウェーデンは戦争をしない200年の歴史がある。日本は戦争を起こした国であり、その事実は変わらない。」(大学教授)
 スウェーデンは、外交戦略上は福祉社会や戦争の無い国として各国にPRしているが、国防戦略では国産技術で戦闘機と潜水艦を製造し、他国への輸出も強化している。また、全国民が有事の際に避難できる核シェルターも各地に備えている。世界一美しい美術館として観光客が訪れるスウェーデンの各地下鉄駅は、全て核シェルターでもある。さらに、2018年に「If Crisis or War Comes」という小冊子を作成し、約470万の全世帯に配布した。有事の際、数か月間は自分たちの力で何とか生き残ってほしいという、行政の限界も伝えている。私は、この小冊子の国民への浸透度を調べるため、学生、主婦、シニア層などに話を伺ったが、皆が知っており、自分たちができることをイメージしていた。

ⅱ.ベルギー
2019年に民間職員、EU職員などに話を伺った。
「ベルギーは、地理的、歴史的意味において1839年のロンドン条約により欧州の永世中立国としての立場を確立した。」(EU職員)
「ベルギーは核シェアリングを行っている国だが、2019年に核が持ち込まれたという記事が流れた際に国会で野党たちが説明要求を行ったが、一週間ほどでニュースにならなくなった。」(民間職員)
 各国はベルギーを紛争の解決地として選び、またベルギーも受け入れて中立国となった歴史がある。また、国防戦略として、与野党で一定の共通認識があることが読み取れる。

ⅲ.フランス
2019年に軍事企業や、シンクタンクなどに話を伺った。
「フランスは、自分たちの兵器が世界を平和にするという基本的な方針がある。」(軍事企業)
「フランスは、兵器の完成品を輸出するのではなく、キーデバイスの部品輸出を全世界に展開させることで、兵器のコア技術を掌握し自国の安全を守る戦略を取っている。」(軍事企業)
 フランスは、核兵器を保有している国でもあり、核兵器を前提に国防戦略を構築することが可能である。つまり、万が一の時の睨みを核兵器で効かせつつ、一方で世界中の兵器のキーデバイスをフランスが握ることで、自国の安全を守っている。

(4)考察2

 2018年、2019年の研究を通して、考察1で掲げた仮説「北東アジア情勢に対処するため、日本は中立的な外交を行う国、かつ自国で防衛技術を持つ国となる」の検証を行う。
 スウェーデン、ベルギー、フランスの調査から、以下の3点の重要性が確認できる。
ⅰ、中立的な外交を行う国であるには、その国が持つスタンスだけではなく、歴史が重要であること。
ⅱ、平和ということは、戦争がないことを期待するのではなく、戦争がないように準備を怠らないこと。
ⅲ、安定した防衛戦略には、与党だけではなく、野党も国民も統一した見解が必要であること。
 つまり、どのように国を守るのか、国会に任せるのではなく、私たち一人ひとりが考え、世論を形成していく必要性がある。日本は、過去とは言え大戦を引き起こした国でもあり、中立国となるには乗越えるべき壁が高いことを認識した上で覚悟を持って目指さなくてはならない。また、平和を目指すとは、単に武器を持たない事ではなく、戦争が起きないように、あらゆる事態を想定して国民を守れるように備えておくことなのだ。

6、日本に求められる対策

 以上のことから、日本に求められる対策を整理する。

(1)北東アジアにおけるアメリカの立場の再構築

 北東アジアにおいて、日韓がアメリカに対して期待する役割が、アメリカ自身の望む範囲を超えていることを踏まえて、日米両国が目指すビジョンと、その実現がもたらすだろう北東アジアのパワーバランスの変化を再度検証する必要がある。その上で、お互いの力を引き出し合いながら平和の構築を目指していく。特に北東アジアにおいては、日本はアメリカの対応に依存するのではなく、何が必要であるかを明確に指摘し、サポートをアメリカに依頼することが重要である。また、アメリカとアメリカとの関係が良好でない国との仲介を、アメリカのパートナーとして日本が担うことが可能となるようにつとめる必要がある。そのためにも、アメリカの情報収集に適切に協力し、かつ日本と各国との外交関係を適切に保っていく。 加えて、防衛装備については、国内技術の更なる発展とノウハウを死守できるように、政策を推し進めるだけではなく、法律面からの制度設計を推進する。

(2)各国の都市間の連携の推進

 現状、日中韓で共通した利益と言えるのは、北朝鮮の脅威に対する防衛くらいであり、それ以外の可能性が見い出せないでいる。しかし、各国それぞれ、相手国の政府への批判は根強くあるものの、民間や国民レベルでは好意的な感情を抱いている人も多い。そこで、政府同士ではなく、各国の都市間の連携を強化することで、政府では話し合えないことも都市レベルで話し合い、補い合っていくべきである。政府同士の連携は外交・国防上において、都市レベルの連携は経済・文化・教育上で、積極的に行っていくことが求められる。交流のカードをいくつも保つことができるようにし、決して断絶させないことが重要である。

(3)危機管理シミュレーションによる世論形成

 現地調査を行った各国と日本の圧倒的な差は、安全保障に関する意識の度合いである。調査した全ての国では、有事を想定したシミュレーションをほとんどの市民が理解していた。しかし、日本ではJ-ARARTや避難訓練はあるものの、実際にミサイルが落ちて焼野原になった場合を想定した訓練が市民レベルで行われていない。国会はもとより、各自治体、国民の全てのレベルにおいて、安全保障に対する意識を早急に引き上げ、有事に備えていくことが急務である。国として、どのように生き延びるのかをそれぞれが考え、国が一定の方向性を指し示すことにより、初めて安全保障の土台がつくられる。

7、最後に

 日本は、北朝鮮によるミサイル発射だけではなく、東日本大震災、豪雨、台風などの自然災害、新型コロナウイルスなどの感染症など、様々な有事を経験してきた。それぞれの事態に対し、適切な対応を取れてきたであろうか。
 安全保障とは、その人にとって、かけがえのないなにかを、何らかの脅威から守ることである。誰一人、関係ないと言えるものではない。しかし、日本ではどこか、「政府がやってくれる。」「自衛隊が来てくれる。」という他人任せの意識がないだろうか。

 私は、一人ひとりが自分のまちのことに当事者意識をもって行動する『わたしたち事のまち』づくりを目指し、故郷福島のコミュニティ施設にて研修を行っている。地方自治を専門に取り組む私が、本研究会を通じて強く意識させられたのは、当事者意識の醸成は決して地方自治の問題だけでなく、安全保障でもまた重要であるということだ。
 住民の生活の質を高める地方自治は、住民の生活基盤を守る安全保障が整ってこそ成り立つものである。そしてまた安全保障は、有事に備えて一人ひとりの当事者意識をどれだけ醸成できるかが鍵であり、この考えは自治に直結している。両者は密接な関係にあり、これからのまちづくりには、地方自治と安全保障を同時に考えていく姿勢が大切なのであろう。
 誰かがやってくれると他所事にするのではなく、自分事として捉える。そして、まちにいる一人ひとりがつながり合い、自分事だけではなくわたしたちの事ととして、当事者意識をまち全体が共有できるように取り組んでいきたい。

 緊急事態はいつ起きるかわからない。だからこそ、最悪のケースを想定(Assumption)し、各フェーズの最善の行動を整理させることを指示し(Better)、政府、各自治体、国民が一丸となって、冷静に行動すること(Calm)が大切となるのではないだろうか。私は、これを「安全保障のABC」と呼んでいる。

 現在、私は、安全保障のシミュレーション・ワークショップの開発に取り掛かっている。安全保障を身近なものにし、命を守ることのできる力強いまちづくりの実現に向けて、全力で挑み続けていく。


(図)安全保障シミュレーションゲームの試作品 筆者作成

     

参考文献
・『国防』石破茂 新潮社2005
・『国を守る責任』折木佳一 PHP新書2015
・『日中もし戦わば』マイケル・グリーンなど 文春新書2011
・『海洋アジアVS大陸アジア』白石隆 ミネルヴァ書房2016
・『遺論 繁栄の哲学』松下幸之助 PHP1999
・『反日種族主義』李栄薫 文藝春秋2019
・『安全保障の授業』佐藤正久 ワニブックス2015

現地調査一覧
【日本】2017
・恵泉女子大学
・防衛大学校
・海上自衛隊
・掃海隊群司令部
・集団司令官

【韓国】2017
・自由韓国党本部
・共に民主党本部
・韓国外務省
・海軍第二艦隊
・與時斎
・世宗特別自治市
・済州日本国総領事館
・National Archives

【アメリカ】2017
・在米日本国大使館
・コロンビア大学
・笹川USA財団
・SAIS
・CSIS
・RAND
・MITRE
・双日アメリカ支社
・Panasonic 北アメリカ本部の皆様

【スウェーデン】2018
・在スウェーデン日本国大使館
・Kerstin Lundgre国会議員
・緑の党 国会議員候補者
・中央党党員
・ISDP Korea center
・TIMBRO Emanuel研究員
・ストックホルム平和研究所(SIPRI)
・スウェーデン国立防衛大学
・Tumba高校
・民間企業の方
・現地日本語教師

【ベルギー】2019
・在ベルギー日本国大使館
・在ベルギー韓国大使館
・EU議会職員

【フランス】2019
・在フランス日本国大使館
・OECD職員
・Thales
・自治体国際化協会
・Station F

2020年5月 執筆
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