松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1997年3月

塾生レポート

暴走する公共事業をどうするか
平島廣志/卒塾生

 
 「有明海の揺りかご」といわれた諫早湾の干潟が干拓事業のため消滅し、ムツゴロウやトビハゼといった貴種が全滅したのは先週のことである。
 2300億円の予算をかけておこなわれる干拓事業はこの米あまりの時代に1500ヘクタールの農地を造成するために行われる。

 農林水産省は全公共事業のおよそ20%の予算を行使しているが、その大型プロジェクトの多くは計画立案段階から時間がたち現在では意味がなくなっているものが余りにも多い。

 私の郷里熊本には「五木の子守り歌」などの民謡で知られる五木村ということころがある。
 この村はもう10数年前から川辺川ダムの建設で湖底に沈むことになっているが、現在では農業用水は充分すぎるほど足りていてダムを建設する意味がなくなってしまっている。
 それでもダム建設を強行しようとする背景の理由はただ一つ五木村の住民に立退き料として保証金を支払ってしまったからという悲しいほど御粗末な理由による。

  前述の諫早湾干拓事業も戦後食糧難の時代に構想されたものであるが、現在干拓の理由は農水省によればかわってきており洪水を防ぐ遊水地をとして水田をつくるそうである。
 私が視察したときは干潟の堤防が封鎖されて潮水が湾に入ってこなくなってから2週間ほどたっていたが、湾全体が干潟の生物の腐臭などで異様なにおいにつつまれており、昔見た諌早の美しい海は完全にそして永久に死につつあるのだということを実感した。

 日本の予算の中で費やされる公共事業費は私たちが本来必要としている福祉や教育などの予算をはるかにうわまっている。
 しかもそのほとんどが建設国債などによるもので財政赤字は激増の一途をたどっているのである。  日本中の川という川をダム塞き止め、川底までコンクリートで固め、海岸という海岸を護岸工事と称してこれまたコンクリートで固め、採算を度外視して新幹線を引き、誰も使わない農業空港や国道よりもりっぱな農道を縦横無尽に整備する。

 なぜ財政破綻が差し迫り、自然環境が破壊し尽くされてもこの公共事業はやめられないのだろうか。
 一つは土建業者と官僚と政治家のいわゆる「公共事業複合体」の存在がある。政治家は票と金を求めて、官僚は縄張りと利権、天下り先の確保のため、業者は言うまでもなく巨大な利益のためである。
 この公共事業複合体が日本の隅々まであらゆるところに形成されて日々日本の国土を切り刻み無残な形に奇形させているのである。

 二つ目は公共事業が地方においては雇用を創出しているという現実がある。
 産業がないから公共事業に依存するのか、公共事業に依存するから産業が育たないのか議論の余地はあると思うが、現実問題、兼業農家の多くは現金収入を求めて兼業先を建設業に求める傾向が増加している。
 このような事実を見る限り根本的には地方における産業の創出(すなわち雇用の創出)がなされない限り公共事業をもとめる政治的圧力を減少させることはできないであろう。

 三つ目には驚くべきことに公共事業は巧みに議会のチェックを受けない仕組みになっているということである。
 国会に毎年提出される予算書の中では、干拓事業○○○○億、農業排水事業○○○○億と項目別に大雑把に記載されているだけで実際の事業別の予算振り分けは各省の官僚がおこなう仕組みになっている、これを「個所付け」というが、この個所付けを少しでも多く自分の地元へ獲得するために毎年予算編成の時期に地方から陳情団が霞ヶ関に押しかけるという世界でも珍しい光景が繰り広げられるのである。

 また国家的な大型プロジェクトであっても閣議の了承だけでよく、国会に回付する義務は行政当局にはない。
 残念なのはその閣議ですらも閣議の前日に行われる事務次官会議の決定事項以外は議論してはいけない仕組みになっているのである。
 最後により重要なものは、国民一人一人のコスト意識である。

 公共事業の予算は補助金というかたちで中央から地方に予算をとってくるという形式なのでなかなか自覚されにくいが、当然のことながらどのような公共事業であろうとそのお金はタダなのではなく、自分たちが払った税金もしくは次の世代が払う国債なのであるということである。

 財政制度の複雑化や補助金制度で財政錯覚を起こしやすいが、すべての事業が自分達の税金(もしくは国債)なのだと自覚できれば無駄であったり採算がとれなかったりする公共事業にはもっと厳しい目がむけられるはずである。

1997年3月 執筆
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