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歴史観
2008年10月

日本の伝統精神とは-日本人にとっての宗教から考える-
塔村俊介/卒塾生

日本の伝統精神とは何か。これは人により答えが違っていたり、答えはないという人までいる。この命題を、また答えが得にくい、日本人にとっての宗教との関係性から考えてみたい。

 

1.はじめに

 日本人は、外国であるいは外国人に「あなたの宗教は何ですか?」と何気ない質問をされた時に、大きな戸惑いを示す。葬式は仏式だから仏教?でも初詣や願い事は神社だから神道?でも結婚式は教会だからキリスト教?でも結局どれも心の底から信じているようなものではないないから「無宗教です」と。他人事のようだが、あなたは自分の宗教を明確に答えられるであろうか。

 宗教が密接に生活や文化、政治経済に関わっている外国人にとって、この無宗教という答えは理解に苦しむらしい。日本人は本当に無宗教なのだろうか。また、そもそも日本人にとって宗教とはどのような意味を持っているのだろうか。

 世界各国の国民性を語る上で宗教との関わりは、非常に大きな影響を与え、歴史と共に国民性を形作っていると考えらえている。しかし、日本において、その基盤となる宗教は、実態として各個人にとっては大方意識しないものになってきていると考えられている。

 9・11以降、人類にとって宗教はより重い意味を持つようになってきている。一方で日本人にとって宗教とは、意識にないものであり、その宗教観の欠如が日本の伝統精神の減衰につながっているのではないか。本レポートでは日本人にとっての宗教を考えた上で、宗教観に基づきつつ、日本の伝統精神とは何なのかを考察していく。

2.日本にとっての宗教

 今や宗教は日本国にとってまた日本人にとって希薄なものになっているが、日本の歴史上は大きな結びつきと、対立を繰り返してきたことは紛れもない事実である。日本の宗教史を振り返ってみたい。

 宗教に関する芽生えは、既に縄文時代にあったとされている。縄文時代、日本人は自然の共生の中でアニミズムとともに信心を持っていたと考えられる。それは祈りの形をした土偶の発見などにより、明らかにされている。また、邪馬台国の卑弥呼は巫女であったとされ、まつりごとの呼び名の通り、政治と祭事は一体のものであると共に、その役割は農耕と祖先への祈りであり、今日まで脈々と生きているものである。

 日本の宗教史にとって1つ目の大きな転機となったのは仏教の伝来である。仏教ははじめ他国の神という考えも持たれていたが、やがて東大寺や国分寺建立などにより国家的事業として広められる。その後、神と仏は共存を果たしながら、神仏習合や修験道の確立により、日本における仏教はインドや中国とは違う独特の発展を遂げる。国家においてもまた民衆においても、神道、仏教や陰陽道、道教などは、場面によって使い分ける一体のものとしてそれぞれ信心されていくのである。

 次に大きな転換期となったのは、室町後期から江戸時代にかけてである。ここでの大きな出来事は、キリスト教の伝来と、檀家制度である。キリスト教の伝来は、日本にとって、織田信長を頂点としての既存宗教勢力との戦いの一面を見せた。結果としては、その反動として、キリスト教の禁止、檀家制度の確立へと進んでいく。この時代から、日本にとって宗教とは、単なる信心の対象としての宗教は影を潜め、政治的制度としての宗教となり、今の宗教観に近いものになっていったのではないだろうか。

 その後、明治維新をむかえ、神道は国家神道として宗教とは切り離されつつも、期待した役割は、欧米におけるキリスト教の役割を期待しつつ、終戦を迎えることとなる。

3.日本人の宗教意識

 さて、現在の日本である。無宗教と言われながらも宗教的イベントや、宗教施設には縁を持っている日本人。感覚でなく、正確な数字を追っていきたい。

 日本には、宗教を信じる信者数は一体どのくらいいるのだろうか。文化庁の調査によると、現在2億1000万人余りの信者が各宗教団体から報告されている。その内訳は、神道系約1億860万人、仏教系約9350万人、キリスト教系約220万人、諸教約960万人である。ご存知の通り、日本の人口は約1億2500万人であり、人口よりも多い信者数がいることになる。一方、世論調査による日本人で特定の宗教に入っていると回答している人は1割弱、単純換算すると約1100万人しかいない。

 奇妙な数字であるが、日本人の感覚からすると納得してしまう数字でもある。何をもって信者とするのかという定義が違ってしまえば、日本人のほとんどの人間は神社に行きお祈りをし、賽銭という寄付を行い(神道の信者)、またそのほとんどの人間が入るべき墓を持っているか、持とうとしている(仏教の信者)。ただ何となくではなく、きちんと信心し、活動を行っている人は10人に1人ぐらいであろうということである。

 日本人の信仰心は元々低かったのであろうか。考えられるのは、終戦を迎え政教分離により、一切の宗教教育がなされなくなったことにより、信仰心が急速に低下していったということである。読売新聞が1950年から継続して行っている「信仰があるか、ないか」という世論調査によると、「信仰あり」と答えた人が1950年には約3分の2いたのに対し、1970~80年代にかけては3分の1に落ち込み、さらに1995年以降は2割余りに低下している。

 信仰心は低いが、宗教的行動になると約8割の人間が盆・彼岸の墓参りをし、約7割の人間が初詣をし、約半分の人間が仏壇・神棚への礼拝を行っている。(2005年読売新聞世論調査)また、これらの行為は1979年以降、微増の傾向にある。また、54%の世帯に神棚があり、61%の世帯に仏壇があるというデータである。(1995年朝日新聞調査)行為だけを見ると何と宗教心の厚い国民であるかと思う。

4.日本人にとっての宗教

 日本人は宗教に対し、どのような存在なのであろうか。
首相の靖国神社参拝について、2004年1月調査では賛成46%反対41%、2005年7月調査では賛成39%反対51%(ともに毎日新聞社世論調査)。また、首相の伊勢神宮参拝については1953年調査では、行った方がよい50%本人の自由23%、1998年調査では、行った方がよい16%本人の自由62%となっている。(共に統計数理研究所調査)

 また、信仰の有無については、ポーランド、フィリピン、アメリカ、ポルトガル、イタリア8割前後に対し、日本は約3割と、フランス、デンマーク、チェコ、ドイツ、スウェーデンと共に、最低位に位置する。(International Social Survey Program調査・1998年)同じように、宗教団体への信頼度については、アメリカ8割強に対し、日本3割弱、宗教団体の指導者は政府の決定に影響を与えようとすべきではないという問いに対しては、アメリカでは、そう思う30.3%どちらかといえば29.3%に対し、日本では、そう思う71.4%どちらかといえば15.9%、宗教団体の勢力については、強すぎる・どちらかといえば強すぎると考えている人が、アメリカ23.5%に対し日本57.5%という結果が出ている。

 日本人にとって宗教とは、現代においては宗教分離の原則にも関わらず、宗教的な問題が政治問題となっており、宗教団体といえば、すぐに反社会的で被害者が出るもの、知っている宗教団体は政治に深く関わりすぎており、宗教とはなるべく関わりたくないという意識になっている。

 日本人にとって国民的な宗教はあるのか。私の答えは「ない。」ということである。

 しかし、日本人は日本人独特の宗教をもっており、それは、キリスト教やイスラム教とは別次元のもので、宗教の考え方というよりは宗教との付き合いが、日本の国民性、伝統精神をあらわしているのではないか。私はこれを山本七平氏のいうところの「日本教」と言うには、はばかられる。それは、それが「日本教」となった瞬間に、日本人は離れていくからである。

 ただ、仏教を取り入れる際の、世界に稀を見ない神道との融合にしても、キリスト教の伝道、弾圧、再興にしても、仏教の社会化にしても、神道の変遷にしても、日本人には三つの伝統があると考える。

 一つは、社会・コミュニティ、あるいは周りの人間との関係である。新しい宗教にしろ、新しい制度にしろ、それを推し進めたのは、仏教単体ではなく、日本人の好む考え方であり、それは論争による解決よりも、妥協点を探し、和を尊ぶ点。二つ目は、世の中のすう勢、特に上意下達的な雰囲気にはすぐに乗ってしまう点。三つ目は、紆余曲折がありながらも、伝統を捨てることなく、惰性であるかもしれないが、結果として、宗教にしても、天皇制にしても延々と続いている点である。

 現代においては、一つめの社会・コミュニティ的なものは崩壊しつつある。2つ目の上意下達的の雰囲気は、主導者が政治権力者からマスコミに変わりながらも生き続けている。そして三つ目の伝統の保持については、その意義を伝えることがないために、意味もなく形式的に残っている。

 私が危惧するのは、上記3点のバランスの上に成り立っていた日本の国民性は、今やその国民性の流行として、マスコミにつくられることしかありえない状況である。国民一人ひとりが自分の考えを持たず、また周りの人間と話し合う機会さえ失ってしまっている。これは非常に危険な状態である。ある一部の現象、人間の考えがあたかも全てのように感じてしまう。

 私たちに今すぐできる事は、まずは、この国、この地域の歴史を学ぶことである。我々の未来は、過去からの歴史、そして現在の延長戦でしかない。過去をしっかり認識し、その責任と偉業を理解しつつ、未来を切り拓いていかなければならない。

2008年10月 執筆
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