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2008年9月

塾生レポート

日本の農業に未来はある-地域から日本の農業を変える-
塔村俊介/卒塾生

農業従事者の高齢化率6割、農家の半分は赤字経営、800円のざるそばのうち農家に支払われるそば代は60円、今世紀に入って米の国際価格は5倍、食料自給率は40%にも関わらず農地は減り続けている現実。日本の農業は危機的、世界の食糧事情は激動期である。日本の農業に未来はあるのか。地域から日本の農業を変える。

 

1.はじめに

 私たちは毎日食事をしている。しかし、それをつくりだしている農業については、あまりにもモノを知らなすぎる。その農作物がどこでつくられているか、誰がつくっているか、いくらで買われているか、農家の生活はどうなっているか。食料自給率は40%が当たり前になり、食品の値段が上がった後で家計が厳しくなったと嘆く。

 日本の農業は、危機的な状況にある。このままでは、日本の農作物は食卓から無くなっていき、また、食料物価はとてつもなく高騰することは間違いない。本レポートには、日本の農業に少しでも興味をもらいつつも、わかっていながらも進展がない農業改革を少しでも前に進めたいという思いを込めている。魅力ある日本の農業へと、皆さんと一緒に変えていきたい。

2.日本の農業をどうするか

 日本の農業を今後どうすれば良いか。まず、日本の農業を考える上で大きく2つの観点から考えなければならない。1つは、この地球・世界を考えた上での日本の農業である。日本を始めとする先進国は、基本的には人口減少局面に入っているが、中国やインドをはじめとする発展の途上にある新興国は、まだまだ人口は増加する一方であり、2050年には90億人に達するという世界的な食料需要の増大という観点である。もう1つは、日本国内において、耕作放棄地や農業従事者の高齢化・担い手不足に見られるような、産業としての農業の衰退、かつ、それによって引き起こされる農山村部の衰退という観点である。

 具体的には最近、原油価格の高騰によるガソリン高が叫ばれているが、各種食料品のニュースに見られるように、世界の穀物価格も大幅に上昇を続けている。2000年と比べ最近の穀物価格の国際相場は、米で5倍、小麦で4倍、トウモロコシで3倍、大豆で2.5倍を突破というような信じられない状況が当たり前になりつつある。これは、食料自給率が40%で海外に食料を頼る日本にとっては大きな問題であり、日本の農業をどうするかを含め考えなくてはならない問題であることは間違いない。また、日本の農業従事者の6割は高齢者であり、今後の担い手はどうしていくか、耕作放棄地は2005年で38.4万haあり農地面積の8%を占めるまでに至っている。また1960年には600万haあった日本の農地は2005年には469haと大幅に減少し、この傾向は止まっていない。

 食料自給率100%を達成するためには、1200万ha必要と言われている。そもそも農地面積が減っている中ではあるが、そもそも現在の食生活のもとでは、自給率100%は非常に難しいと考えながらも、食糧安全保障からも日本経済からも現在の日本の農業を見つめ、未来の日本の農業をどうするかを考えていきたい。

3.なぜ日本の農業は衰退するのか

 なぜ日本の農業は衰退しているのであろうか。私は根本的には、農業従事者の問題であると考える。それは、工夫をし、頑張ろうという農家が現状では少なすぎる。また、その日本の農業を変えていく担い手になるであろう新規農業従事者がほとんどいない。それは、端的にいうと、日本の農業は魅力がないのである。もっと具体的にいうと、日本の農業は儲からないから、本気で本業として取り組むのではなく、会社仕事の合間でする(せざるをえない)のである。

 日本の農業は本当に儲からないのか。まず日本の農業の現状を見ていきたい。

 2006年の農業生産額は8.3兆円である。まずこの額がどのくらいかというと、トヨタ自動車の2007年の連結売上高が26兆円、百貨店が全体で7.7兆円ということを考えてもらうと、今や産業的にはいかに小さな産業になっているか想像できると思う。

 農家単位で見ていくとどうなるかというと、農家一戸当たり耕地面積は全国平均で1.6ha(都府県平均1.2ha、北海道16.2ha)であり、諸外国と比べてみると、米国176.1ha、イギリス70.1ha、ドイツ30.3ha、フランス38.5haという大きな差があることがわかる。この背景としては、そもそも耕地面積が日本は400万haしかないのに対し、米国38,598万ha、イギリス1645万ha、ドイツ1716万ha、フランス2827万haと根本から違うことと、農家戸数は日本が247万戸あるのに対し、アメリカ219万戸、イギリス24万戸、ドイツ55万戸、フランス74万戸と農家の数が多いという現状がある。つまり、耕地面積が少ないのに対し、農家の数は多く、結果として一戸当たりの耕地面積は小さくなる。耕地面積が小さいとそもそも生産額が少なくなるばかりではなく、経営効率も悪くなり、諸外国と比べると、圧倒的に悪い経営環境にあるといえる。

 また具体的な農業所得から見てみると、2003年で1日一人当たりの所得が製造業で18,557円あるのに対し、農業は5,118円しかない。ちなみに1965年では、製造業が1,472円に対し、農業が1,148円と今ほど差があるものでなく、金銭的にも魅力のある仕事であったといえるだろう。(産業別就業者割合/1965年・第1次産業24.7%第2次産業31.5%、2005年・第1次産業4.8%第2次産業26.1%)。

 日本の農業が儲からない理由はもう一つある。それは農地価格の問題である。10a当たりの平均農地価格は日本169万7000円に対し、イギリスが6.7万円、ドイツが14万円、フランスが3.8万円、アメリカが1.5万円と日本の農地価格が桁外れに高いということがわかる。なぜこのように価格が高いのであろうか。日本の農地が全体から考えて少ないため、その貴重性のためということもできるが、農地が容易に他用途に転用できるため、本来の農地としての価格というよりは、他用途転用後の期待価格も含めた価格設定になっていることが大きな原因であろう。

 従来土地の価格は、路線価や周辺の類似取引事例を基に決められることが多かったが、農地以外の一般の土地に関しては現在、収益還元法と将来土地が生み出す収益に注目して決められるようになった。たとえば、1000平米の土地があり、現在駐車場として利用され年間50万円料金収入があり、維持費が30万円で、年間20万円の利益があるとしよう。買収費用を10年で回収すると考えれば、土地価格は200万円になる。田んぼ10aで8俵(480キロ)、1俵14,000円で仮定して、年間売り上げは112,000円。現実的にはほとんど不可能であるが費用が半分と考え、収益は56,000円。土地の価格が169万7000円とすると、回収は30年以上かかる。土地の問題だけ考えてもいかに農業経営が難しいかということである。

 しかも、耕地面積の半分弱を占める米の消費量は、国民1人当たり年間米1960年には114.9kgであったのに対し、2000年には64.6kgと大きく減少し、現在も減っている傾向でかつ人口の減少も重なり、需要が少なくなる衰退商品が日本の農業の主要産品なのである。

4.農業規模拡大で農業に経営を

 これからは、日本の農業をどのように変えていったらよいかを考えていきたい。

 そもそもこれまで見てきたように、日本全体の農業生産額が8兆円程度であることを考えると、現在の日本の農家戸数、約250万戸というのは多すぎる。戸数の平均売り上げを500万円欲しいとしても160万戸、1000万円を目標とするなら80万戸というのが妥当であろう。戸数が減るということは自然と一戸当たりの耕作規模は大きくなるということである。

 なぜ規模の拡大が必要か。農水省の「米生産費調査」に信じられないデータがある。このデータは米60kg当たりの生産費用を作付け規模別に調査したものである。米60kgの平均落札価格はコメ価格センター調査で約14,000円であるのに対し、生産費は作付け面積が0.5ha以下の農家で2.4万円(うち労働費8千円)、0.5~1haで2.1万円(うち労働費6千円)、全国平均耕地面積の1~2haで1.8万円(うち労働費5千円)と2005年で6割弱の農家が1ha以下の小規模農家であることを考えると、ほとんどの農家は人件費を引いても田んぼ経営は赤字、平均耕地面積の1.6haなら人件費抜きでようやくトントンという農業以外の収入をもってようやく農業を続けている状況なのである。

 ちなみに、人件費も含めて田んぼ経営が黒字に転換するのは5~10haで1.2万円(うち労働費3千円)で、調査対象最大の15haで1.1万円(うち労働費2.8千円)と60kg米をつくってようやく3千円の利益を出すことができる。規模の拡大が農業経営の改善につながることは、米作に限らず、青果についても同じことが言えるであろう。

 ここで言いたいことは、現在の日本の農業はどんぶり勘定で経営感覚がまったくないということである。農業機器を副業(本業)の給料や年金で支払い、会社が休みの日にボランティアで農作業をする。できた農作物は自家消費するか知り合いにあげる。これが半分以上を占める日本の小規模農家の実態なのである。私は小規模農業を否定するつもりはない。棚田などの条件が悪い耕地はこのような方々に支えられているし、農業を趣味と去れている方もおり、それ自体は感謝すべき取り組みである。しかし、農業が重作業になっている方や、耕作を放棄されている方もいらっしゃるであろう。その方々には、何とかしてやる気ある大規模経営者に農地を売るなり貸すなりしていただきたいのである。

 このように考えるのは、世界の自由貿易の流れと、前述のように農業従事者の高齢化の問題による。これから30年後には、間違いなく日本の農作物は国際競争の波に襲われるであろうし、今の農業従事者のほとんどは世代交代をしている。これだけでは、日本の農業の処方箋とはならないが、まず前提として、未来にわたって経営をもって農家を続けることができ、担い手減少にも対応できる大規模経営が不可欠であると考えるからである。経営規模の拡大は、現在は必要ないかもしれない。しかし将来には必ず必要となることを農家の方々には頭に入れていただきたい。

5.「農と食」の連携・統合で農家の収益基盤確立を

 興味深い調査がある。農水省が発行している「食料・農業・農村白書」の中に、農水産物が農家や漁業者から流通や加工、外食も含めどのような流れ金額になっているかを説明しているものがある。2000年の実績によると、まず生鮮のままの農水産物で15.3兆円(輸入3.2兆円を含む)が直接農家や漁業者に支払われる金額である。それが最終的に消費者が使う飲食費になると、80.3兆円(生鮮品15.1兆円、加工品41.5兆円、外食23.7兆円)になるのである。この金額には、生鮮品だけでなく、加工品や外食での金額も含まれるが、ここには農家ではなく、流通業界や、食品産業に大きなお金が落ちているということが如実に現れている。実際の金額とは違うが、たとえば最終的に1杯800円のざるそばで考えてみよう。そばの実の買い付け段階で、農家には60円が支払われる。それがそば工場に納入されるときには80円になり、そば工場で加工されそば麺として飲食店に納入される際には300円となる。そして、それが800円のざるそばとして食べられているというイメージである。加工品でなくたとえば米であったとしても、茶碗1杯150円のご飯は、農家に渡るのは15円、消費者に売られるときには24円のものなのである。

 何が言いたいかというと、農と食は完璧に切り離された産業になってしまっているということである。1975年には飲食費総額が31.5兆円に対し、10.5兆円が生産者へと渡っており、ある程度繋がりがあるものであった。それが今では飲食費の7分の1しか生産者へと渡っていない。社会は大きく変わったのに、生産者は何も変わらなかったのである。

 必要なのは、農業と流通・加工そして飲食との連携、すなわち「農と食」の統合・連携である。これまでの農業は、言われたものをつくり、言われた通りの価格で買ってもらい、儲けは気にせずとりあえず先祖伝来のものをするという、製造業で下請け、内職、趣味的な要素が非常に強いものであった。その方法で儲けも出てよかった時代もあったかもしれない。しかし、将来にわたって続けることを考えると、その方法は限界に達しているのである。

 「下請け」から「メーカー」になりませんかということである。直接消費者に米・野菜を売る。もち米を出荷するのではなく、もちに加工して売る。つくった農作物を使って農家レストランを経営する。難しいことのように思えるが、既に先進事例はたくさん出てきている。要はやろうと決断することと、誰がリーダーとなって引っ張っていくかということなのである。

 このようなことを提案するのは、もちろん儲けの面もある。しかし、今日本に欠け本当に必要なのは、生産者に誇りを取り戻すことなのではないだろうか。自分の名前を消費者に訴える、消費者の声が直に生産者に届く、そしてお金もついてくる。確かに、現状より手間や面倒なことも増えるであろう。しかし、昔の良かった話や愚痴ではなく、今が楽しい農業にするためには、農家としての誇りを取り戻すしかないのである。

6.「日本食」で世界マーケットへ

 日本の農家は国際競争力がないと言われる。米60kg作るのに必要な生産費は、日本では15ha以上作付けしている大規模農家でさえ11,254円に対し、アメリカ・カリフォルニアでは2,180円と大きな差が出ている。この差は前述のように、農家一戸当たりの経営規模による。確かに生産規模で考えると、他の農作物も同様に諸外国に太刀打ちするのは難しいと考える。

 しかし、日本には大きな長所がある。それは日本のマーケットである。日本ほど消費者が農作物に興味を持ち厳しく目で見、また舌が肥え、食文化が発展している国は、食品偽装や農薬、BSE問題やミシュランの結果を見てもわかるように、世界でも稀であろう。また日本食は、世界の健康ブームにあやかって、世界に広がりつつある。つまり、日本でブランドを持つことができ、きちんと消費者に支持される農作物は世界を市場に戦える可能性が大いにあるということである。

 現在、日本の農作物の輸出状況は2004年で19億ドルと、イギリス212億ドル、イギリス392億ドル、アメリカ630億ドルと比べて、かなり少ない状況といえる。それは、自給率が40%切っているような状況で輸出なんて無理だと言う人もいると思うが、耕地に適した土地がそもそも少ないという日本の地理的特性を踏まえると、発想の転換が必要である。それは、量ではなく質で勝負し、結果的に量を増やしていくということである。

 具体的には、現在の日本の農業は、諸外国と比べ手間がかかるという実態がある。その手間を逆手に取り、手間はかかるが高品質の農作物に注力し、結果として農耕地を維持するということである。まずは目標として、金額ベースの食料自給率の100%を設定する。金額ベースの食料自給率はカロリーベースの食料自給率よりも高いため、ごまかしの声もあるが、日本経済がどのような状況になったとしても、また、今後のFTAに耐えれる農業を考える上でも、いざと言うとき食料だけで物々交換になることも想定し、1つの目標指標としてとらえる必要があると思う。

 高品質な農作物をつくったとしても、高級品の市場は日本だけでは限界がある。まずは、日本全体の約半分を占める米作の供給先として、米食文化のアジア圏をターゲットしながら、単体で勝負できる畜産物や青果はすぐにでも世界をターゲットとすることが必要である。もう既に、中国や台湾で米や果物に日本以上の価格が付けられているというニュースで知られているが、りんごも英国に輸出されているなど、少しずつであるが、確実に成果をあげている。それは、世界一厳しいと言える日本の市場で鍛えられた農作物は、安心・安全という面で評価が高いものであるし、味覚においても、日本の農業技術や研究開発技術が大いに特性を発揮しているものである。

 また前述の通り、富裕層が増えるにしたがい、食生活自体も、カロリーが少なく、健康的な日本食が今後注目を浴び、世界的な広がる可能性も大きいと考える。それは、中国やインドの富裕層のご子息は肥満体であることが多いことから、腹を満たすという欲求から健康体を求めていくことに変わっていくだろうという予測からである。安心・安全、味覚の即効性と日本食の浸透と長期的視野で日本の農作物の世界展開へとつなげていかなければならない。

 ここで注意が必要なのは、日本の畜産も含めた農業の循環型農業への移行が不可欠ということである。肥料の自給率は約半分、また畜産の飼料の自給率は4分の1という現状である。今後、食料需要の増加、食生活の変化による畜産物の需要の増加、またバイオエタノール生産のためのトウモロコシ等の飼料作物の減少を考えると、肥料や飼料の獲得競争の激化や価格高騰は、容易に予想できることである。単なる食料の自給だけを考えるのではなく、肥料や飼料も含め、食料残さの利用など、従来のコスト発想にとらわれない対策が必要である。

7.終わりに

 日本の農政は迷走している。農林水産大臣の相次ぐ辞任、大規模農家育成に注力すると思いきや、選挙での大敗を受け、小規模農家への保護政策、資源高騰への場渡り的対策、米買取価格の突然の値下げ。JAは農業外部門が農業部門を支える構造になっていただ、農業外部門の収益悪化を受け、農業部門への手が回らなくなってきている。

 もう農水省やJAに任せっきりでは限界がある。私は日本の農業の明るい未来を切り拓くのは、地域であり、地域農業を支える農家であると考えている。もちろん、日本の農業を真剣に考える農水省の関係者や、農産品のブランド化や輸出など意欲的に取り組みを続けるJAもある。そのような方々には、引き続き頑張っていただきたい。しかし、もうそろそろ日本の農業の将来ビジョンを具現化しなければならない。それをできるのは地域しかないのである。地域の農家、住民、行政が一体となって立ち上がればその地域だけでも確実に変わる。ビジョンは全国一律に描けても、それを具現化するのは、地域単位で人々が立ち上がった地域しかできないのである。

 その地域としては、まず中山間地域が立ち上がらなければならない。限界集落など現在中山間地の未来は暗いものが多い。その中山間地の唯一最大の資源は農業である。中山間地の未来を切り拓くためには、農業が必要不可欠なのである。そして、その農業の未来が変わらなければ、中山間地の未来も変わらない。

 私の故郷は、島根県の奥出雲町という典型的な日本の中山間地である。仁多米という5kg3500円で小売りされるブランド米を持ち、農業先進地域として知られているが、それでもなお明確な農業の将来は見えていない。私は使命として、この地域から日本の農業の将来を実現したいと考えている。小さな小さな地域かもしれないが、もしこの地域で日本の農業の将来を具現化することができれば、真似をしてもらいながら、全国へと広がっていくはずである。本レポートはこれで終わりであるが、この地で日本の農業の将来が切り拓かれたとき、また皆様にご報告したいと思う。

 日本の農業の明るい未来を願って。

2008年9月 執筆
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