松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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国家観
2007年7月

塾生レポート

「塾主の政治経営理念」の考察 -日本型民主主義を根付かせるために-
塔村俊介/卒塾生

塾主が求めた政治経営理念はどのようなものだったのか。私たちはその実現のため何に取り組む必要があるのか。理想の国家実現のため私たちに与えられた使命を探求する。

 

1.はじめに

 今も刻一刻と日本国の借金は増え続けている。松下幸之助塾主は、赤字国債を増やし続けているこの日本の未来を憂うとともに、そのもととなっている政治のあり方に疑問を持たれ、その政治を見直そう、この日本を良くしようとの思いで、松下政経塾をつくられた。

 しかし、いまだに政治は変わらない、あるいはまだ目指すところとは程遠い現状がある。松下幸之助塾主の政治経営理念に共通する思いは、PHPの思想はもちろんのこと、もっと良い政治の方法があるのではないか、それは松下幸之助塾主が経営で実践されたことからのヒントであることも大いにあるし、国民自身も変わらなければならないというメッセージが込められていたと思う。

 本レポートでは、松下幸之助塾主の政治経営理念はどのようなものかを改めて考えると同時に、理想の国家像はどのようなものかを考察していきたい。

2.会社は誰のものか

 昨年、一昨年とライブドアや村上ファンドの登場により、会社は誰のものかという議論が噴出した。株主のもの、従業員のもの、経営者のもの。日本人自身、そんなことは、今までほとんど考えてこなかったように思う。従業員は、毎月給料をもらっている存在が会社であり、株主は、初めにお金を出しあとは株券がたんすの中にしまってあるだけで会社に対しては何も言わないし、経営者は、自分が思うとおりに会社の行く末を導いているだけであった。会社は誰のものかということは考えなくても良かったのである。

 会社は誰のものかという問いに対し、松下幸之助塾主は次のように示唆している。

「会社はみんなのものです。」

 塾主が言わんとしたことは、つまり、会社は誰のものでもなく、公のものだということでなかろうか。水道哲学で知られるように、松下幸之助塾主の経営理念の根底には、会社は社会に奉仕するものであり、その結果として、会社は存在する。会社が社会に貢献することによって、楽土建設へと繋がっていくという考えがあった。では、このような考えは松下幸之助塾主から突拍子もなく生まれたものなのであろうか。それとも日本に連綿として続く精神を塾主が言葉に表したものなのであろうか。

 日本の商業界において、長い間中心的役割を果たしてきた近江商人の言葉に次のような言葉がある。「売り手よし、買い手よし、世間よし」つまり、買い手にとっても良いこと、世間にとって良いことは、売り手にとってよいことであり、利益が上がることという意味だが、これはまさしく松下幸之助塾主がおっしゃっていることと同じ意味なのではないだろうか。このように日本の会社、社会というものは、会社は誰のものかという具体的なことは考えてこなかったかもしれないが、会社の社会的役割、責任というものはずっと認識されてきたはずである。

 会社は公のものという意識が日本人の中であったかもしれない。では、日本国は誰のものと日本人は考えているであろうか。答えは誰に聞いても「国民」と答えるはずである。それは、現日本国憲法で「国民主権」が高らかにうたってあるからである。では、本当に日本国は「国民」のものになっているだろうか。国を会社と考えてみると、売り手(利益を受ける側)も国民であるし、買い手(お金を払う側)も国民であり、世間(社会)も国民である。あるいは、従業員(国民・官吏)、株主(有権者)、経営者(政治家)も全て国民で構成される会社が国であるいうこともできるであろう。

 今その会社(日本国)が倒産するかもしれないと危機にある。しかし、私たちは株主としての権利(投票権)を半分の人間は放棄し、会社(日本国)は公のために奉仕するということが為されていないにも関らず、経営者(政治家)を高い識見をもってきちんと選び、チェックするということを怠り、従業員(国民・官吏)は愛社(愛国)精神も持てないような状態を続けている。このような会社がずっと繁栄を続けることができるであろうか。松下幸之助塾主は、まず主権者は国民にあるということをきちんと国民が自覚することが必要と説いている。その上で、日本型民主主義を根付かせなければならないと説いている。

 会社は誰のものかということは、経済的な騒ぎの一つであったかもしれないが、翻って日本国は誰のものかということを、国民自身がまずはきちんと考えなければならないと思う。そこから民主主義は生まれてくると考える。

3.道州制で日本型民主主義を根付かせる

 それでは、国民が国民主権を自覚し、日本型民主主義を根付かせるにはどうすれば良いのであろうか。

 高度経済成長期が終わり、バブル崩壊を迎えた日本は、一億総中流から、各個人がそれぞれ考えを持つ社会への変化、また少子高齢化社会の中の財政危機といった問題を抱えている。それは同時に、これまでのお任せ民主主義の政治から、国民参加型の政治へと変化を遂げなければならない状況にあることを示している。国民は主権を自覚するとともにこれからは責任も担わなければならないのである。社会の状況が変化する中、日本型民主主義を根付かせるためには、「日々新た」の精神で国自身の枠組みを変えていくことも必要であると考える。

 ここで私が注目したいのは、松下幸之助塾主が唱えられた「道州制」「廃藩置州」「簡県置州」という国のかたちである。利点の詳細は塾主の発言の通りであるが、要点をまとめると、それは、交通や通信の発達の中、60年以上前の現在の制度が現状にそぐなわなくなってきているという面ももちろんあるが、これほど日本が豊かになり、様々な考えを持つ人間が多くなってきた現状において、全国一律ではない、その地方の人間の実情に沿った政治が必要だとの考えからである。松下幸之助塾主は民主主義の本質について「民主主義の本質は、人間本然の姿が、そのまま素直に生かされていくことにあります。これは真の意味での人間主義であります。」とおっしゃっている。これは、国ごとの最もふさわしい民主主義が必要との考え方でもあるが、1億人以上の人間を抱える日本の地域ごとにも同じことがいえるのではないだろうか。

 松下幸之助塾主は、日本でいち早く事業部制を導入した人でもあり、中小企業の大切さを訴えていた人でもある。政治(経営)の主体が、より自分たちの身近なところに移ることによって、国民の政治(経営)に対する関心は高まるであろうし、政治の自由度と責任度が高まることによって、政治家(経営者)はやる気を出し、政治の生産性(経営効率)というのも高まってくると考える。もちろん、本社が社是やグループの経営方針の会社の根幹となることを決めるように、国そのものは、国是や安全保障、教育といった国家の大本となる部分は責任を担わなければならないが、できるだけ権限は道州へと移していった方が、民主主義を根付かせ、会社でも利点があったように、より大きな効果が期待できるのではないだろうか。

 道州制による、生産性が高まった政治と、人間主義に基づいた日本型民主主義の確立。この実現の先に理想の国家誕生があるのである。

4.終わりに

 これまで、塾主の経営理念をもとに、会社は誰のものか、では国家は誰のものか、本当に国民主権は実現されているか、国民が変わらなければならないのではないか、そして、それを後押しする国のかたちが必要ではないかということを考察してきた。

 では、国家としての最終目標は何があるのかというと、なかなか答えが出ない問題ではあるが、私が思うに、序論でさらりと流したが、それはPHP、すなわち、繁栄を通じて平和と幸福を、ということに尽きるのではないかと思う。

 日本は戦後、幸運ながら繁栄することができ、ほとんどの人々は幸福になり、世界で稀に見る60年余りの平和を享受することができた。しかし、それが将来にわたって確信できるものかということは、はなはだ疑問である。繁栄はいつまで続くのか、幸せでいられるのか、平和を愛する国家であり続けるのか。その綻びはいたるところに見て取ることができる。

 松下幸之助塾主は、「政治は国家経営である」とおっしゃった。この未曾有の財政問題を切り抜けるにはこの政治に経営感覚を取り入れるということが重要な鍵であると考える。松下政経塾生として、松下幸之助イズムを学び、それを社会で実現していくことは、松下政経塾生としての使命でもあり、社会からの要請でもあると思う。今日本では、「官から民へ」「三位一体改革」「道州制」など松下幸之助塾主が何十年前からおっしゃっていたことが実現しつつある状態である。しかし、それは本当に望んでおられた姿なのか。かたちばかりが先行して、何のためにするのかという視点が落ちているのではないか。

 私一人ではこれらの問題に立ち向かうことは無力であるかもしれない。しかし、塾主のお力を借りながら、衆知を集めながら、何とか理想の国家を実現しなければならない。これからも、塾主の政治経営理念を探求し、この日本のそして人類の繁栄幸福と世界の平和に貢献していくことをここに誓う。

 松下電器産業が昨年度16年ぶりの好業績を遂げたという。これは、松下幸之助塾主が亡くなられて以来のことである。松下幸之助流の商売方法を革新した中村会長には非難もあったが、「日々新た」「生成発展」を大事にされた松下幸之助塾主は天国でさぞ喜んでおられることだと思う。社会は日々変わっている。憲法改正も現実味を帯びてきた。塾主が思いを託した松下政経塾の一員として、塾主の提言そのものは時代とそぐわなくなったものもあるかもしれないが、その根底にある精神をきちんと汲み、良き日本をこれからつくっていきたい。

2007年7月 執筆
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