松下政経塾 The Matsushita Institute of
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地方自治
2005年11月

塾生レポート

奄美における自然環境の保全と経済活性化への活用を目指して
安田壮平/卒塾生

奄美の繁栄のための課題として、経済・産業・雇用を活性化させ、経済的自立と政治的自治を高めることは、困難な事業だろう。しかし、奄美の固有の資源である豊かな自然環境を繁栄の基軸に据え、戦略的に活用すれば、達成できる可能性はある。そのために、まずはそれを保全するしくみを確立することから始めるべきだと考える。

 

Summary

 My purpose in life is to improve my hometown, Amami-oshima Island, because I love the island.

 But the island has many problems. The decline of the local economy and industries is the most important problem, I think, and cause other problems, such as the decrease of population and the destruction of the environment.

 I think the most important resource that Amami has is its valuable natural environment, because it is the mother of the history and traditional customs, and it is of great value to biology, and it may be the one of the World Natural Heritages in the future.

 So we must preserve our natural environment, and use wisely and strategically to improve our economy and industries and employment. I think sightseeing business, especially eco-tourism is the key of realizing the improvement of economical tasks.

 However, we must not forget that preservation of the natural environment is the first, and using it is the second.

はじめに

 私の志は、故郷である奄美を発展・繁栄させることである。前回のレポートでは、この志の原点としての問題意識、奄美の概略、奄美が抱える問題やその原因などについて述べた。

 私は、奄美には世界的にも貴重な自然環境や、豊かな人間活動の知恵の集積としての伝統的な文化・風俗があり、それらと密接に結び付いている女性の高い出生率(合計特殊出生率:奄美2.20、全国1.29、2003年)や百寿率(人口10万人に占める百歳以上者の比率:奄美64.86、全国18.05、2004年)などの実績は、ひとり奄美だけを繁栄させるのでなく、わが国全体や世界全体の繁栄に対しても、それらの要因となる知恵を提案したり、モノやサービスを提供したりすることによって、微力ながら貢献することができると、真剣に考えている。

 この奄美の繁栄や、わが国や世界の繁栄への貢献を阻害する恐れがあるものとして、私は3つの問題点を指摘した。それは、1)経済・産業の衰退・停滞、2)人口の長期継続的な減少、3)自然環境の破壊、の3つである。これらが発生した原因を含めた詳細については繰り返し述べないが、これからの奄美の発展・繁栄の方向性としては、3つの問題点への対応策として、
  1.経済・産業・雇用の活性化
  2.一定の人口の確保
  3.自然環境保全のしくみの確立
であると考える。今回からは、奄美が発展・繁栄するための方向性・課題として、上記の3つについて考察しようと思う。

方向性・課題の優先度

 さて、上記3つの奄美発展・繁栄の方向性・課題について、どのような優先度によって取り組むべきだろうか。

 そもそも私は、奄美が永久に繁栄していくためには、現在の依存構造(経済・産業や島民気質・体質における官への依存)を転換し、奄美自身による経済・産業的自立と政治・行政的自治を高めていかなければならないと考える。これができてこそ、財政赤字に困窮する国や県との共倒れを回避することができ、国や県の政策方針に振り回されない、奄美独自の繁栄のあり方を追求することができると考えるからである。このことは、奄美が1440年頃に琉球王朝の支配下に編入されて以来の依存体質を脱却するための歴史的挑戦であり、また、島民が自由に経済活動などを行っていた前琉球時代の自立・自治の精神を回復するための島民自身の闘いであることも付言しておく。

 このように、奄美が永続的に繁栄するためには、まず奄美を見直すこと、つまり、奄美の特徴や固有の資源を見つめ直すことから始めなければならないと考える。奄美の固有な資源を生かした発展のあり方、奄美の歴史や伝統に根付いた繁栄のあり方でなければ、力強く着実に発展・繁栄していくことは難しいと考えるからである。

 そして私は、よそにない奄美の固有の資源であり、奄美を奄美たらしめているものは、その貴重な自然環境であると考える。「貴重」とは、学術的にも稀少で高い評価を得ているということと、島民の歴史や文化の起源であり、島民が生活していくためにも必要不可欠なものだということを意味する。

 自分の身の周りにあるものの価値に気付きにくいのは、人間の特性の一つだろう。奄美においても、これまで、自然環境の貴重さ・大切さは、多くの島民にとってそれほど強く認識されなかった面があることは否めない。その一端が、過剰な公共工事や山林へのごみの不法投棄などに表れていよう。

 しかし、これからは、その貴重な自然環境について、新しく価値を付け直し、自然環境の捉え方を変えなければならない。それは、わが国だけでなく、世界全体にとっても至宝であるから、保全し、次世代に継承していく必要がある。また同時に、それは、奄美独自の強みであり、他の地域との差別化要因でもあるから、これを奄美の繁栄のために戦略的に活用していくことも考えなければならない。それにはまず、この自然環境を生かして、経済・産業・雇用の活性化に結び付けることである。

 奄美の永続的な繁栄のためには、先述の通り、厳しい闘いに打ち克たなければならない。そのためには、島民自身に力強い基軸が必要である。その基軸は奄美の固有の資源であり、私はそこに貴重な自然環境を据えたい。そして、それを保全しつつ、したたかに戦略をもって活用してこそ、闘いに打ち克って、自立・自治という繁栄の入り口に立つことができると考えるのである。

 よって私は、奄美発展・繁栄の方向性・課題について、最も優先度が高いのは自然環境保全のしくみの確立であると考える。そして、その確立を進めながらも、戦略的に考え、活用することによって、経済・産業・雇用の活性化を並行的に進めようと思う。そして、一定の人口の確保は、自然環境保全のしくみが確立し、それを生かして経済・産業・雇用が活性化された結果として、実現できると考えるのである。

自然環境保全のしくみ

 そもそも、私がなぜ奄美の自然環境を保全しなければならないと考えているのかというと、それが決してただ単純に学術的にも、島民の歴史・文化的にも貴重であるから、というだけではない。奄美の自然環境、より厳密にいえば、その中心となる原生林は、世界中でも奄美だけにしかなく、一度失うと二度と取り戻すことができないと考えるからである。そして、それを固有の資源と捉え、奄美の基軸として活用していくためにも、島民や外部の人間などが無邪気に、無自覚に、無秩序に自然環境を破壊することを何としても食い止めなければならないと考えている。

 それでは、自然環境保全のしくみを確立することについて考察しよう。私は、自然環境保全のしくみとして、以下のような法制度や運動を考えている。
  ・世界自然遺産(世界自然遺産条約に基づく法制度)
  ・国立公園(自然公園法に基づく法制度)
  ・原生自然環境保全地域(自然環境保全法に基づく法制度)
  ・ナショナルトラスト運動(土地の買収による自然環境の保全運動)など

 現在の奄美の状況は、国立公園よりも保全・管理の程度が弱い国定公園に指定されており、また、原生の状態を維持している地域について極力人為を加えずに残すことを目的とする原生自然環境保全地域も、狭小な範囲に断片的に指定されているのみである。世界自然遺産やナショナルトラスト運動による保全のしくみは、奄美ではまだ存在していない。

 よって私は、国定公園から国立公園への格上げや、原生自然環境保全地域の指定範囲の拡大による保全のレベルアップを図るべきだと考える。

 しかし、それによって自然環境保全のしくみが確立したとはいえない。というのも、現行上の法制度には、自然環境保全の実効性を担保する規定(行為規制や罰則など)はあるものの、実際には違反行為の取り締まりの困難さなどのため、規定が十分に遵守されていない現実が起きているからである。

 このような状況を見るにつけ、現在のわが国において、自然環境の保全を法制度のみで達成するのは非常に困難であると考えられる。わが国で自然環境の保全と活用を図るために昭和6年に初めて制定された国立公園法(後の自然公園法)も、もともとは米国の国立公園制度をモデルにしたものであり、わが国と欧米との自然環境の観方の相違を克服したものだとは考えられない。大まかにいえば、自然と人間を対峙したものと捉え、人間活動のために自然を支配・征服していくという欧米の自然観とは異なり、わが国においては、一木一草に八百万の神が宿ると考え、自然の恵みを必要なだけ分けて頂くことによって、生活を営んできた。そこでは里地・里山に象徴されるように、自然はごく身近で親しいものであるという観方だといえよう。

 だからこそ、わが国の負の側面として、自然環境を特別で貴重なものだと認識しない面が表れるのだろう。よって私は、わが国では自然環境の保全を法制度のみで達成するのは困難であると考える。法制度に増して重要なのが、住民の自然環境に対する意識や行動であり、それらと法制度が両輪として相俟って初めて、自然環境保全のしくみが確立されると考えるのである。

 だから私は、自然環境保全のしくみを確立するために、法制度の拡充と共に、島民の自然環境に対する意識や行動にも働きかけなければならないと考えている。

世界自然遺産

 そこで、私が着目しているのが、世界自然遺産という国際条約に基づく法制度である。というのも、この法制度が国際機関やわが国の行政機関による上からの自然環境保全の制度というだけでなく、島民を巻き込んだ活動、たとえばナショナルトラスト運動などに発展し、島民の自然環境保全への意識や行動を向上させる原動力になる可能性があると考えるからである。もちろん、世界自然遺産に過度な期待を寄せるには気が早く、慎重な検証が必要であるが、わが国内の世界遺産登録地の状況を見るにつけても、やり方次第で大きな活動のうねりを起こせるだろうと考えている。

 ここで、世界自然遺産について概略を説明しよう。

 世界遺産という法制度は、1972年のユネスコ総会での世界遺産条約採択により、人類にとって普遍的価値を持つ文化財や自然環境を保全する目的で誕生した。その背景には、1959年にナイル川のアスワン・ハイ・ダム建設計画で水没の危機にさらされたヌビア遺跡群の救済問題があったようだ。先進国・途上国を問わず、経済・産業の開発が加速度的に進もうとする中で、文化財や自然環境という人類共通の財産が喪失することへの危機感が昇華され、結実された法制度だといえよう。

 制度の具体的な内容は、世界遺産委員会が、締約国の推薦によって、保護を図るべき文化財や自然環境を「世界遺産」として登録し、世界遺産を保有する各国に保全が十分に行われるよう監視・助言をする。また、締約国の拠出金からなる基金により、各国が行う保全活動を援助する、というものである。世界遺産には、文化財の文化遺産、自然環境の自然遺産、そして両者を合わせた複合遺産の3種類がある。ここで私が着目しているのが、2つめの自然遺産なのである。

 世界遺産に登録されるためには、厳しい条件の審査をクリアしなければならない。自然遺産の場合、1)世界遺産条約にある「世界自然遺産」の定義に合致すること、2)地形や地質・生態系・自然景観・生物生息地の4つの登録基準のうち1つ以上を満たすこと、3)保全・管理措置が担保されていること、という大きく3つの条件をクリアしなければならず、事は容易でない。さらに、先行登録地優先の原則により、ある自然環境を持つ地域が先に登録されていたら、その類似の自然環境を持つ他の地域は登録することができない、という登録条件以外の条件などもあるのだ。世界遺産に登録されることの困難さを理解して頂けるのではないだろうか。

 ここで、世界自然遺産の登録について、考えられるメリットとデメリットを考察しよう。

 まずメリットであるが、第一には自然環境保全のしくみが確立し、自然環境を確実に保全していくことができることである。世界自然遺産の登録条件の3)保全・管理措置には、通常の場合、その国における最高度の自然環境保全の法制度の施行が必要になる。そこでは、単に法制度の強化だけでなく、国や自治体による予算や人員のさらなる拡充もなされるだろう。それだけでなく、法制度よりも大切な住民の環境保全への意識や行動が高まると考えられる。それによって、自然環境保全のしくみが確実に機能していくと考えられるのである。

 また、世界自然遺産の強い訴求力により、宿泊・交通・ガイドなど観光に関する産業への波及効果や、それに伴い農林水産業・製造業・商業などへの波及効果もあり、経済・産業の活性化に貢献するだろう。そして、住民が地元の自然環境を見つめ直すきっかけとなり、郷土愛や郷土への誇りの強化、地域づくりの活発化、さらには、人口の確保などにも資すると考えられる。

 一方、デメリットとしては、皮肉ではあるが、自然環境の変化・破壊が第一に考えられる。というのも、観光客の急激な増加や受け入れ態勢の不整備などにより、自然環境に過度な負荷がかかってしまう可能性があるからだ。人間が自然環境の中に、その許容範囲を超えて立ち入れば、たとえ表面上は破壊などなくても、気付かないうちに表土を削ったり、種子や花粉を持ち込んだりして、何らかの変化を与えてしまう可能性が高まる。こうなってしまっては、世界自然遺産の趣旨は元も子もなくなる。

 また、法制度の強化により住民や企業の諸活動に規制・制限がなされる可能性もある。そして、受け入れ態勢整備のために、地元自治体などの財政負担が増えるだろう。他に、観光業の活性化により、宿泊業などに都市圏の大手資本が参入し、地元の業者が圧迫される恐れもある。

 以上のように、世界自然遺産の登録に当たっては、決して小さくないメリットとデメリットが考えられる。現段階では、これらは基本的に仮説であり、検証していく必要があるが、これらを踏まえた上で、登録を目指すか否かについては、非常に慎重な判断が必要である。特に、この制度の本義である自然環境の保全について、登録されることでかえってその変化や破壊を起こしてしまっては、登録の意義をほとんど失ってしまう。もし登録を目指すのであれば、自然環境の保全や管理を十分に担保できる状態を先に実現した上での登録でなければならないと考えるのである。

世界自然遺産に関する奄美の現状

 それでは、奄美が世界自然遺産に関して、いまどのような位置にいるのかを確認しよう。

 わが国は、1992年に世界遺産条約を批准し、その翌年、屋久島(鹿児島県)と白神山地(青森県・秋田県)を世界自然遺産に登録した。その後、環境省や林野庁により、この2つの地域における自然環境保全体制づくりが一段落したのを機に、2003年に環境省などによって、新たな登録候補地が決定された。その登録候補地とは、先述した登録条件をクリアする可能性があり、かつ、類似の自然環境を持つ既登録地が存在しない地域である。実際には、知床(北海道)・小笠原諸島(東京都)・南西諸島(鹿児島県・沖縄県)の3カ所であった。この3つの登録候補地は、全国1万7千カ所から選ばれた3カ所であり、その重みは非常に大きいものがあると考えられる。

 事実、知床は、1977年にわが国において先駆けとなるナショナルトラスト運動を実施して、豊かな森林を保全してきた実績があり、1993年頃から地元の斜里町が独自で世界自然遺産について調査などの取り組みを開始し、企業や住民の自然環境保全への意識も高く、高水準の保全・管理措置が担保されていると判断され、登録候補地決定からわずか2年後の2005年7月には、世界自然遺産に登録されることとなった。

 また、小笠原諸島は、つい最近の情報によると、2009年の登録を目指すことになったようだ。そのためには、さらなる学術調査やヤギ・アフリカマイマイなどの外来種対策が必要であるが、私としては、予想以上に早く登録が実現されることになりそうだと考えている。ここに、環境省や林野庁の世界自然遺産に対する取り組みの強化が感じられる。

 一方奄美は、もう1つの登録候補地である南西諸島の一部に含まれている。この南西諸島は、前の2つとは異なり、登録に向けて様々な課題・障害があると考えられている。

 まず、南西諸島は、北は鹿児島県のトカラ列島から、南は沖縄県の先島諸島までを含む南北1千km以上の島々にわたり、国内の登録地・登録候補地には例のない範囲の広さである。この広範さと、沖縄・奄美の特徴からもたらされる課題は、人口の多さ、公共工事の多さ、そして、沖縄本島北部の米軍用地の存在である。特に米軍用地については、これがために貴重な生物が生息するヤンバル地方を国立公園に指定できず、自然環境保全の観点からは問題となっている。しかし、事は安全保障に関わる問題であり、そう簡単に解決するものではなさそうだ。よって、世界自然遺産の登録をするにしても、南西諸島における登録範囲は環境省などによって変更される可能性が大いにある。(世界自然遺産に登録される範囲は、島全体ということはなく、あくまでも非常に貴重な自然環境が残存している範囲に限定される。)

 また、奄美諸島だけを見ても、解決しなければならない問題は多く存在する。たとえば、外来種の問題である。近年特に目立っているのがマングースによる被害である。もともとは、ハブを退治させるために人間が山の中に放ったのだが、ハブは夜行性、マングースは昼行性という特性もあり、実際にマングースはハブを襲うよりも、アマミノクロウサギなど貴重な生物を襲ったり、畑に出て農作物を喰い荒らしたりしているようだ。2005年から外来種防止法が施行されたことにより、マングースの退治・駆逐を強化しているが、気の長い取り組みが必要だろう。

 そして、私有地の多さも問題とされている。他の登録地・登録候補地は、いずれも95%以上が国有地であるが、奄美において登録の可能性がある非常に貴重な自然環境が残存する範囲の多くは私有地となっている。私有地の場合、自然環境の保全・管理を行う上で支障が生ずる恐れがあり、土地の買収などを視野に入れつつも、予断を許さない状況が続くと考えられる。

 その他、奄美の自然環境についての学術的な調査研究の不足や、それによる情報の不足などが挙げられるが、私が最も問題であると感じているのが、先程も少し触れたように、島民の自然環境に対する決して高くない意識や行動である。これが改まり、過剰な公共工事や山林へのごみの不法投棄などがなくならない限り、実効性のある自然環境の保全・管理は実施できず、世界自然遺産に登録されることもあるまい。

 以上のように、奄美を含む南西諸島は世界自然遺産の登録を考えるに当たって、自然環境のもともとの質や稀少性は環境省などのお墨付きの通りに高水準にあるといえるが、保全・管理の措置を確立する上でまだまだ問題点が多く、登録の範囲が変更する可能性もあり、流動的な状況にあると考える。

奄美の世界自然遺産登録の是非

 これまで、奄美発展・繁栄の方向性・課題として、自然環境保全のしくみの確立について考察してきた。奄美の最大の強みを、貴重な自然環境だと捉え、それを有効に活用するためにも、まずは着実に保全するしくみを確立しなければならないと考えた。その際に必要なのは、法制度と共に島民の保全への意識や行動である。そして、島民の意識や行動を大きく高揚させるしかけとして世界自然遺産を位置付け、その特徴やメリット・デメリットを考えた。奄美は世界自然遺産に登録される可能性が、国内の他の地域より運良く高いものの、事は予断を許さない。成るも成らないも、これからの島民たちの努力にかかっていよう。

 また、政治・行政のリーダーたちは、はたして奄美は世界自然遺産への登録を目指すべきか否か、できる限り早期に決断し、行動に移さなくてはならない。環境省などによる登録候補地の決定を受けて、奄美において自然環境の調査研究を始めたのは、地元の市町村ではなく、鹿児島県である。これは残念ながら、私が目指す奄美の発展・繁栄のための自立・自治の姿からは遠くかけ離れている。奄美の自然環境のことであり、奄美自体が最も影響を受けることであるのに、奄美の人間や自治体が動かなくては筋が通らない。だからこそ、私が動かなくてはならないと考える。

 登録を目指すべきか否かについては、他地域の事例などを参考にしながら、世界自然遺産の正負の影響・功罪の両面を見極めた上で、判断しなければならない。私もその作業を行い、2006年3月までには、たとえ仮り置きであっても判断しようと考える。

経済・産業・雇用の活性化

 さて、ここまでは、自然環境保全のしくみの確立について、考察を進めてきた。続いて、その貴重な自然環境を生かした経済・産業・雇用の活性化について考察しよう。

 奄美の自然環境を生かした経済・産業・雇用の活性化を考えると、たとえば、農林水産業や農水産物の加工業、あるいは、奄美の自然を紹介する出版業などが挙げられるが、やはり重要なのは観光業だろう。私は、これからの奄美の経済・産業の活性化を実現するために、観光業を産業の軸に明確に据えなければならないと考える。これまで、それが明確に据えられていなかったのは、行政の予算配分や取り組みの少なさからもうかがえる。

 なぜ、観光業か。それは、奄美の観光業はまだまだ成長する余地が十分にあるとともに、観光業が他の産業との連関性が高く、波及効果が高い、いわゆる裾野の広い産業だと考えるからである。観光が活性化すれば、宿泊業・交通業・ガイド業・土産物屋が繁盛するだけではない。地元の特産物である農林水産業、黒糖焼酎や本場大島紬などの製造業、はては道路・標識整備などで建設業にも効果が及ぶだろう。たしかに、この通り実現するのはそう簡単ではないだろうが、決して夢物語だとは考えない。実現の可能性があるのだから、それに向かってしたたかに戦略的に実行するのみである。とにかく私は、観光業を基軸に、奄美の産業を再編成すべきだと考える。

 また、観光スタイルそのものも工夫が必要だろう。奄美の貴重な自然環境を保全するのが大前提であるから、大規模な開発があってはならない。ここで私が着目しているのが、エコツーリズム(保全観光)である。これは、決して大規模なリゾート開発を伴うものではなく、その土地の自然・歴史・文化を保全し、継承し、発展させていく観光のあり方である。もともとは1980年代に欧米で生まれた概念だが、決して真新しい概念ではない。私は、松尾芭蕉の奥の細道の旅のように、まさにその土地の光を観て、じっくりと丁寧に味わう観光のあり方だと考えている。

 自然環境だけでなく、歴史や文化をも魅せるエコツーリズムを定着させることによって、観光客が分散され、自然環境への負荷も低い程度で維持できるだろうし、また、他の産業とも連携し、効果を波及させることができるだろう。自然環境の保全を考える上でも、各産業を有機的に結び付けて、経済を全体として活性化させる上でも、エコツーリズムを定着させなければならない。繰り返しになるが、決して事は簡単ではない。しかし、困難なことをしたたかに戦略的に行って達成することこそ、私たち松下政経塾生の本懐である。

 来年度はいよいよ、地元に戻って実践に入る。志を堅持して、多くの方々のご意見を参考にしながら、広い視野を持って取り組もうと想う。

参考文献

『奄美群島の近現代史』西村富明、海風社、1993年
『戦後奄美経済社会論』皆村武一、日本経済評論社、2003年
『観光読本』(財)日本交通公社、東洋経済新報社、2004年
『世界遺産学のすすめ』シンクタンクせとうち総合研究機構、2005年
『結いの心』郷田實・郷田美紀子、評言社、2005年
『奄美群島の概況』鹿児島県大島支庁、2005年
 鹿児島県庁HP など
2005年11月 執筆
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