松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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1996年10月

塾生レポート

豊かな生活を支える教育とは
平島廣志/卒塾生

 
 先日、縁あって川崎市の社会人教育プログラムである「川崎市成人学校」で2回ほどそれぞれ2時間半ずつ講演をさせていただいた。
 40名程度のクラスに下は20代の大学生から上は退職した70歳のご老人まで幅広い年齢層の費とが集まり、何かテーマを一つ決めて3、4カ月の期間、一緒に勉強しているとのことである。
 1回目はスウェーデンの財政問題を2回目は同じくスウェーデンの移民問題や女性福祉問題についての話をさせていただいたのであるが、総選挙の時期とちょうど重なっていたこともあって、生徒さんの質問も多くは日本と北欧の政治や有権者の意識の違いなどに集中しがちであった。

 今回の選挙の争点(といわれている)の一つに消費税を5%にするのか3%のまま据え置くのかという議論があったが、重税の国(大部分は誤解であるが)として有名な北欧諸国の間接税は軒並み20%台である。

 「日本で実施されたら革命か暴動でも起きそうなこの様な税率を甘んじて受け入れる北欧の有権者は、いったい何を考えているのでしょうか。」という質問を一人の生徒さんから受けたが、確かに彼女が抱く不思議さは理解できる。
 少しでもスウェーデンなどの北欧諸国で暮らしたことのある人なら消費にともなう間接税の重さに何らかの割り切れぬ思いを一度は抱いたことがあるはずである。

 食料品ですら他の製品よりも幾分か税率が低くなっているとは言え、それでも高い。もともと企業の払う社会保障負担費の増大などで人件費が高く、それが物価にスライドするため税金を差っ引いても他の国よりも割高なのである。
 だから特に社会保障の恩恵をあまり受けない旅後者や短期滞在者にはこの物価高や高い間接税は辛い。昨今の為替相場における クローナの高騰の影響もあるが私のスウェーデンですごした一冬は本当に質素そのものだった。

 こういう国で暮らすと、レストランで食事をしたり何か買い物をしたりする度に意識のどこかで、税金とは何なのか、税金を払って運営される「政府」とは何なのか、考えてしまいがちである。
 そういう意味で個人の生活と「政府」は個々人の意識の上で極めて身近な関係にあるし、常日頃から選挙をとうして、もしくは政党や組合をとうしてどういう「政府」を形成するべきか、スウェーデン人にとっては最も興味あるできごとの一つとなりえるのである。

 極端な言い方をするならば福祉国家における有権者の投票率や政治意識の高さは、私たちが、何か高価なもの、例えば自動車やマンションを購入する時の細心さに通ずるところがある。
 世界中どこの国でも高い税金を喜ぶ国民はいない。
 それでもスウェーデン人が国民的なコンセンサスとして高い税金を容認しているのは、自国の政府に対する税金よりも高い信頼があるからであり、払った税金が、形を変えて自分たちの生活に福利をもたらしているということを知っているからであろう。
 それは医療、福祉に限らず住宅、教育、交通機関と生活のさまざまな分野に及んでいる。特に教育では、外国人留学生を含めて小学校から大学まで原則無料である。また入学試験というものも無い。

 入学資格は、一回の試験ではなくその人が学校生活でどんな成績をおさめてきたかとか、どんなボランティア活動に力を入れてきたかなど総合的に判断され、そして最も重要なことであるが、今の学力が問われるというよりも入学を許可することでその人が(学力的または人間的に)どれだけ伸びるか、ということが判定の基準となっている。これには社会で働いた経験であるとか軍隊で徴兵義務を果たした経験なども大きな判断基準になる。
 スウェーデンの大学のキャンパスの風景は人種の多種多様さもそうであるが年齢層のバラエティーさにも目を見張るものがある。

 スウェーデンでは、大学は高校の延長にあるものではなく、人生を豊かなするために各人が必要だと判断した時に行くべきところなのだ。
 大学とは別に北欧独特のフォルクフォグスコーラン(国民高等学校)という制度があるが、これは直訳するとフォルグが「国民」とか「大衆」という意味で、フォグスコーランが英語でいえばハイスクール、つまり「高等学校」にあたり、名前からは高校の一種のようなイメージをあたえられやすい。

 しかし実際は、スウェーデン人多くが利用する実践的な高等教育機関なのである。
 語学から経営に必要なマネッジメントスクール、コンピュータ工学とそのへんの大学に遜色のない内容になっている。
 ここで失業者は次の就職に必要なスキルを身につけ、リタイアした老人はバイオリンや油絵のレッスンを受けたりする。
 また公認会計士や税理士になるためのコースもあり、日本でも今花盛りのセカンドスクールがほとんどただ同然の値段ですべての市民に開放されているのである。

 スウェーデンのことについて講演するときの常として、高い税金についての質問が飛ぶが、しかし忘れてはならないことはスウェーデンの税金は確実に納税者のところに公共サービスに姿を変えて戻ってくるということである。

 教育が安価な値段ですぐ必要な時に平等に手に入れることができる。
 スウェーデンを語る上で、スウェーデン人の一生を語る上で、彼等の生活の豊かさは、充実した福祉以上に教育が貢献しているともいえる。

1996年10月 執筆
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