松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1996年4月

塾生レポート

動物映画が風刺するもの
平島廣志/卒塾生

 
 先日久しぶりに渋谷で映画を見た。

 動物モノが特に好みという訳では無いのだが、現在上映している作品の中からその日選んだのが、アメリカの片田舎の農場を舞台にした子豚の話だった。

 観客層も春休みであることも手伝って家族連れが多く、ストーリー自体も全体的にユーモアのセンスが冴えていて、子供から大人まで充分楽しめる内容だった。

 お祭りのクイズの賞品として、ハゴット農場という小さな農場にもらわれてきた子ブタが、世間知らずなために様々な失敗を繰り返しながらも名優ジェームス・クロムウェルふんする無口で朴訥な農場主や犬、牛、アヒルそして羊といった周囲の動物たちのもとで、牧羊犬ならぬ「牧羊豚」をめざして奮戦する物語である。

 ゴールデングローブ賞受賞を初め、アカデミー賞にもノミネートされているほどの作品だそうだが、映画の中でも人間顔負けに好演する動物たちを見ていると、それもナルホドとうなずいてしまう。

 そしてなによりも自分が単なる「食肉用のブタ」であること以上の存在になろうと、ひたすら真っ直ぐに努力するユーモラスな子ブタの姿に、夢見る事の大切さや偏見に因われない事の難しさをこの映画は語りかけているように思える。

 「母さん、豚ってなあに。」農場の牧羊犬の子犬が母犬に聞く。
 「私たち犬より遥かに劣るバカな役立たずな動物のことよ。」

 ある意味でハゴット農場は私たちの社会であり、農場の動物たちは私たち自身であると言える。

 私の研究テーマである移民の社会統合政策の一分野に「人種間距離」という言葉がある。
 はじめて詳しくこの問題に触れたのは、スウェーデンでの難民受け入れ政策の調査をおこなっている段階で、スウェーデン政府がまとめたおもしろい資料にであったからである。それは日本の自治省にあたるスウェーデン市民省の「人種差別に関する青少年委員会」がまとめた報告書で、スウェーデン人が本音では他のエスニックグループをどうみているのかといった事が詳細に書かれている。

 具体的に言うと、10代のスウェーデン人女性の項目では、東欧系の移民とは結婚してもいいが、アフリカ系の移民は手を握るのも嫌だとか、南欧系までならSEXしてもいいがアジア系はキスまでならできるなどすべてパーセンテージで各国各民族別に微妙な人種間の心理的距離を初めて統計にしたリポートなのである。

 こういう距離は、経済状態や知識レベル、文化の近似性などさまざまな理由で生まれてくるものなのだが、このレポートからは大きくわけて白人と非白人に対する差があまりにも激しく、白人のなかでも東欧系と南欧系は大きな格差があり、非白人の中でも黄色系とアフリカ系に対する態度には大きな差が見えてくる。

 失業率を見てもスウェーデン人が10%程度であるのに移民とくにアフリカ系移民は実に97%を記録している状況であり、その根底には雇う企業側のアフリカ系の移民は余り働かないという極端な偏見があるとこのリポートは指摘しているのである。

 移民政策の見本といわれるスウェーデンでも政府の積極的な政策のかいなく偏見が社会の亀裂を生み、移民たちの人生をより窮屈なものとしている現実がある。
 日本の場合はより深刻である。外国人との人種間距離はおろか、同じ日本人でさえ互いにさまざまな偏見を抱えている。

 豚はユーモラスな姿をしている。どうさが滑稽である。なんとなく頭がにぶそうで、いつも食べてばかりいて、怠惰であると一般的に信じられている。

 でもそれは本当に真実なのだろうか。

 それは真実ではない。と真っ直ぐに信じていたこの子ぶたの映画は、何でも不確かな偏見に因われた私たちに猛省を求めているかのようである。

 「ベイブ(坊や)」と呼ばれたこの子ぶたのように素直な心があれば、幾重もの偏見の山河を歩いて渡っていけるだろうか。
 クリス・ヌーナン監督の「ベイブ」。できれば大人に見て欲しい作品である。

1996年4月 執筆
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