松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1996年1月

塾生レポート

難民受け入れ大国の憂鬱
平島廣志/卒塾生

 
 ストックホルムの名前の由来は、ホルム(島)がストック(群れている)している所、つまり群島という意味なのだそうだ。この名の由来のとうり北欧のヴェニスとうたわれたストックホルムは大小様々な島を大きな橋で結んでできた水の都である。

 このストックホルムの丁度中心部はガムラスタンと呼ばれる旧市街があり古くは中世のハンザ同盟の北の港として栄えたそうである。今でもこの旧市街の中心にそびえるドイツ教会の古いたたずまいに当時の面影を見ることができる。
 昼間は観光客でにぎあうこのガムラスタンの旧市街も最近夜になると様相が一変するようになった。

 街の飲み屋を中心に頭をスキンヘッド(丸坊主のこと)にした10代~20代の若者たちがいつしかたむろするようになり、ドイツのネオナチを真似ているのか外国人と見ると威嚇的な態度をとる様になったのである。

 「彼らスキンヘッヅは私たちの調査ではこのストックホルムに少なくとも60人以上はおり、3つ以上のグループに分かれて行動しているようです。」

 DO(人種差別禁止オンブズマン)の一人で弁護士のウルリカさんは、最近スウェーデンで頻発する人種差別事件について説明してくれた。
 DOの事務所は最高裁判所や検事局など法曹関係の機関が軒を並べる小さな島にあり、対岸には先ほどのガムラスタンが見える。

 世界でもめずらしこのDOとは、1981年制定の人種差別禁止法に基づく公的なオンブズマン制度で8名のスタッフ(全員が弁護士)が常駐し、差別があったと訴える人々に代わって警告、訴追などの権限を行使する組織である。
 「スウェーデンの経済が悪化した80年代後半からこの種のネオナチグループが姿を現すようになり、彼らが急激に増えたのはやはり92年の難民の激増が一つのポイントになっています。」
 「ネオナチの数は60人ほどとそれほど大した人数ではありませんが、表には出てこない心情的な支持者となると物凄い数になると思います。普通の市民の間にも、もう難民はたくさんだという声が存在しているのは事実なのです。」

 この日の数日前に27ヶ所にのぼるスウェーデンの職業安定所が企業数社との間に、求人広告を見て移民が職を求めて来ても職安は取り次ぎをしないという密約が結ばれていたことが新聞に暴露され、話題になっていた。

 ウルリカさんはため息をつき、「この事件については労働市場省が調査中ですので私たちDOは関与しませんが、この様に表面化しないケースのほうが多くて、現在の法律では充分対応ができているとはいえないのです。」といって今春国会に提出する予定の法案の草稿を見せてくれた。

 ちなみにDOは国会に対して政策提言をおこなえる権限をもっている。今回提出する予定の人種差別禁止法の改正案ではDOの権限強化とともに特に雇用における差別を厳しく制限することに重点がおかれているそうだ。

 「あとは立法府で各政党がどう判断するかです。」

 1994年に政権の座についた時には50%以上の支持率があった社会民主党はその後支持率が急落し、先日史上初めて最右派の穏健党が30%の支持率で28%の社民党に逆転するという世論調査が新聞によって報道された。
 穏健党は明確なEU支持と、大減税それにともなう福祉予算の削減を主張しストックホルムや南部のマルメなど都市部で多きな支持を得てきたのである。

 穏健党政策委員のヨハン・ティードマン氏は、難民の受け入れに関しては右派も左派もそれほど差はないと明言した。

 「ただ私たちは受け入れた難民に対しては全くアプローチが違います。現在の社民党政権は余りにも受け入れた難民を過保護にしすぎています。
それがかれらの労働意欲をなくす大きな原因になっており、そおいう難民はやがて生活保護の受給者になり今度はスウェーデン経済を圧迫する様になるのです。」

 テービー市(ストックホルム市郊外)の市議会議員を務める穏健党のヨハン・クラヴゥス氏も難民の生活保護受給者の増大が市の財政を大きく苦しめていることを指摘した。

 「難民は率直に言ってうんざりです。テービー市のアフリカ系難民の実に97%は失業して生活保護を受けている。現実にあまりにも文化が違いすぎる国から来た難民はスウェーデン社会に溶け込むことができず、その結果失業して生活保護を受けることになる。これ以上そういう難民が増えれば私たちの市はいずれ破産だ。」

 実業家で日本との貿易手掛けているクラヴゥス議員は保守派の穏健党の中でも最右派に属するらしく難民排斥を明確に主張するスウェーデン人に会ったのは彼れが最初で最後だった。(おもしろいことにクラヴゥス議員はもともとフィンランド人で彼自身移民だったとのこと。)

 彼ら穏健党に共通するのは、経済全般の活性化と欧州でのスウェーデン企業の競争力を維持するためには減税しかなくそのためには予算の削減、中でももともとスウェーデン国民ではない難民に費やす莫大な予算の削減は必要悪であるとする主張である。

 次ぎの1998年の総選挙ではこの難民(移民)問題が必ず選挙の争点になるであろうと彼らは予見している。

1996年1月 執筆
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