松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

日本語英語


塾報 一覧へ戻る
Report
2002年3月

塾報

政令指定都市議員と市民の意識研究
海老名健太朗/卒塾生     斎藤幸男/卒塾生     白岩正三/卒塾生     福原慎太郎/卒塾生     松本大輔/卒塾生     吉田健一/卒塾生     前山恵士郎/第22期インターン

 政治の生産性を高めるために、地方議会がなすべき改革とは何か。第22期生は、全政令指定都市を対象に議会・市民の両者の意識を調査し、実効ある地方議会改革案を提示する。

 

我々の研究対象と問題意識

 私たちは、共同研究(以下、「研究」とする)として地方議会議員と市民の政治意識の問題をテーマに研究活動を行った。政治不信が言われて久しいが、実際に有権者はどのように議会(議員)を捉えているのか、また政治不信が存在するならばどのように議会と有権者を近づけることができるかを実証的に理解することを目的とした。
 我々は、このテーマに取り組む際に、二つの点について明らかにすることを目標とした。第一に、地方分権が実施段階にある中で、地方議会と担い手である地方議員の実態を知ること。第二に、議員と有権者の関係の実態を知ることである。
 また、調査の結果を受けて、政治の生産性向上の観点から、今後の地方議会に何が必要とされるかについても提言を行った。
 研究は次のように行った。まず、全国12政令指定都市の市議会議員への郵送によるアンケート調査を実施した。次に、議員アンケートの結果を踏まえて政令指定都市の街頭において市民アンケートをし、さらに市議の実情を知ることを目的として市議にヒアリング調査を行った。(注1)

議員の実態

 議員アンケートによって明らかになったことは二点ある。
 第一に、選挙には多くの資金が必要とされることである。選挙資金について、回答された市議の前回の選挙資金の平均額は716.7万円である。このうち自己負担分は、自己資金331.8万円(53.3%)、借入金98.1万円(13.7%)、つまり429.9万円(60%)を1回の選挙で負担していることになる。
 ただし、各市議が回答した「選挙資金」の定義について、4年間の支出を指すものか、告示以降の選挙期間中のみを指しているかは回答者によって捕らえ方が異なっている。また、法定選挙費用を越えて支出をすると候補者の当選は無効になってしまうため、回答を法定限度額に近い数値で押さえている可能性もある。しかし、実際よりも多く回答した議員はいないと推定されるので、平均716.7万円という支出額は少なくともこれ以上はかかっている数値として判断して良い。
 第二に、議員の日常的な活動にも多くの経費がかかることである。議員の日常的な経費について、議員の発行するニュースレターを例にするとわかりやすい。実は、議員が発行するニュースレターには多くの経費がかかっている。ヒアリングした神戸市議会議員は、4円80銭と具体的な数値を教えてくれた。この議員はニュースレターを10万部印刷しているので、一回の発行につき48万円かかっていることになる。
 また、印刷だけでなくニュースレターを郵送・配布するにも経費がかかる。先の議員によると、印刷・配布費用を合算すると、一回の発行につき約100万円、季刊発行で年間約400万円の経費がかかるという。これは、ニュースレターのみにかかる経費なので、その他の費用を含めれば、市議になった後も恒常的に多くの資金が必要となる。
 このように、議員は選挙のみならず、通常の活動にも多くの資金が必要である。問題はこの実情を有権者が十分に認識し、理解しているかということだ。十分な理解がない状態で、支出される金額だけを有権者が見ると、非常に多くのコストがかかるように受け止められ、政治に対する不信感にもつながりかねない。

市民は何を求めているか

 次に、有権者の側から地方議会を見てみる。市民アンケートにおいて「政治不信をなくすために政治家に何を求めるか」という設問に対して有権者が最も多く求めていたのは「情報公開により透明性を高める」(41.9%)ことであった(図参照)(注2)。つまり、有権者は、議会に関する漠然とした不透明感を持っていること、そして判断のための情報を求めていると思われる。

■図 政治不信をなくすために政治家に何を求めるか(2つまで複数回答可)
▲ 市民アンケートより(松下政経塾調べ)(回答者数706名、回答数1,219)

 そのような状況の中で、情報を得る方法として有権者が多く求めていたのは「市政報告会」(28.7%)(注3)「シンポジウムや公開討論会」(25.5%)である。これは、「地域イベントの開催」(20.3%)とともに市議の顔を直接見ながらの情報発信を求めていると言う事のあらわれと推定される。また、「ニュースレター」(21.9%)「ホームページ」(21.3%)も比較的高い値を示している。こちらはいずれも家にいながらにして情報が入手できるとう利便性によるものであろう。
 一方、情報を得る方法として期待値が低いのは「街頭演説」(15.5%)である。議員アンケートによると50.3%の議員が街頭演説を行っているが、街頭演説によって情報を得たいと回答する有権者は少ない。
 このように、地方議会への漠然とした不透明感を解消するために必要な情報について、有権者側の需要と、議員側の供給にはギャップが存在している。先に述べた議員にかかる経費の問題を含め、議会の実情と有権者の理解の差を小さくする方法を模索しなければならない。

浮かび上がって来た論点

 議会・市民へのアンケートを分析する中で、政治不信を払拭するためのキーワードは「情報」であることがわかってきた。そこで、情報についてさらに踏み込み、議会が提供している情報の質・量、および発信の方法について検討を試みた。
 まず、情報の質・量の面について、政務調査費(注4)から考える。政務調査費は、これまで議員の隠れ報酬と揶揄され、その内容は公開されていなかった費目である。市民アンケートで、政務調査費について次のような調査を行った。最初に、政務調査費についての簡単な説明をした状態で、政務調査費の金額の妥当性を聞いたところ「多すぎる」「必要ない」と否定的な回答をした人が60.3%に上った。その後、議員アンケートから得られた情報から作成した議員の1ヶ月間の予想収支を有権者に提示し、再度同じ質問をしたところ、先に回答した市民のうち48.4%に変化が見られ「適当である」「少なすぎる」とする肯定的回答が48.9%に増加し、「多すぎる」「必要ない」とする否定的回答が35.6%に減少した。これは、情報の質を高め、量を増やせば有権者の理解は得られるという我々の主張を支持する結果といえる。
 次に、公開されている議会情報でも、必ずしも有権者に届いていないことがある。これは情報の発信方法の問題である。私たちが関西学院大学において開催したシンポジウム(注5)の中で、参加者から「私たちはただ口を開けて情報を放り込んでくれるのを待っている」「おもしろい役に立つ情報なら見る」との意見があった。これは情報を提供だけでなく、情報提供の方法を工夫する必要性を示している。
 すでに多くの情報が議会から公開され、「議会だより」も出されているが、有権者の関心を引いているとはいえない。より市民が欲しているような情報を提供するために、議会広報の作成を民間に委託して競争をうながし、有権者に読まれる広報にすることも検討されて良いのではないだろうか。
 また、議員のレベルでも、情報の発信方法に力を入れることが求められている。例えば、現在行われているような市政報告会だけではなく、国政レベルで定着し始めている公開討論会などの実施も積極的に行うべきであろう。

私たちの提案

 これまで、議会と市民に対するアンケートを元に、議会と有権者間の情報の重要性について述べてきた。次に、これらの結果だけでなく、議員へのヒアリングなどを踏まえて、地方議会を真に発展させるために必要な改革の方向性を検討する。
 議会の発信する情報の量・質・方法を向上させる根本的な手段は、地方議会(議員)の活動そのものの質を高めることである。そこで、地方議会のさらなる生産性向上・機能強化に向けた方法を提示する。
 第一に、議会スタッフや必要経費の充実による議員の政策提案能力の向上を図るべきである。市民アンケートにおいて、現状以上の議員活動に必要な経費や秘書の給料を税金で負担することについて「市政が改善するなら賛成」(51.1%)と、過半数の有権者が条件付ながら賛成している。また、議員報酬や政務調査費を増額することについて「それに見合う仕事をするなら増やしてもよい」(53.8%)としている。これは、政治の生産性が向上するのであれば、議員1人あたりにかかるコスト増も容認する人が過半数を占めることを示している。
 このことから、議会が十分な説明責任をはたせば、政策提案能力のためのスタッフや経費の充実について、有権者の賛同を得られると考える。今後の方向性として、議会は、十分な説明を行ったうえで、議会の政策提案能力向上の具体的方策として、行政から独立した議会独自の調査機関の設置や、議会スタッフ・外部の専門機関への調査委託の制度を整備していくことを検討してもいいのではないだろうか。
 第二に、地方議員定数の削減によって議会の少数精鋭化を図るべきである。今後の地方議会は、議会にかかるコストを削減しつつ、生産性を向上させることが求められる。そのために、議会定数の削減と、議会全体の質を担保するための待遇改善が必要である。
 市民アンケートには「議員定数を削減すべき」(62.4%)という厳しい指摘がある。しかし、その内訳を見ると「一人あたりの待遇改善と引き換えで削減すべき」(16.6%)とする有権者がいる。つまり、議会の精鋭化につながる定数削減であれば、有権者の同意が得られる可能性があるのではないかと推察する。

おわりに

 私たちが議員としての活動を決意したときには、明らかにすべき情報は公開した上で、積極的に政策や活動の情報発信をしなければならない。だが、選挙制度や議会制度の改革によって政治の生産性が向上しても、政治家と有権者の信頼関係がすぐに築かれるものではない。研究の成果を各自の問題として受け止め、これからの行動で証明していかなければならないものと思う。  
 
(注1)調査方法:全国12政令指定都市の全市議会議員836名に郵送によるアンケート調査を実施(回答数258)。次に、議員アンケートの結果をふまえて市民アンケートを作成。市民アンケートでは、議会に関する情報を知る前後で回答に変化が生じるかを調査(回答数717)。また、議員アンケートに表現されていない情報を網羅するため、各政令指定都市の市議40人に対してヒアリング調査。
(注2)市民アンケートは複数回答可(2つまで)のため、全回答数中の当該回答の割合(当該回答/全回答数×100)ではなく、当該回答を選択した人の割合(当該回答/回答者数×100)を表したもの。
(注3)(注2)と同様、当該回答を選択した人の割合(当該回答/回答者数×100)。
(注4)政務調査費は、議員が自治体の政策や事務事業等に関して調査をしたり、視察や研修をする場合にかかった経費に充当する費用。これまで、収支報告書の作成が義務づけられていなかったため、議員の隠れ報酬との批判がなされていた。
(注5)第22期生が中心となり、関西学院大学総合政策学部で開催されたシンポジウム。「地方政治の復権」をテーマに参加者との議論を行った。  
 

2002年3月 執筆
  1. HOME >
  2. 卒塾生一覧 >
  3. 海老名健太朗 >
  4. 政令指定都市議員と市民の意識研究