Thesis
高齢社会(注1)は世界的な趨勢である。韓国もその例外ではない(注2)。しかもその速度は日本よりも急速だと予測される。早急な対策が必要である。そこで、韓国の20年先を歩んでいると言われる日本の高齢者福祉を参考にしようと、今年2月から3月にかけて二つの高齢者福祉関連機関で研修した。研修を通じて見えてきた日本の老人福祉の現状と問題点、及び今後の発展的方向について報告する。
一般に、日本の老人福祉の水準は韓国に比べ高い。国全体で見た社会保障費の総額はもちろん、対GNP比で見た場合も、1995年時点で韓国が6.8%であるのに対し、日本は14.1%である。実際、研修で訪れた藤沢市の水準は高かった。特に、元気なお年寄りのための福祉水準はうらやましいくらいだった。 藤沢市は32年前の昭和44年に比較的大規模の「老人福祉センター」を開設したが、その後も、市の南北に各1カ所ずつ施設を作り、老人福祉に力を入れている。私は、これらの施設の中で最も新しい、1999年に開設した「こぶし荘」で研修したが、この施設の人気ぶりには驚かされた。開館時間が午前9時であるにもかかわらず、8時30分頃にはすでに人が集まり始め、開館時間には50名ほどの行列ができていた。入館に特別な手続きが必要なわけでも、 入場制限があるわけでもない。にもかかわらず、 このような光景が毎日見られるという。もちろん、21億円もかけた立派な施設、明るい雰囲気、そこで働いている職員の熱意などは利用者にとって魅力だろう。しかし、それにしてもこうした施設を列まで作って利用するというのは驚きだった。
▲藤沢市の老人福祉センター「こぶし荘」でアクアビクスを楽しむ高齢者たち。 この時は、65~75歳位まで約20名が参加していた。 1日3回程度行われている。筆者もお年寄りに混じり体験してみた。 |
これでわかったのは、高齢者福祉施設は藤沢市においては十分にその役割を果たしているということだった。こうした施設を各地に作り、気軽に利用できるようにすれば、多くの高齢者に健康で楽しい日々を過ごしてもらえるだろう。しかし、施設建設には多額の資金が要る。すぐに実現させるのは難しい。そこで、既存施設の利用度を高めることを提案する。それには、利用の制約を少なくすることである。まず利用時間を延ばす。閉館時間を遅らせ、休館日を減らし、できるだけ一年中いつでも利用できるようにする。これによって管理上の問題が発生するが、それはボランティアを活用することである程度解決できる。 例えば、施設利用者の中からボランティアを募ったり、 あるいは地域のボランティア団体に延長時間帯の運営を依頼するなどの方法が考えられる。また、夜間と休館日は多少の実費を払ってもらうという方法もある。これからは、こうした福祉施設の運営をボランティアに一部分委託することを考えるべきである。 老人の個性が尊重されるケアシステム上記の他に、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で入所者の介護とデイサービスの研修も行った。興味深かったのは、施設によって雰囲気がかなり異なることである。例えば、お年寄りにゲームやリハビリプログラムの指導を行っているのが20歳前後の職員ばかりの施設では職員とお年寄りの間に距離が感じられた。他方、お年寄りの顔に表情がなく、施設全体が暗い感じのする施設もあった。特に印象に残ったのは、無表情なお年寄りの姿である。専門家によると、こうした症状は、自尊心が繰り返し傷つけられた場合などに現われるという。体が不自由であればこそ、もっと人権が尊重されなければならない。 ボランティアの活性化と自治体の役割 日本の成人のボランティア参加率は20%弱で、いわゆるキリスト教文化圏に属する欧米先進国に比べ低い。韓国も日本と似た程度である(注3)。その意味で、 ボランティアの活性化は韓国と日本、両国にとって課題である。 ボランティア精神と報奨の多様化 日本では「ボランティア」と言うと、有償ボランティアのことを意味するほど有償ボランティア論が主流をなしている。有償ボランティア論とは、ボランティア活動をする上で、助け合いの精神に基づきながらも少しのお金(謝礼金と呼ばれる)のやり取りは認められるという見解である。実際には、その地域での最低賃金を上回らない水準で報奨金が支払われ、ボランティア団体の運営や活動の円滑化に役立っている。韓国では、ボランティアではなく「自願奉仕」と呼ばれ、まだ純粋性(無償)が強調されている。しかし、有償ボランティア論が受け入れられるのは時間の問題だろう。 |
(注1)国連の定義では、65歳以上の人口が総人口の14%以上を占める社会を「高齢社会」、7%を超えた社会を「高齢化社会」としている。
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