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2000年8月

塾報

20代が沖縄を変える!
喜友名智子/卒塾生

 21世紀の姿をどう描いていくかを模索している沖縄。当面の最重要課題は、20代を中心とした失業率の高さと地元企業の発展である。3カ月間沖縄に滞在し、関係者へのインタビューなどから問題解決の糸口を探る。

 
沖縄経済が抱える問題点

 周知のとおり、沖縄で最も激しい議論が交わされるのは米軍基地問題である。しかしここ数年、その状況に大きな変化が起きている。米軍基地問題があいかわらず重要な争点の一つであることは間違いないが、それ以上に、今関心を集めているのは、沖縄経済をどう「自立」させるかということである。
 現在、2001年度で期限が切れる第3次沖縄振興開発計画の後を継ぐ、新しい振興開発計画の策定(注1)をめぐって、活発な議論が行われている。中でも、経済的自立に関すること、特に1972年の本土復帰以降に行われた一連の沖縄振興策への評価と、それを踏まえた21世紀の沖縄像をどう描くかという点に、議論が沸いている。
 沖縄経済を語るとき、必ず引き合いに出されるのが、高い失業率と(評価は分かれるが)全国平均の7割程度という一人あたりの所得、公共事業・基地収入・観光収入に依存した「3K経済」(注2)、それに地元企業の競争力や技術力の脆弱さである。そこで、ここでは「高い失業率」に的を絞り、20代を中心とした若年層の就職に関する意識と、企業経営者の意識の面から、沖縄経済の自立について考えてみる。

行き違う求職者と雇用者の思い

 沖縄の完全失業率は、平成10年8月に復帰後最悪の9.2%を記録し、年平均でも7.7%という過去最悪を記した。特に、若年層のそれは、他の年齢階級が7~4%台であるのに対し、15~19歳が25.0%(全国10.6%)、20~24歳が15.9%(同7.1%)、25~29歳が11.4%(同5.6%)という極めて高い数字を示した(図参照)。つまり、若年の失業者が際立って多いのが、沖縄経済の最大の問題である。
年齢階級別完全失業率

 しかし、その最も大きな課題とされている当の「若年失業者」の多くは、それほど危機感をもってはいないようだ。若年層の失業率の高さの原因として、「若者の県内志向、地方公務員志向」、「県内の産業が労働力を吸収できない」などの理由がよく指摘される。県内7大学の学生を対象とした就業意識調査(注3)でも、県出身者の約60%は将来の就職先として自治体職員や教員などの地方公務員を希望し、民間企業を希望するのは30%にも満たない。私も学生の時に県内の銀行の試験を受けたが、これだけ失業率の高い土地柄なのに、受験者が160人くらいしかいなかったのには驚いた。
 「県外の企業に就職するよりは、1年就職浪人をしても、県内で就職したい」、「公務員になれるなら、1~2年は試験勉強したほうがいい」というのが、学生や多くの若者の声である。現在、ある会社で事務をしている女性は、「夜は公務員試験の専門学校に通っている」という。

 職業安定所もこうした状況に手をこまねいているわけではない。求職者には職業訓練所で一定期間訓練を施したり、県外へ就職の斡旋をするなど対策を講じている。しかし、それでも高い失業率を、関係者は「高卒者で、県外就職を希望すれば7割は就職できる。県内希望者が多いために、失業率が上がっている面がある」分析する。
 一方、若年層を吸収できないと言われている県内企業のほうは、「優秀な人材は欲しいけれども人が来ない」、「今は不況だから、新規採用するよりも即戦力になるという意味で、実務経験のある中途採用者のほうがいい」という。企業側も人材を求めてはいるのである。ただ、望む人材が「自分たちのところへは来ない」。
 ここで、「職がないといって仕事を選ぶ求職者」と、「優秀な人材が来ないといって若年層を雇用しない企業」の姿が浮かび上がってくる。つまり、求職者が求める職と、雇用者が求める求人とがすれ違っているのだ。ある留学経験者は、「県が派遣した留学生の受け皿が県内にない」と指摘する。だが、企業側からすれば「留学帰りの人たちは、海外から帰ってくるとすぐに県内で指導者層になれるとでも思っているのか、小さな企業には入りたがらない」、「募集広告を出しても応募者が少ない」ということになる。このギャップを埋めるにはどうすればいいのか。

適正な職と人材の出会い

 まず感じるのは、仕事を探す学生に対するもどかしさである。企業は決して人材を求めていないわけではない。にもかかわらず、若者の多くが公務員を望む。県内志向も、地方公務員も悪いことではない。しかしその理由が「安定しているから」というのでは、ちょっと寂しい。若者が、みんながみんな安定志向になってしまっては、企業にも、そして社会にも活力がなくなってしまう。
 とはいえ、公務員を志望する一方で、「自分の能力を生かせるところで働きたい」と、「就社」ではなく「就職」に対するこだわりを口にする若者も少なくない。つまり、自分の能力を生かせる職に就ければ、必ずしも公務員でなくても構わないという。だとすれば、自分に適性に合った仕事を幅広く探すという努力を学生たちはもっとすべきだろう。
 そこで問題となるのは、若者の多くが、自分の能力を生かした仕事がしたいと思いながら、自分の適性がつかめていない、自分はどういう分野で活躍したいのか、あるいはできるのかを把握できていない、ということである。確かに、現行の社会システムの中では、いかに生きていくのかということを考えるための時間や機会はほとんどない。こういったことを考えるための時間や機会、例えば企業の見学やインターン、ボランティア活動といったものを、学校や企業などが積極的に取り込んでいく必要がある。

 一方、企業の側も「適当な人材がこない」と嘆くだけでは何も変わらない。成長著しい菓子メーカー、株式会社お菓子のポルシェ代表取締役社長の澤岻カズ子氏は、「課題は社員教育。現在はまだ生産性が低い。手作りが多いが、工程によって機械化できるところは徐々に慣れていかなくてはいけない。また、県内にお菓子職人がいない。若い時期から見習いとして育てる必要がある」と、企業の側の人材育成努力を訴える。
 そして、こういう、いわゆるやる気のある企業には、自ら求めなくても職を求めて人がやってくる。ある泡盛メーカーでは、社員募集をかけていないにもかかわらず、学生から問い合わせがあったという。「奈良の学生からで、残念ながら採用にはいたらなかったが、連絡がきたことはうれしかった」。
 また、他所に人材を求めても来ないならば、自社に今いる人材を徹底して育てようという会社もある。県内の建設業としては異例の県外事業展開を始めた株式会社沖創建設では、新しいアイデア(例えば3日かかっていた経理を1日でできるようにするなど)を出して、それが実際に社のしすてむとして採用されると特別報酬を出しているという。社長の横田恵文氏は、「自分でアイデアを出して実行していく人がほしい。それには、ただ"頑張れ"と言うだけではだめで、企業は社員が頑張る仕組みをつくらなければならない」と社員のインセンティブを保つことの重要さを語る。
 それには、企業は「カンだけに頼った製造をしてきたが、データでも裏付けていきたいので、きちんとした手法を修めた人材がほしい」(酒造メーカー)、「研究開発部門に力を入れているので、理工系で研究ができる人材がほしい」(健康食品製造)など、社内外に「うちはこういう事業をしています」、「将来はこういうことを考えています」と、自社の事業を明確に宣伝することが必要である。製造しているモノ、提供しているサービス、そのためにどういう人を求めているのか、どういう能力が求められているのか、を積極的にPRすべきである。
 この努力を怠っていることが、企業がどういう人を求めるているのかが社会に知れ渡らず、求職者たちが自分にあった職を見つけにくくしている要因の一つであるように思う。 沖縄の経済を支えているのは、中小企業である。沖縄にわずかではあるが金融・流通・建設・ホテルなどに「大企業」は存在する。だが、全国的に見て上位に入るほどではない。沖縄経済を支えているのは中小零細企業や事業主といって過言ではない。したがって、沖縄が自立的発展を遂げるためには、中小企業の経営体質の強化と競争力を高めることが急務である。しかし、残念なことに、こうした企業には積極的に事業拡大を図ったり、競争していこうという姿勢に欠けるところが多いのが、現実である。

社会の中で生きる「領域」を認識する

 経営戦略の分野では、企業の活動領域や事業領域、企業が対象とする事業の広がりのことを「ドメイン」という概念で説明する。企業はある環境の中で活動しており、その相互作用を通じて存続・発展を図っている。環境のどの要素とやり取りするかは、前もって決められているわけではなく、企業が自ら判断するものである。このドメインを設定することで、社員は力を入れるべき方向を合わせることができ、活動が分散する危険を避けることができる。また企業のアイデンティティ、社会の中での役割を明確に打ち出すこともできる。

 以上のような観点から企業経営を考えると、企業および経営者は「社会における企業の役割を認識し、自社の活動分野を明確にする」ことが最も不可欠である。現在沖縄で注目されている企業を見てみると、「地元の資源を有効に使った食品をつくる」(菓子製造)、「コミュニケーション・ツールとなるお酒をつくります」(酒造会社)、「企業の血液・血管である事務業務を、事務のプロとして代行します」(事務代行サービス会社)、「沖縄の資源にこだわった健康商品をつくります」(健康食品製造)、「10年後の老舗作りをします」(工芸品販売)など、経営者が何をしたいのか、この会社は社会に何を提供しているのかが非常にわかりやすい。「誰に対して、どういうサービスをし、必要なものを供給していくか」の視点を持っているかどうか、この会社で働いてみたいと思わせることができるかどうかが、勝負の分かれ目といえよう。
 また企業は、利益を上げたり、雇用を創出するということだけで地域に関わっているのではなく、そこで働く人や地域を育てるという側面も持っている。したがって、企業が活発化することは、その地域に住む人々の生活や生き方にも大きな影響を与える。例えば公的部門が最大の雇用先であれば、多くの若者がそこに殺到してしまい、地域の経済活動は停滞し、地域全体から活力が失われる(誤解のないよう断っておくが、官公庁など公的部門の役割を軽視しているわけではない)。しかし、企業活動が活発になり、企業が社会で果たす役割がはっきりすると、「こういうことがしたいからあの会社で働きたい」、あるいは「自分のやりたいことができる会社がないから、起業しよう」ということに発展する。

 社会の中での自分の役割をしっかりと把握・認識している企業では、そこで働く個人も、企業の中のみならず、社会の中での自分の役割を見出していく。それが積み重なって、総体としての沖縄経済が、日本国内であるいはアジアの中でどういう役割を果たしていくのかが、形づくられていく。それには、沖縄の企業ならばこの分野に強い、こういう特徴を持っているだろう、と積極的に評価されるまでにならなくてはならない。専門知識も含めた経営スキルや、モノやサービスをつくっていくための技術開発も、もちろん必要である。だがその根幹にある部分、「わが社は誰に対して何を供給しているのか」という存在意義をまず決めること、そして同時に、個人も自分の役割を明確にしていくことから、社会の活力が生まれてくる。

(注1) 沖縄振興開発計画:沖縄が日本に復帰した1972年に、「長年にわたる本土との隔絶によってできた著しい格差」を是正し、「自立的発展の基礎条件の整備」をするために始められた計画。これまで10年単位で第1~3次までの計画が実施されており、沖縄の振興開発の基本方向となってきた。
(注2) 3K経済:沖縄の経済を引っ張っている公共事業、観光、基地関連収入を表現したもの。復帰後は基地依存から財政依存へシフトし、財政需要が沖縄経済に大きな影響を与えてきた。
(注3) (財)雇用開発推進機構[1998]『沖縄県7大学学生就業意識調査報告書』

参考文献
1.富川盛武・百瀬恵夫[1999]『沖縄経済・産業 自立化への道』白桃書房
2.沖縄県企画開発部[平成11年8月]『平成10年度版 沖縄県経済の概況』
3.大滝精一・金井一賴・山田英夫・岩田智[1997]『経営戦略』有斐閣アルマ
4.伊敷豊[1999]『沖縄のオンリーワン企業』(有)ボーダーインク

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