塾報 一覧へ戻る
Activities
1999年2月

中央アジア政策への提言(下)
甲斐信好/卒塾生     桑畠健也/卒塾生     金子将史/卒塾生     城井崇/卒塾生     小林献一/卒塾生     島川崇/卒塾生     松浦元子/卒塾生     高橋斉久/松下政経塾元塾生     小野裕之/第19期インターン     坂口友治/第19期インターン     金柄圭/第19期インターン

 前月に引続き、第19期アソシエイト(1年目の塾生)の共同研究を報告する。先月号では、中央アジア・ウズベキスタンの現状と問題点を紹介したが、今月はわが国の中央アジア政策への提言を行う。

 
 我々第19期アソシエイト共同研究班は、各国(パキスタン、アフガニスタンなど)の対中央アジア政策についてヒアリングするため、ウズベキスタンの首都タシケントにある各国大使館(日本を含む)をインタビューした。そこで、インタビューを含む今回の研究から浮かび上がってきた7つの原則をまず提示し、日本の対中央アジア政策「シルクロード外交」の3つの方向性に従って個別の提言を行う。

●対中央アジア政策に求められる7原則

1.広いパースペクティブの中で見る

 まず、中央アジアと日本の関係が日露関係にどう影響するのか、といった複雑な思考が要求される。もともと外交とは変数の多い連立方程式であるが、特に中央アジアはこの地域のみを考えても意味がない。資源が安定的に供給されるかどうかすら中央アジア諸国だけでは決まらない。関係各国がどのような意図と能力を持っているかを検討し、また中央アジアでの出来事がそれらに与える影響についても考慮しなくてはならない。

2.ロシア、アメリカ、韓国との協調

 この地域でのロシアの力は中央アジアを再統合するほど強くはない。独立当初はロシアによる覇権主義を警戒していたウズベキスタンが、アメリカとの関係を保持しながらロシア関係を再強化しつつあることは合理的な選択だろう。日本はロシアの力が望ましい方向で行使されるよう協調する必要がある。ロシアを経由しない中央アジアの資源へのアクセスの確保が反発を呼び起こさないように、シベリア開発等で相互利益を促進することも重要だ。
 一方、アメリカとは麻薬管理(世界最大の麻薬生産地であるアフガニスタンからの麻薬流出経路を閉ざすなど)等の分野で協調できる。各国大使館へのヒアリングで多くの国から出てきたのは、「アメリカとは無理だが日本とならこの地域で協力できる」ということだった。アメリカの政治介入を嫌う各国の心情は理解できるが、反米感情への安易な同調には慎重でなければならない。

 韓国との協調では、昨年10月の金大中大統領訪日の際に発表された行動計画に援助分野での協力が明記されている。日韓がグローバルな問題について意見を交換し、共に汗を流すことが重要だ。中央アジアはその格好の場となるだろう。

3.安全保障政策の一環としての中央アジア政策

 中央アジア政策は日本にとっての安全保障政策だ。中央アジアのエネルギーが中国に安定的に供給されれば、この領域での日本を含む地域の緊張を減らすことができる。次に中国とロシアは中央アジアと長い国境線で接している。この地域の不安定化や少数民族の動きは両国にとって重大な関心事である。日本がこの地域の安定に寄与し密接な関係を持つならば両国は日本に配慮せざるを得ない。日本周辺だけが、中国、ロシアと日本の接点ではない。

4.外交チャネルの多様化・複数化

 中央アジア諸国の政権は、タジキスタンを除いて基本的には安定している。しかし、国民を真に満足させる民主的な政治制度はまだまだ未成熟である。また、独立して間がないため、○○国民というアイデンティティが十分確立していない。体制が変わるとチャネルが途絶えるということのないように、正規の外交ルート以外にもNGOなどの独立したチャネルをもつことが望ましい。

5.イスラムファクターへの配慮

 イスラムの復興が指摘されているが、実際にはイスラム原理主義の台頭はそれほどではないとする外交筋もある。共産党による支配が70年以上も続き、各国政府は政教分離を謳い、ロシアやアメリカも中央アジアからイスラム原理主義の影響を排除しようとしている。しかし過度の警戒は逆効果である。欧米先進国の敵視がイスラム側の反発を招いている側面も見逃せない。日本はむしろイスラム文化に敬意を払い、その社会の客観的な姿を自国はもちろん、欧米に紹介する姿を見せるべきだろう。

6.中央アジア域内での協力促進

 中央アジアでは、タジキスタン国民の4分の1がウズベク族であるなど、民族構成が相互に入り組み、領土紛争も潜在している。資源を持つ国と持たざる国の格差が不安定の要因となりうる。地域内でのまとまりは不可欠である。また各国の発展にとってもインフラ面での域内協力は欠かせない。海のない中央アジアでは輸送やパイプラインの単独実施はできないからである。日本がアメリカと共同で支援するという選択肢も含めて、もっと積極的に可能性を探るべきである。

7.情報収集・分析と人材の育成

 全般的にこの地域での日本の情報収集体制は脆弱である。96年時点でアメリカはカザフスタンに外交官130人を含む政府関係者200人を派遣していたのに対し、日本はわずか6人である。また、ウズベキスタン、カザフスタン以外には大使館も開設していない。加えてこの地域についての専門家が少ない。日本政府は「シルクロード外交」を①政治対話等2国間関係の分野、②繁栄への協力の分野、③平和への協力分野、という3つに分けて推進しようとしているが、それを担いうる人材の育成が官民共に必要である。

●対中央アジア政策への具体的提言

 以上に追加して、いくつかの具体策を日本政府の掲げるシルクロード外交の3つの方向性にそって提案する。

①政治対話等2国間関係の分野

 先月号で述べた日本語教育へのてこ入れ、留学生の受け入れの他に「日本センターの設立」を提言したい。これは日本語や日本文化の紹介などの講座を開く施設で、日本企業への就職活動の支援も行う。さらに「古文書の共同研究」というプロジェクトもある。世界的に文化遺産保護への協力が進んでいるが、タシケントで発見された14~17世紀のアラビア語、ペルシア語の古文書を各国研究者と共同して研究するものだ。これらのプロジェクトで多様な2国間関係を構築したい。

②繁栄への協力の分野

 まず「域内経済協力制度のモニタリング」を提案する。域内の経済協力が実際にどうなっているのかモニタリングしておく意味は大きい。何が障害になっているのかを第三者の視点から指摘していくことも重要だ。
 次に、「周辺諸国との貿易関係の支援」の面で、たとえば韓国の大宇グループはロシア市場を標的にウズベキスタンに自動車や綿花の工場を建設しているが、日本企業にとってもインド北部への電力供給や中国への石油・天然ガスの輸出など、周辺諸国を対象とする貿易は投資価値があると思われる。
 三つ目に、地球環境保護のための「排出権取り引き」について。グリーンハウスガス(CO2,CH4,NH4,N2O,HFC,PFC,SF6など)の排出量が今後、国別に規制される可能性がある。将来、これらの排出権について取り引きできるよう、地ならししておくべきだろう。

③平和への協力の分野

 ここでは「非核地帯構想の支援」をあげる。現在、中央アジア5カ国で非核地帯を設置する交渉が進められている。1997年5月に5カ国首脳が合意して、マルマトイ宣言を発表した。核保有国との間で調整が行われている。北半球において核兵器の取得、製造、配備を禁止する非核地帯が設置されるのは初めてのことである。ソ連時代、カザフスタンには核弾頭が配備されていたことからも大きな意義が見出せる。日本は保有国への説得などで積極的に協力すべきであろう。もう一つ、「アフガン和平への協力」がある。パイプラインなど輸送経路の問題や地域の安定を考えると、アフガニスタンの和平実現は重要な意味をもつ。日本はこれまでの国連を通じての協力に加え、一層の貢献策を講じるべきであろう。
 最後に、本研究に関しご協力くださった外務省関係者をはじめ、日本・ウズベキスタン両国の実務家・研究者、各国大使館など多くの個人、機関に厚くお礼申し上げます。


(松下政経塾第19期アソシエイト共同研究班/ 小野裕之・ 金子将史神前元子城井崇・ 金 柄圭・ 小林献一・ 坂口友治・ 島川崇・ 高橋斉久、 桑畠健也研修主担当)
1999年2月 執筆
  1. HOME >
  2. 卒塾生一覧 >
  3. 甲斐信好 >
  4. 中央アジア政策への提言(下)
ページの先頭へ