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本レポートでは、約7か月間にわたる株式会社ワコール[i]での経営実践研修について、日々の業務を通しての学びを記す。
はじめに、私が現在お世話になっている部署と関わらせていただいている業務内容について簡単にまとめる。その後この3か月間での学びの総括として経営実践研修についての所感を述べ、研修の中間報告とさせていただく。
DE&I・ウェルビーイング担当課での業務
「女性が社員の約9割を占めるワコールにおける多様性包摂はどうあるべきか?」という問いに対して、4月に担当課として発足したDE&I担当課(従業員の多様性を活かすべく、多様なキャリアパスや働き方の選択肢を拡充させるほか、新しい人材施策の導入を進める課)では4名の女性社員が頭を悩ませていた。
私がインターンを開始した5月末には担当課としてワコールのDE&Iをどう進めていくべきか、目指す理想の状態は何か、社員の約9割が女性というある種特殊な社内環境においては男性もマイノリティと呼べるのではないか、などという点について活発な議論がなされており、担当課としての在り方を検討する段階から参加させていただいた。
関西企業のDE&I担当者との勉強会や社内の声を参考にしながら、引き続き方針を探り慎重に進めていく必要がある。
戦略・人事DX担当課での業務
戦略・人事DX担当課(多様なキャリアパスや働き方の選択肢を拡充させるほか、新しい人事評価制度の導入を進める課)における業務内容として、初めの3か月間は社内規定や福利厚生の制度を学び、社内インターンや評価制度の改定をオブザーブさせていただく形で組織構造やワークフローの理解に努めた。
中でも社内で互いの功労や努力を称賛しあう文化を醸成するための「クローバーカード」(簡単なコメントを記入し感謝を伝えるカード)導入に際して、戦略・人事DX担当課・労働組合・広報担当課・BA戦略室と部署を超えて構成されたチームに参加させていただき、各部署のマインドセットやカラーの違いを体感できたことはその後社内制度を検討するうえで非常に良い学びになった。
8月より新しく任せていただいた社内複業のプロジェクトを成功させるためにも、なるべく多くの部署を回り現場の声を聴かせていただくことで現場の課題解決に資する、社内で必要とされる活きた制度にできるよう尽力したい。
BA戦略室、ツボミスクールでの研修について
主にお世話になっているDE&I担当課、戦略・人事DX担当課の他にも、BA戦略室(ワコールの店頭接客を担うビューティーアドバイザーの教育・人事・制度設計や店舗運営等を担う部署)では本社とはまた違った視点で全国の店舗や在庫の管理、BAさんの教育やシフトに関する業務を一部体験させていただく機会をいただいた。
特に、BA戦略室で検討される制度は即BAさんたちの生活や働き方に影響するという点でも本社で検討される制度とは多少質が異なる。「ワコールの顔」としてのBAさんたちが幸せに働き続けることができるよう制度を更新し、地域差や店舗による状況の違いを考慮しながら組織を運営していく上で大切な姿勢を見せていただいた。
制度を検討する際、その制度の下で働くことになる人の状況をいかにリアルに想像できるか、誰にその制度を届けたいのか、社員の幸せのために会社ができることは何なのかということについて、ここでは書ききれない程の想いが、BA戦略室の皆さんそれぞれにあることが伝わってきた。お客様に最も近い部署という点でも貴重な学びになったと感じている。
次に、「ツボミスクール」という学校を回り成長期の女子に向けた下着教室を行っておられる方に同行させていただいた。校長先生や保健体育の先生の要望により学校で講義を行うことが前提ではあるが、担当者が2名で全国の案件を受けている現状や学生の親御さんから一部批判的なコメントも寄せられることを知り、教育現場で求められていることに民間企業の立場から応えていくことの障壁も感じた。
また、このような活動が必ずしも社内で認知されておらず、経営層には存続を疑問視する声もあるようだ。組織としてのブランドイメージを守ることと真に意義のある社会貢献の間にもギャップがあることを改めて認識し、企業の社会貢献活動の在り方について考えさせられる経験となった。
ワコールでの3か月を過ごし、創業者塚本幸一氏の思い描いたワコールが、創業者亡き後も一つの生態系として生き続けていくということの偉大さを改めて実感した。私が特に衝撃を受けたのは、ワコール社員の方々の会社への愛着の強さだ。エンゲージメント調査の結果[ii]自社の製品や会社が好きだと答える回答者の割合が非常に高いことに驚き、これがワコールの第一の強みだと感じた。
他にも、ワコールの風土としての「相互信頼」という言葉をよく耳にした。特に社内規定や社員の福利厚生の手厚さを見ると、すべてのステークホルダーに信頼されるワコールであるために、まずは社員との「相互信頼」を大切に経営してきた創業者の想い[iii]は今も随所に受け継がれていると感じられる。
社員を大切にしてきた創業者の想いこそが、会社と社員との間の「相互信頼」という基盤となってワコールを社員に愛される会社として今日まで発展させたのだと考える。創業者の想いや価値観が社風となり企業の核として生き続けることが結果的に社員に愛される会社をつくり、事業発展の基盤となることを学んだ。
ワコールホールディングス(株式会社ワコールは2005年10月1日、持株会社(株)ワコールホールディングスへ商号変更し、新たに設立した(株)ワコールは、(株)ワコールホールディングスの100%子会社となった[iv])は2022年に新ミッションを策定し、創業の精神である「女性が美しくしていられる社会こそ平和な社会」であるとの信念を受け継いだ「すべての人々に美しくなって貰うことによって、広く社会に寄与する」という新方針を発表した[v]。多様性包摂の観点からもより時代に即したミッションへの更新に伴い、社内でも組織再編等の変化が激しい時期であるようだ。
しかしひとつだけ確かなことは、どんな困難な状況においても進むべき方向を指し示してくれる答えは自分が持っているということだ。人事部内での制度検討を通じて、最も重要だと感じたことが「己を知る」ということだ。今のワコールが社会に求められていることは何か、社内で求められていることは何か、そして目の前の問題の本質は何かということを正しく把握し自社の理念と経営戦略に立ち返って次の一手を考える。いかに素晴らしい戦略や制度を作っても、自社の性格と合わなければ価値はなく、真に有効な手を確実に打っていくためにもまず己を知るということが先の見えない時代において最も重要なことだと学んだ。
塚本幸一氏の「事業の質は己の質である」[vi]という言葉を胸に、己と向き合い自社にしかできないやり方で社会に貢献していくことができれば、それこそが最高の経営なのではないかと感じた。流行りの経営論や他社の好事例、戦略本をまねる必要はない。創業者宅に掲げてあった塚本幸一氏直筆の書、「知己」という言葉と今一度向き合い、自分にできることを通して少しでもワコールに貢献できるよう精進したい。
塚本幸一氏は生前松下幸之助塾主(以下、塾主)に大変可愛がられた経営者[vii]であり、共に日本の経済界で活躍されたというご縁から、今回ワコールでの研修を受け入れていただいた。塾主に繋いでいただいたこのめぐり合わせと関わってくださるワコール社員の皆様に感謝し、残りの研修も日々大切に過ごさせていただく所存である。
塚本幸一(1996) . 『貫く:創業の精神』 . 日本経済新聞出版 .
塚本幸一(1992) . 『乱にいて美を忘れず―ワコール創業奮闘記』 . 東京新聞出版局 .
北康利(2023) . 『ブラジャーで天下をとった男 ワコール創業者 塚本幸一』 . プレジデント社 .
[i] 株式会社ワコール.“会社概要”.WACOAL HOLDINGS CORP.2023-03-31.
株式会社ワコール | ワコールグループについて | ワコールホールディングス (wacoalholdings.jp) ,
(参照2024-03-22)
[ii] 株式会社ワコール社内資料より
[iii] 株式会社ワコールホールディングス. “ワコールグループの歴史”.WACOAL HOLDINGS CORP.2023-04.
j202304.pdf (wacoalholdings.jp) ,(参照2024-03-22)
[iv] 株式会社ワコールホールディングス.“ワコールグループについて>株式会社ワコール”.WACOAL HOLDINGS CORP.2023-03-31.
株式会社ワコール | ワコールグループについて | ワコールホールディングス (wacoalholdings.jp) ,
(参照2024-03-22)
[v] 株式会社ワコールホールディングス.“グループ経営理念”.WACOAL HOLDINGS CORP.2023-03-31.
グループ経営理念 | ワコールグループについて | ワコールホールディングス (wacoalholdings.jp) ,
(参照2024-03-22)
[vi] 株式会社ワコール社内掲示より
[vii] 北康利.““経営の神様”松下幸之助との出会いと政治への目覚め”.DIAMOND online.2017-04-05.
“経営の神様”松下幸之助との出会いと政治への目覚め | ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp) ,(参照2024-03-22)
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Kisa Shimizu
第43期生
しみず・きさ
Mission
誰もが自尊心をもち、生き生きと幸福を追求できる社会の実現