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経営の要諦 「経営理念の確立と継承」
〜プロスポーツ組織を事例に〜

はじめに

 「ガンバ大阪」、一度は耳にしたことがあるかもしれない。ガンバ大阪は日本プロサッカーリーグ(以下Jリーグ)に加盟するサッカークラブだ。Jリーグ創設当初からのチームの一つである。1980年に創部された「松下電器産業株式会社サッカー部」が前身であり、2014年シーズンはJ1リーグ、Jリーグカップ、天皇杯と国内三冠を達成。主要タイトル獲得数は2023年シーズン現在、Jリーグ全加盟クラブ中3位。言わずと知れた名門クラブの一つだ。

私はこの伝統あるクラブチームを経営する「株式会社ガンバ大阪」にて9月中旬から12月中旬の約三ヶ月間、経営の要諦を体得するためにフロントスタッフの一員として勤務させていただいた。具体的な業務は二つあった。一つはホームタウン推進課の一員としてガンバ大阪を地域の人に知ってもらう活動だ。ガンバ大阪はホームスタジアムがある吹田市をはじめとし、北摂7市をホームタウンとし、ガンバ大阪のことをより認知してもらうために地域貢献活動を実施している。もう一つの業務が、ユース世代を対象とした講座だ。Jリーグの規定で高校一年生から高校三年生の世代を育成することが定められている。彼らは一学年約13名、通信制高校に通いながら寮生活をし、プロになることを目指して日々練習に取り組んでいる。私はサッカーが生活の中心である彼らユース選手にプロになった後のキャリアを考える講座、また「人間力」に着目しピッチ外・ピッチ内での行動に自主的に振り返る講座を実施した。

 本レポートでは、ガンバ大阪で勤務させていただいた経験から体得した私なりの経営の要諦を書き記す。

プロスポーツ組織の特殊性

 具体的な業務を進め従業員の方々とコミュニケーションを取る中で、プロスポーツ組織の特殊性が二点あることに気づいた。

 一点目は、経営層と競技層の二つの主な領域があることだ。社長・取締役は元パナソニックの社員、ユースの監督やコーチは元プロの功労者である。観客動員・グッズの販売・ホームタウン運営などの経営は経営層が、ユースの育成などの競技は競技層が実施している。

 二点目は、人材の流動性がかなり高い組織形態であることだ。約3年で半分のスタッフが入れ替わると現職のフロントスタッフの一人が言っていた。社長や取締役などの経営トップは3-6年、監督・コーチ・選手などの競技層は単年契約、フロントスタッフは関連会社からの出向が多く、課長級は定年退職後の職員が何名かいる。

経営理念の確立

 私は経営の要諦として第一に挙げたいのが、経営理念の確立である。塾主は経営理念について以下のように語っている。

「一つの経営理念というものを明確にもった結果、私自身、それ以前に比べて非常に信念的に強固なものができてきた。そして従業員に対しても、また得意先に対しても、言うべきことを言い、なすべきことをなすと言う力強い経営ができるようになった。・・・あらゆる経営について、“この経営を何のために行うか、そしてそれをいかに行なっていくのか”という基本の考え方、すなわち経営理念というものがきわめて大切なのである。」[1]

 経営理念こそ会社の経営の根幹を創り、判断基準としてブレない一貫とした軸を貫き通すものだといえる。

 「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド」[2]

 クラブ創設30周年の2022年にガンバ大阪が新たに掲げた目指すゴール、つまり経営理念だ。言い換えるとサッカーのフィールドに止まることなく、新たな体験を創出し、日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランドを目指すことを表している。プロサッカーを主軸に地域貢献も含めた意味合いをもつこの言葉に、今までガンバ大阪が積み上げてきた価値とこれからガンバ大阪が目指す方向性が凝縮されていると私は思う。

またプロスポーツ組織の特殊性を踏まえても経営理念を確立することはかなり重要性が高いといえるだろう。経営層と競技層の二つの領域を貫く一本の軸としての機能するはずだ。

経営理念の継承

 しかし、人材の流動性が高いプロスポーツ組織において、経営理念を確立するだけでは長期的な成功を収めることは難しいだろう。塾主は経営理念について次のようにも述べている。

「結局、ほんとうの経営理念の出発点というものは、そうした社会の理法、自然の摂理というところにあるのである。そこから芽生えてくる経営理念は、その活用の仕方にはその時々の情勢によって多少の変化はあるだろうが、その基本においては永遠不変といっていいと思う。」[3]

 このように基本の経営理念は経営者が変わっても不変である。さらに商品のライフサイクルを超え、優れた指導者が活躍できる期間を超えて、ずっと繁栄し続ける組織を分析した著書『ビジョナリーカンパニー』では、組織に共通する最重要概念の一つに「時を告げるのではなく、時計をつくる志向を後継者に伝える。[4]」ことを挙げている。ここでも経営者が変わっても、経営理念は受け継がれていることが繁栄し続ける組織において重要だとわかる。

 とりわけ、人材の入れ替わりが激しく、経営トップすら3-6年で変わるプロスポーツ組織においては、不変の経営理念を受け継ぐことが重要であろう。

終わりに

 私がこの経営実践研修で感じた経営の要諦は「経営理念の確立と継承」だ。経営層と競技層の二つに大きく分かれ、また人材の流動性が高いプロスポーツ組織において、経営理念を確立・継承することが会社を運営する上で軸となる手段だと感じた。

 この経営理念、ガンバ大阪では従業員が必ず通る廊下に描かれている。三ヶ月しかいなかった私でも気が付いたら覚えてしまっていた。最後に加えるならば、従業員が経営理念を即座に言えるくらい浸透することが会社を真に駆動させるのではないだろうか。今一度、会社経営でも国家経営でもあらゆる分野において何のために会社や国家が存在しているのかを考えていくことから始めたい。

[1] 松下幸之助(2014年7月4日)『実践経営哲学/経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』.PHPビジネス新書.p24、p26

[2] 株式会社ガンバ大阪HP「ブランド」(2024年1月27日現在)
https://www.gamba-osaka.net/c/brand/index.html
注) スポーツエクスペリエンスブランドとは、サッカーのフィールドに留まることなく、新たな体験を生み出すことによって、最高の熱狂を生み出し、人々の生活に新たな様式をもたらすことを意味している。

[3] 松下幸之助(2014年7月4日)『実践経営哲学/経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』.PHPビジネス新書.p27,28 

[4] ジム・コリンズ著 山岡洋一訳(1995年9月26日)『ビジョナリーカンパニー 時代を越える生存の原則』.日経BP社.

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